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なぜ私はひろゆき氏を2回も「完全論破」できたのか…議論にはエビデンスとロジックが不可欠であるワケ

プレジデントオンライン / 2022年11月15日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

議論に強い人とは、どういう人か。経済評論家の上念司さんは「重要なのはエビデンスとロジック。自分の経験だけを根拠とするような汎用性のないエビデンスは、相手に論破される穴となる」という――。

※本稿は、上念司『論破力より伝達力』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■論破王・ひろゆき氏に「完全勝利」

相手を説得するための要素として必要なのが、「定義の設定」「エビデンスの提示」「ロジックの組み立て」「結論」です。

まず、「定義」の大切さについてお伝えするため、次のエピソードをご紹介させてください。

2022年2月に、私はNews Picksの番組で2チャンネルの創設者・ひろゆきさんと「デフレ」をテーマにした討論を実施しました。ひろゆきさんとは12年前にも1度討論したことがあるのですが、その際、私は圧勝したとネットでは言われています。もちろん、ジャッジがいたわけではないので勝敗は公式にはついていないです。

そして、2回目の討論でも、私はひろゆきさんに「完全勝利」だと言われました。もちろん、この討論もジャッジがいたわけではないし、勝敗は公式にはついていません。みなさんがどう感じるか、いまでもオンライン上でその討論の一部が見られるので、ご興味のある方はぜひ見てみてください。

さて、ひろゆきさんは議論に強いことから「論破王」との異名をとる方ですが、私のような弁論部出身から言わせてもらえば、その技量は、「ちょっとしゃべれる新人部員ぐらい」のランクです。実際、私の学生時代を振り返ってみても、ひろゆきさん以上に口が達者な後輩はたくさんいました。

■定義の設定が甘いと論争にならない

さて、先の対談でひろゆきさんは何がダメだったのかを振り返ると、まずひとつは、冒頭で挙げた「定義」に問題がありました。ひろゆきさんは、定義の設定が非常に甘いのです。

たとえば、彼は「オワコン」という言葉を簡単に多用するのですが、「オワコンとは具体的には何か」「どういう条件を満たすとオワコンなのか」を質問しても、なかなか答えられない。「ぐぬぬ……」と言葉に詰まってしまう。

定義の設定は、誰かと議論するときには非常に大切なテクニックです。そもそもの定義が間違っていたり、甘かったりすると、何の話をしているのかという主眼がぼやけてしまい、論争にもなりません。

■「デフレ」と「ディスインフレ」は別物

2回目に対談した際は、その反省を活かして、「定義をきちんと設定しよう」とご自身でも思ったのか、冒頭から討論のテーマである「デフレ」の定義についてかなり揉めました。

経済学の一般的な定義では、デフレとは物価が2年以上連続でマイナスになることです。そして、デフレは物価の下落を通して企業業績を悪化させ失業者を増大させることが問題だと考えられています。

しかし、ひろゆきさんは、「ドイツがデフレだった」とおっしゃりました。話を聞いてみると、彼はデフレの定義を「ディスインフレ」と誤解していたようです。ディスインフレとは、インフレ率が極めて低い状態のことを指しますが水準的にはゼロ以上の状態です。

ひろゆきさんは、「ITバブルの頃、日本は物価が下がってデフレだったが、景気はよかった」とおっしゃる。でも、あの当時の日本のインフレ率は、マイナス圏のなかで上昇していました。インフレ率の水準とモメンタム(勢い、趨勢)をおそらく混同されているのだろうなと思いました。

このように、ひろゆきさんの言葉の定義やデータの解釈に甘いところがあり、私にそこを突かれる原因になったのは間違いありません。

まずは、定義をきちんと確認する。これは誰かと議論や話し合いをする際は、ぜひ忘れないでほしいと思います。

■弁論部がエビデンスを極めるワケ

定義をしっかりと確認したら、「ロジック」を組み立てましょう。その際に、単なる言いっぱなしの主張では何の説得力もありません。絶対に欠かせないのが、「エビデンスの提示」です。どれだけ説得力と信ぴょう性のあるエビデンスを提示できるかが、議論を決する決定打となります。そして、エビデンスを用意したら、そのエビデンスが主張とどう関連するかを証明する論拠をきちんと示す必要があります。

弁論部に在籍した際、確実なエビデンスと、そのエビデンスに基づいたロジックを用意するトレーニングは、イヤというほど行いました。

そのエビデンスはどういう主張をサポートしているのか。
そのエビデンスは本当に正しいのか。
そのエビデンスはロジックとつながっているのか。
そのエビデンスとロジックが関連することを証明する論拠はあるのか。

