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自動車産業を変えるなら今しかない…「ソニー×ホンダのEV」が日本経済復活の最後のチャンスといえる理由

プレジデントオンライン / 2022年11月14日 9時15分

電気自動車(EV)新会社「ソニー・ホンダモビリティ株式会社」の設立発表会で説明する川西泉社長=2022年10月13日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■日本経済復活の大きな起爆剤となるか

ソニーグループとホンダが折半出資する「ソニー・ホンダモビリティ」は、ここへきて、急速に電気自動車(EV)事業の運営体制を強化している。目的は、ビジネスモデルの変革を加速し、新しい収益の柱を確立することだ。ソニーとホンダは製造技術に磨きをかけてウォークマンやCVCCエンジンなど新しい最終商品を生み出して成長した。そうしたヒット商品の創造は、わが国経済の成長に大きく貢献した。

ソニー・ホンダモビリティを俯瞰すると、新しいヒット商品を実現できるか否かが、中長期的な企業、さらには経済の成長に大きく影響するだろう。特に、各国の雇用と所得創出を支えたスマホ需要が減少している。米国の利上げや、中国経済の成長率低下によって、世界が景気後退に向かう可能性も高まっている。

他方で、半導体が世界経済に与えるインパクトはさらに増すものとみられる。事業環境の厳しさが増す中、両社は海外企業との連携を強化し、競合他社を上回るスピードで新しい最終製品を生み出そうとしている。それは、1990年代以降、経済成長率が停滞気味に推移したわが国にとって、大きな起爆剤となる可能性を秘めている。

■「100年に一度の変革期」に対応するため

連携強化によってソニーとホンダは、互いの弱みを補完し、早期に新しい収益源を確立しようとしている。ソニーにとってホンダは、自動車という新しい領域に踏み込むために欠かせない。一方、世界の自動車産業は100年に一度と呼ばれる変革期を迎えた、例えば、EVシフトの加速によって自動車の生産は“すり合わせ技術”を基礎にしたものから、デジタル家電のような“ユニット組み立て型”に移行する。ホンダにとってソニーのデジタル技術などの吸収は喫緊の課題といえる。

両者の連携強化はかなり急ピッチに進んでいる。その背景には、世界経済の急激な環境変化がある。まず、中長期的に世界経済のデジタル化は加速するだろう。自動車にはより多くのデジタル技術が実装される。そのため、世界の大手自動車メーカーがIT先端企業との関係を強化している。対応が遅れた企業は変化に取り残される恐れが増す。世界全体で異常気象問題も深刻だ。脱炭素のために自動車のEVシフトは加速するだろう。

■スマホ需要もサブスクビジネスも行き詰まっている

また、世界的な物価の高止まりも深刻だ。コロナ禍の発生、ウクライナ危機の発生などによって世界経済は脱グローバル化した。世界全体で供給は不足し、インフレが進行しやすくなった。それは一時的な変化ではなく、構造的な変化と考えられる。その状況下、世界経済全体で需要も飽和し始めた。

象徴的なのが、スマホ需要の減少だ。7月~9月期まで、5四半期連続で世界のスマホ出荷は減少した。韓国サムスン電子、中国のシャオミ、オッポ、ビボの出荷台数減少は鮮明だ。スマホはSNSやネット通販、フィンテックなど新しいサービスの創造に大きく寄与した。さらに、米中のIT先端企業は獲得したビッグデータを分析して、シェアリングやサブスクリプションなど新しいビジネスモデルを確立した。そうした需要が飽和している。

競争激化や連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めもあり、IT先端分野を中心に企業収益の増加ペースは鈍化している。ここから先、企業が成長を実現するためには、自ら新しい需要を創出できるか否かが大きく影響するだろう。

■ソニーとホンダの実力が問われている

見方を変えれば、ソニーとホンダの実力がこれまでに増して問われている。そのカギを握るのが半導体だ。足許、ロジックとメモリ半導体の需要は減少している。しかし、やや長めの目線で考えると、世界のあらゆる分野で、より多くの半導体が必要になるだろう。中長期的な世界経済の展開は、半導体に大きく影響されるといっても過言ではない。

