対処の熱量が海外とはまるで違う…日本で「オールジェンダートイレ」はどこまで広がるか
プレジデントオンライン / 2022年11月22日 11時15分
■標識はわかりやすさを最優先に
近年、公共の場にあるトイレの標識について「男性用は青、女性用は赤」と分けるのをやめてはどうかという議論が出ています。性別に対する色の決めつけになる、トランスジェンダーの人への配慮が足りないのではといった意見があるほか、標識だけでなく公共のトイレすべてをどんな性別の人も利用できるオールジェンダートイレにしてはどうかという声もあります。
正解を見つけるのが難しい問題ではありますが、まずはトイレを男女別に分けることが「必要な区別」だとした場合から考えてみます。この場合、僕は標識の色分けは必要だろうと思います。男性用が青、女性用が赤である必要はありませんが、違う色だとはっきりわかる形にしたほうがいいでしょう。
似た色だと間違えて入ってしまう可能性が高くなり、不快感につながりやすくなるからです。特に公共のトイレは不特定多数の人が使うものなので、標識はわかりやすさを最優先にしてほしいものです。トイレを男女別に分けることを許容していくのであれば、標識は色で明示的に示したほうがいいと思います。
では、トイレを男女別に分けることを「不必要な区別」だとした場合はどうでしょうか。この場合は、現在ある男女別トイレを「だれでもトイレ」のようなオールジェンダートイレに統合していく方向が考えられます。こうすれば標識の問題も解決します。
■海外との温度差は大きい
実際、海外では性別に関係なく誰でも利用できるトイレの設置が進んでいます。ジェンダー問題に関心の高い人々がしっかり声を上げたからとも言われていますが、日本でもそうした声を上げる人は少なくありません。それでも海外のほうが設置が進んでいるのは、社会の「そうした声に対処しよう」という熱量が違うからではないかと思います。
日本でも少しずつ取り組みが進んではいるようですが、急激にオールジェンダートイレを増やすのは難しいでしょう。国民の意識を急に変えることの難しさもありますし、狭い日本では設置スペースの問題もあります。現状の男女別トイレを残しながらその横に誰でも使えるトイレもある、そうした場所を少しずつ増やす形で進んでいく可能性が高そうです。
■場所によって違う共有トイレの許容度
ただ、公共の場にオールジェンダートイレしかない場合、何となく気まずいという人もいるのではないでしょうか。僕自身、カフェなどで男女共有の個室トイレの前で待っているとき、女性が出てくると「後に男性が入ったら嫌だと思うんじゃないかな」と変な配慮をしてしまい、少し気まずい気持ちになってしまいます。
トイレは、それをどこで誰と共同で使うのかによって感じ方がかなり変わってきます。駅やカフェで不特定多数の人と使うのか、職場で顔見知りの人と使うのか、あるいは家で家族とだけ使うのか。
自宅で家族とトイレを共有することに気まずさを感じる人は少ないと思いますが、例えば職場のトイレが急にオールジェンダートイレだけになったら、顔見知り同士という微妙な距離感のせいで気まずさを感じる人も出てくるでしょう。公共の場のものでも僕のように気まずさを感じる人もいるかもしれませんが、知らない人同士で使うものだから許容できるという側面はあるように思います。
こうしたトイレ議論が出てくるということは、必要な区別と不必要な区別について考える人が増えているということでもあります。僕はその点がいちばん興味深いと感じています。
![モダンな公衆トイレ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/3/1200wm/img_03a44e6e2d1e5f7d6350281fbc6ae3e7430711.jpg)
■必要な区別と不必要な区別を考える
人が男女で空間を分けるときに必要な区別とは何なのか──。この問題は、少し前までは特に議論もされてきませんでした。トランスジェンダーの人はどちらの空間を使うのかという問題に目が向けられることもありませんでした。トイレは男性用と女性用の2つしかなく、それに違和感を覚える人はほとんどいなかったのです。
ところが今は、標識の色をどうすべきか、そもそも男女別トイレ以外の空間も必要なのではないかといった議論が進んでいます。議論すらされなかった段階から、皆でそういうことを考えていこう、議論を進めていこうという段階に来ているのです。
ジェンダー問題においては「必要な区別はあっていいけれど不必要な区別はしなくていいのでは」という議論が常にありますが、トイレ問題もその段階に来ているのだなと感じました。
こうした段階を経てジェンダーニュートラルの方向に進んだものは、他にも多くあります。例えばランドセルは、昔は男の子は黒、女の子は赤を使うのが当たり前とされていました。今はこの2色以外にもさまざまな色があり、多くのの子どもたちが好きな色のランドセルを使っています。性別に関係なく色を選べるようになったという点で、ジェンダー平等の方向へ進んだ例と言えると思います。
![それぞれ、色とりどりのランドセルを背負って歩く小学生たち](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/5/1200wm/img_a51eded5f8b06c5f47f74291bc1c7c55409593.jpg)
■履歴書の性別欄は不要ではないか
また、今は履歴書の性別欄についても議論がされていて、もう不必要なのではないかという方向へ進みつつあります。これも、少し前までは性別を記入するのが普通とされていました。企業側が「一般職には女性を、総合職には男性を雇いたい」「男女の人数バランスをとりたい」といった考えを持っていたときは必要だったわけですが、今はそうした考え自体をなくすべきなのではという声が盛んになっています。
何が必要な区別で、何が不必要な区別なのか。トイレ問題のように、この観点で新しい議論が出てくること自体が、社会のジェンダー問題への関心の高まりを表しているように思います。
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大妻女子大学 社会学専攻 准教授
1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。
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(大妻女子大学 社会学専攻 准教授 田中 俊之 構成=辻村洋子)
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