1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「難関中学に通う息子が家の中で金属バットを振り回す…」受験優等生を"深海魚"にする親の残酷な共通点

プレジデントオンライン / 2022年11月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wacharaphong

難関中学に合格したのに、入学後に成績不振に陥り、「深海魚」状態になってしまう生徒がいる。大学付属校の場合、そのまま大学へ進めないケースもある。プロ家庭教師の西村則康さんは「深海魚の子たちは、中学に入った時点ですでに勉強に疲れ、勉強嫌いになっていることが多い。その背景にあるのは親の勉強のやらせ方です」という――。

■これで安泰と思っていたのに…

近年、中学受験では大学付属校の人気が高まっている。付属校に進学すれば、そのまま大学までエスカレーター式に進めるという安心感が魅力なのだろう。特に今は大学入試改革が揺れていることもあって、先行きが見えない“不安”から“安心”を手にしておきたいという気持ちが強まっているように感じる。

しかし、ひとくちに大学付属校といっても、内部生ならほぼ全員が上の大学に進学できるところもあれば、同じ大学の名前が付いていても付属校・系列校によって進学できる人数が大幅に変わってくるところもある。仮に進学できたとしても、成績上位者から順に希望学部の枠が埋まっていくので、成績によっては行きたい学部に行けないこともある。

また、世間ではあまり知られていないが、中学・高校での成績が著しく悪いと校内の成績会議にかけられ、退学を余儀なくされるケースは意外に少なくない。大学付属校に進学したからといって、「これで安泰」というわけではないのだ。

中学受験を経て、私立中高一貫校へ進学したものの、成績がさっぱり伸びずに下位をさまよう子がいる。そういう子を中学受験界ではひそかに“深海魚”と呼んでいる。暗い海の底にひっそりと暮らす魚と、成績低迷でスポットライトが当たることなくひっそりと中高生活を送る姿が重なるからだ。

中学受験では同じ試験を受けて合格したはずなのに、入学後に差が開いてしまうのはなぜか? 付属校進学の場合、大学受験をしないで済むという安心感から、入学後に手を抜いてしまう、というのは多少あるかもしれない。だが、本当の原因は別のところにある。

■中学受験で勉強を無理やりやらせていた家庭の末路

子供が中学受験をする家庭の親から受ける進路相談で「ウチの子は付属校向きでしょうか? それとも付属校には向かないタイプでしょうか?」と聞かれることがある。かなり漠然とした質問で答えるのに困るが、あえて言うならば、付属校に向いている子はマジメにコツコツと勉強ができる子だと感じている。中学受験の勉強を通して身に付けた学習の習慣を維持できる子だ。

ただ、そういう子は付属校に限らず、どこの学校へ進学することになってもうまくやっていけるだろう。一方、同じように付属校に限らず、中学に入学してから成績が伸び悩み、深海魚になってしまう子がいる。

両者の違いは何か。

それは、これまでの勉強のやり方に問題があると、私は確信している。

息子に何かを言い聞かせている父親
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

中学受験はわずか10〜12歳の子供が挑戦する受験だ。そのため、子供の力だけで進めていくのは難しい。そこで親がある程度、手綱を引くことになる。だが、その引っ張り方を間違えてしまうと、あとあとまで悪影響を及ぼすことになる。

深海魚の子供たちは、中学に入った時点ですでに勉強に疲れ、勉強嫌いになっていることが多い。

「これをやれ! あれをやれ!」
「なんでこんな問題が解けないんだ!」
「あなたの将来を思って言っているのよ」

と、極端な叱咤(しった)激励を受け、親から無理やり勉強をやらされてきたからだ。中学受験をするからには、子供本人も勉強をしなければいけないことは分かっているし、自分なりに頑張ってもいる。しかし、親からは褒められることも、認められることもなく、たくさんのタスクを渡され、それができないと叱られる。そんな日々が続くと次第に無気力になり、自分で考えることをやめてしまう。そして、ただただ親から言われるがまま勉強するようになる。

そうやって受験勉強をしてきた子は、入試では合格できても、すでに息切れ状態になっていて、中学に入った途端に勉強の習慣を放り投げてしまう。しかも、親の強制力がきかない年齢になっている。そして、一年もすると真っ暗闇の海の底をさまよう深海魚になっているのだ。

■親の成功体験が子供を苦しめる

なぜ、親は暴走してしまうのか。

実は親の子供時代が影を潜めていることが多い。以前、私が担当したご家庭にこんなことがあった。その家は代々医者の家系で、父親も医者だった。しかし、父親は大学受験で思うような結果を出さず、自分の出身大学にコンプレックスを抱いていた。わが子には自分と同じような思いはさせたくない。それでも自分がなんとか医者になれたのは、親から厳しくされていたからだ。だから、自分も厳しくしなければいけない。

そこから父親の行き過ぎた受験指導が始まった。「あれをやれ! これをやれ!」「なんでこんな問題が解けないんだ!」、まさに先に挙げたような暴言の連発。しかし、父親が厳しくすればするほど、子供は無気力に。