まず、ソニーは世界のスマホ需要の拡大についていくことが難しかった。しかし、ソニーは培ったモノづくりの力を発揮して、画像処理半導体の一つであるCMOSイメージセンサ市場で世界トップシェアを手に入れた。半導体事業の成長は、ソニーのゲーム事業の強化にも貢献した。ただし、米国の金融引き締め強化や中国経済の成長率低下によって、ゲーム事業の先行きは不透明だ。足許の業績拡大ペースを維持できるかは見通しづらい。

一方、自動車分野では“CASE”の取り組み加速などを背景に、ソニーの半導体製造技術が発揮できる分野が増えている。そうした変化に対応し、新しい収益源を確立するために、自動車の軽量化、さらには航空機などモビリティー製造技術に強みを持つホンダとの連携強化が選択された。

■世界的産業の盟主は自動車→半導体へ

また、ホンダがエンジン車から電動車へのシフトを加速させるためには、半導体の設計開発や製造関連の技術を取り込むことが欠かせない。拡張現実(AR)などの新しいデジタル技術、メタバース、自動車の自動運転や脱炭素など、より多くの分野で、より大量のチップが使われるようになる。台湾積体電路製造(TSMC)やデンソーと合弁で工場を建設し、画像処理半導体や車載用半導体の製造力強化に取り組むソニーとの連携強化は、ホンダが環境変化に対応するための選択肢を増やすことにつながるだろう。

多くの電気部品を備えたプリント回路基板。
写真=iStock.com/Isti2
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Isti2

内燃機関を搭載した自動車は裾野の広い産業構造を形成し、主要国の産業の盟主としての役割を発揮してきた。しかし、その地位がより高性能な半導体にシフトし始めているといっても過言ではない。米国政府が半導体産業界への支援を強化しているのはそうした変化が加速している兆候だ。ソニーとホンダの連携強化の根底には、世界の産業構造の大転換への対応力を高める考えがあるといえる。

■国内メーカーではなく米韓企業を選んだホンダ

今後、世界全体で、新しい需要創造を目指した企業などの取り組みは加速する。先行者利得を手に入れるために、ソニーとホンダはアライアンス体制を徹底して強化し、新しいサプライチェーンを構築しなければならない。それが遅れれば、両社はテスラや中国のBYDなどの後塵を拝することになるだろう。

注目したいのが、米GMと韓国LGエナジーソリューションとホンダのアライアンス強化だ。ホンダは自主性を最大限に発揮するために、国内自動車メーカーではなく、米韓企業との連携を選択したとみられる。その上でソニーとの連携が強化されている。インドネシアにてLGエナジーソリューションは現代自動車と合弁でEV用のバッテリー生産を行う予定だ。バッテリーの製造コスト面で韓国企業は競争力を高め、シェアを獲得している。

ただし、その安全性に関しては発火などの不安が払拭しきれていない。その部分で電動車などの安全性向上を実現したホンダの製造技術が生かされる部分は大きいだろう。

■日本の産業構造の変化を促すチャンスである

それによって、ソニーとホンダが北米、さらに世界経済の成長の源泉として重要性が高まるASEAN地域の需要をより効率的に取り込む可能性が高まる。それが実現できれば、ソニーはTSMCとの合弁事業などを活かしてASEAN地域でも車載用半導体の生産体制を整備しやすくなるだろう。

このように、ソニーとホンダのビジネスモデル変革は、米韓台、さらにはASEAN地域の企業を巻き込んだ産業育成に発展する可能性を持つ。企業がリスクを負担しつつより効率的に事業を運営するために、アライアンス戦略の重要性は一段と高まっている。

世界経済の先行きは一段と楽観できない。米国では金利上昇によって個人消費が減少し、自動車需要の減少懸念は高まりやすい。しかし、そうであるからこそ、両社は他の企業との連携をさらに強化してモノづくりの底力を世界全体で発揮し、新しい需要創出に徹するべきだ。両社のさらなる自己変革は、わが国の産業構造の転換を加速させ、経済の実力向上にポジティブな影響を与える要素となるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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