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「ロシアを常任理事国から外す必要がある」ウクライナ戦争の戦後処理でプーチンに与えられる屈辱

プレジデントオンライン / 2022年11月17日 13時15分

2022年11月9日、ロシア連邦医学生物学庁の75周年記念式典に出席するロシアのウラジーミル・プーチン大統領(ロシア・モスクワ) - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

ウクライナ戦争を起こしたロシアには、どういった対応が必要なのか。社会学者の橋爪大三郎さんは「まずはロシアの戦略核を無力化する装置を開発すべきだ。もうひとつ、ロシアを外した新国連をつくる必要が出てくるだろう」という。大澤真幸さんとの対談をまとめた『おどろきのウクライナ』(集英社新書)より、一部を紹介する――。

■プーチンの次に主導権を握るのはだれか

【橋爪】まず、プーチンの政権の今後なんだけれど、プーチンが政権の座にとどまる期間はもうそんなに長くないと思う。ひとつは健康問題。もうひとつは戦争の敗北に対する責任なんだけれども、誰かに押しつけることは無理なので、どう考えてもプーチンが悪かったことにするのがいちばんわかりやすい。政変があるか、失脚するか、平穏に交代するか、いずれにせよ、政権の座にとどまれなくなる。

その場合、主導権を握るのは情報機関なり秘密警察なり、内務官僚系の組織です。内務官僚系の組織を握って、プーチンは政権を維持してきた。民主主義が機能しない場合、巨大な官僚機構を集権的に運営する決め手は、軍でないとすれば、秘密警察。ロシアの伝統では、軍よりも秘密警察なんです。だから、プーチンが退場したとしても、秘密警察の権力は続くと思う。プーチンとよく似た権力が形成されるはず。そして、似たようなことが続くはず。

【大澤】なるほど。

■ロシアの野望と政治力をくじく道

【橋爪】さて次に、ロシアそれ自体をどうするか、という問題。

ロシアは経済がガタガタで、大国への道のりは遠ざかるばかり。ヨーロッパからも総スカンにされていて、秘密警察に支持される専制的な権力が、巨大な核兵器を持っている。これは、ヨーロッパにとってもアメリカにとっても、世界にとっても大変に問題なわけだから、これをなんとかしたい。これは、ウクライナ戦争で見たように、軍事技術のイノベーションによって克服するしかない。

ロシアの大陸間弾道弾、戦略核兵器が無力化されればいいんです。無力化する方法は、高エネルギーのレーザー光線であれ、超音速の迎撃ミサイルであれ、どんな方法でもいいんだけれども、新しい時代の宇宙空間兵器みたいなものを開発する。10年かかるか、20年かかるか。それを開発して、アメリカを核攻撃する能力を奪ってしまう。これが、ロシアの野望と政治力をくじく道です。

■ソ連解体を早めた「スターウォーズ計画」

これには大変お金がかかる。技術も必要だ。これだけのお金と技術をロシアも手に入れて、これをかいくぐる仕組みをつくるのは、たぶん無理だ。とにかく、あんたの核兵器はもう使えませんよって、誰が見ても明らかになれば、ロシアは政治的な圧力をかけられなくなる。

ついでに北朝鮮の核兵器も政治的な圧力ではなくなるから、これは、それだけの投資をする価値があると思う。だから、その方向に向かうはずだ。アメリカは、ロシアの戦略核を無力化するための努力を、一生懸命続けるだろう。

昔、レーガンが「スターウォーズ計画」を発表して、それが大きなきっかけになって、ソ連の解体が早まった。レーガンはただのはったりだったかもしれないけれど、でも、その読みには天才的なものがあった。非常によかった。

今度はそれとは違うんだけれども、やっぱり同じようなことをやって、ソ連の核戦力(戦略核)を無力化しないと、この問題は尾を引いて、ウクライナ戦争と似たようなことがずっと起こる。戦略核が無力化されれば、ロシアにはなんの政治力の源泉もない。だから、田舎の独裁政権になって、おとなしく暮らしてもらう以外にしょうがないな。

