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年収600万円の人が多いとは限らない…「平均年収600万円の企業」の本当の意味を知っているか

プレジデントオンライン / 2022年11月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

「平均年収600万円の企業」と聞いて、どんなイメージを持つだろうか。ビジネス数学教育家の深沢真太郎さんは「年収600万円の人が多いとは限らない。平均値にだまされないためには、中央値と最小値(最大値)を確かめる必要がある」という――。(第2回)

※本稿は、深沢真太郎『数字にだまされない本』(日経ビジネス人文庫)の一部を再編集したものです。

■多くの人が理解できていない「平均」という概念

「当社の平均年齢は40歳です」

この1行を読んだ瞬間に、この会社には40歳の人(あるいはアラフォーの人)がいると思った方は要注意です。平均値にだまされているかもしれません。そもそも、平均とはなんでしょうか。

私は企業研修の中で、参加者にこの質問をすることがあります。小学生ならまだしも、ビジネスパーソンに「平均とは何か?」と尋ねるなんて、失礼な講師だと思う方がいるかもしれません。でも私は真剣に、この問いを投げかけています。多くの方の答えは次のようなものです。

「データを全部足し算して、その個数で割り算したもの」

しかし、これは平均値の求め方であって、平均とは何かを説明していることにはなりません。そこで再び研修の参加者に「計算方法ではなく、平均の意味を説明してみてください」と尋ねると、ほとんどの方がこのように答えます。

「真ん中あたりのデータのこと」

おっしゃりたいことや描いているイメージはよくわかります。ただ、平均の意味が「真ん中」であれば、中央値と呼ぶほうが正しいのではないでしょうか。

なぜ私たちは実際には「平均値」という名称を使うのか。その理由を説明しましょう。平均とは文字通り「平らに均(なら)した」という意味です。体操競技の平均台を想像してみてください。平らに均した台だから平均台なのです。具体例で考えてみましょう。

■平均年齢は存在しても、平均年齢の人がいない可能性がある

従業員4人の会社があるとします。メンバーと年齢は社長(78歳)、管理職(32歳)、中堅社員(28歳)、新人社員(22歳)です。4人の平均年齢は40歳になりますが、これは4つの数字の凹凸を平らに均した値に他なりません。そして大事なことは、この会社に40歳の人(あるいはアラフォーの人)はいないという事実です。

【図表1】平均とは凹凸を平らに均した値
平均とは凹凸を平らに均した値(出所=『数字にだまされない本』)

この事実が教えてくれることはひとつです。

平均年齢。実際はその年齢の人はいない可能性がある。
平均年収。実際はその収入の人はいない可能性がある。
平均点。実際はその点数を取った人はいない可能性がある。
平均購入価格。実際はその金額で購入したお客様はいない可能性がある。

こういった感覚を持ったほうがよいということです。平均値そのものは数字として存在しますが、その平均値にあたるものは存在しないかもしれません。「平均値にだまされるな」については、いろいろな方がさまざまな角度から解説しています。しかし私は、このテーマは「存在しない可能性があるものをあるかのように論じるのは危険だから」のひと言で終わるシンプルな話だと思っています。

■平均値は“視覚化”すれば騙されることはない

では、どうすれば平均値にだまされずに済むのでしょう。その答えは先ほどの事例ですでに示しています。きわめてシンプル。視覚化すればいいのです。先ほどの例を思い出しましょう。

ある会社の平均年齢が40歳という情報があったとき、その情報だけで物事を決めつけず、具体的な数字を確かめ、それをグラフにすれば、どの年齢が存在しどの年齢が存在しないか、すべて明らかになります。すべて明らかになるのですから、だまされることは100%ありません。

平均値というたったひとつの数字で判断しようとするからだまされてしまいます。しかしこれは、すべてを明らかにするだけで解決する問題なのです。そうはいっても、現実問題としては、すべてを明らかにすることが難しい場面もたくさんあります。

たとえばメディアで紹介される「平均○○○」といった数字は、その数字だけが紹介され、すべてのデータを見せることはもちろん、分布が明らかになるグラフを見せることもほぼありません。そういう意味で、私は「平均○○○」といった数字だけでは何もわからないし、何も評価できないと考えるようにしています。

それによって、実態を正しく把握することはできなくても、数字にだまされるという悲劇だけは避けられます。裏を返せば、あなたがビジネスシーンにおいて「平均○○○」という数字を使ってコミュニケーションを図るときは、その数字だけではなくデータの分布などがはっきりわかるグラフなども添えてあげることをおすすめします。

「ひょっとしてコイツは平均値を使ってごまかそうとしているのか?」なんて思われたら損ですからね。

・POINT
平均値は存在するけれど、その数字が示すものの存在は疑う

■平均値にだまされないための「2つの質問」

平均値の話を続けましょう。だまされないコツは、グラフにしてしまうなどすべてのデータが明らかになる状態にすること。これが基本でした。

しかし、現実はそれが難しい場合のほうが圧倒的に多いはずです。そこで、データ全体をグラフにしなくても「なんとなくどんな姿をしているか想像がつく方法」をご紹介します。とても簡単で、今日からすぐにできるテクニックです。

