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「長男は30歳で統合失調症、46歳で脳梗塞」介護で疲労困憊の77歳母が手にした"年104万円"という希望

プレジデントオンライン / 2022年11月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/onsuda

2歳上の夫と共に年金で暮らしている77歳の女性。同居する48歳の長男は大学卒業後もバイトを少ししただけで、自室にひきこもってしまった。30歳の時に統合失調症になった後も不摂生を続けたため、46歳で脳梗塞に。右半身まひの後遺症が残った。介護で疲労困憊の女性は「体の動くうちに何かできれば」と社労士・FPである浜田裕也さんに相談した――。

■30歳で統合失調症、46歳で脳梗塞の長男を介護する77歳

今回の相談者は東京都在住の母親(77)。長年ひきこもり状態にあった長男(48)は約2年前に脳梗塞を発症し、右半身まひになってしまったそうです。長男は現在、訪問入浴や訪問リハビリ、そして母親からの介護を受けています。日頃の介護疲れがあるためか、母親の全身からは疲労の色が濃く漂っていました。

「私(母親)や夫はもうすぐ80歳になります。私の体が動くうちに、親として何か準備できることがあれば今のうちにやっておきたいと思っています」

母親は真剣なまなざしで筆者にそう訴えてきました。そこで、まず家族の基本情報から聞きとることにしました。

家族構成
父親 79歳
母親 77歳
長男 48歳
長女50歳は結婚しており、両親とは別居

収入
父親 老齢年金 月額11万5000円
母親 老齢年金 月額6万円
長男 心身障害者福祉手当(東京都の制度) 月額1万5500円
※長男は身体障害者手帳1級を所持

支出
生活費および住居費として 19万円

財産
現金預金 1000万円
自宅土地 1200万円

長男は身体障害者手帳1級を持っており、心身障害者福祉手当(東京都の制度)で月額1万5500円を受給されていますが、障害年金は受給していないようです。そこで筆者は母親に質問をしてみました。

「ご長男は障害年金の請求をしていないのでしょうか?」

すると母親は顔を曇らせ、ためらいがちに言いました。

「実は以前、年金事務所へ障害年金の相談に行ったことがあるのですが、相談窓口で『保険料の納付要件を満たしていないので障害年金は請求できません』と言われてしまいました……。なので障害年金はあきらめています」

「なるほど、そうだったんですね……。それは残念です」

■「放っておいてくれ! もうその話はするな!」

障害年金を請求するためには、たくさんのハードルをクリアする必要があります。その中のひとつに「保険料納付要件」というものがあります。保険料の納付要件とは、次のようなものです。

(原則)
初診日の前日において、初診日がある月の2カ月前までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。

(特例)
初診日が令和8年3月末日までにあるときは、次のすべての条件に該当すれば、納付要件を満たすものとする。

・初診日において65歳未満であること
・初診日の前日において、初診日がある月の2カ月前までの直近1年間に保険料の未納期間がないこと

保険料の納付要件をざっくりいうと「その障害で病院を受診する『前まで』に未納状態を解消しておかないと、障害年金が請求できないことがある」というものです。

長男は国民年金の免除や猶予などの手続きをしてなかったのでしょうか。不思議に思った筆者は、母親に事情を聞くことにしました。

長男が20歳になった時、母親は長男に国民年金はどうするのかを聞いてみました。すると

「自分で何とかするから放っておいてくれ! もうその話はするな!」長男は顔を真っ赤にし、そう怒鳴りつけてきたそうです。そのようなことがあり、両親は長男の国民年金についてそれ以上関与することはありませんでした。長男宛てに年金の通知が届いても、両親は中身を確認することもしなかったそうです。

日差しが当たるベッド
写真=iStock.com/AmberLaneRoberts
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AmberLaneRoberts

長男が20歳の時は大学生だったようなので、学生の納付猶予の手続きをする気持ちはあったことでしょう。しかし、手続きを先延ばしにしているうちに、すっかり忘れてしまったのかもしれません。

