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じっと目を見つめながら犬の体をなでてはいけない…犬と接するプロが絶対にやらないこと

プレジデントオンライン / 2022年11月22日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chalabala

犬と接するときにはどんなことに気をつけるべきか。ドッグトレーナーの鹿野正顕さんは「とりわけ初対面の犬に対して、じっと凝視したり、いきなり体をさわったりするのは避けたほうがいい」という――。(第2回)

※本稿は、鹿野正顕『犬にウケる飼い方』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

■散歩中のマーキングを好き放題させてはいけない

犬が他の個体と一定の距離を保とうとしたり、群れの中である定まった位置を占めようとする行動を「社会空間行動」といい、マーキング(匂い付け)はその行動の一つです。

マーキングは「ここは自分のなわばりだ」と主張する行動で、主に尿をかけて行います。この尿には、フェロモンや種・性別・発情状態など個体ごとの識別情報が含まれているとされます。

マーキングはオスに顕著にみられ(頻度はメスの約30倍)、性成熟の度合いによって頻度も高まります。ちなみに、電柱や街路樹などに片足を上げてなるべく高い位置に尿をかけようとするのは、自分の存在を少しでも大きく見せようとするため。「大きくて強い犬のなわばりだぞ」とアピールしているつもりなのです。

メスの場合は発情時にマーキングの頻度が増えます。いずれも去勢・避妊手術によってマーキングの頻度を減らすことができますが、完全にしなくなるわけではありません。

マーキングはほとんどが屋外でみられますが、室内でも、新しい家具を入れたり、他の動物を飼い始めたりすると、さかんにマーキングを行うことがあります。

ところで、一般の飼い主さんには、「犬の散歩中のマーキングは当たり前でしょ」という思い込みがあるようで、電柱や樹木への匂い嗅ぎとマーキングを、愛犬に好き放題にやらせている例が目立ちます。

しかし、公共の(とくに都市部での)マナーを考えると、匂いの強い尿をそこら中にかけて歩いていいはずがありません。マーキング後にペットボトルの水をかける程度では、匂いはほとんど消えません。

また都市部では同じエリアを多数の犬が散歩することが多く、匂い嗅ぎとマーキングが放置されてしまうと、“なわばりの主張しあい”でますますマーキングの度合いが増えたり、犬によっては散歩がストレスになってしまうケースもあるのです。

排泄はなるべく散歩前に済ませておき、散歩ではリードの操作で「匂い嗅ぎをさせ続けない」「マーキングを自由にさせない」などの管理をしながら、習慣化させないようにしましょう。

■「奪われる」ことを犬は本能的に恐れる

野生の動物には、自分の獲物(食べ物)や交尾の相手、休息場所を獲得するための争いや、それを守るための行動がみられます。“生きていくための資源”を奪われないように、いざとなれば体を張って争う習性があるわけです。

そうしたさまざまな原因によって他の個体と争うことを「敵対行動」といい、威嚇、逃避、服従、攻撃といった行動が含まれます。

威嚇では、口を開き牙をむく、毛を逆立てる、相手をにらみつける、低い声で唸るなどの行動がみられます。

逃避は争いに至る前に相手から遠ざかり逃げること。

服従は、しっぽを股の間にはさんでその場で体を低くしたり(降参のポーズ)、寝転がってお腹を見せるなど、戦う意志のないことをポーズで相手に示します。

攻撃は実際には最後の手段で、犬同士の場合、一方の威嚇に対して他方が降参や服従の姿勢をとれば、それ以上の争いには発展しないのが普通です。

人に飼われる犬も、「奪われる」とか、居場所が「侵害される」という恐れを感じると、人に対して敵対行動をとることがあります。よくみられるのが、食事中に邪魔されたときや、お気に入りのおもちゃを取り上げられたとき、いつもの休息場所を誰かに占拠されそうになったときなどです。

犬は「奪われる」ことを本能的に恐れ、「なぜそんなことで?」と思うほど些細なことにも反応することがあります。たとえば、食事中にちょっと食器を動かそうとしただけなのに、愛犬に唸り声を上げられてびっくりした、という経験のある方もいるでしょう。

