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「これからはフリーランスで稼ぐ時代だ」というYouTuberの発言を信じて会社を辞めた人の末路

プレジデントオンライン / 2022年11月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kiwis

仕事や人生において優秀なパフォーマンスを出すにはどうすればいいか。起業家の野原秀介さんは「自分自身の考えを拠り所に“ポジションを取る”ことが必要不可欠だ」という――。

※本稿は、野原秀介『投資思考』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

■ある後輩からの相談

ある日、久しく連絡を取っていなかった大学の後輩から、「キャリアについて相談したいことがあるから飯に連れて行ってほしい」とメールが届きました。その後輩は、東京大学を卒業し、大手総合商社に入社。側から見れば文句のつけようのない経歴なのにキャリアについて何の“相談”があるというのでしょうか。

平日仕事終わりに待ち合わせ、一通りの近況報告を済ませるといよいよ本題へ。

ざっくり要約すると30代を迎えるにあたり「自分は会社の看板に食わせてもらっているに過ぎない、自分の腕っ節でどこまで行けるか試してみたい」という疑念が頭をよぎるのだそうです。

個人的には「それで年収1000万円以上もらえているので問題ないのでは?」と思いつつ、「正社員で働く奴は搾取されている」「時代はフリーランス」などと持論を展開します。よくよく話を聞いてみると、どうやらお気に入りのYouTuberの影響を受けているようでした。

■投資の世界で重要な“ポジションを取る”姿勢

投資の世界において、何らかの見解に基づき、資産(株式・不動産・オプション)を買う/空売りすることは“ポジションを取る”と表現します。

例えば、日米の金利差に着目して円を売る為替取引を行うこと、またとある企業の事業の見通しが明るいという見解に基づいて株式を購入することなどがこれに該当します。

より抽象化すると、自分自身の考えを拠り所になんらかのリスクを取ることがすなわち“ポジションを取る”ことであると言えます。

投資活動において市場を上回るリターンを創出する為には、自分自身の考えを拠り所にポジションを取ることが必要不可欠です。これについては金融市場の大暴落を描いた映画である『The Big Short(邦題:マネー・ショート 華麗なる大逆転)』が良いサンプルになります。

クリスチャン・ベール演じる主人公マイケル・バーリはヘッジファンドの創業者。アメリカの不動産市場が空前の好況に沸き、誰もがその継続を疑わなかった2005年、彼はそのタイミングで“不動産市場のバブル崩壊”を予測するポジションを取りました。

ストリップクラブで働くダンサーやペットの犬でさえもローン借入が可能(碌に審査が行われない状態)で、買った物件はほぼ確実に値上がりし、それらを担保に低所得者層が2軒や3軒のマイホームを持てる状況に対し感じた違和感をきっかけに、その違和感を裏付ける検証を行いました。

野原秀介『投資思考』(実業之日本社)
野原秀介『投資思考』(実業之日本社)

そして周囲の声を押し切って、ゴールドマン・サックスやドイツ銀行などの金融機関を相手に不動産ローンを担保とした金融商品(CDO)の空売りを仕掛けたのです。

詳しくは是非映画をご覧いただければと思いますが、ファンドが破綻寸前に追い込まれるほどの含み損を数年間耐え抜いたのち、2008年に訪れたリーマンショックと呼ばれる大暴落で記録的な投資リターンを生み出しました。

投資の世界において群を抜いたリターンを記録する場合、このように市場のコンセンサスに逆らって取ったポジションが結実したことが頻繁に見受けられます。

■情報を集めて綺麗に並べても事業は前に進まない

そしてこの考え方は仕事や人生・キャリアにおいても通じる点があります。つまり常に自分の意見を持って仕事をしない限り価値を生み出すことはできないという点です。

そもそもビジネスにおけるすべての活動は、常に最終的になんらかの行動を起こす/起こさないという意思決定に集約されると言えます。それだけを見れば資料作成、会議の開催といった瑣末なタスクであっても、最終的には「なんの行動を起こすか?」言い換えれば「どのポジションを取るか?」という問いに繋がっています。

であるからこそ、あらゆるタスクの実行において「今はなんの意思決定を行おうとしているのか? そして自分だったらどう意思決定するか?」という姿勢を持つことは飛躍的にその質を向上させます。反対に上司や同僚の提案した意見に対し、リスクを指摘するだけ・代案を提示せず出来ない理由を列挙するだけといった活動は、一切価値を生み出さないと言えます。

しかしながら、実際にはポジションを取らずに仕事をする人、否、仕事のような真似事をするだけの人を多々見かけます。

会議に持ち込まれる資料などでよく見かけるのが「今回はA案/B案/C案を比較検討しました。各案のPro-Con(メリットとデメリット、賛成意見や反対意見)をこちらにまとめています(以上)」といった、情報を羅列しておしまいの仕事の仕方です。