現在では国民年金の未納が続いていると督促状などが何度も送られてきたり電話が何度もかかってきたりします。場合によっては財産が差し押さえられてしまうこともあります。

しかし当時は国の管理もそれほど厳しくなく、督促状などは一応送られてきますが、本人が相談や手続きなどのアクションをおこさなければ未納状態のまま放っておかれる。そんな時代でした。

■「20代が仕事もせずに家にずっといるなんて何事だ!」

長男は年金の未納期間が多すぎて障害年金の請求ができなかった。他に何か対策は立てられないものだろうか。筆者はそう考え、長男のことについてもう少し詳しく話を聞くことにしました。

長男は小さい頃から、自分にとって不都合なことが起こるといつも誰かのせいにしてきたそうです。例えば「虫歯になったのは母親が歯磨きのしかたをきちんと教えなかったからだ」とか「宿題の問題が解けないのは先生の教え方が悪いからだ」とかいったようなもの。

この状況は大学生になっても変わることはありませんでした。大学から帰ってきた長男は、教授や同級生に対する不平不満を毎日のように母親にぶつけてきました。

そのような状況なので、就職活動も思うようにはいきませんでした。なかなか就職が決まらない長男は「面接官の態度が威圧的」「こんな会社に就職したってすぐに辞めてしまうだろう。逆に不採用でよかった」というような発言を繰り返し、とうとう就職が決まらないまま大学を卒業してしまいました。

乱雑なままのベッド
写真=iStock.com/Milan Koelen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milan Koelen

大学卒業後、いくつかのアルバイトをしてみましたが「お客さんの態度が悪い」「上司や同僚のレベルが低い」といった文句ばかりで、どのアルバイトも長続きしませんでした。次第に口数も減り、自室にこもるようになってしまいました。そんな状態に腹を立てた父親は、ある日長男の部屋に突然入り込み「20代の若者が仕事もせずに家にずっといるなんて何事だ!」と大声で怒鳴りました。

当時は長男も若かったので、父親と取っ組み合いの大げんかになってしまったそうです。その後も長男と父親は顔を合わせると険悪な雰囲気になってしまうため、お互いに顔を合わせることを避け、無関心を装うようになっていきました。母親はそのような状況に心を痛めていましたが、何もすることができませんでした。一歩も前に進めない無為な時間だけが何年も経過しました。

■「テレビで俺の生活が放送されている」

転機が訪れたのは長男が30歳の頃。長男の様子が明らかにおかしくなってしまったのです。母親に向かって「大学教授と同級生が電話で俺の悪口を言い合っている」「テレビで俺の生活が放送されている」といった発言をするようになりました。

心配した母親は長男を何度も何度も説得し、近所の心療内科を受診させました。すると医師からは「統合失調症の疑いがあります」と言われました。

その後も通院を続け様子を見ていましたが、長男の状況はあまりよくなりませんでした。母親は医師に向かって「長男は仕事もできずに収入がなく、将来が不安です」と伝えたところ、医師から障害年金を請求してみてはどうかとアドバイスを受けたそうです。

そこで母親は長男を連れて年金事務所へ相談に行きました。相談窓口で長男の年金記録を調べてもらったところ、20歳から国民年金は未納状態であることが分かりました。窓口の担当者から「ご本人(長男)は保険料の納付要件を満たしていませんので、そもそも障害年金が請求できません」と告げられてしまいました。

年金手帳を持つ手元
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

年金事務所で未納を指摘された後、父親がさかのぼれるだけさかのぼって国民年金の保険料を支払いました。しかし、それでも障害年金の請求はできません。保険料の納付要件のルールには「初診日の『前日』において未納が多すぎないこと」といったものがあるからです。つまり「その障害で病院を受診した『後』に未納状態を解消してももう遅い」ということになってしまうのです。