■犬を飼う上で絶対にやってはいけないこと

敵対行動を招くのは、人が「食事や休息を邪魔しない」という原則を忘れて不適切な行為をしたり、何かを無理強いして犬に恐怖感を与えてしまった場合が多いです。

首輪を持って強引に引っ張ったり、体罰的な行為をしてしまうと、犬は恐怖から自己防衛の行動をとります。ふだんの管理としては、次のことに注意しましょう。

日常の管理の注意点
・食事中や休息中はいっさい干渉しないこと
・休息場所は人が邪魔しない専用の場所にすること
・食べ物をごほうびとして、手から食べ物を与えることに慣らすこと
・おもちゃやコング類を無理に取り上げないこと
・ふだんからスキンシップを多くし、体をさわられることに慣らすこと
・体罰や無理な拘束(強引に捕まえるなど)は絶対にしないこと

■顔なめは習慣にしないほうがいい

犬が初めて別の個体と出会うと、視覚・嗅覚・聴覚をフルに使って相手が何者かを知ろうとします。挨拶の前段階として、相手がどんな個体か確認しあう行動を「社会探査行動」といいます。

危険はなさそうだと判断すると、接近し、互いを確認しあうためにまず匂いを嗅ぎあいます。初めはやや緊張したまま耳や鼻の匂いを嗅ぎあうことが多いです。鼻と鼻がくっつくようにすると、いわば「こんにちは」の挨拶が成立しますが、まだ緊張が抜けないので背中の毛が逆立ってしまう犬もいます。

相性が悪い犬同士では、目線を合わせただけで威嚇しあったり、最初の匂い嗅ぎのときに喧嘩腰になってしまうことがあります。

相性がよい場合は、目線や顔をそらすことで敵意がないことを相手に知らせ、さらに発展すると、お互いの陰部や肛門の匂いを嗅ぎあいながらぐるぐると回り始めます。陰部や肛門には臭腺が集中し、犬ごとに匂いは異なるため、相手がどんな犬なのかを知るにはお尻周辺の匂いを嗅ぐのがいちばんいいのです。

ひと通り互いの情報交換がすむと、遊びに誘う姿勢(上体を下げて腰を上げ、しっぽをさかんに振る)をとり、早速遊び始めることもあります。

犬同士が親しみあう行動は「親和行動」といい、互いに匂いを嗅ぎあったり、舌でグルーミングをしあったり、じゃれあうという行為がみられます。

もちろん飼い主に対しても積極的にみられ、体ごとじゃれついてきたり、飼い主の手や顔をペロペロなめるといった行動があります。

顔をなめるのはまさに親愛の行為なのですが、人の口までなめることが多いので、これは衛生面を考えると習慣にさせないほうがいいでしょう。

子供の顔をなめる犬
写真=iStock.com/FatCamera
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FatCamera

子育て中の母犬は、子犬が生後2〜3週齢になると、未消化の食事を吐き戻して離乳食として子犬に与えます。子犬はお腹が減ると、母犬の口元をさかんになめておねだりをするようになります。この行動が成長してからも残り、仲のいい犬や人への挨拶行動として顔や口をなめるようになるのです。

■いきなり犬の体をなでてはいけない

初めて出会う人に対しても、犬は匂いを嗅いで確認します。

初対面でいきなり「かわいいねー」と犬の体をなでようとする人がいますが、これは禁物です。まず犬と対面したら姿勢を低くして、手の甲を下方に軽く差し出して、犬が匂いをチェックできるようにしてあげましょう。

飼い犬でも、すべての犬が人懐こいわけではないし、知らない人に体をさわられることに恐怖を覚える犬もいます。急に顔の前に手を突き出してしまうと、反射的にガブリとやられてしまうこともあるので注意が必要です。

散歩中などの初めての出会いという前提で、「愛犬と他の犬との挨拶」「愛犬と初対面の人との挨拶」「初対面の犬とあなたの挨拶」に分けて、対面時の一般的な注意点をあげておきます。

愛犬が他の犬と挨拶するとき
・必ず飼い主さんに挨拶の許可をとる
・リードから手を離さず、ゆっくり相手の犬に接近させる
・挨拶する間、犬の反応から目を離さない。威嚇や攻撃の気配・恐れやストレス反応が見えたらすぐリードを引いて相手から離し、落ち着かせる
・相手の犬が苦手そうな反応をしたり、相性の悪さが見てとれるときは、すぐ挨拶をやめて離れる

愛犬が初対面の人と挨拶するとき
・愛犬が人好きな場合、飛びつかせないようリードをしっかり持つ
・愛犬が人見知りしたり他人が苦手な場合、無理に挨拶はさせない。ごほうびのおやつをあげてもらうなどして、愛犬をまず安心させて様子を見る

