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仕事選びでも「コスパ」が最重要…「言われたことしかやらない量産型社員」が増えている本当の理由

プレジデントオンライン / 2022年11月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

転職や独立に関する調査をすると、何もせずに現在の仕事を続けるほうが得だと考える人が多いという。なぜそうなったのか。同志社大学の太田肇教授は「日本社会は『何もしないほうが得する』仕組みになってしまっている」という――。

※本稿は、太田肇『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■働き続けたいわけではないが、転職するつもりもない

コロナ禍の影響もあって近年、働く人の転職意識や独立志向が高まっているといわれる。

はたして実際は、どうだろうか?

パーソル総合研究所は二〇二二年二~三月に全国の一五歳~六九歳の有職者一万人を対象に「働く一〇〇〇〇人の就業・成長定点調査」を実施した。この調査によると、「現在の勤務先で継続して働きたい」という人が四八・五%とほぼ半数いる一方、「他の会社に転職したい」という人は二四・六%にとどまる。いまの会社で働き続けたいわけではないが、かといって転職するつもりもないという人が相当数いることをうかがわせる。

もう一つ注目してほしい調査結果がある。

かなり古いが、総務庁(現・総務省)青少年対策本部が一九九三年に世界一一カ国の青年に対して実施した「第五回世界青年意識調査」の結果も示唆的だ。調査結果をみると、日本人はいまの職場で勤務を「続けたい」という回答の比率が一一カ国のなかで最も低い。それと対照的に「続けることになろう」という回答の比率は他国に比べて顕著に高くなっている。きわめて消極的、運命的な帰属意識がそこに表れている。

では、現在働いている人の意識は当時と違うのだろうか?

■過半数が「転職や独立をしないほうが得」と回答

松山一紀は二〇一六年に、同様の項目を用いて上司を有する日本人労働者一〇〇〇人にウェブで調査を行った。すると傾向は先の調査結果と似通っていて、「この会社でずっと働きたい」という回答は二五・四%にとどまる一方、「変わりたいと思うことはあるが、このまま続けることになろう」という回答は四〇・五%に達する(※1)

現在も、そして青少年だけでなく現役社員もまた消極的な帰属意識で働き続けていることがわかる。

つぎに、独立の意思に目を向けてみよう。

「2022年ウェブ調査」では、企業などの組織で働く人に対し、まず「将来、チャンスがあれば独立したいと思いますか?」と聞いてみた。すると、「思う」が二六・九%とほぼ四分の一だった。年代別では二〇代が三五・四%で最も多い(図表1)。そこで、こんどは「自ら転職や独立をしないほうが得だと思いますか?」と質問した。その結果、「そう思う」「どちらかといえば、そう思う」が計五一・一%と過半数に達した。ちなみに二〇代も五一・八%で全体の数値を若干上回っている(図表2)。

※1:松山一紀『次世代型組織へのフォロワーシップ論 リーダーシップ主義からの脱却』(ミネルヴァ書房、2018年、104~105頁)

■起業活動をしている人の割合は主要国でも低い

これらの結果から、日本企業ではいまの職場が気に入っているので働き続けたいという人がいる一方で、転職や独立をしてみたいという気持ちはあっても、損得勘定をしたら割に合わないと思い留まっている人がかなり多いことがうかがえる。

将来、チャンスがあれば独立したいと思うか
出典=『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』より
自ら転職や独立をしないほうが得だと思うか
出典=『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』より

それを裏づけるような調査結果がある。

日本財団が二〇二二年、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インド、日本の一八歳の人を対象に行った「第46回 国や社会に対する意識(六カ国調査)」では、「多少のリスクが伴っても、新しいことに沢山挑戦したい」「多少のリスクが伴っても、高い目標を達成したい」という回答の割合は他国と比べ際立って低く、いずれも五割を下回っている。

また経済産業省の「起業家精神に関する調査」によると、起業家や起業活動をしている人の割合を表す「起業活動率」は、今世紀に入ってからおおむね五%以下で推移しており、アメリカ、イギリス、フランスなどの先進国、それに韓国と比べても低くなっている。

