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「シッポを振る犬は喜んでいる」には根拠がない…科学的エビデンスにもとづく犬の正しい接し方

プレジデントオンライン / 2022年11月15日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Elena Shvetcova

犬と接するときにはどんなことに気を付ければいいのか。ドッグトレーナーの鹿野正顕さんは「この20年の科学的研究で、犬にまつわる常識の多くが覆されている。犬のためにも、科学的エビデンスにもとづく接し方を心がけてほしい」という――。

※本稿は、鹿野正顕『犬にウケる飼い方』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

■犬のしつけについてずっと無知だった日本

日本ではなぜか、犬のしつけというものがあまり重視されずにきました。

ペットショップやブリーダーは、犬を売ってしまえば、その後のしつけまでは面倒を見ません。おまけに犬種ごとの特徴や飼い方の注意などの説明が、十分になされないことが多かったのです。それはまさに「取扱説明書なし」の状態で商品を渡すようなものでした。

犬を飼うのが初めての人は、犬の飼い方の本に載っているしつけ法を見て、そのようにやってみて、思うようにいかないと放っておくことになります。

やさしさと甘やかすことを混同して、愛犬がやることはなんでも許してしまう飼い主さんもいます。それでは、どうしてもやりたい放題のわがままな犬になってしまいます。

個人の家の中だけならそれでも許されるのですが、人間も多く、ほかの犬と出会うことも多い日本の社会で、「しつけなしで犬を飼うのはルール違反」といわれても仕方がないでしょう。

■エビデンスをもとにした正しい飼育法

上手に楽しくしつけをしたいのに、自分の愛犬に合った方法がわからない。

そうした悩みを抱えていた飼い主さんたちを、僕はたくさん見てきました。

そもそも、かつてのしつけのやり方は、「犬とはどういう動物か」というエビデンスがないまま行われていました。

それはもう時代遅れのやり方なのです。

この20年ほどの間に犬についての科学的研究は飛躍的に進み、いまではしつけにも一定のエビデンスにもとづいた方法がとられるようになっています。

「指示に応じてくれること」と「命令に服従させること」とを明確に分けて考え、家庭犬は、叱ってしつけるのではなく、ほめてしつけることを原則に考えるようになりました。

それはつまるところ、しつけのやり方も含めて、人と犬が共に暮らすとき、“お互いがなるべく幸せな気分で過ごせるように”方向付けされてきたということです。

古い常識はくつがえされる――。

2000年以降、世界各国で犬の行動や認知について科学的な検証が行われるようになり、その結果、古い常識の何割かは誤りだったり、根拠のない思い込みだったことがわかってきました。

くつがえされた常識や、いまだに誤解の多い犬の習性について、以下にいくつかの例をあげておきます。

■なぜ「ムダ吠え」をしてしまうのか

飼い主さんの悩みで最も多いのが、「ムダ吠えが直らない」というものです。

とくに集合住宅や家の密集した都市部で犬を飼う場合、深刻な悩みになりかねない問題です。しかし犬にとって「ムダ吠え」というものはなく、吠えるのは何かしらの理由があって吠えているのです。

吠える(Bark)理由としては、「注意喚起、防衛、挨拶、警報、遊び、寂しさ」という6種があげられます。

玄関のチャイムが鳴ったら吠える、人が来たら吠える、バイクや自動車の音に吠えるなど、飼い主からすれば「なんでいちいち吠えるの!?」と言いたくなると思いますが、犬はなわばりへの侵入を警戒したり、家人へ注意喚起のつもりで吠えるのです。

それをムダ吠えとして「コラッ、やめなさい」と叱っても、なぜ叱られるのか犬にはわかりません。挨拶のつもりで吠えるのであれば、人も挨拶を返してあげることが必要ですし、人が外出しようとすると吠えるのなら、留守中の寂しさを紛らわせるおもちゃを用意するなど、何か工夫が必要でしょう。

