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「自分で考えろ」と丸投げして、部下の失敗にはブチギレ…日本の企業をダメにする「無能上司」の典型例

プレジデントオンライン / 2022年11月13日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tony Studio

「理想の上司」とはどんな存在なのか。経済評論家の上念司さんは「管理職の仕事とは、部下にノウハウを指導し、一緒に問題解決に取り組むこと。日本の大企業には、部下に丸投げし、結果が出ないとチクチク嫌味を言うだけのダメ上司が多すぎる」という――。

※本稿は、上念司『論破力より伝達力』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■部下を動かしたいなら、結果を出させる

会話だけで部下の心をつかみ、思い通りに動かすことは不可能です。そんな会話術があると吹聴する人はいますが、ウソです。信じないでください。会話のやり方で相手を催眠状態にするなんて無理。常識で考えましょう。

さて、会話を通じて人が動くとき、それ以前に様々なインセンティブがあります。そのインセンティブを喚起する大義名分などのおぜん立てがあって、初めて言葉が力を持ちます。

この話を、管理職の方向けにもう少しかみ砕いて説明しましょう。端的に言うと、部下を動かしたいなら、部下に結果を出させましょう。これがまさにインセンティブそのもの。

会社員である限り、インセンティブはこれに尽きます。「○○さんの言う通りにしたら、すごく結果が出ました。次はどうしたらいいでしょうか、教えてください」と言ってもらえれば楽ですよね。そして、そのとき初めて言葉は伝わるわけです。

■「結果にコミットする」ライザップの人気

逆に結果を出す方法も教えていないのに、褒め方や叱り方など小手先の会話術だけで部下を操ろうなどと思ってはいけません。もちろん絶対にできないとは言いませんがいつかその戦略は破綻します。仕事上の「成果」が出ないのならば、いくらよい褒め方や叱り方をしたところで最後は誰も動きません。結果の伴わない言葉で部下を褒めても、「この人はおだてるのがうまいな」と見透かされ、軽んじられて終わりでしょう。

ライザップがあれだけ売れているのも、インストラクターの褒め方がうまいからでしょうか? いいえ違います。インストラクターに言われた通りにすれば、きちんと体重を落とせるからです。「結果にコミットする」というキャッチコピーのまんまですね(ちなみに、ライザップを辞めた後に多くの人がリバウンドしてしまうのは自己責任です)。

■そもそも儲かるビジネスモデルを持っているか

では、なぜ自分の部下は結果を出せないのか? 答えは簡単です。それは、管理職側の指導に問題があるからです。そもそも、管理職のポジションにいる人間が結果を出せるのでしょうか? 自分でできないことをどうやって他人に指導するのか、本当に謎です。

結果を出すためには、そもそもその会社に儲かるビジネスモデルが存在している必要があります。それをみんなで共有し、それぞれの役割を果たす。結果を出すために必要なのはこれだけなのですが、日本の会社にはこれを阻む様々な要因があります。

たとえば、私のように新卒1年目で入社した会社がそもそも儲かるビジネスモデルを持っていなかったという悲劇的なケースもあります。私が入社した日本長期信用銀行という銀行は、高度経済成長期に必要とされた長期資金を重厚長大産業に貸し出すことを主な使命としていました。

■就活生では見抜けなかった、会社の価値

ところが、私が入社した1993年には高度経済成長なんてとっくに終わって20年も経(た)っていました。大蔵省の金融規制の緩和が遅々として進まなかったせいで、古い規制のなかでたまたま生き残っていた。しかし、かつては名門銀行だったので就職ランキングだけは高かった。残念ながら就活をしていたときにそれを見抜く知識はありませんでした。

会社の歴史的意義がすでに失われている場合、社員や管理職がいくら頑張ってもそれを逆転することはできません。もっと儲かっている会社に早めに転職することをおすすめしたいと思います。

私が勤めていた日本長期信用銀行が破綻して国有化されたのは1998年です。それから約14年の間、日本は物価上昇率がマイナスに沈むというデフレを経験しました。

2013年から始まったアベノミクスのおかげで、物価はデフレ状態を脱しました。その間、生き残った会社というのは、何らかの儲けるためのビジネスモデルを持っていたと言えるでしょう。いま、あなたが会社勤めをしているなら、少なくともあなたの給料を払えるぐらいには儲かっている。儲けの仕組みがある、ということです。よかったですね。