あなたが初対面の犬に挨拶するとき
・必ず飼い主さんに挨拶の許可をとる
・犬の正面から急に近づかない
・犬の目を覗き込まない・目をじっと見ない
・低い姿勢でまず手の甲の匂いを嗅がせる
・急にさわらない・無理にさわらない

動物というのは凝視されるのが苦手で、じっと見つめ返してくるのは「敵対」と受け取ります。初めて犬と会うときは、目を凝視せず、目線はそらして接近するのが基本。あなたに安心感を持つようになれば、犬のほうからあなたの目を見てくるようになります。

■挨拶前の「ひと言確認」が大事

愛犬には、犬に対しても人に対してもすぐ無防備に近づくのではなく、飼い主の指示で挨拶できるように練習させましょう。

人好きな犬の場合は、いちいち挨拶をしないで、そのまますれ違うこともできるように練習しましょう。いずれも、実地に何度か対面・挨拶の場を経験させながら、練習を重ねていくことが必要です。

「うちの犬は誰とでもフレンドリーなので、好きにさせている」という飼い主さんもいますが、相手がいることなので、あなたの愛犬がどのような受け止め方をされるかわかりません。挨拶前の「ひと言確認」は忘れないようにしてください。

■都会の飼い主たちはまだ管理が足りない

街中での犬の散歩の様子を見ていて、よく感じるのは、飼い主さんにはしつけ以前の「管理」の意識をもっと高めてほしいということです。

たとえば、リードの持ち方。他にも歩行者がいるような公共の場所では、散歩中はリードを短く持つのが基本です。最近は伸縮式(フレキシブル)リードを利用する人が増えていますが、街中でもこれを長く伸ばして平気で犬を歩かせている人がいます。街路樹にマーキングしたり、植え込みに入って行ったりしてもそのままにさせています。

犬にとっては好きなように歩けるので気分がいいでしょう。でもこれでは、「飼い主の管理意識が低すぎる」と僕は思うのです。伸縮式のリードは、公共の場所では短くロックしておき、広くて誰もいない場所に来たらリードを伸ばしてあげる。それが正しい使い方です。

飼い主と散歩する犬
写真=iStock.com/stevecoleimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stevecoleimages
鹿野正顕『犬にウケる飼い方』(ワニブックスPLUS新書)
鹿野正顕『犬にウケる飼い方』(ワニブックスPLUS新書)

街中では、急に前方から大きな犬が道を曲がってやって来たり、愛犬がお年寄りに近づいていき、驚いたお年寄りが転んでケガをしてしまう可能性だってあります。公共の場では、人は犬をきちんと管理する責任があり、これはしつけ以前の問題なのです。

自分が見てきた限りでは、都会の飼い主さんたちはまだまだその意識が低く、愛犬の勝手なふるまいを容認しすぎる傾向があると感じます。

「いや、自分はなるべく犬にのびのび散歩させたいので、リードは短くしたくない」という方は、都会での飼育はやめて、広々とした郊外の、誰も住んでいないような土地で犬を飼うべきなのです。またこういう方に限って、散歩中の愛犬のおしっこやうんちの始末もおろそかだったりするのです。

■「犬がやることだから大目に見てよ」は許されない

犬は行動のよしあしを自分では判断できませんから、求められるのは「人間のモラル」なのです。

何か他人に迷惑がかかるような問題が起きたとき、飼い主が「犬がやることだから大目に見てやってよ」などと言うのは、非常にずるい言い訳だし、社会で犬を飼うことの認識が甘すぎると思います。

犬好きの飼い主さん同士でも、何かあったときは「犬が悪いのではなく、飼い主のあなたの責任ですよ」とはっきり伝えることが大事です。

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鹿野 正顕(しかの・まさあき)
ドッグトレーナー、スタディ・ドッグ・スクール代表
1977年、千葉県生まれ。麻布大学入学後、主に犬の問題行動やトレーニング方法を研究。「人と犬の関係学」の分野で日本初の博士号を取得する。卒業後、人と動物のより良い共生を目指す専門家、ドッグトレーナーの育成を目指し、株式会社Animal Life Solutionsを設立。2009年には世界的なドッグトレーナーの資格であるCPDT-KAを取得。日本ペットドッグトレーナーズ協会理事長、動物介在教育療法学会理事も務める。プロのドッグトレーナーが教えを乞う「犬の行動学のスペシャリスト」として、メディアでも活躍中。

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(ドッグトレーナー、スタディ・ドッグ・スクール代表 鹿野 正顕)

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