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「集団的自衛権」とはなにか…この問いの答えが「アメリカ独立戦争にある」と言える理由

プレジデントオンライン / 2022年11月20日 13時15分

アメリカ独立戦争時、13植民地が編成した「大陸軍」の最高司令官に任命されたジョージ・ワシントン(中央馬上の人物。20世紀初頭に描かれた絵画より) - 写真=Everett Collection/アフロ

「集団的自衛権」とは一体なにか。国際政治学者の篠田英朗・東京外国語大学教授は「その萌芽はアメリカ独立戦争にあった。北米13州は独立を宣言した後も戦争を仕掛けてくるイギリス軍を、共同行動を通じて排除した。これこそ集団的自衛権のはじまりだろう」という――。

※本稿は、篠田英朗『集団的自衛権で日本は守られる』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■「モンロー・ドクトリン」と集団的自衛権

19世紀までのヨーロッパ国際社会に、集団的自衛権の実践があったとは言えない。ところが、ヨーロッパ国際社会に反発して独立を果たしたアメリカ合衆国が採用した西半球世界の地域秩序には、集団的自衛権の萌芽があった。

そもそも北アメリカ13植民地がイギリス本国に対して独立戦争を仕掛けたのは、13の主権国家が共通目標を目指して行った共同行動であった。独立を勝ち取った後、13州は連邦制を取り入れて、単純な主権国家の集団ではなくなる。

すると今度は、南北アメリカ州の他の共和主義諸国との連帯を掲げて、ヨーロッパ植民地主義の西半球世界への浸食を防ぐ宣言を行った。

アメリカ人は、これを「モンロー・ドクトリン」の外交政策と呼んだ。「モンロー・ドクトリン」が何であったのかについては、様々な誤解がある。

しかし集団的自衛権の歴史の観点から見れば、「モンロー・ドクトリン」こそが、アメリカが20世紀になって国際秩序を作り替える際に、思想的に基盤とした伝統であった。したがって「モンロー・ドクトリン」とは何だったのかを知ることは、集団的自衛権の基本的な性格を知ることにつながる。

■同盟関係が臨機応変に形成された17~19世紀のヨーロッパ

まず比較のために、ヨーロッパの時々の大国間同盟が、集団的自衛権の仕組みには発展しなかったことを、簡単に確認しておこう。戦時中の軍事同盟は、「三国志」のような中国の古代史での戦争や、古代ギリシアの都市国家間の戦争の事例においても、発生していた。

ヴェストファーレンの平和条約後のヨーロッパのイラスト (1648)
写真=iStock.com/Nastasic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nastasic

「敵の敵は味方」といった発想は、人間集団の間の敵対関係の構図において自然に生まれてくるもので、特に際立って制度的な思想を必要としない。

国際法体系が発展した17~19世紀頃のヨーロッパにおいても、無数の国家間戦争が繰り広げられた過程において、複数の国家が同盟関係を結んだ。共通の敵と戦うためだ。戦争において、自国の戦いを有利に進めるために、諸国が同盟関係を持つのは、自然なことであった。

しかし今日の国際社会から見て異なっているのは、同盟関係が軍事的な必要性に応じて臨機応変に形成されたことであり、必ずしも制度的に運用されていたものではなかった点だ。NATO(北大西洋条約機構)のような恒常的な軍事同盟組織が成立して維持されている状況は、人類の歴史において、ほとんど類例が見つからない。

■国際社会を生んだ「ウェストファリアの講和」

1648年に30年戦争を終結させた「ウェストファリアの講和」が締結された際、世俗的な内容を持つ紛争当事者間の合意が、戦後の秩序の仕組みを決めるという習慣が確立された。

「国際社会」の存在に着目する「イギリス学派」の国際政治理論の視点から見ると、これはヨーロッパの地理的範囲で「共通の規則と制度」を諸国が共有する地域的な国際社会が生まれたことを意味した。「イギリス学派」の代表的な理論家であるヘドリー・ブルは、17世紀から19世紀にかけて続くヨーロッパ諸国が運営した国際社会を、「ヨーロッパ国際社会」と呼んだ。

この「ヨーロッパ国際社会」においては、それまでの時代とは異なり、世俗的な内容を持つ当事者間の合意によって「共通の規則と制度」が形成された。これによって複数の諸国が、一つの社会を共有する社会的関係を継続的に維持するようになったことは、画期的な事件であった。