これらの要素を確認し、相手の主張に穴がないかを探し、疑問点があれば突っ込む。エビデンスがない主張は、もはや論外です。

■「中国の景気がよい」のエビデンスは何か

なお、先のエピソードで登場した、ひろゆきさん自身も、「エビデンスがないじゃないですか?」と相手によく追及しますが、私も議論する相手に、「エビデンスは何ですか?」と聞くことは非常に多いです。

実際、ひろゆきさんが私に突っ込まれた理由のひとつに、この「エビデンスの甘さ」があります。

2回目の対談でひろゆきさんは、「日本の景気が悪いのは、中国経済が台頭したからだ」と主張しました。

この主張を支えるには、「中国経済の景気がよい」というエビデンスがまず必要になります。しかし、「中国の景気がよい」とするエビデンスのひとつとして彼から上がってきたのは、「中国には携帯電話の組み立て工場が大量にあるから」でした。

携帯電話は世界中で需要がある商品だからこそ、その製造拠点がある中国経済は今後もずっと活力を持つはずだと、ひろゆきさんは力説する。

でも、「携帯電話の組み立て工場が大量にある=景気がよい」というのはエビデンスとして成り立つのでしょうか?

■経済統計や経営学の常識を無視している

大概の携帯電話の組み立ては、中国で行われているのが事実として、そのロジックで言うなら中国以外の国の経済はすべて経済が不調になるのでしょうか? 世界経済は中国の一人勝ち状態なのでしょうか? さすがにこれは言いすぎですし、経済統計も無視しています。さらに、ここへきて中国では不良債権問題が悪化しており、決して景気がよいとは言い切れない状況です。

中国の紙幣
写真=iStock.com/claffra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/claffra

また、いくら中国に携帯電話の工場がたくさんあるといっても、それは組み立て工場です。組み立て工程というのは、モノづくりのなかで最も利の薄い分野です。一番儲かるのは設計と販売。これは経済学というか経営学の常識です。携帯電話づくりで一番利の薄い工程を握っている国が世界の覇権を握る? なんか変ですよね。

ちなみに、現時点でも、アメリカは国土内に組み立て工場は少ないです。では、アメリカは携帯電話の組み立て工場がないけれどもオワコンですか? さすがにこれも違うでしょう。

そう考えると、「携帯電話の組み立て工場があるかないか」だけをもって経済の善し悪しを語るのは、エビデンスとしては非常に不適切だとわかります。よって、「中国に携帯電話の組み立て工場が大量にある=中国の景気がよい」というロジックは成立しません。

■エビデンスの穴を突けば、論破は簡単

定義をしっかり考えた上で、エビデンスを確認するのは議論の常套手段です。たとえば、「中国の景気がよい」という主張をする場合、「その理由は、携帯電話の組み立て工場が中国に大量にあるから」というロジックを検証すればよい。

エビデンスが主張と結びつかない。
エビデンスが不適切である。
もしくは、エビデンスは正しいとしても、その主張は成り立たない。

その場合、これらの穴を突くことができれば、論破は簡単です。

相手が言っている言葉を正確に確認して、その論理構成を理解した上で、エビデンスを確認する。逆に言えば、エビデンス自体の信ぴょう性があれば、そのロジックはかなり信じられるものだと考えていいでしょう。

ひろゆきさんに限らず、議論する際に不適切なエビデンスを挙げる人は決して少なくありませんし、エビデンスの事実誤認も非常に多いです。

たとえば、ひろゆきさんは、「欧州のように、デフレ経済でも景気がよくなるケースはある」とおっしゃっていましたが、ヨーロッパの物価上昇率を調べてみると、その上昇率が2年以上連続でマイナスになったことはありません。

そうなると、ヨーロッパは定義上デフレを経験していない。この時点で議論は終了です。

パズル
写真=iStock.com/Aliaksandr Zadoryn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aliaksandr Zadoryn

■汎用性のないエビデンスを攻めよ

定義やエビデンスが正しいとしても、主張がすごく特殊で部分的な事情を説明しているだけで、全体を説明していない場合は、その穴を追及することもできます。

つまり、誰かの議論を見る際は、「その主張に付随するエビデンスは正しいか」、「そのエビデンスを使ったロジックには汎用(はんよう)性があるのか」という2つの判断基準を意識すると、論理が整理しやすくなるでしょう。

たとえば、経済をテーマに議論をしているのなら、汎用性のあるエビデンスとして挙げられるのが、経済理論や過去の経済的な現象に関する分析、為替レートや株価、GDPなど様々な数値などが考えられます。その数値が実数か名目か。つまり、物価で割り戻しているのか、割り戻していないのか。そういった中身をよく吟味することも大切です。

では、汎用性のないエビデンスとはどんなものでしょうか?

