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「定年後は"小さな仕事"で月10万円稼ごう」を実践中…68歳・元営業マネジャーの地道な生き方

プレジデントオンライン / 2022年11月20日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itasun

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『ほんとうの定年後』(講談社現代新書)――。

■【イントロダクション】

現代日本において「少子高齢化」はもはや常態であり、行き過ぎないよう対策しながらも、それに合わせた社会政策や各企業の人事方針、個々人の働き方や生き方の見直しを図るべきだろう。

とくにキーとなるのは「定年後」の考え方である。書籍やネットなどで議論が盛んだが、実際はどうあるべきなのか。

本書で著者の坂本貴志氏は、政府統計を中心とする各種データをもとに、日本における「定年後」の実態を明らかにする。そして、市井の7人の「定年後」体験者にインタビューし、定年後には、現役時代と同様かそれ以上の収入が得られる「大きな仕事」を目指すよりも、低収入であっても、目の前の「小さな仕事」に充実感を求めるべきと提言している。

データについては2019年のものを中心にしており、政府統計で捕捉が難しいものは、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査」や、著者自身が実施した「シニアの就労実態調査」などを使用。多くの人は定年後に年収が減っても、教育費や住宅費などの家計支出が減ることから「小さな仕事」にやる気を見出すのは困難ではないと著者はしている。

著者はリクルートワークス研究所研究員・アナリスト。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務、内閣府の官庁エコノミスト、三菱総合研究所エコノミストなどを務めた後、現職。

1.定年後の仕事「15の事実」
2.「小さな仕事」に確かな意義を感じるまで
3.「小さな仕事」の積み上げ経済

■定年後の平均年収は300万円以下まで減る

国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、2019年の給与所得者の平均年収は20~24歳の263.9万円から年齢を重ねるごとに右肩上がりで上昇し、ピークを迎えるのが55~59歳の518.4万円となる。そして、多くの人が定年を迎える60歳以降、給与は大きく減少する。平均年間給与所得は、60~64歳には410.7万円、65~69歳では323.8万円、70歳以降は282.3万円まで下がる。

坂本貴志『ほんとうの定年後』(講談社現代新書)
坂本貴志『ほんとうの定年後』(講談社現代新書)

一方で、家計の支出額のピークは50代前半の月57.9万円となる。その後は、50代後半まで家計支出は高い水準を維持しつつ、60代前半以降で減少していく。最も減少幅が大きいのは50代後半から60代前半にかけて。定年を境に、月57.0万円から43.6万円と支出額が減る。60代前半以降も家計支出は減少を続け、60代後半時点で月32.1万円、70代前半時点で29.9万円まで出費は少なくなる。

仕事から引退した世帯の65歳から69歳までの収入額は、合計でおよそ月25万円となる。その内訳は、社会保障給付(主に公的年金給)が月19.9万円、民間の保険や確定拠出年金などを含む保険金が月2.7万円、そのほかの収入が月2.2万円である。一方で先述の通り支出額は32.1万円である。

したがって、壮年期には世帯で月60万円ほどの額が必要とされる労働収入であるが、定年後は年金に加えて月10万円ほど労働収入があれば家計は十分に回る。

現代日本ではこれだけ高齢者が増えているのだから、定年を過ぎても現役世代と変わらず稼ぎ続けてもらう必要があるのではないか。そういう声も近年では高まっている。支えられる側から支える側になってほしい。こうした考えは財政が危機的な状況にまでひっ迫している現在の状況にあって、政府の切実な願いである。しかし、すべての人に現役時代と同程度の働きを要求するのは無理があるのではないかと思うのである。

であれば、大多数の人には定年後の十数年間において、自身が食っていけるだけのお金を稼いでもらい、社会的に支えられない側になってもらうだけでも、それはそれで十分に大きな貢献なのではないか。

また、仕事というのは、必ずしも負荷が高いものが良いといえるわけではない。人はどうしても現役時代の仕事の延長線上で、仕事の量が多く責任も重い「大きな仕事」が好ましいと考えがちである。しかし、必要となる収入水準が低い状況下であれば、負荷が低い仕事を選ぶことが結果として良い選択になることも多い。そして、たとえ小さい仕事であっても、いまある仕事に確かな意義を見出せたとき人は充実感を持って働ける。

■【事例】68歳・元営業マネジャーの地道な生き方

谷雄二郎さんは、秋田県出身の68歳の男性。幼少の頃からモノ作りが好きであったことから高等工業専門学校の機械工学科に進む。その後、東京に出ていきたいという思いもあり、工場勤務が想定されている製造業の会社ではなく、かつ機械関係の知識も活かせるメーカー系列の自動車販売会社に1970年代に就職することになる。

ただ、当時は社内で営業が圧倒的に足りない状況であり、営業職として仕事を始めることになる。最初は意に沿わなかったものの、上司や同僚にも恵まれ、営業がやりがいのある仕事となる。40歳の手前で営業チームのマネジャーに抜擢され、仕事の責任は一層増した。3年後、中古車を売り捌く部署の責任者となった。