あなたが転職活動中とします。希望する転職先の担当者から、「ウチの従業員の平均年収は600万円とまあまあ高めですよ」という説明があったとしましょう。この「まあまあ高め」という説明をあなたは疑いますよね。

このような場面では次の2つの質問をしてみてください。

Q1「ちなみに中央値はいくらなのでしょうか?」
Q2「最大値と最小値はいくらでしょうか?」

中央値というのは全データを大きい(小さい)順で並べたときにちょうど中央にあたる数字のことです。最大値(最小値)は文字通り全データの中でもっとも大きい(小さい)数字のことです。この質問の意味を理解していただくために、簡単なクイズを出しましょう。

A:{○、△、□、◇、☆}、B:{●、▲、■、◆、★}という2種類のデータがあります。それぞれの記号はある数字を意味しますが、実は私はこの5つの数字を具体的に設定しています。今からヒントを出しますので、AとBでそれぞれどんな数字なのかを想像してみてください。

■「平均値」と「中央値」を比べることで実態が見えてくる

Aの中央値は9であり、最大値は1800、最小値は1となります。ちなみに平均値は365です。Bの中央値は360であり、最大値は430、最小値は305となります。ちなみに平均値は365です。さて、あなたはAとBにそれぞれどんな数字が並んでいることを想像するでしょうか。

A:中央値が9、平均値が365
中央値と平均値はあまりにかけ離れており、平均値がいわゆる真ん中あたりの数字という解釈には違和感があります。Aの中にはだいぶ大きな数字が存在し、それが平均値を大きくさせていることが容易に想像できます。

B:中央値が360、平均値が365
逆にこちらは平均値と中央値が近い数字であり、この平均値はいわゆる真ん中あたりの数字というイメージを持っても差し支えないでしょう。

■最大値と最小値がわかればより確かな姿が見えてくる

中央値がわかれば平均値との差が明らかになり、その数字がいわゆる真ん中あたりの数字と理解していいのかが推測できるのです。さらに、最大値(最小値)まで明らかにできれば、その推測はより確かなものになります。

深沢真太郎『数字にだまされない本』(日経ビジネス人文庫)
深沢真太郎『数字にだまされない本』(日経ビジネス人文庫)

A:最大値は1800、最小値は1
予想通り1800というかなり大きな数字があるために、平均値がだいぶ大きいものになってしまっていると考えられます。

B:最大値は430、最小値は305
この2つの数字から、Bというデータは大きさが近い数字で構成されていると容易に想像できます。平均値はいわゆる真ん中あたりの数字であり、Bの規模や分布を表す代表的な数字といっていいでしょう。

では最後にAとBをそれぞれ棒グラフにしたときの姿を想像してみてください。おそらく図表2とほぼ一致したものになっているはずです(※ちなみに私が実際に設定したデータはA:{1、4、9、11、1800}、B:{305、345、360、385、430}でした)。

【図表2】クイズのAとBを棒グラフで示すと
クイズのAとBを棒グラフで示すと(出所=『数字にだまされない本』)

このように、中央値や最大値(最小値)さえわかれば、おおよそのデータの姿を捉えることはできるのです。あなたがビジネスパーソンなら、平均値だけで物事を論じている人とコミュニケーションする際は2つの質問をしてみてください。

Q1「ちなみに中央値はいくらなのでしょうか?」
Q2「最大値と最小値はいくらでしょうか?」

相手が答えられない場合は、何か都合が悪いことがあるのかもしれません。同時に、「この人はなかなか鋭いな」とあなたに一目置くようになるでしょう。

・POINT
「平均値+2つの質問」でおおよそのデータの姿は捉えられる

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深沢 真太郎(ふかさわ・しんたろう)
ビジネス数学教育家
日本大学大学院総合基礎科学研究科修了。理学修士(数学)。国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者。予備校講師から外資系企業の管理職などを経て研修講師として独立。その独特な指導法で数字や論理思考に苦手意識を持つビジネスパーソンの思考とコミュニケーションを劇的に変えている。大手企業をはじめプロ野球球団やトップアスリートの教育研修まで幅広く登壇。SMBC、三菱UFJ、みずほ、早稲田大学、産業能率大学など大手コンサルティング企業や教育機関とも提携し、ビジネス界に数学教育を推進。2018年に国内でただ1人の「ビジネス数学エグゼクティブインストラクター」に就任し、指導者育成にも従事している。著書に『数学的思考トレーニング 問題解決力が飛躍的にアップする48問』(PHPビジネス新書)、『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』(ダイヤモンド社)、『数字にだまされない本』、『数学女子智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(ともに日経ビジネス人文庫)などがある。

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(ビジネス数学教育家 深沢 真太郎)

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