「自分は障害年金がもらえない。仕事をして収入を得ることも難しい」

あまりのショックに長男の生活はどんどん乱れていきました。昼夜逆転の生活はさらにひどくなり、早朝に就寝して夕方ごろに起床。食生活も不規則になり、母親の用意した食事を食べることも減り、深夜にお菓子やジュース、コンビニの揚げ物などを好んで食べ続けていきました。心療内科の通院も無断でやめてしまい、市区町村の健康診断を受けることもありませんでした。運動もせず、自室からほとんど外に出ない。そのような不規則な生活が十数年も続いたためか、ある日、長男の体に異変が起きてしまいました。

長男が46歳の頃。早朝、布団の中でいつの間にか右半身がまったく動かせなくなっていました。「しばらく寝ていれば治るだろう」。長男はそう思っていましたが、状況は一向に改善せず、ついにパニックになって大声で助けを呼びました。その声にびっくりした母親が長男の自室に駆けつけ、すぐに救急車を呼びました。

緊急搬送された病院では脳梗塞の診断を受けました。意識はあったので手術はせず、内服薬(血液が凝固して血管がつまるのを防ぐ薬)を処方され、入院してしばらく様子を見ることになりました。入院中も右手の握力はほとんどなく、かろうじて右下半身を動かすことはできました。そのため、入院中のリハビリは右下半身を中心に行い、右上半身のリハビリはほとんどしなかったそうです。リハビリをする以外は、一日のほとんどをベッドの上で過ごしていました。

■「え、長男は障害基礎年金の請求ができるのですか?」

入院から1カ月が過ぎた頃、医師から「別の病院に移ってリハビリを続けてください」との指示があったので転院。その後、転院先の病院で3カ月ほどリハビリを兼ねて入院した後、自宅に戻ることになりました。長男は自宅の中でも車いすに座って生活することを余儀なくされ、日常生活にかなりの支障が出ているようです。

そこまで話を聞いた筆者は「ひょっとすると何とかなるかもしれない」と感じ、母親に次のような提案をしてみました。

「生きていく上でお金の話は避けて通れません。まずはご長男の収入を確保するところから考えてみたいと思います。具体的には、脳梗塞による右半身まひ、いわゆる肢体障害で障害基礎年金の請求をしてみましょう」

「え、長男は障害基礎年金の請求ができるのですか? 以前、年金事務所へ相談に行ったときは『請求する権利はありません』と言われたのですが」

「確かに精神疾患の方では保険料の納付要件を満たしてはいませんでした。しかし脳梗塞による右半身まひの障害の方は、少なくとも保険料の納付要件の特例は満たしています。請求することは可能でしょう」

脳卒中のイメージイラスト
写真=iStock.com/peterschreiber.media
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peterschreiber.media

「そうなんですか! 一度ダメと言われてしまったら、もう二度と障害基礎年金は請求できないと思っていました。もし障害基礎年金が受給できたとすると、いくらくらいになるのでしょうか」

「障害基礎年金は1級と2級があります。それぞれの金額は次の通りです」

障害基礎年金の2級に該当した場合
障害基礎年金2級 月額 約6万4800円
障害年金生活者支援給付金 月額 約5000円
合計 約6万9800円

障害基礎年金の1級に該当した場合
障害基礎年金1級 月額 約8万1000円
障害年金生活者支援給付金 月額 約6200円
合計 約8万7200円
※それぞれの金額は令和4年度のもので100円未満切り捨て

じっくり時間をかけて金額を確認した母親は、筆者に質問をしてきました。

「長男は障害基礎年金の何級に該当しそうでしょうか?」

「障害基礎年金の何級に該当するかどうかは、主に診断書や病歴・就労状況等申立書の記載内容で判断されます。なので、今の段階では何級に該当するのかは分かりません。診断書は医師が作成しますから、こちら側ができることとしては病歴・就労状況等申立書にできるだけ詳しく日常生活の困難さを記載することです」