ドイツ - 2020年9月17日:公共駐車場
写真=iStock.com/Tramino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tramino

「仕事内容は正直言うときつかったです。仕事である以上、成果を挙げなきゃいけないですよね。私の場合は、下取りした中古車をどう流すかっていう仕事ですが、利益が上がってこなきゃしょうがないわけです。でも(*売価を上げて)台当たりの利益を上げたばっかりに、(*販売)量が減っても、これはめちゃくちゃ言われちゃいますし」

また、下取り車の数は月によって大きくばらつく。ある月は利益が少なく、ある月は多い、となりがちなので、数字をならさなければ経営の健全性が保てない。それを調整する過程で、経営と現場の板挟みになる場面が多く、心労は絶えなかった。「でも、まぁなんとかできたのかなっていうときの達成感は、やっぱり大きかった」

55歳のときに役職定年を迎え、同じ部署で働き続ける。60歳で定年となり、再雇用で週5日同じ部署で働くことに。66歳からは半年更新という雇用形態で、店舗が忙しい金曜、土曜、日曜の週3日勤務となり、いまに至る。

仕事内容は定年前の59歳から大きく変わった。数百ある全国の店舗から送られてきたデータをもとに、中古車を査定し下取り価格を設定する。お客様が待っているので、値付けの理由とともに、数字をすぐに返す必要がある。給料は大きくダウンした。

「そんなに難しい仕事ではありません。上司との難しい折衝なんかもありませんしね。でも、私が(*土日に)仕事をしているから若手や中堅の従業員が休日にゆっくり休めて、家族との楽しい時間を過ごせるんです。だから、私の仕事はとても意義がある仕事だと思っています」

一方で、仕事の創意工夫は怠らない。たとえば、下取り価格決定のプロセスは担当者の暗黙知になってしまいがちだが、それを明らかにするようにした。「どんなデータや情報を参考に決めたのかという記録をすべて残すようにしたんです。パソコンのサーバーの容量が少ないから無理だと会社には言われたんですが、私が何度もうるさく言ったので、できるようになりました」

谷さんにも、ある時期までは出世して偉くなりたいという希望もあった。「『可能性はいくらでもあるよ』と周りからも言われ、自分もその気になりました。でも、40代後半になると、自分の能力はこんなものだと徐々にわかってきます。そのときに考えが変わりました。上を目指すだけが仕事ではないと。仮に2週間、私が休んだら、この仕事は廻らなくなってしまう。そういう重要な役割を自分は担っているのだと思うようになりました」

■企業人事でのペイフォーパフォーマンスの徹底が重要

(*会社側の)定年後の従業員に対する処遇という観点では、何よりペイフォーパフォーマンスの徹底が大切である。

働かない中高年が問題だという議論を聞くことがある。なぜこうした問題が企業にとっての課題になるのかと考えると、それはつまるところ企業側が支払う報酬と従業員が生み出す成果がつり合っていないからだと考えられる。企業人事の言い分としては、高い給与を払っているのだからその分意欲をもって働いてほしいということになる。もちろん、そのような主張は正論である。しかし、これと同時に、それなりの仕事でそれなりの報酬を得るという働き方を前向きに認めることも重要なのではないか。

年800万円の報酬を得る傍らで、800万円分の仕事をなす社員は良い社員である。それと同時に、300万円分の仕事をして、その対価として300万円の報酬を得る社員も良い社員である。ペイフォーパフォーマンスの原則が成立していれば、この二者の企業に対する貢献は同一である。

現代において、誰もが高齢期に安心して暮らせるためにどうすべきかを考えたとき、企業や政府に人々の高齢期の生活のすべてを保障させる「福祉大国論」が望ましいものになるとは思えない。また、すべての人が生涯にわたってスキルを磨き続け、競争に勝ち残らなければならないという「自己責任論」に答えがあるとも思えない。

国民年金
写真=iStock.com/itasun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itasun

そうではなく、いつでも誰でも無理のない仕事で適正な賃金が得られる市場環境をいかに整備するかという視点が、何より大切だと考えるのである。いよいよ本当に働けなくて困ったときには、そのための社会保障を充実させる。こうした考え方が生涯現役時代における国全体の社会保障としての望ましい姿になるのではないだろうか。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの

■コメントby SERENDIP

著者が行った「シニアの就労実態調査」は、シニア世代を中心とした約4000人を対象としたインターネットモニター調査で、その結果をもとに現代日本人が働く上で感じる価値観を分析している。それによると、20代の多くは「高い収入や栄誉」に価値を見出すのに対し、定年以降は「他者への貢献」が目立つという。ここで重要なのは、社内で「高い収入や栄誉」を得るための道筋は限られているのに対し、「他者への貢献」には実にさまざまな方法があるということではないだろうか。極言すれば、どんな仕事であっても「他者への貢献」にはなりうる。それだけに、定年後は、考え方次第で、いかなる仕事にもやりがいを見出すことが可能なのではないか。その「考え方の調整」こそが、定年を迎えるにあたって行うべき最大のものなのかもしれない。

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