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「バスタブに何度も頭を沈める」そんな拷問は当たり前…中国の経済発展を支えた「4つの力」とは

プレジデントオンライン / 2022年11月21日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hanhanpeggy

なぜ中国は世界第2位の経済大国になれたのか。社会学者の橋爪大三郎さんは「資本から軍事、人事までを握る中国共産党の存在が大きい。この統治力と、向上心の強い国民性が結びつくと、さらに成長する可能性がある」という。大澤真幸さんとの対談をまとめた『おどろきのウクライナ』(集英社新書)より、一部を紹介する――。

■先進国の技術と資本をちゃっかり拝借

【橋爪】中国の経済発展はジェネリック医薬品(後発医薬品)に例えて考えるとわかりやすいです。

先発メーカーがあって、経営が苦しいんです。研究開発にすごくお金がかかる。いろんな医薬品の候補をつくるんだけど、なかなかものにならない。たまにうまくいっても、研究開発費を回収しようと思うから、薬価が高い。この値段でわが社の薬品を買わないと、ほかに売ってませんよ。これで治りますよ、みたいな商売で数年間は売って売って売りまくる。

消費者は、いい薬だけど高いな、と思うわけですよ。すると、ジェネリック医薬品が出てくる。先発メーカーの医薬品のコピー商品です。だいたい同じ薬効がある。それを生産すればいい。開発費がかからないから、安く売っても利潤が出る。後発のジェネリックメーカーは経営が順調で、先発メーカーを圧迫する。これが、中国が繁栄しているメカニズムです。

■デカップリングは「中国の終わり」のはじまり

中国の繁栄のメカニズム。先発メーカーの技術、資本をちゃっかり拝借できる。それから製品を先発メーカーと競合する市場で売りまくる。このふたつが、中国経済の繁栄の基本です。逆に言うと、国際市場から切り離されて、資本技術が入ってこない、そして、製品も輸出できないとなれば、中国の発展モデルは終わりです。

【大澤】なるほど。

【橋爪】発展モデルが終わりでも、中国は国内市場がすごく大きい。だから、息の根は止まらない。中国経済として自律的に発展していけると思うけど、その場合の中国の発展と、中国抜きのグローバル世界の経済の発展と、どちらが調子がいいか。中国は世界の五分の一にすぎないから、中国抜きの世界経済のほうが分がいいような気がする。

だから、デカップリングという選択肢がもしあって、仮にそれが理想的に成功して中国の封じ込めが起こると、中国はそんなに調子が良くなくなると思う。20年、30年経ったら、いま中国が持っている利点は、たぶんなくなる。

【大澤】なるほど。

■日本は先進国に追いつき、そして失速した

【大澤】その上で、聞きたいことがあります。先ほどのジェネリック医薬品の比喩は、わかりやすい説明でした。中国が成功しているのは、いくら豊かになったとはいえ、まだキャッチアップの段階だからですね。

日本経済は、非常に強かった時期があった。日本経済も、欧米の先進国に追いつこうとしている段階ではよかったのです。しかし、追いついてしまうと、自分から新しいことができずに失速してしまった。1989年には、時価総額ランキングの20位以内に入っている日本企業は、NTTや住友銀行など14社もありました(もっとも、これはこれで、バブルからくるもので異常と言わざるをえませんが)。

しかし、現在は、時価総額20位以内の日本企業は、ひとつもありません。この間になにがいちばん変わったかというと、インターネットを中心としたビジネスが広がったことです。インターネットの世界は新大陸のようなもので、まったく未開拓の領域だった。そこには、目標とすべき先行者がいない。そのため、日本企業は進出することができなくて、遅れをとったのでしょう。

日本経済は、キャッチアップのモードだったときはうまくいったが、追いついてしまえば方向を見失い、失速したわけです。

■中国と資本主義が噛み合った4つの理由

これは日本のケースですが、中国にも同じような運命が待っているのか。いまのところ、アメリカで成功したものの中国バージョンみたいなものがいっぱいできてきてますね。これは、追いかけモードだからうまくいっているので、やがて追いかける段階が終われば、うまくいかなくなるかもしれない。追いかけるのが得意な人は、追い抜けない。そのように予想することもできますし、実際、そう主張している人もたくさんいます。橋爪さんの見通しだと、どうなのでしょうか。

【橋爪】中国のシステムについて考えます。中国のシステムと資本主義がなぜうまく噛み合っているのか。

中国共産党の権力の基盤を考えてみると、四つぐらいある。

■資本を集中させ、動かす権力がある

第一。資本をコントロールしている。ふつう政党や政治権力は、資本をコントロールしたりしないです。戦時経済を除けば。だけど、改革開放は、中国共産党が資本をコントロールし、中国共産党が主導して資本主義経済を進めるという考え方です。

どうやって資本をコントロールしているのか。資本は国有企業に集中している。郷鎮企業が国有企業を追い抜きかかったことがありました。80年代から90年代に。でも、それにはブレーキがかかって、再び国有企業が復権した。資本は集中する必要がある。それが国有企業に集中している。それ以外の経営形態の企業もあるが、どの企業にも中国共産党の支部があるわけだから、指揮命令関係がある。そうやって資本を動かす、権力があるんです。

第二に、軍。人民解放軍というのがある。人民解放軍の指揮権は、中国共産党の中央軍事委員会主席が握っている。中国共産党は任意団体で、国家を超えた存在です。憲法や法律の規定に服さない。だから、この軍事力は、超憲法的な実力なんですね。法の支配の反対です。党の支配。党は軍を持っているから、その指揮命令権には裏づけがある。

