「結論から先に書く」はやってはいけない…トヨタが報告書づくりで必ず徹底させる4大ルール
プレジデントオンライン / 2022年11月21日 9時15分
■「A3用紙1枚」の本当の使い方
「書類はA3の紙1枚に書け」
「冒頭に結論を書け」
トヨタではそういうふうに書類を書くと思っている人は多いでしょう。しかし、正しくは次のような表現になります。
「書類はA3の紙1枚を横にして書く。ひと目で全体がわかる書類にする」
「冒頭に書くのは結論ではない。問題点の背景説明だ。冒頭に結論だけを書いても、読んだ人はいったい何が書いてあるのかわからない」
わたしが話を聞いた幹部は「A3の紙1枚に書類をまとめる」というルールを作った人のひとりです。
なぜ、彼がそういうものをまとめる役になったのか。それはトヨタのグローバル化と深い関係があります。
![【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/d/1200wm/img_6dec1b2d14719b38689828e82241afc9162979.jpg)
幹部は説明してくれました。
――トヨタでは仕事のやり方、トヨタ生産方式の考え方などは長く徒弟制度で人から人へ伝えてきました。
教室に人を集めて教科書やマニュアルで伝えるのではなく、朝から晩まで仕事の現場で、一対一で少しずつ教えていたのです。茶道、華道の家元が弟子に直接、教えるような方式だったのです。
■「長く書けば知的に見える」というのは間違い
1986年、トヨタはアメリカのケンタッキーに工場を作りました。そうすると、仕事のやり方、トヨタ生産方式を海外の従業員にも伝えなくてはならない。そうなると、マニュアルが必要になってくる。それで、これまでの教え方を一般化、グローバル化する必要に迫られたのです。
そして、私が担当したのは書類の書き方のフォーマットを作ることでした。アメリカに進出して、現地社員から書類をもらってみると、彼らはロジカルにとにかく長い文章を書いてきたんです。多ければ多いほうが知的な人間だと主張したいところもあったのでしょう。
しかし、僕らからしてみれば長い英語の文章を読むのは勘弁してくれよという感じでしたし、とにかく文章を最初から最後まで読まなければわからない。それでは困ると、A3の紙1枚だけに書くと統一することにしたんです。
ただ、アメリカ人だけじゃありません。世の中には「長い文章ほどいい文章だ、知的な文章だ」と思っている人がたくさんいます。しかし、そんなことはちっともありません。知性と文章の長さには何の関連性もないです。
■真ん中に十字線を引き、4つのスペースを作って…
A3の紙1枚にまとめるやり方ですが、目的は問題解決です。問題解決のために書類を作るのです。企画書でも報告書でも問題の解決です。
「機械が止まった」
「部品の納品が遅れた」
「予定していた新車の販促計画に支障が出た」
「コロナ禍で株主総会を開くにはどういう方法がいいか」
「新しい車のデザインプランの骨子は何か」
トヨタにおける仕事とは問題の解決のこと。新車を開発する企画書であっても、その前提にあるのは既存の車の売れ行きが落ちてきたという問題です。ですから、新商品の開発とは問題の解決なのです。
トヨタの書類の基本は問題の解決を考える書類です。企画書、報告書はその延長線上にあります。
前置きが長くなりましたが、まず紙を横にします。
そして、真ん中に十字の線を引いて、上下、左右の4カ所に分けます。左上には①問題を明確にして現状の把握を書きます。左下には②目標の設定を書く。
右上にはもっとも大切な③要因解析です。要因解析は「ブレークダウン」もしくは「なぜなぜ解析」とも呼ばれているものです。右下が④対策の立案です。これだけ書けばいい。
■「原因」と「真因」は必ず分けて書く
よく「結論を最初に」と言われていますけれど、トヨタではそうはしません。結論だけ読んでも背景がわからなければ何の判断もできないからです。
では、実際にあったことを例にして説明していきましょう。生産現場で機械が故障し、ヒューズが飛んだ事例です。
① 現状把握
「生産ラインにおける機械故障と該当箇所のヒューズ切断」と見出しを書きます。本文には次のような感じですが、実際にはもっと詳細に書くでしょう。
「何月何日、アセンブリーラインで組み立てロボットが故障し、過電流が流れてヒューズが飛んだ」
② 目標設定
「過電流が流れた真因を見つけ、対策を施す」
これが目標です。
ここで大切なのは真因という言葉でしょう。真因とは「ある物事や現象、事件などを引き起こすもとになっている本当の原因」のこと。
ヒューズが飛んだ原因は過電流ですが、過電流になった原因が真因です。トヨタではヒューズを交換してそれで終わりではありません。ヒューズが飛ばないように真因を追求するのです。
同じように工場の床に釘が一本、落ちていたとしても、拾って終わりではありません。なぜ、そこに落ちていたか、どこから落ちたのか、落ちないためには何をすればいいか。そこまで考えるのがトヨタなんです。
■最も重要なのは「なぜなぜ解析」
また、トヨタでは「対策」と「処置」は違います。再発しないように防止することが「対策」で、当面の対応が「処置」。問題解決ではちゃんと対策を提示します。さらに実行して、その経過、できれば結果まで書くといいでしょう。
先述の例えではヒューズを交換することは処置で、真因を追求して再発防止する具体案が対策です。トヨタでは対策と処置の違いを徹底的に教えます。
③ 要因解析(なぜなぜ解析)
A3の紙の右上に書くのが要因解析です。なぜなぜ解析と呼ばれるのは、「なぜ、不良品が出たか」などについて、5回以上、なぜを繰り返して、真因を追求するからです。つまり、問題解決のための切り口をすべて書きます。
