「うちの商品は顧客満足度90%なんです」そういって売り込む営業マンを一発で黙らせる数学的なひと言
プレジデントオンライン / 2022年11月17日 11時15分
※本稿は、深沢真太郎『数字にだまされない本』(日経ビジネス人文庫)の一部を再編集したものです。
■数字にだまされないためにはどうしたらいいか
ここから私たちが数字にだまされる事例をたくさん紹介していきますが、その前に「数字にだまされる」「数字にごまかされる」ことについて簡単に整理してみましょう。
そもそも、数字とはなんでしょう。きわめてシンプルな問いですが、意外と人によって答えが違うものです。「数えた結果」とか「非常に客観的なもの」といった答えが一般的でしょうか。私は、数字とは「コトバ」であると定義しています。ここでの「コトバ」とは、皆さんが認識している、コミュニケーションでごく普通に使われる言葉のことです。
たとえば、経済指標やビジネスに関するデータはまさにコトバで、それは発した側と受け取る側とのコミュニケーションを生んでいると考えることができます。発した側と受け取る側をAとBと表記して話を進めます。
B コトバを受け取る側(数字を読む側)
Aには「だまそうとしている」と「だまそうとしていない」の2種類があると考えられます。作為的な数字を使い相手のミスリードを期待するのが前者であり、そんなつもりはまったくないのが後者です。一方、Bはその数字を見ることで「だまされない」と「だまされる」という2種類の結果に分かれます。これを2×2の表で表現すると、2つのパターンがあることがわかります。
![【図表1】数字を見せる側と読む側の関係](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/3/1200wm/img_b34f77b52456322f235a2aa013d48332300599.jpg)
ここで重要なのは、Bがある数字を読もうとするとき、相手のAがだまそうとしているのかしていないのかはわからないということです。だからどちらにせよBは「だまされる」→「だまされない」になればよいということになります。大事なのは、あなたがその数字の意味を正しく読み取ること。それだけです。相手がだまそうとしているかどうかは問題ではなく、あなたがその数字にだまされないかどうかが問題なのです。
■「数字を正しく読み取れればよい」と考えることが最初の一歩
「だますほうが悪い」は正論ですが、それではいつまで経っても数字を見たときに「だまされるかもしれない」と思い続ける人生から抜け出せません。それは少しばかりもったいないように思います。
数字にだまされるとは、相手の問題ではなくあなたの問題。どんな場面でもだまされないような数字の読み方をあなたが身につければ、この厄介な問題は解決するのです。お待たせしました。次項から私たちが数字にだまされる事例をたくさんご紹介していくことにします。
「相手がだまそうとするのが悪い」ではなく、「自分が数字を正しく読み取れればよい」と考えることが最初の一歩
■「顧客満足度が90%!」というのはなにを表しているのか
「当社の製品は、顧客満足度がなんと90%!」
テレビCMや街中の広告でこんなフレーズをよく目にします。たくさんの人に支持されている商品だなと感じる方も多いでしょう。しかし、これは本当にそう評価すべき内容なのでしょうか。私であれば「これだけでは良いとも悪いとも評価できない」と意味づけします。なぜなら、もとの数をどう定義したかが明らかではないからです。
基本的な話から始めましょう。この「90%」とは割合と呼ばれる数字です。たとえば100人のうち男性が90人ならば「男性の割合が90%」と表現するものであり、この100人を「もとの数」と表現します。
ここで問題になるのは、もとの数が10人で、うち9人が男性でも同じように「男性の割合が90%」と表現できることです。顧客満足度の話に戻しましょう。あの「当社の製品は、顧客満足度がなんと90%!」というフレーズだけでは、もとの数がいくつなのかがわかりません。10人のうち9人? 100人のうち90人? 1億人のうち9000万人? 10人のうち9人なのか、1億人のうち9000万人なのか、それによって90%という数字の意味が変わってきます。
前者であれば「たまたまじゃないの?」という指摘もできますが、後者はそうはいかないでしょう。1億人とは日本の人口に近い人数ですから、「確かに多くの人が満足している製品」と意味づけてもいいのではないでしょうか。
また、違った視点からこの90%という数字にツッコミを入れることも可能です。たとえば次の2つの場合を考えてみましょう。