「私が会った中国人はみんなマナーが悪かった。だから中国人はみんなマナーが悪いに違いない」という主張を聞いたとき、みなさんはこれを、「エビデンス足りえる」と思うでしょうか?

■「枚挙的帰納法」は陰謀論と変わらない

中国には13億人もの人がいます。これだけ大人数いれば、マナーが悪い人だけでなく、マナーがよい人も必ずいるでしょう。全員に会ったわけではないなら、「中国人はみんなマナーが悪い」という主張は成り立たないことがわかります。これぞまさに汎用性のないエビデンスと言えます。

このように、個別の事例をいくつかピックアップして、「私が会った人はこうだった。だからこの説は正しい」「私が経験した事例はこうだった。だからこの説は正しい」と主張するのは「枚挙的帰納法」と呼ばれます。日常生活でも、この「枚挙的帰納」を使う人は非常に多いです。

これを繰り返すのは、「私の知り合いの知り合いがワクチンで死んだから、ワクチンは危ない」というような反ワクチンの陰謀論となんら変わらないと言えるでしょう。目の前に出されたエビデンスとして、「私の知り合いの知り合い」などといった個別事例を挙げられた場合は、「それは枚挙的帰納法なので、エビデンスにはならない」と指摘しましょう。

このように、「どんなデータならばエビデンス足りえるか」を押さえておくことは、誰かと議論する上では欠かせないテクニックと言えるでしょう。

■日本の景気の評価にGDP統計は不適切

いかにエビデンスが正しくとも、論拠が間違っている場合もあります。

論拠とは、「その主張を成り立たせるための根拠」です。

たとえば、最近多い、日本の円安が景気悪化を招いているとの主張を取り上げてみましょう。こうした主張はだいたい、「円安の影響で日本のGDPがドル建てで見たときに減っている。だから、日本の景気は悪い」というロジックで成り立っています。

しかし、日本で給料をもらっていて、日本で生活しているのに、景気についてドル換算する必要って、あるのでしょうか。「お前は、もらった給料をドルに換えて生活しているのか?」という話です。

確かにドル建てにしたGDPの数字自体はエビデンスとして存在します。しかし、そのエビデンスを、「日本国内の景気が悪い」という主張と結びつけるのは無理があります。円高になってドル換算のGDPが増えれば日本は景気がいいということになりますか? なるわけがありません。

つまりこのロジックに従えば、GDP統計は日本経済を評価する上で何の意味もなさなくなるわけです。つまり、日本の景気の善し悪しを見るには不適切な指標ということになるわけです。

■「どっちもどっち」の思考は絶対にNG

論理的思考力を鍛えるために重要なのが、どんなテーマに対しても、「自分の中で結論を持つ」ことです。

世の中を二分する事件が起こった際、自分はどちらに理があると思うのか。「自分はこういう理由から、こちらが勝ったと思う」と、自分のなかで必ず結論をつけてほしいと思います。

周囲に自分とは逆の意見を持つ人がいるならば、「なぜあなたはその結論が正しいと思うのか?」ときちんと議論して、結論を出しましょう。

一番よくないのが、「どっちもどっちだな」という、あいまいな結論で終わらせてしまうこと。両論併記で終わらせてしまうのは日本人の悪い癖です。

論理的思考力を磨きたいという方は、絶対にこの思考に陥ってはいけません。どんな問題であっても、最後まできちんと白黒をつけると心に決めてください。

上念司『論破力より伝達力』(扶桑社)
上念司『論破力より伝達力』(扶桑社)

もちろん進行中の議論の場合は、「まだ状況が読めないので、結論が出ない」という可能性もあるかもしれませんが、「現時点で出ているエビデンスをもとにして考えると、この議論はこちら側に分がある」「推論ではあるが、あちらのほうが正しい」と、自分なりに意識して決めましょう。

討論番組などを視聴する際も、「この議論では誰が勝ったか」「その理由は何か」を自分のなかで白黒はっきりつけましょう。

なお、この「結果に白黒をつける」というトレーニングを行う際は、SNSを利用するのもおすすめです。いまの時代、ネット上のあらゆる場所で、いろいろな議論が展開されています。それらの議論を見て、様々な論理展開を学んでください。

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上念 司(じょうねん・つかさ)
経済評論家
1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の日本最古の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一教授に師事し、薫陶を受ける。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。

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(経済評論家 上念 司)

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