理由があって吠えるのに、人がそれに対応してくれないと、さらに不安を覚えてまた吠えることになります。吠え声がやまないのは、吠える理由に応じた人側の対応ができていなかったり、曖昧(あいまい)だったり、要求に十分応えていないことが多いのです。なお、ストレスなどによる過剰な吠えについては、『犬にウケる飼い方』第4章の問題行動のところで説明します。

■噛みつきは決して攻撃が目的ではない

「飼い犬に手を咬(か)まれる」とは、面倒を見ていて信頼していた部下に裏切られるような場合に使われますが、犬は裏切りで人を咬んだりはしません。

雄のジャーマン・シェパードが手で男を噛む。
写真=iStock.com/dimid_86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dimid_86

また、人に危害を加えようという攻撃の目的で咬んだりもしません。

人に対する咬みつきは、ほとんどの場合が不安からきています。強い不安からくる恐怖やストレスによって起こる、防衛的な威嚇(いかく)行動であることが多いのです。

アメリカの生理学者ウォルター・ブラッドフォード・キャノン(Walter Bradford Cannon)は、動物が強いストレスを受けると「ファイト・オア・フライト(戦うか逃げるかの行動)」と呼ばれる反応を示すことを提唱していますが、動物は追い詰められたり、強い恐怖を感じたとき、まず逃げる行動を選びます。

その余地がなく切迫した状況のとき、やむを得ずファイトすることになります。ファイト=攻撃は最後の手段なのです。

飼い主とファイトする状況は、普通はあり得ませんから、犬が咬むときは危機や恐怖を感じたときの威嚇なのだと理解しましょう。

家庭犬が危機を感じるケースはそう多いはずがありません。しかし、ふだんからストレスを抱えている犬だと、飼い主がおもちゃを片付けようとすると、「おもちゃを取られてしまう」と感じたり、自分が寝床にしているソファに人が近づいてくるだけで、「寝床を奪われる」と感じて、咬んでしまうという例があります。

■床をひっかくのは問題行動ではない

床のカーペットやソファの上でさかんに前足を掻いて、ボロボロにしてしまう犬がいます。

鹿野正顕『犬にウケる飼い方』(ワニブックスPLUS新書)
鹿野正顕『犬にウケる飼い方』(ワニブックスPLUS新書)

円運動のようにぐるぐる回りながら、カーペットを一生懸命ほじくってしまう犬もいます。

高価なカーペットやお気に入りのソファを台無しにされた飼い主さんはがっかりでしょうけれど、これは犬の習性なのである程度仕方ありません。

もともと犬は、地面に自分で穴を掘って寝床にしていました。子育ても巣穴でしていました。室内飼いになっても穴掘りの習性は残っているので、気に入った場所をせっせと掻いたり、掘る仕草をする犬は珍しくないのです。

犬は寝る前によく、前足で掘るような仕草をしてクルクルッと回る動作をしますが、あれは寝心地がよくなるように巣穴の床を整えているイメージなのです。

昔は庭に鎖でつないで犬を飼う家庭も多かったので、年配の愛犬家には、飼い犬に何度も地面を掘られた経験を持つ方もいると思います。庭の隅に穴を掘って、おもちゃや食べ物を隠したりもします。テリア系の犬はもともと穴や地中にいる害獣を駆除する犬種ですから、庭やドッグランで遊ばせると、喜んで穴掘りを始めることがあります。

このように、穴掘りの仕草は犬の習性なのだということを知っていれば、「カーペットをダメにする=うちの犬は問題行動をする」といった誤った認識をしないですむわけです。

ただし、室内で穴掘り行動をやめない場合、1頭での長時間の留守番が多いなど、なんらかのストレスや、運動不足が原因になっている可能性もあります。ひんぱんにやる場合、その行動を引き起こすストレス要因はないか、愛犬をよく観察することが大切です。

■毎日の散歩だけでは運動不足になる

犬を飼う楽しみの一つが散歩です。基本の目安は、1回最低30分を朝・夕2回と一般にはいわれていますが、小型犬・中型犬・大型犬でも、犬種によっても、適切な散歩の距離や時間は異なってきます。