北京
写真=iStock.com/dk1234
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dk1234

■目についた人間を拷問でおとなしくさせる

第三に、人事。中国は巨大な官僚組織で、企業を含め、政府を含め、軍を含め、すべての人事を、中国共産党中央の組織部というところが握っていて、組織部が人事権を持っている。組織部ににらまれたら、すぐ失脚する。こういうふうになっています。人事によって権力を行使するのは、中国の2000年の伝統だ。

第四に、秘密警察。中国共産党に紀律検査委員会というのがある。党員の紀律を審査するんですね。紀律検査委員会の審査は、法手続きではない。党内手続きなんです。「君、ちょっと来なさい」みたいにホテルに呼び出して、1カ月カンヅメにして、バスタブに水を溜めて、白状しろって頭を突っ込む。拷問です。職場や自宅を捜索して、証拠を集める。関係者も調査する。

理由は、腐敗、汚職、党員としての義務に反した、みたいなことなんだけど、そんなこと誰でもやっているからね。拷問されれば、誰だって白状する。山のような証拠が出てくる。誰でも有罪にできるので、これが権力闘争の手段ですね。紀律委員会は党の正式機関だけれど、そのほかに秘密警察が何系統もあって、目をつけた誰かれや政治的反対者を、おとなしくさせることができる。

この四つは、ふつうの民主国家にはない、強力な統治のツールです。これだけガチガチな権力手段を持っている、中国共産党は、西側世界に例がない。実は、マルクス・レーニン主義とも違った権力を持っている。

【大澤】なるほど。

■中国にとって「世界のトップ」は定位置

【橋爪】さて、キャッチアップ型なのか、そうじゃないのか。

キャッチアップの時期に、こうした中国のシステムは、高度に実力を発揮する。日本と似ているように見える。

日本は、キャッチアップが完了すると、足踏みになってしまった。中国はそうなるとは限らないと思う。どうしてか。中国は、2000年の歴史の中で半分ぐらいの期間、世界で最大の国で、最先端の国だった。トップを走ることには慣れていて、それが定位置だと思っている。そのトップの定位置で、創意工夫をする才能が続々出てくるかもしれない。

組織原理でいうと、日本はグループワークを重視して、仲間うちで突出するのは大変危険なんです。そこで、自分の力をセーブする。セーブしているうちに、自分に力があるということをだんだん意識しなくなる、フォロワーもリーダーも。

いっぽう中国の場合は、同僚よりも上役が大事。抜擢されることが、とても大事です。抜擢されるには、仲間よりも突出していないとダメなんです。だから、突出することに対するためらいがない。突出すると、むしろ生存可能性が高まる。生存戦略なんですね。

このマインドが2000年来ずっとあるから、科学者であれ、芸術家であれ、ビジネスマンであれ、誰であれ、中国の人びとは若い人も年配の人もとてもアグレッシヴで、ほかの人びとと違ったことをやろうやろうとしている。全体主義的で権威主義的なことと合わないように見えるんだけど、これがバイタリティーの根源です。

■中国がアメリカを凌駕する未来は十分あり得る

科学技術はどうか。論文の数も学位の数も、日本よりずっと多い。R&D(リサーチ・アンド・ディベロップメント)の投資額を見ると、いまだいたい、日本の5倍ぐらいです。アメリカと同じか、追い抜く勢いです。

昔は、論文の本数を稼ぐために投稿してみました、みたいなゴミ論文が多くて、データを偽造したり、いろんな問題を起こした。そういうのがないわけではないが、アメリカで訓練を受けた研究者や中国で一流の学者が、一流の論文を書くというのがこれからじゃんじゃん増えていくと思う。

橋爪大三郎、大澤真幸『おどろきのウクライナ』(集英社新書)
橋爪大三郎、大澤真幸『おどろきのウクライナ』(集英社新書)

いくつかの分野、たとえば量子通信衛星とか量子コンピュータとか核融合炉とか、そういう最先端の分野で西側と協力しないでそれなりの成果を出している。日本が追い越されている分野です。これは知的所有権がどうのとか、産業スパイがどうのとか、アメリカから拝借したのではなく、中国の独自技術だと思う。

この傾向を見るならば、中国は、自国の産業システムや科学技術を自力で更新していく可能性が高い。つまり、リーダーになれる。リーダーになった場合、もしデカップリングが起こると、14億人対残りの60億人、という比率になって不利だろうとは考えられるんだけれども、デカップリングがなければ、この14億人と共産党のパワーとが一体になれば、アメリカを優に凌駕するだけの実力を発揮する可能性は十分だと思います。

【大澤】なるほどね。中国人の伝統的な行動様式を考えると、キャッチアップしたところで成長が止まる、というようなことにはなりそうもない、ということですね。説得力があります。

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橋爪 大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
社会学者
1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。『4行でわかる 世界の文明』(角川新書)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『中国共産党帝国とウイグル』(中田考との共著、集英社新書)など。

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大澤 真幸(おおさわ・まさち)
社会学者
1958年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。社会学博士。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。著書に『ナショナリズムの由来』(講談社、毎日出版文化賞)、『自由という牢獄』(岩波書店、河合隼雄学芸賞)、『三島由紀夫 ふたつの謎』(集英社新書)、『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎との共著、講談社現代新書)など著作多数。

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(社会学者 橋爪 大三郎、社会学者 大澤 真幸)

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