■負の連鎖をつくる「ダメ上司」の特徴

では、会社に儲けの仕組みがあるという前提で、管理職の役割を考えてみましょう。本来、管理職というのは、「儲かるノウハウを現場の人に指導できる人」でなければいけません。さらに、現状に応じてその仕組みを少しずつ改良し、問題解決をする人である必要もあります。そういう形で部下から頼られてナンボ。それが管理職ではないでしょうか。

しかし、残念ながらそうでない人もいる。「俺は管理職だから」と天狗になり、指導不十分な部下の結果を見てブチギレる。「失敗したのはお前のせいだ! 次にもっと気合を入れろ」と精神論をぶつける。「自分でどういう方法が考えられるか、きちんと考えてみろ」などと問題解決は部下に丸投げ。揚句の果てには、部下が持ってきたアイディアに対して、「こんなものダメに決まっているだろ」と却下して、やる気を削ぐ……。

部下にやり方をろくに教えないくせに、結果が出ないとチクチク嫌味を言うだけの上司が多すぎるのではないでしょうか。部下に問題を丸投げしたまま何の改善もしないで翌月を迎えるので、以前と全く同じ失敗を部下が繰り返し、結局、前月と同じ嫌味を言って終わる……。そんな負のループが循環しています。何の改善も進歩もありませんね。

■無能上司がいる会社はまだまだ多い

逆に、管理職としては控えめすぎて全く覇気がなく、部下の言いなりになって問題解決を主導できない人もいます。そんな人が部下をまともに指導できるはずありません。

どちらのパターンも無能上司の典型です。私の周囲の人に聞くと、「こういう会社はまだまだ多い」とのこと。とても残念ですね。

管理職になった人の多くは、自分が部下だったときに上司から同じようなパワハラや放置プレイを受けたことを忘れたのでしょうか。「なんとか結果を出してこい」と丸投げされて、当然のごとく失敗。いま自分が言っている嫌味と同じことを言われて無駄な時間を過ごした経験を繰り返す。なんかダメな会社員人生だと思いません?

自分がかつてされたのと同じように部下にやって、負の連鎖をつくる。「独自のやり方を見つけろ!」と丸投げしたところで問題は解決しません。まさに小手先の言葉で人を動かそうとして失敗する典型的事例と言えるでしょう。

■部下は経済的インセンティブを共有する仲間

管理職の仕事は、部下の問題を解決することです。そして、経営者の仕事は、管理職の問題解決です。管理監督といっても中身は、現状の問題を解決すること。それに必要なリソースの割り当てを最適化すること。口で言うだけならとても簡単そうなお仕事です。

とはいえ、勘違いしないでほしいのですが、部下の問題解決とは部下を甘やかすことではありません。与えられた権限とリソースの範囲内でどうすべきなのか、部下と徹底的に議論することが大事です。

そして、試行錯誤を経て、よりよい解決策を導き出す。仮に、解決するためにリソースが不足しているなら、上に掛け合ってそれを獲得してくる。そういった一連のPDCAサイクルというか、フィードバックループを遅滞なく回していくことが求められているわけです。

部下と上司は、経済的インセンティブを共有する仲間であり、チームです。部下は結果が出れば昇進するし、給料も上がる。上司は部下の仕事で結果が出たら、評価もされるし、ボーナスももらえます。

お互いのインセンティブや大義名分をきちんと共通認識として抱き、上司がきちんとチームを作って、機能させれば、部下は勝手に動いてくれます。

■上司も部下もハッピーになる職場とは

よいチームを作るには、上司は自分自身がよきアドバイザー、よきコンサルタントとして、部下の問題解決に積極的に取り組むべきなのです。

ガイド
写真=iStock.com/erhui1979
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erhui1979

ちょっと想像してみてください。部下が結果を出すにしても、部下を独断でゼロから頑張らせるより、すでにあなた自身が知っているショートカットを教えてその先で試行錯誤してもらったほうが効率はいいでしょう? ショートカットを教えてもらった部下はあなたに感謝するでしょうし、それで短期間で結果が出ればもっと感謝してくれるでしょう。

部下の社内的な立場もよくなるし、気持ちよく給料もらえますよね? あなたも、「管理職として優れている」と上からの覚えがめでたくなるし、部下からも、「あの人の言うことを聞いていれば間違いない」と好評を得ることができます。