「ウェストファリアの講和」以前のヨーロッパにおいても、世界の他の地域の広域政治秩序においても、圧倒的な力を持つ特定の帝国の存在を支柱として、広域的な地域秩序が形成されるのが普通であった。東アジアにおける中国大陸の帝国を中心にした「朝貢システム」は、そうした非ヨーロッパ国際社会型の広域秩序の典型であった。

■アメリカ合衆国の登場―─13の独立主権国家による集団的自衛

しかしこの「ヨーロッパ国際社会」において、恒常的な集団的自衛権に類する制度は、発達しなかった。「ヨーロッパ国際社会」が、他の時代あるいは他の地域の広域秩序と異なっていたのは、「バランス・オブ・パワー」に基づく原理で力の均衡が計算されていたことだ。「ヨーロッパ国際社会」の「共通の制度」の骨格を形成していたのが、「バランス・オブ・パワー」であった。

この「バランス・オブ・パワー」を「共通の規則と制度」にした「ヨーロッパ国際社会」の秩序原理に、真っ向から挑戦をした国家が18世紀末にヨーロッパの外で現れた。その国家とは、アメリカ合衆国である。

アメリカ革命戦争中にオリジナルの13のコロニーを表すために13の星を備えています
写真=iStock.com/smartstock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/smartstock

大英帝国が北米大陸に持っていた13の植民地は、「代表なくして課税なし」を合言葉に、イギリス王に反旗を翻した。いわゆる独立戦争の開始である。1776年にトマス・ジェファーソンが起草した「独立宣言」を公表して、戦争の正当化原理を図った。それは、イギリス名誉革命の理論的な基盤を提供したジョン・ロックの革命権の議論に依拠した社会契約論の議論であった。

留意すべきは、「独立宣言」の主体が、「アメリカ合衆国」という単一の存在ではなかった点である。「13のアメリカ連合国の全会一致宣言(The unanimous Declaration of the thirteen united States of America)」という「独立宣言」の名称は、13の植民地が、そのまま13の主権国家として独立する行程を反映している。

実際のところ、独立戦争後も、1788年にアメリカ合衆国憲法が発効されるまでの期間において、13の独立した主権国家が北米大陸に存在していることは、誰もが疑うことはない一つの事実として受け入れられていた。

■互いに平等な主権国家が、共同で軍隊を展開

独立戦争においては、ジョージ・ワシントンが「連合国」(united states)側の総司令官であったが、それは13の主権国家の独立性を侵害しない。ただ、イギリス王という共通の敵に向かっていくにあたって、同じ境遇にあった13の新興独立諸国が、共同で軍隊を展開させたことを意味する。

その13の主権国家の統合軍を統括するために、一人の総司令官が任命されていた。これはいわば第二次世界大戦の際に、連合国諸国が、アメリカ軍の司令官を、連合国諸国の総司令官として認めていた状態に似ている。

■「集団的自衛権」という論理の原初的な姿

いわば、13の北米の独立主権国家は集団的に自衛権を行使していた。独立を宣言した後も戦争を仕掛けてくるイギリス王の軍隊を、13の独立主権国家は、共同行動を通じて排除した。

篠田英朗『集団的自衛権で日本は守られる なぜ「合憲」なのか』(PHP研究所)
篠田英朗『集団的自衛権で日本は守られる なぜ「合憲」なのか』(PHP研究所)

当時の国際社会に、集団的自衛権という概念はなかった。しかし「バランス・オブ・パワー」の維持を目的にして大国間が均衡を見出すための戦争を繰り返していた「ヨーロッパ国際社会」とは異なり、北米大陸の13の独立主権国家は、相互に平等であると考えられ、そして領土的野心や、大国間の力の均衡を目的にするのではなく、ただ主権国家の独立を目指した安全保障政策のために独立戦争を戦った。

この点に着目するならば、アメリカ独立戦争において、集団的自衛権の論理の原初的な姿が萌芽的に立ち現れてきていたことに気づく。

この歴史的観察は、アメリカ合衆国こそが、20世紀になってから集団的自衛権を一つの法規範とする新しい国際秩序の形成を主導した国である事実と、深く結びついている。

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篠田 英朗(しのだ・ひであき)
東京外国語大学教授
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程修了、ロンドン大学(LSE)大学院にて国際関係学Ph.D取得。専門は国際関係論、平和構築学。著書に『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』(講談社選書メチエ)、『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保』(風行社)、『ほんとうの憲法―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)など。

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(東京外国語大学教授 篠田 英朗)

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