後ほど詳しく説明するように、年功制の大枠が残っている日本企業では、一部の専門職や傑出した能力の持ち主でないかぎり、転職すると給与が下がる可能性が高い。

年金、退職金などの福利厚生を含めたら、いっそうその差が大きくなる。

■「成長したい」と口では言うけれど…

そもそも日本にはシリコンバレーに象徴されるアメリカなどと違い、だれもが起業して成功する夢を描け、かりに失敗しても再挑戦できるような社会的、経済的、文化的条件が整っていない。近年は日本でも公的あるいは民間のさまざまな起業支援が整いつつあるが、それでもアメリカなどに比べればサポート体制が十分ではなく、失敗した場合の損失も大きい。下手をすると自分の財産をすべて失い、生活に困窮するような事態に陥りかねない。

このように日本では転職・独立など、外部に有望なキャリアの選択肢が見出しにくく、それが将来への大きな夢や希望を抱くことを困難にさせている。若者がしばしば口にする「成長したい」という言葉から真剣味が伝わってこないのも、成長した先に魅力的な将来展望が描けないからだろう。

■一度出世コースから外れると復活できない

「挑戦しないほうが得」なのは、会社のなかも同じだ。

かなり古いものだが、日本企業の昇進システムを「キャリアトリー法」という手法を使って分析した花田光世の研究がある(※2)

この研究によると、能力差のある大量の新卒を採用している企業では、第一次選抜に入っていなければその後の昇進・昇格は大幅に遅れることが決定的であり、その後も一度競争から脱落すると一定の地位までしか昇進できない可能性が高い。

現在は当時と比べて敗者復活のできる企業は増えているものとみられるが、それでも伝統的な製造業や金融機関のなかには、いったん出世コースから外れると復活が実質上困難なトーナメント型の人事が行われている企業が少なくない。また近年は、バブル期採用組など余剰な人材をふるい落とすためにトーナメント型へ回帰している企業もある。

それでも欧米のように外部労働市場が発達していれば、出世コースから外れたら転職して再チャレンジできる。しかし日本では転職によるキャリアアップがしやすくなったとはいえ、実績を残せなかった人の再就職機会はそれほど恵まれていないのが現状だ。

※2:花田光世「人事制度における競争原理の実態――昇進・昇格のシステムから見た日本企業の人事戦略」『組織科学』第21巻、第2号、1987年

■「心理的安全性」を保障するだけでは足りない

いずれにしても問題なのは、社員の意識や職場風土のなかに、ミスをして悪い評価を受けたら出世が遠のくとか、左遷されるのではないかという意識が根強く存在することである。実際、前述したような減点主義評価のもとでは大きなミスをすると総合点が下がるし、保守的な企業風土のもとでは尖った人材より、無難な人物を昇進させる傾向がある。

太田肇『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書)
太田肇『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書)

それでもリスクを冒して挑戦するだけの見返りが期待できればチャレンジするだろう。しかし現実は、ストックオプションなどの制度を取り入れている欧米企業や中国の新興企業などと違って、成功した場合の見返りが小さい。かりに成功し会社に大きな貢献をしても、貢献に比例した報酬が与えられるわけではないのだ。

昇進についても同様である。近年は大企業でも三〇代前半に課長、四〇歳そこそこで部長に就けるケースが現れてきたが、まだ一部の企業にとどまっている。終身雇用と年功制の大枠が存在する以上、会社として思い切った抜擢は難しいのが実情である。

つまり失敗しても再挑戦できるシステムに変えるなど「心理的安全性」を保障することは大切だが、それだけでは多くの社員を挑戦に駆り立てることができないことを示唆している。

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太田 肇(おおた・はじめ)
同志社大学政策学部教授
1954年、兵庫県生まれ。神戸大学大学院経営学研究科修了。京都大学博士(経済学)。必要以上に同調を迫る日本の組織に反対し、「個人を尊重する組織」を専門に研究している。ライフワークは、「組織が苦手な人でも受け入れられ、自由に能力や個性を発揮できるような組織や社会をつくる」こと。著書に『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)をはじめ、『「ネコ型」人間の時代』(平凡社新書)『「超」働き方改革――四次元の「分ける」戦略』(ちくま新書)、『同調圧力の正体』(PHP新書)などがあり、海外でもさまざまな書籍が翻訳されている。近著に『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書)がある。

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(同志社大学政策学部教授 太田 肇)

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