■管理職の仕事は部下を管理することではない

多くの方は、管理職は部下を管理するのが仕事だと思いがちですが、部下の仕事の邪魔をせず、ノウハウを伝え、自発性をもって仕事ができる環境を整えることも管理職にとって大切な仕事です。また、一度ノウハウを指導したあとも、本当に結果が出ているのかどうか、いまの時代で通用しているのかの精査を続けるべきなのです。

上司から見ると後輩である部下の仕事ぶりは不器用に見えるかもしれません。でも、彼らもそれなりに考えて行動しています。その上で、無駄な仕事があればやめてもらい、結果の出る仕事にだけ集中してもらいましょう。

部下がなるべく短時間でよい数字を出し、早く家に帰れて、少しでも自由な時間を増やせるような環境をつくることが、上司の仕事だと考えてください。

■「失敗はきちんと報告する」を徹底する

チームビルディングを考える際、起こり得る最も恐ろしい状況は、「ネガティブな結果が出ているのに、それをチームに報告しない」ことです。ネガティブな状況を改善策も出さずにそのまま放置してやり続けることは、組織の破滅につながります。

だからこそ、上司はまずい事態が起こったら、部下から報告を受けて、改善し、最悪の事態に陥ることを防がなければならない。昨今は、「心理的安全性」という言葉もよく聞かれますが、上司やチーム全体がお互いにネガティブなことも報告できる、心理的に安心できる環境をつくることが大切になってきます。

たとえば、日頃から上司が、「結果が出ないということは、『この方法がダメだったんだな』とみんなが気づく手段になる。チーム全体にとってはプラスなので、失敗はきちんと報告してください」と伝えておいたとしたらどうでしょうか?

それならば、「よい結果が出ていなくても、今後の改善を考える上での材料になったのだから」と部下も前向きに受け入れられるので、悪い状況になっても、隠さず結果を報告するようになるでしょう。

結果をきちんと共有して、一緒に解決策を考えてくれる上司であれば、部下たちも、「こんな一生懸命、苦楽を共にしてくれている人がいるのに、自分がサボっていていいのだろうか」と申し訳なさを感じるようになります。

風通しのよい環境がチーム内に生まれれば、部下がわからないことを上司に積極的に相談するようになります。そのとき上司が伝えたアドバイスをもとに、部下が動く。これは何とも理想的な関係ではないでしょうか。

■部下をまとめ上げる鍵が大義名分

チームビルディングは属人的なものではないので、いきなり、「これからチームを作ってください!」と言われても簡単にできるものではありません。本来であれば、「チームをどう作るか」は、会社が教えなければならないノウハウです。

上念司『論破力より伝達力』(扶桑社)
上念司『論破力より伝達力』(扶桑社)

業種や職種によって最適化したチームの作り方もあるはずなので、会社の経営者たちが管理職に対して、「だいたいこういうふうにやれば、標準的なチームを作れます。だから、こんなふうにチームを作ってください」と伝える努力を怠ってはいけないと私は思います。

基本的には、どんなチームでも人々をまとめ上げるのに必要なのが、大義名分です。常日頃から、「なぜその仕事をやるのか」という動機付けを確認して、みんなをつなぎとめる必要があります。いま部下が言うことを聞いてくれないのであれば、お互いの目指すべき大義名分が共有されていない可能性が高いです。

本来、上司は大義名分で人々を引き寄せていくべきですが、長いこと時間をかけて作り上げられたチームや組織構造にいる限りは、ある程度努力を怠っても決定的な崩壊を迎えることはありません。

■日本の大企業にダメな上司が多い理由

日本の大企業にダメな上司がたくさんいる理由が、まさにこれです。大企業の場合は何十年もかけてシステムがきちんと練られているので、経営層や上司が意識しなくても、そこそこチームがうまく回る。だから、上司は部下の問題解決やチームビルディングを怠り、管理業務にばかり精を出し、ケチをつけるだけの存在になってしまうのです。

もっとも上司が努力せずに部下を放置し続ければ、チームは壊れていきます。話を聞く準備ができていない人に話をしても伝わらないのと同じように、チームができていないのにいくらノウハウを語っても何も実現できないからです。

結局、大企業の場合はチームが育っていないので、時に間違った方向に進み、ある日、突然、学級崩壊と同じ現象が起こるのです。東芝のような大企業の不正会計問題は、まさに最たる例だと言えるでしょう。

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上念 司(じょうねん・つかさ)
経済評論家
1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の日本最古の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一教授に師事し、薫陶を受ける。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。

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(経済評論家 上念 司)

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