そこまで説明した筆者は、母親から長男の日常生活の状況も聞き取ることにしました。長男は右上半身、右下半身ともに自分の意思で動かすことがほとんどできません。

長男は右利きだったので、日常生活にかなりの困難さを抱えています。食事は左手でスプーンやフォークを使って食べているのですが、うまく口元まで運べずにこぼしてしまったり、食事を終えるまでに時間がかかってしまったりしています。

着替えも一人ではできないので、母親に手伝ってもらっています。自宅では室内でも車いすに座って生活をしなければなりませんが、朝ベッドから起き上がることができないので、毎日母親に抱きかかえてもらい車いすに座らせてもらっています。夜寝る時もやはり母親に抱きかかえてもらって車いすからベッドの上に横に寝かせてもらっています。食事の準備や後片付け、掃除、洗濯、買い物は困難なので、すべて高齢の母親に頼っている状況です。

入浴は母親に手伝ってもらっても入ることが難しいので、訪問入浴を週2回受けています。その他、訪問リハビリとデイサービスを週2回ずつ。訪問リハビリでは右手足が凝り固まらないように曲げ伸ばしをしてもらっています。デイサービスでは、機械を使って右手足の曲げ伸ばしをするリハビリを受けています。

■「私が介護できなくなったら長男は一体どうなる……」

母親からの聞き取りだけでも、長男は日常生活にかなり支障が出ていることが分かりました。そこで筆者は母親に言いました。

「今お話いただいたようなことを病歴・就労状況等申立書にまとめていきます。ただし、病歴・就労状況等申立書には発病(脳梗塞の発症)から現在までをまとめる必要があるので、当時からできるだけ詳しく記載する必要があります」

それを聞いた母親の表情は不安でいっぱいになりました。

「作文を書くようなものですよね。果たしてきちんと書けるかどうか……」

「もしご長男の同意が得られれば、私がお手伝いをすることもできます。ご安心ください」

「それはすごく助かります。私たちだけで書類をそろえるのは不安がありますし。お手伝いいただけることを長男にも伝えてみます」

その後、長男から同意が得られたので、筆者はご家族と協力し、障害基礎年金の請求を完了させました。請求から3カ月が過ぎた頃。母親から筆者へ連絡がありました。

オフィス内を車椅子で移動中の男性
写真=iStock.com/ljubaphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ljubaphoto

「おかげさまで障害基礎年金が受給できることになりました。年金の級は1級でした(月8万7200円、年104万円余り)。もう二度と障害年金は請求できないとあきらめていたので、本当に助かりました」

「それは一安心ですね。お役に立てることができて、こちらもうれしく思います」

「ただ……」と続けた母親は、その胸の内にある不安を口にしました。

「今のところ長男は77歳の私(母親)の介護を受けています。ですが、いつまでも私が介護をし続けることはできません。2歳上の夫もいつまで元気でいられるかわかりません。そうなったら長男は一体どうなってしまうのか……」

「そうですね。お母様からの介護が受けられなくなった場合、ご長男はご自宅で生活し続けることは難しいかもしれません。そうなると、ご長男は介護施設に入居することも検討しなければならないでしょう。施設の相談は、住所地の地域包括支援センターでもできます。お母様が高齢になって相談に行くことが難しいようなら、ご長女(長男の姉)に代わりに相談に行ってもらえないか、今のうちからお願いをしておくとよいかもしれません」

「わかりました。長女にもそのように伝えてみます。この度は本当にどうもありがとうございました」

母親は少しだけ安心した様子でそう答えました。

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浜田 裕也(はまだ・ゆうや)
社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー
平成23年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本『第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え』を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことからひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりのお子さんをもつご家族のご相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりのお子さんに限らず、障がいをお持ちのお子さん、ニートやフリータのお子さんをもつご家庭の生活設計のご相談を受ける『働けない子どものお金を考える会』のメンバーでもある。

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(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田 裕也)

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