いくら情報を集めて綺麗に並べても、ポジションを取らなければ次のアクションは発生せず、次のアクションがなされなければ事業は前に進みません。

どうすれば事業が進展するのか? から逆算して考えれば、資料作成者はA案/B案/C案のうちどれを推すのかくらいは最低限明示すべきです。

そしてここで忘れてはならないのが、初めにポジションを取る場合は間違っていても全く問題ないという点です。一度ポジションを取ることで議論が活性化しますし、仕事を進めていく中で検討すべき観点が追加で浮かび上がってきます。

実行に向けて物事を前に進めることこそが重要であり、その第一歩はあなたがポジションを取ることなのです。

■YouTuberの意見を聞いて会社を辞めてしまう人たち

さて“ポジションを取る”ことの重要性・必要性についてはご理解いただけたと思いますが、それらはあくまで自分自身の考えに基づいて行う必要があります。他者の意見、ましてや素性もしれない人の意見を鵜呑みにするなどもってのほかです。

スマホの登場、通信インフラの発達により全ての人がインターネットに繋がり、あらゆる情報を受け取れるようになったのと同時に、これまで伝統的メディア(新聞・ラジオ・テレビ)に限定されていた“情報を発信する”という機能が全ての人に解放されました。

これによって誕生したのが、様々な領域において影響力のあるオピニオンリーダー、今風に言えば“インフルエンサー”です。旧来の伝統的メディアの守備範囲が、政治・経済・スポーツといった主要なドメインであったのに対し、今やインフルエンサーはあらゆる領域に存在しています(コスメ、グルメ、キャリアなど)。

結果として“なんとなく正しいことを言ってそう”な第三者の発言を、盲目的に受け入れる人が増えたように感じています。投資の世界では、投資を行うにあたり投資対象となる企業や投資先のことを必ず調査しますが、これをデューデリジェンスと言います。

デューデリジェンスなき投資が危険極まりないことは容易に想像いただけると思いますが、インフルエンサーの意見を盲目的に信じることも、これと同じようなリスクを孕んでいます。

例えば、レストランであれば「インスタで話題の○○」や「食べログ有名レビュワーの××さんが推していた△△」などと紹介されることが多いですが、「話題になっていたから良いものである」「××さんがおすすめしていたから美味しい」など、自分で確かめもせずに他者の意見を鵜呑みにしてしまう人がたくさんいます。

スマートフォンでビーフステーキの写真を撮る
写真=iStock.com/ymgerman
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ymgerman

冒頭でご紹介した、後輩とのエピソードにもあるようにキャリアについても「YouTuberの××さんがこれからはフリーランスで稼ぐ時代が来ると言っていたから」というただそれだけの理由で、実際に会社を辞めてしまう人まで見受けられます。

このように他人の価値判断に依存した意思決定が当たり前になっている現在の風潮に、私は強い違和感を覚えます。これらは顕著に非投資思考的な考え方です。

どんなレストランが優れているかは訪れる人の食の好みに寄りますし、稼ぎに釣り合わないほど高額な店に行っても会計金額が気になって味どころではありません。キャリアであればなおさらで、各人の人生の目指すところによって理想の働き方も企業選びも異なるはずです。

■成功を掴むために必要不可欠なプロセス

投資で市場を大きく上回るリターンを生み出す(ベンチマークを上回るともいう)類型の1つが「多くの人が気づいていないことに、自分だけが気づいている」というものです。

世の人が気づく前に、自分だけがその隠れた価値に気づいたタイミングでポジションを取るとどうなるでしょうか。後から追いかけるようにポジションを取った人々が、あなたのポジションを勝手に押し上げ、利益をもたらしてくれるのです。

このために必要なのは自分自身の頭で考えて価値を見極め、ポジションを取り、そしてその結果もまた自分自身が受けとめること。成功を掴むためにはこのプロセスが必要不可欠なのです。

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野原 秀介(のはら・しゅうすけ)
X Capital代表
1991年生まれ。東京大学卒業後、新卒でゴールドマン・サックス証券に入社、債券為替コモディティ営業本部にて数多くの金融機関とのディールを経験。その後2018年に株式会社X Capitalを創業、現在まで代表を務める。「日本経済に、パラダイムシフトを。」というビジョンを掲げ、日本に経営人材を創出すること、プリンシパル投資により中長期的な企業価値を増大させることを目指して事業を拡大し、創業以来増収増益を達成している。

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(X Capital代表 野原 秀介)

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