B 一度でも利用経験のある顧客からランダムに10人選び、アンケートをとった結果
Aの場合、「顧客満足度90%」はある意味で当たり前の結果といえます。むしろ100%でないことのほうが問題かもしれません。ここでの「顧客満足度90%」という結果はポジティブなものというよりはネガティブな意味づけをすべきものになるでしょう。満足と答えなかった1名の理由を把握することはとても大切な仕事になります。
![【図表2】数字は同じでも、意味はまったく違う](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/0/1200wm/img_e05878661561575e63dcb9a9acf148e4191014.jpg)
一方、Bの場合はアンケートの対象者に偏りがありません。そういう意味でこちらのほうが顧客満足度の信憑性が高くなり、評価もポジティブなものになるでしょう。このように、「90%」という数字それ自体はひとつのことを表現していますが、その意味は無限に存在します。
■「数字の定義」をはっきりさせることで惑わされなくなる
正しい意味づけをするために、「%」という数字を見たときには、もとの数を明らかにすることが必要です。そういう意味で、私はテレビCMや街中で目にする「当社の製品は、顧客満足度がなんと90%!」といった広告表現は(制作者の方には申し訳ないのですが)、ほぼ信じていません。
決してウソをついているとかだまそうとしているとか申し上げているのではありません。その数字だけでは評価しようがありません、ということです。あなたがこれから実際に「当社の製品は、顧客満足度がなんと90%!」といった説明を受ける場面があったら、迷わず次の指摘をすることをおすすめします。
「その満足度という数字の定義を教えてください」
この問いをされた側は、どんな人に、何人に対して調査をし、どんな手法で測定した数字なのかを説明することになるので、数字の正体を明らかにせざるを得ません。数字がなんらかの作為的なものであったとしても、ここで正しく情報を引き出し評価すればあなたはこの数字にだまされることはありません。
キラーフレーズは「その数字の定義を教えてください」
■「○○%増えました」という表現には注意が必要
「このサプリを試してもらったところ、効果を実感した人が10%増えました!」
![大きなパーセンテージのサインを見上げる男](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/e/1200wm/img_0e8e6ac57cb8c043168ef68bf76c4089201836.jpg)
これもまた、テレビCMや街中でよく目にする広告です。「じゃあ、ちょっと試してみようか」と思う方もいるでしょう。しかし私であればこの情報だけでサプリを試してみる気分にはなれません。理由は前項でお伝えした通り、「%」という数字を見たときには注意すべきことがあるからです。そこで次の例を考えてみましょう。
ある健康食品会社が顧客の協力のもとサンプリング企画を実施するとします。サプリAを愛用している100人のうち10人が効果を実感していますが、その100人にサプリBを試してもらうことになりました。冒頭の表現を再び登場させましょう。
「このサプリを試してもらったところ、効果を実感した人が10%増えました!」
ここで問題です。サプリBを試してみた結果、効果を実感したと答えた人は何人でしょうか。
■「アピールしやすい表現」を選んでいる可能性を考えたほうがいい
とても簡単な問題に見えますが、私がこれまで経験した限り、実はビジネスパーソンからの回答として2種類あります。
回答2 もともと効果を実感していたのが10人であり、その10%増加だから11人
![深沢真太郎『数字にだまされない本』(日経ビジネス人文庫)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/2/1200wm/img_72af86a0f0bf7c4a03fc39137005e829220314.jpg)
回答1は10%増えたという表現を「10%から20%に増えた」と解釈した場合、つまり10人増えたという理解です。確かに、10%増えたという意味では、こう解釈するのも間違いとは言い切れません。一方の回答2はサプリAに効果ありと答えた10人を基準にし、その10%が増えたと解釈した場合、つまり増えた人数はひとりという理解です。この解釈も間違いとは言い切れません。