そういうロシアの現状にしびれを切らした優れた知識人やいろいろな運動が出てきて、ロシアを新しい国によみがえらせ、生まれ変わらせるかもしれない。これはロシアの課題で、ロシアの人びとに担ってもらうしかないんだけれども、そうなれば、ロシアは次のステージに進むことができる。

■ロシアを国連から除名することはほぼ不可能

【橋爪】戦略核をどうするかとまた別な課題。それは、国連の再生です。

ウクライナ戦争でロシアが負けた場合、プーチンがズタボロになった場合、国連の常任理事国にロシアが座ったままでいいのかという問題が起こる。これは国連で議論するべきことなんだけど、国連憲章をひっくり返してみても、常任理事国を除名するなんてできないと思う。仮にできそうになったとしても、中国が反対するだろう。同じやり方で中国も除名される可能性があるから。

反対があってうまくいかない場合、唯一の方法は、国連と別に新国連をつくることだ。そして、アメリカ、イギリス、そのほかの主要国が全部、国連に在籍したまま新国連に加入してしまう。ただし、ロシアは加入させない。あるいは、加入してもいいが、常任理事国にはしない。新国連が成立して大部分の国がそちらに移ってしまえば、いまの国連は解散できる。こういう国連の再生が、そのうち政治日程にのぼってくると私は思う。

スイス・ジュネーブの国連本部
写真=iStock.com/sharrocks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sharrocks

■核兵器と無力化装置をめぐる軍拡競争

【大澤】なるほどね。お話は理にかなっていると思います。まず核兵器を無力化する装置。それはたぶん、そういう方向の努力がこれから行なわれると思います。これはただ、きっと相当むずかしいだろうなとは思いますね。核兵器そのものよりも、核兵器を無力化する装置のほうが技術的にはむずかしいんじゃないかと思う。無力化する装置が出れば、それを上回る兵器をつくる軍拡競争みたいなことにもなりうるので、なかなか大変だと思います。

しかし、核兵器を持っている国で、しかも信用できない国はロシアだけじゃない。このことを思えば、核兵器を無力化する装置があれば、その政治的な意味は実に大きいです。

いずれにしても、この問題は、それで真の解決になるわけではないということもあります。今回の戦争はかなりプーチンが絵を描いたもので、プーチンの幻想の下に起こっているけれども、それが純粋に個人的なものかと言えば、ロシア国内でそれなりの支持を得てもいる。

■ロシア国民は軍事行動を支持している

ロシア軍は士気が低い。ナチスの軍隊よりももっと士気が低い。ナチスも幻想的な枠組みの中で戦争をして、それは国民を相当とらえたけれども、プーチンは現在のロシア人をヒトラーほどにはとらえてないので、ロシア兵の士気は低いです。低いですけれども、そうは言っても、全然国民的な共感を得られていないのかと言うと、そんなことはないと思うんですね。

たとえばぼくらは、ロシアの国営放送がかなりロシアに都合のいいような映像を流している、半分ぐらいフェイクニュースみたいなことがあって、なんでちゃんとした情報が伝わらないんだみたいなことを思います。

しかし、ロシアの国民が、国営放送に受動的にだまされている、という構図は単純過ぎます。彼らは、能動的にそれを受容しているところがある。ということは、少なくともロシアにとって都合のよい国営放送のフェイクニュースを、喜んで受け入れるくらいには一般国民でさえもプーチン政権の軍事行動を支持しているのです。

■「ロシア軍がひどいことをするはずがない」

先日、日本のある番組で、次のようなことを報じていました。それは、ウクライナに住んでいるロシア人の女性のことです。親はロシアに住んでいる。当人はロシア人ですが、ウクライナのロシアとの国境に近いところに住んでいる。ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けて、この女性は、母親に毎日、電話やメールで現状を伝えるわけです。わがロシアが、ウクライナでとんでもないことをしている、と。