最初の「なぜ」は現場へ行って観察することから始まります。そして、問題の起こっている場所を見つけます。起こっている場所がわかればそこに立って観察します。
例にある組み立てロボットの過電流の場合でしたら、現場で時間帯を切って様子を見ます。時間帯によって異常が見つかるかもしれません。他にロボットの内部に故障があると思ったら、今度は徹底的に調べます。ロボットの操作に問題があるかもしれない、ヒューマンエラーかもしれないと思ったら、作業の様子を調べます。
このようにできる限り多くの問題解決の切り口を考える。切り口が多ければ多いほど、視点が増えるわけですから真因を突き止めやすい。
![自動車の生産ライン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/8/1200wm/img_7813a210fcaf976890e81988927fb0a9494700.jpg)
■真因がわかれば結論は簡単に出る
先述のヒューズが飛んだ過電流でしたけれど、なぜを繰り返して、わかったことは過電流が朝一番で起こることでした。しかし、そこから真因の追求までには時間がかかりました。
ある新人エンジニアが朝一番からライン横に立ち、スタートする時から見ることにしました。さらに、ラインを担当していた作業者にインタビューをしたんです。そうしたら、彼女が「このロボットはおそらく寒がっているんだと思います」と言ったそうです。
ロボットが設置してある場所はドアの近くでとても気温が低かった。気温が低いとロボットのなかのオイルの粘着度が高まります。動かすには大きな力がいるから過電流が流れる……。そうやって、やっと真因をつかむことができたんです。
真因さえわかれば対策は出てきます。対策としてはドアをふさぐ、気温を上げるために空調からの温風が周辺にいきわたるようにするなどをやったそうです。すると、過電流はなくなり、ヒューズは飛ばなくなりました。
④ 対策立案
最後は、真因を見つけた後の対策です。対策立案にはドアをふさぐ、空調をいきわたらせるなどを書いて、経過と結果を書いて終わり。
■トヨタの書類は読むのではなく「眺める」
トヨタの書類には見方があります。
受け取った側はまず全体を眺めます。それから何が起こっているのか、また、企画書であれば何がしたいのか、①番の現状把握を見る。
その次にここが肝心と思った箇所を読む。たいてい、③番の要因解析です。どうやって追及して、真因を見つけたか。企画書であればどうしてこうした企画を考えるに至ったか、思考の経過ですね。そこが間違っていたら、対策の立案、企画の内容も信用できないわけです。
トヨタの書類でいちばん大切な部分とは結論ではなく、「考えの経路」つまり、なぜなぜ解析をやった部分なんです。
この考え方はトヨタ生産方式にも通じてきます。トヨタの仕事が問題解決と言ったのは、問題を解決していけば仕事がスムーズに流れていく。結果として生産性の向上につながるからです。
例えば、今、半導体が不足しています。処置とすればあるところから買ってきて、生産現場へ送ればいいでしょう。その間の物流をカイゼンして輸送のリードタイムを短縮すればなおいい。しかし、これはまだ処置の段階です。
真因は半導体の生産が少ないことですから、トヨタの生産調査部が半導体メーカーへ出かけていって、生産が増えるよう応援指導をしたりするのです。真因は上流にあるわけですから、そこまでさかのぼって半導体を増やすことが対策です。半導体の生産量を恒常的に増やせば不足しなくなるわけで、再発防止になりますよね。
■「先に結論を書け」では本質を理解できない
トヨタの人間が書類を作成する時、企画書であれ、報告書であれ、どういったものでもこの形式になります。
受け取った側は結論だけを最初に読まされても判断がつきません。提案された企画をやっていいのかいけないのかを判断するには企画した人間の思考過程がわからないといけないのです。ですから、トヨタの書類は結論(対策の立案)よりも、なぜなぜ解析の部分が重要になるのです。
なぜだ、なぜだ、と問い詰めていくのはまるで刑事が重大事件の捜査をするみたいです。そして、問い詰めていく間に対策がぽっと浮かんでくるのです。
ヒューズが飛んだからと、交換してそれでおしまいにしてしまったら何度も飛びます。不具合、仕事が進捗しないことに対しては処置をして、それでおしまいではいけないのです。ちゃんと対策を立案していかなければなりません。
なお、かつては社員の大半がA3書類の書き方を教わりました。今ではツールが変わってきていますから、プレゼンで使うようなパワーポイントになり、画面も1画面ではありません。ただし、4つの要素は必ず入っています。そして、ビジュアルでイラスト素材を入れたり、写真、動画も入れたりしています。ひと目見てわかりやすいものになってきています。しかし、パワーポイントにする前に紙一枚にまとめてみる社員は多いと思います。
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ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。
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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)
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