ここで申し上げたいのは、このようにひとつの数字に複数の解釈が生じてしまうケースでこそ、まさに「だまされる」が起こるということです。サプリBの効果をアピールしたい側になって考えてみましょう。
実際はひとりしか増えなかったとして、「ひとり増えました!」ではアピールにならないと考えるのは自然なことです。サプリBの効果をできるだけ魅力的に表現したいとするなら、「10%増えました!」という表現を選択するかもしれません。
■「効果が2倍」という表現が作り出された過程を読み解く
一方で、プレゼンテーションを見聞きする側が回答1の解釈をしてしまったら、実際はひとりしか増えていないにもかかわらず、10人も増えたと認識します。正しいけれど誤り、まさに数字にだまされた状態です。「効果が2倍になりました!」といった表現もこれに近いものです。直感的に「それはすごい!」と思いがちですが、割合(%)の原理と同じように読み解く必要があります。
偏りを疑う必要はあるか
何人のうち何人が「効果あり」としたのか
2倍(増加)の定義は何か
このように読み解いていくことで、実はきわめて特殊な人たちに行った作為的な調査において、「効果あり」と答えた人がたったひとりしか増えなかった結果を「効果が2倍」と表現している可能性もあると指摘できるでしょう。
■割合は基本的な数字ではあるが、曲者でもある
割合(%)という数字は直感的にイメージしにくい曲者です。たとえば「40人から60人増えました」はもちろん100人で、間違いようはありません。ところが、全社員に対する女性従業員の割合がそれぞれ40%と60%の2社が合併したときの全社員に対する女性従業員の割合は100%とはならないはずです。
ちなみに答えを直感的に50%と考えてしまう方も多いようですが、そうとも限りません。一例が図表3です。40%と60%という2つの数字から、53.3%という数字の可能性を想像しなければならない。これが割合(%)という数字の難しさです。
![【図表3】割合(%)は曲者](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/6/1200wm/img_d69ea95014577b4e695dc5e2d5dfcc51218424.jpg)
一般的に回答1のような場合は「10%増加した」ではなく「割合が10ポイント増加した」と表現します。割合の増加をポイントの増加と表現することにより、先ほどのようなミスコミュニケーションを避けます。仕事の場面で10%が20%まで増えたことを表現する際は、「ポイント」を使うことをおすすめします。
繰り返しですが、割合(%)は曲者であり細心の注意を払う必要があります。一方で、割合(%)とは小学校で学ぶきわめて基本的な数字でもあります。だまされるポイントはそう多くありません。ここで紹介したことを徹底することで数字にだまされることを回避できるはずです。
「○%増加」と「割合が○ポイント増加」を使い分ける
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ビジネス数学教育家
日本大学大学院総合基礎科学研究科修了。理学修士(数学)。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。予備校講師から外資系企業の管理職などを経て研修講師として独立。その独特な指導法で数字や論理思考に苦手意識を持つビジネスパーソンの思考とコミュニケーションを劇的に変えている。大手企業をはじめプロ野球球団やトップアスリートの教育研修まで幅広く登壇。SMBC、三菱UFJ、みずほ、早稲田大学、産業能率大学など大手コンサルティング企業や教育機関とも提携し、ビジネス界に数学教育を推進。2018年に国内でただ1人の「ビジネス数学エグゼクティブインストラクター」に就任し、指導者育成にも従事している。著書に『数学的思考トレーニング 問題解決力が飛躍的にアップする48問』(PHPビジネス新書)、『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』(ダイヤモンド社)、『数字にだまされない本』、『数学女子智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(ともに日経ビジネス人文庫)などがある。
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(ビジネス数学教育家 深沢 真太郎)
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