母親もわりにリベラルで、ヒューマニスティックな人だったので、最初は娘に共感して、戦争なんかいけないわよね、みたいなことを言い、プーチンに批判的だったのです。

しかし、日が経つにつれて、ロシアの攻撃が激しくなってきて、娘から送られてくる映像が凄惨(せいさん)なものになってくる。そうすると、少しリベラルだった母親は、その映像を受け入れられなくなってくるのです。娘がいくら私の送っている写真は真実だと主張しても、母親は、国営放送には全然別の映像が映っている、自分はそっちを信じる、と言い張るのです。ロシア軍がそんなひどいことをするはずがないと言って、娘よりも国営放送を信じる。

ウクライナの砲撃跡
写真=iStock.com/Diy13
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Diy13

■核兵器がなくなっても国民の敵意は残る

これは、もっとも消極的ではありますが、それでもやはり軍事侵攻を支持していることになります。たいていの人は、さらに積極的に支持しているでしょう。プーチンの軍隊がウクライナに軍事侵攻して、西側に一撃を食らわしているというのは、ロシアの人びとから見ると、プーチンが積年の恨みを晴らしてくれているみたいな感じがある。

ですので、ロシアが仮に兵器を持たなくなったとしても、ロシアの人びとに集合的に共有され蓄積されているルサンチマンや敵意の問題が残ります。それは、ロシア人がロシア人だけで解決すべき、あるいは解決できる問題なのか、それとも、もっとグローバルな経済の構造とか政治の仕組みに規定された構造的な問題なのか。後者であるとすれば、兵器の開発だけでは、ことは片付かないのではないでしょうか。

■ロシアへの「屈辱的な扱い」に拍車

それで、ひとつの方法として、橋爪さんはいま新国連という斬新なアイデアを出されました。これは、おもしろいとは思いますけど、おそらくいろんな意味でむずかしい面があります。

橋爪大三郎、大澤真幸『おどろきのウクライナ』(集英社新書)
橋爪大三郎、大澤真幸『おどろきのウクライナ』(集英社新書)

ロシアはずっと、(少なくとも主観的には)自分がひどい屈辱的な扱いを受けていることに対して、非常な怒りを感じていますね。だから、もし新国連をつくって、お前は仲間外れだということになれば、もっとひどい屈辱を与えることになります。G7プラスどころじゃない、プラスにも入らないぞ、と。

それだけじゃなくてもっと重要なのは、新国連がつくられたとして、ロシア以外のほとんどの国が喜んでそちらに加入するだろうか、ということがあります。軍事侵攻が始まって一週間ほど経過したとき、国連総会でロシアに対して非難決議をしましたが、けっこう反対する国がありました。非難決議に積極的に賛成しない国が、40カ国あるわけです。

【橋爪】棄権のことですね、反対じゃなくて。

■ロシア非難に同調しない国がずいぶんある

【大澤】そうです、棄権です。はっきり反対票を投じたのは、ロシア自身を含めて5カ国だけですが、はっきりと賛成しなかった国はかなりある。

今回の軍事行動に関していえば、ぼくらから見れば、ほぼ100%に近いぐらいウクライナや西側のほうに理があるはずです。そんなときでさえも、積極的には同調しない国がずいぶんあるのです。

そうすると、別の国連─EUみたいにローカルなコミュニティをつくるのならともかく、完全にグローバルで包括的な国際組織を、いままでの国連の外に、しかも国連に匹敵するものとしてつくり、みんなで移るというようなやり方はたぶんむずかしいでしょう。というか、それができるぐらいの状況だったら、問題はもう解決している段階になるんじゃないか、という感じがします。

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橋爪 大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
社会学者
1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。『4行でわかる 世界の文明』(角川新書)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『中国共産党帝国とウイグル』(中田考との共著、集英社新書)など。

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大澤 真幸(おおさわ・まさち)
社会学者
1958年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。社会学博士。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。著書に『ナショナリズムの由来』(講談社、毎日出版文化賞)、『自由という牢獄』(岩波書店、河合隼雄学芸賞)、『三島由紀夫 ふたつの謎』(集英社新書)、『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎との共著、講談社現代新書)など著作多数。

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(社会学者 橋爪 大三郎、社会学者 大澤 真幸)

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