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「年収700万円→200万円」ブラック企業を早期退職しヨガインストラクターになった30代女性の悲劇

プレジデントオンライン / 2022年11月16日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

高学歴で年収の高い仕事に就いた女性はどんな生活を送っているのだろうか。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「年収800万円以上の30代女性から“早く辞めたい”と相談を受けることが多くなりました」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

■30代女性が高収入の仕事を辞めたがるワケ

私のお客さまは働く女性が8割を占めます。事務所所在地が都心ということもあり、平均的な女性よりも年収が高く、金融・コンサルティング・医療など、専門的なスキルを活かして活躍されている方が多いです。……が、特に今、30代女性のみなさんが口々に「早く辞めたい」と話し、相談にやってきます。彼女たちに一体、何が起きているのでしょうか。

矯正専門のフリーランス歯科医師として働く大伴文枝さん(仮名/38歳)。複数の歯科医院と提携して病院から病院へと飛び回るような仕事のスタイルです。コロナ禍以降、マスクで口元が隠れるこの時期を好機と捉えて矯正を始める人が増えたそうで、仕事はひっきりなし。

月収200万円を超える月も少なくないですが、ハードワークがこたえるようで、会うたびに口をついて出るのは「早く辞めたい」。他にも皮膚科、産婦人科、外科など、私の元にはさまざまな科の女医の方がいらっしゃいますが、働き盛りの年代の方はやはり皆さん、しんどさを口にしているのです。

■お金を使う時間がないので貯蓄は増えるが

金融業界で広報をしている中川順子さん(仮名/34歳)の帰宅時間は毎日22時過ぎ。年収800万円の一人暮らしなので生活に余裕はありますが、自分の時間はまったくありません。激務で生理不順が続き、心身ともに厳しい状態にもかかわらずリフレッシュの時間も捻出できないため、ネットショッピングで洋服を買ったりスイーツの取り寄せをしたりしてなんとかストレス発散をしているといいます。

彼女のお金の流れを見ていても、稼いだ額に対して支出が本当に少ない。使う時間もないので貯金は順調にできていますが、「こんな生活じゃなんのために働いているのかわからないですよ」と、蓄えた1000万円という数字も彼女にはむなしく映るようでした。

そんな中川さんと大伴さんが「早期退職」、“FIRE”の相談をしてきたのは、今年になってからです。

■FIREを考える前に知っておきたい現実とは

30代で早期退職を望む方に私がお話しするのは、FIRE後の「お金」と「やりたいこと」についてです。

まず、お金。たとえば毎月25万円の生活費を資産から捻出しようとする場合、7500万円の元手を利回り4%で運用し続けなくてはいけない計算になります。年収800万で現在34歳の中川さんが「45歳までにFIREしたい」となった場合、仮にリタイア後の生活費を25万円とすると、45歳までに7500万円が必要なので、若い方にとってかなりむずかしい計画であることは間違いありません。

加えて会社員の方が早期退職した場合、厚生年金の加入期間も短くなるため、将来受け取れる年金額も減少します。また、世界経済は良い時もあれば、悪い時もあるので、常に4%で運用し続けられるとは限りません。

そもそも25万円の生活費で満足する生活が送れるかどうか、という点もこれまでの生活水準と照らして考える必要があるでしょう。

■ヨガインストラクターとして独立した30代女性の誤算

知人で、30代の時に早期退職してヨガインストラクターに転身した女性がいます。大手デベロッパーに勤務されていた方で、当時年収700万円稼いでいましたが、パワハラが横行する会社員生活に疲弊し、退職。昔から好きだったヨガを仕事にしたのです……が、年収は一気に500万円ダウン。

自然の中でヨガのポーズをとる女性
写真=iStock.com/AscentXmedia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AscentXmedia

これまで月数回買い物に行っていた高級スーパーや大好きなオーガニックコーヒーも諦めなくてはいけなくなり、精神的に不安定になりました。自分の望むライフスタイルを目指して退職したはずが、これまでの生活水準との乖離(かいり)が激しすぎて理想の生活からは程遠いものになってしまったのです。

結局、知人はヨガインストラクターだけでは生活が立ち行かなくなり、現在は別の業界で再就職。副業というかたちでインストラクター業を続けながら、400万円ほどの年収をキープしています。つまり、自分の望む生活を維持するためには最低毎月いくら必要かをしっかり見定める必要があるということなのです。

■病気や妊娠、出産…働けないときに心強い運用収入

一方、FIREする/しないにかかわらず、病気になったり妊娠・出産・子育てでいつものように働けなくなったりしたとき、資産運用からの収入があると、精神的にはだいぶ楽です。なので、あらゆる不測の事態に備えて資産運用からの収入を持っておくことは、万人にとっていいことではないでしょうか。

そして難しいのが、資金面と「やりたいこと」の両立です。ただ嫌だからといって辞めてしまった後になにもやることがないと、アイデンティティーが揺らぎます。かといってヨガインストラクターの方のように、あまりにFIRE前後の収入差が激しくなると、望む生活からは程遠いものになってしまう。どちらも見通しを立てることが大切です。

手に職があって仕事もできる高給取りの彼女たちですが、波風立てず円満退社する方法として、「結婚」という選択肢もFIREと同じくらい、よく出てきます。自分の力で稼いで生きる力のある人も、弱ってくるとパートナーの存在が欲しくなるのかもしれません。

■一流企業に就職しても仕事にやりがいを見いだせない

そして私が一番気になっているのは、若く前途有望な彼女たちがそこまでしても仕事から離れたくなっている「理由」です。一生懸命勉強していい大学に入り、一流企業に勤めたりお医者さんになったりした人たちが、働くことそのものにやりがいを見いだせなくなっているのではないでしょうか。

私はファイナンシャルプランナーの仕事を天職だと思っていて、お客さまの相談にのるのも、講演で喋ったりするのもそれぞれ全部、楽しい。なので、多少自由時間が少なくてもそれ自体が悩みになることはあまりなかったのですが、彼女たちは激務なのと同時に、本来やりたかったはずの仕事自体が楽しめなくなっている気がします。もしかしたらそれはエッセンシャルワーカーに言われるような、責任の重さと収入が釣り合っていないからかもしれません。

■自分の趣味を謳歌する安泰の生活は正解か

また、今は「炎上」対策がとても大変だと聞きます。社内でどんなに面白いアイデアが生まれても、クレームが出ないよう、とにかく「安パイ」でいくことが求められるそうです。ミスなく、「全方位から怒られない仕事」が最重要項目になっていたら神経はすり減るだろうし、やりがいは生まれづらいだろうなとも思いました。

今、若い方に出世欲がないと聞きます。つらい思いをして我慢しながらがむしゃらに働いてストレスをためるより、そこそこ稼いで自分の趣味も謳歌しながら、自分の半径5mだけ安泰でいられたらそれでいい――。

それはそれでアリだと思いながらも、経済のことを考えてしまいます。それとも、これまで一流とされてきたものや、拡大・繁栄・消費こそ正解とされてきた価値観の転換期にきているのかもしれません。

日々、忙しいとつい流されて生活をしてしまいがちですが、一度立ち止まって、自分の幸せの価値観と収入、働き方を見直してみると良いでしょう。

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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。

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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵)

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