「このままでは息子さんが勉強嫌いになってしまいますよ」と行き過ぎた勉強をやめるように促しても聞き耳を持たず。それでも、なんとかゴリ押しで難関中学に合格した。

ところが、入ってからまったく勉強をしなくなる。そのうち親よりも身体が大きくなり、親の発言に対して反抗するようになった。中学受験では親に従順だった子が、まるで別人のように変わった。家の中で金属バットを振り回すことさえあった。もはや親子の関係は修復不能な状態にまで悪化してしまったのだ。

地面に置かれた金属バット
写真=iStock.com/Freer Law
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Freer Law

一方、同じように厳しい指導をしていた家庭が、勉強のやり方を変えたことで改善できたケースもある。やはりその父親も子供の頃に親から厳しく育てられたという。子供の学習スケジュールをエクセルに細かく入力し、その通りに進まないと「こんな問題にいつまで時間をかけているんだ!」と叱る。しかし、その勉強量はあきらかにやらせすぎ。そこで、「このままでは息子さんが潰れてしまいますよ」と忠告した。はじめはなかなか耳を貸してくれなかったが、子供がだんだん元気がなくなっていることに気づき、われに返った。

それから、学習スケジュールを父親一人で決めずに、子供の意見も聞くようになった。また、それまでは「受験生なのだからこのくらいできて当たり前」と思うことをやめ、子供なりに頑張っていることを認めるようなった。

学習スケジュールに余裕を持たせたことで、じっくり問題に向き合えるようになり、解く楽しみを味わえるようになったからだろう。みるみると成績が上がり、第一志望だった難関校に合格。現在も上位成績をキープしているという。

今回、両者の運命を分けたのは、手綱を握る親が第三者の声を素直に聞くことができたかどうかだ。中学受験は6年生の2月の時点の学力で合否が決まる。自分でスケジュールを決め、それを実行できる年齢には達していないため、親がある程度は引っ張っていかなければならない部分はある。しかし、子供のペースを無視して無理やり引っ張ってしまうと、子供は息切れをしてしまう。そのさじ加減は本当に難しい。だからこそ、第三者の声が必要だと感じている。

■中高6年間を楽しく過ごすための条件は上位3分の1

では、中学受験で勉強をやらされてきた子供たちは、みんな深海魚になってしまうのか。そんなことはない。成長とともに自分で勉強できるようになる子もいれば、環境が変わり周りの友達から刺激を受けて勉強を頑張り出す子もいる。

付属校であれ、進学校であれ、中高6年間を楽しく過ごしたいのなら、上位3分の1に入り込んでおくことをすすめする。全教科ではなくてもいい。1、2教科でも上位3分の1に入っていれば進路の選択肢が広がり、何より自分に自信がつく。10代において、この“自信”がとても重要だ。自分に自信が持てる子は、一見歯がたたないような難問を前にしてもひるむことなく、「まずはやってみよう。きっと答えが見つかるはずだ」と手を動かし始め、考えようとする。そして、同じようにいろいろなことに対して、挑戦してみようという気持ちになれるからだ。

そうはいっても、上位3分の1に入り込むには相当努力をしなければ難しいのではないか、と思うかもしれない。でも、考えてみてほしい。中学受験はわずか数点の差で合否が分かれる世界だ。その学校に合格できたという時点で自信を持っていいし、入学時においてはほとんど差がない。だからこそ、スタート地点でほんの少し前に進んでおくと有利になる。このほんの少し前に進んでおくための学習が、その後の学習習慣を維持させてくれる。

受験が終わってすぐに勉強に向かう必要はない。まずは2週間くらい思いっきり遊ばせてあげてほしい。すると、次第に暇を持て余すようになる。そしたら、「少しだけ中学の準備をしておこうか」と声をかけてみる。

嚙んで含めるように言って聞かせる母親
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

もう中学生になるのだからと、いきなり手を離してしまうと、子供は戸惑ってしまうので、最初だけ気に掛けてあげるようにしよう。春休み中にやっておくべきものは、中学から新たにスタートする数学と英語の2教科のみでいい。学習量はこれまでの3分の1程度に減らしていいから、数学なら基礎だけ先取りしておき、英語はNHK基礎英会話の2カ月分だけやっておけば十分だ。たったそれだけでアドバンテージになる。

数学を学習する際には、中学受験では正解さえ出ればよしだったが、数学は途中経過を書くことが大事であることを伝えてあげてほしい。そうやって、中学の勉強のやり方を教えてほしい。少しずつでもいいから、毎日やることが大切だということを。そして、1学期の中間テストで成績上位を狙う。ここで良い結果を出すことができた教科があれば大きな自信となるだろう。

その後は徐々に手を離し、子供自身に任せてみる。もし、1学期の中間テストで思うような結果が出さなかったとしても、学習習慣さえあれば夏休み中に軌道修正ができる。そして、2学期のテストで上位3分の1に入り込むことができれば、「よし、この調子で頑張るぞ!」と子供自らが頑張るようになる。そうなったら、もう心配はいらない。

中学受験は人生のゴールではない。中学受験を通じて培った“学びの姿勢”が本当に生きてくるのはこれからだ。

----------

西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。

----------

(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください