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ストライクゾーンはカウントによって伸び縮みする…「球審という人間」の限界を統計学で解説する

プレジデントオンライン / 2022年11月18日 13時15分

瞬時にストライクかボールか判定するのは至難の技(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/pkripper503

野球のストライクは正しく判定されているのだろうか。江戸川大学客員教授の鳥越規央さんは「データを詳しく解析すると、球審の認識するストライクゾーンはカウントによって変わることがわかった。『2ストライク』ではゾーンは狭く、『0ストライク』ではゾーンが広くなる傾向がある」という――。

※本稿は、鳥越規央『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

■ストライクの判定は至難の技

近年、テクノロジーの発達により、グラウンド上の選手やボールの動きを計測する技術が格段に向上した。

そして、それらの膨大なデータの解析によって、セイバーメトリクスは著しい進化をとげている。

ここで、改めてストライクゾーンの定義を述べてみよう。

ストライクゾーンとは、ホームベースの五角形を底面とし、打者の肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、ひざ頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間と定義されている。

ボールはこのゾーンを一部分でもかすめればストライクと判定される。

しかし、ボールがそのゾーンを通過するのにかかる時間は0.1秒あるかないかだ。

それを瞬時にストライクかボールか判定するのは、球審にとって至難の技であろう。

しかし、「PITCH f/x」や「Statcast」といった測定機器による計測で、投球がストライクゾーンを通過しているかどうかを即時に判定できるようになった。

そのため、実際にはゾーンを通過していないのにストライクとコールされたり、逆にゾーンをかすめているのにボールとコールされたりしているボールも、判別できるようになった。

■球審にストライクとコールさせる「捕手の技術」

際どいボールでも、球審にストライクとコールさせるようなキャッチングをする捕手を評価するための指標として「フレーミング」という概念が生まれた。

元来、キャッチングが巧妙で、球審にストライクをコールさせやすい捕手はいるが、どれだけストライクと言わしめているかの数量的判定まではできなかった。

しかし、計測によってフレーミングの巧拙が数値で表せるようになったのだ。

2019年のMLBにおけるフレーミングの巧者はオースティン・ヘッジス(現クリーブランド・ガーディアンズ)で、ゾーンまわりの球の53.8%をストライクとコールさせた。

平均的なキャッチャーがストライクとコールさせる確率は47%なので、平均よりも7ポイント近く優秀であるといえる。

このフレーミング技術によって防いだ失点は、20点と算出されている。

(https://baseballsavant.mlb.com/catcher_framing?year=2019&team=&min=q&sort=4,1よりデータ引用)

■3ボールだとストライクゾーンが甘くなる

ちなみに球審がストライクとコールするコースには、興味深い調査がある。

2011年に出版された『Scorecasting』の第1章に、「PITCH f/x」により2007年以降の球審の判定を115万球検証したところ、ストライクとボールのミスジャッジは14.4%であったと記されている。

さらに、ストライクとコールされるゾーンについて、ボールカウント別に集計したところ、ゾーンの広さに大きな差が生じていたというのである。

カウントが「3ボール」のときと「2ストライク」のときの、球審がストライクとコールしたゾーンの違いを図表1に示す(長方形は規定のストライクゾーン)。

【図表1】球審がストライクとコールしたゾーン(「3ボール」のときと「2ストライク」のとき)
出所=『統計学が見つけた野球の真理』

3ボールのとき、球審はかなり広めにストライクとコールしていることがわかる。

■球審の判定は「かなり恣意的」

より極端な例として、3ボール0ストライクと0ボール2ストライクのときの差も図表2に示す。

【図表2】球審がストライクとコールしたゾーン(「3ボール0ストライク」のときと「0ボール2ストライク」のとき)
出所=『統計学が見つけた野球の真理』

「球審という人間」の目によるゾーンの判定には、かなり恣意(しい)的なものが含まれているといえるだろう。

■ストライクゾーンは円形だった

また、球審がストライクとコールするゾーンは、円形に近いことも判明した。

つまり、規定のストライクゾーン(図表1・2・3の長方形)の四隅にボールが来ても、ストライクとコールしてもらえないのである。

四隅に来た球については、高低と横幅の判定を同時に行う必要があるため、判断が難しくなっているという現実があるのだろう。

【図表3】2019年NPBで50%の確率でストライクと判定されたライン
出所=『統計学が見つけた野球の真理』、https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53487より

日本のNPBでの、目視によるゾーン解析でも、カウントによってストライクゾーンの広さに違いがある、という研究がなされている。

MLBとは別組織のアメリカ独立リーグでは、投球の判定に機械を導入する動きがあるという。

そうなると、これまでのストライクゾーンの認識とは違う球が「ストライク」と判定されて、戸惑うこともあるだろう。

しかし、テニスやサッカーなどでは、すでに画像判定が導入されている。

野球でも何十年かのちには、球審に代わって機械がストライクボールを判定することが普通になっているのかもしれない。

■データ化された「選球眼のよさ」

「選球眼がよい」「粘り強い」「積極的に打ちにいく」など、選手のタイプを評する表現はいろいろある。

鳥越規央『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)
鳥越規央『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)

だが、こうした打者の特性を示す数値を、公式記録だけで示すことはできない。

たとえば「選球眼がよい」ことを示すのに、従来は四球の多さに着目することが多かった。

四球獲得能力の測定は、「四球÷打席数」で算出する「BB%」の利用が主流だ。

だが、過去には「出塁率-打率」で算出する「IsoD」(Isolated Discipline)が、四死球による出塁度合いを測る指標として提案されていた。

しかし、四球の多い打者というのは、投手が勝負を避けざるを得ない長打力のある強打者であることも多い。

そのため、選球眼を測る指標として「IsoD」を使うことに疑問が呈されるようになった。

そこで、「ボール球に対してスイングする割合」で、選球眼の良し悪しを測ることが考えられた。

これが「O-Swing%」と呼ばれる指標だ。

この数値が小さいほど、ボール球に手を出す割合が少なく、選球眼がよいとされる。

野球選手
写真=iStock.com/Dmytro Aksonov
「選球眼のよさ」もデータ化されている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Dmytro Aksonov

■もっとも選球眼がいいのは鈴木誠也選手

「O-Swing%」は目視で計測することも可能ではある。

だが、「PITCH f/x」や「Statcast」のような測定機器で、ボールがストライクゾーンを通過したかを判定できるようになった。

その結果、「O-Swing%」の算出が容易になったのである。

2021年の日本プロ野球(NPB)の「O-swing%」のランキングは、図表4のとおりである。

【図表4】2021年NPBのO-swing%ランキング
出所=『統計学が見つけた野球の真理』、所属チームは当時

鈴木誠也(カープ)は、本塁打数も多いスラッガーだ。

だが、セ・リーグで最も「O-Swing%」の数値が低く、選球眼の良い打者であることがわかる。

「O-Swing%」の数値は、年度によって大きく変動することはない。丸佳浩(ジャイアンツ)や近藤健介(ファイターズ)といった打者は、毎年安定して「O-Swing%」が小さいことが知られている。

「O-Swing%」の平均は約30%で、20%以下ならかなり優秀な選球眼の持ち主といえよう。

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鳥越 規央(とりごえ・のりお)
統計学者・江戸川大学客員教授
1969年、大分県生まれ。1992年、筑波大学(第一学群自然学類数学主専攻)卒業。1997年、筑波大学大学院数学研究科修了。博士(理学)。同年、東海大学理学部に赴任。2007年、スタンフォード大学客員研究員として一年間の研究留学。2017年より現職。日本統計学会、アメリカ野球学会などに所属。JAPAN MENSA会員。著書に『スポーツを10倍楽しむ統計学』(化学同人)、『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)など。共著書に『勝てる野球の統計学 セイバーメトリクス』(データスタジアム野球事業部との共著/岩波科学ライブラリー)、『プロ野球のセオリー』(仁志敏久氏との共著/KKベストセラーズ)など。

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(統計学者・江戸川大学客員教授 鳥越 規央)

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