人間にとっては、30分程度の散歩でも「それなりの運動になる」と感じる方も多いかもしれません。でも犬にとっては、ほとんどの場合、散歩だけでは運動不足になってしまいます。

散歩は「気晴らしにはなっても運動にはならない」と思っていたほうがいいと思います。

たとえば、近所にドッグラン付きの公園があるような方は、そういう施設を利用して週に何度か十分な運動をさせるようにしたいところです。ただ、そうした環境にいる方は少数派でしょう。ふだんから家の中や、囲い付きの庭があれば庭に出して、愛犬とまめに遊んであげることが運動不足解消の基本と言えます。

室内でもある程度スペースがあれば、おもちゃを投げて取って来させる「レトリーブ」の遊びができますし、狭くてもロープ付きおもちゃでの引っ張りっこをするなどの遊びができます。散歩でもコースをいくつか作り、アップダウンが多く運動量が増えるロングコースを週に何回か盛り込むなど、日々の散歩を工夫するのも有効だと思います。

運動不足は筋力の低下や肥満・ストレスを溜めるなどの原因ともなります。散歩を欠かさないから大丈夫、と思うのではなく、運動不足を防ぐには「散歩プラス遊び」が必要と心得ましょう。

■シッポを振るのはうれしい時だけとは限らない

「犬は嬉しいときしっぽを盛んに振る」というのはたいていの人が知っています。

それは間違ってはいませんが、しっぽを振っていれば喜んでいると思い込むのは危険です。犬は興奮するとしっぽを振るため、嬉しくても、恐怖を感じていてもシッポを振るからです。(図表1参照)

出典=『イヌのこころがわかる本』より
出典=『イヌのこころがわかる本―動物行動学の視点から』より

犬はことばを使わない代わりに、体に表れるボディランゲージ(身体言語)によって、そのときの感情を読み取ることができます。耳は立っているか伏せているか、口元は閉じているか開いているか、上体は普通に起きているか低く屈(かが)めているかなど、体全体の表情を観察することで、そのときの犬の気持ちがわかります。(図表2参照)

姿勢からわかる犬の感情表現
出典=『イヌのこころがわかる本―動物行動学の視点から』より

〈姿勢からわかる犬の感情表現〉
1 正常なリラックスしている姿勢
2 興奮して敵対的な反応を起こしやすくなる
・足の動きが角ばる
3 遊びに誘うしぐさ
・前足の持ち上げ
・なだらかに弧を描いた首
・高く上げられているしっぽ
6 意思的に敵対する態度
・両後足がさらに大きく開かれる
・ しっぽは弓なりになって目立つように高く上げられる
・背中全体の毛が立つ
・前のめりになる
8 恐怖を感じている
・しっぽは低く垂れ下がる
・姿勢を低くする
5・9 非敵対的姿勢
・頭と首は縮こまって背中と一直線
・お腹は地面につく
10 相手との交流を退く
・しっぽを股の間に挟み込む
・お腹をだして転がる

犬同士でも、視覚(身体表現)・嗅(きゅう)覚(におい・マーキング)・聴覚(唸(うな)り・吠え・鳴き声)を用いてコミュニケーションをとっています。それは仲間と親しむためというよりは、野生では自分の身を守って生き抜くために必要なことだったからです。

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鹿野 正顕(しかの・まさあき)
ドッグトレーナー、スタディ・ドッグ・スクール代表
1977年、千葉県生まれ。麻布大学入学後、主に犬の問題行動やトレーニング方法を研究。「人と犬の関係学」の分野で日本初の博士号を取得する。卒業後、人と動物のより良い共生を目指す専門家、ドッグトレーナーの育成を目指し、株式会社Animal Life Solutionsを設立。2009年には世界的なドッグトレーナーの資格であるCPDT-KAを取得。日本ペットドッグトレーナーズ協会理事長、動物介在教育療法学会理事も務める。プロのドッグトレーナーが教えを乞う「犬の行動学のスペシャリスト」として、メディアでも活躍中。

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(ドッグトレーナー、スタディ・ドッグ・スクール代表 鹿野 正顕)

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