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「スマホをさわるとバカになる」は本当だった…7万人の追跡調査が示す「スマホと学力」の恐ろしい相関

プレジデントオンライン / 2022年11月26日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fzant

スマホは子どもたちにどんな影響を与えているのか。東北大学の川島隆太教授は「7万人以上の追跡調査の結果、スマホの使用時間が長いほど学力低下の程度が大きいことがわかった。スマホの悪影響は無視できない」という。川島教授の著書『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(アスコム)からお届けする――。(第1回)

■30年以上前から指摘されたパソコンの悪影響

いつも身近で使えるスマホですから、長時間使う人が多く、使いすぎれば人に悪影響を及ぼす、とずっと前からいわれてきました。

じつはスマホが登場する十数年前から、パソコンは有害なのではないか、といわれ出しています。最初に話題になったのは、アメリカで大学生がパソコンで調べものをし、宿題をしたりレポートを書いたりしはじめた以降です。

パソコンで何らかの作業に集中しているとき、別の情報が割り込んで入ってくると、そちらに気が向いて、その処理をしてしまう。もともとの作業が途切れ、注意力が続かなくなる。このことがいろいろな悪さを引き起こすのではないか、という観察研究がスタートしたわけです。

1980年代半ばから90年代にかけてのオンラインは、アメリカのAOL、日本のニフティなど、専用回線を介してチャット・メール・掲示板・ホームページ閲覧などをする会員制サービスでした。いわゆるパソコン通信です。

95年には、インターネットへの接続を標準機能として備えたWindows95というOS(基本的なオペレーション・ソフト)が登場して、インターネットの普及が進んでいきます。

■子どもがスマホを長時間使う危険性を、誰も知らなかった

2004年にフェイスブック(Facebook)、06年にツイッター(Twitter)が出てきてSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)が始まると、パソコンの作業に割り込んでくるものの魅力が格段に増大しました。

そこに、通信回線が光ファイバーにどんどん置き換わる、猫も杓子もホームページを開設する、ゲームがますますおもしろくなる、スマホが出てくる(発売は07~08年から、本格的な普及は10年から)、11年にはLINEも登場する、というように、オンラインの世界が一気に巨大化していったのです。

すると、「はっきり、おかしなことが起こっている」という証拠が次から次へと出てきました。ある一群の人たちの学力が低下している、文章の理解力が低下している、うつ状態になる人たちが少なからず出始めた──などです。

それでも、パソコンやスマホの使用につきまとう避けられないリスクを知る人は、研究者や意識の高い人など、ごく少数に限られていました。

仕事でパソコンと長く向き合う人は、目がしょぼしょぼしてぼやけてくるわ、指が痛くなるわ、手首が重くなるわ、肩が凝るわと実体験していますから、注意して休息を入れ、遠くを見たり軽い体操をしたりします。仕事なのだから、身体への負担はある程度やむをえない、とも思っているでしょう。

ところが、そんな自覚がない子どもたちは、思うがままにスマホやゲームに浸かりきってしまいます。子どもがスマホを長時間使う危険性、学力や理解力を低下させてしまう悪影響を考える人は、保護者を含めて当初はほとんどいませんでした。

この状況はまずい、と考えた私は『スマホが学力を破壊する』『スマホが脳を「破壊」する』と題した本を18年と19年に出しました。日本では、まだほとんど誰も警鐘を鳴らしていないころでしたが、それでも遅すぎたか、と思っているくらいです。

■勉強する子もしない子も、スマホを使えば「学力低下」

子どもたちの学力を、スマホが確実に“破壊”している。

しかも、保護者や教師をはじめ大人たちが「そりゃ、スマホをやりすぎれば、成績はいくらか落ちて当然でしょう。試験前にはスマホを控えめにしなくちゃね」などと安易に思っているより、はるかに深刻な悪影響が子どもたちの学習に及んでいて、彼らの日常を浸食しているのです。

──この衝撃の事実に私が最初に気づいたのは、平成25(2013)年度に宮城県仙台市で実施された「標準学力検査」と「生活・学習状況調査」の結果を目にした瞬間でした。

まず、グラフをご覧ください。仙台市立中学校に通う全生徒2万2390名を対象とした学力検査と、生活・学習状況の調査データをもとにつくったものです。

【図表1】家で長時間勉強してもスマホが努力をムダにする
出所=『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』

縦軸は、実際に教室でおこなった数学テストの平均点を示します。横軸は、スマホの平日1日の使用時間を示します。左端の「まったく使用しない」(0時間)から、右にいくほど1時間刻みで使用時間が長くなり、右端は「4時間以上」と、6つのグループに分けてあります。

使用時間は、携帯電話やスマホを平日どのくらい使っているか生徒にアンケート調査した回答、つまり生徒たちの自己申告によります。

アンケート調査の質問原文は、「ふだん(月曜から金曜日)、1日当たりどれくらいの時間、携帯電話(スマートフォンもふくむ)でメールやネットゲームをしたり、インターネットを見たりしていますか」です。

さらに私たちは、横軸で時間分けした6グループそれぞれを、自宅での平日の勉強時間の長さで①30分未満、②30分~2時間未満、③2時間以上の3グループに分けて解析しました。ですので、6グループそれぞれが3本ずつの棒グラフになっています。以上の勉強時間も、生徒たちの自己申告によります。

勉強している子どもの手
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

■スマホを触れば「勉強時間」が無駄になる

このグラフは、いったい何を示しているのでしょうか。グラフから読み取れることを、お話ししましょう。

最初にわかるのは、「家での学習時間が長いほど成績がよい」という当たり前の事実です。「家庭での学習時間が2時間以上」の白い棒グラフは、「30分も勉強しない」の黒や「30分~2時間」のグレーより高くなっています。

次にわかるのは、「携帯・スマホを使う時間が長ければ長いほど成績が悪い」という事実です。グラフの右にいくほど(使用時間が長いほど)、棒グラフが3本とも(ということは家での勉強時間とは関係なく)低くなっています。

さらに、6本ある白い棒グラフで低いものと、同じく黒い棒グラフで高いものの高さを比べると、こんなことがわかります。

「家で2時間以上勉強しても、携帯・スマホを3時間以上使ってしまう」生徒より、「家でほとんど勉強しないが(30分未満)、携帯・スマホを使わない」生徒のほうが「成績がよい」という事実です。家で2時間以上も勉強をしたのに、その努力が全部ムダになってしまっているかのようです。

携帯・スマホの使用時間が1時間未満ならば、家でほとんど勉強しなくても、やっぱり3時間以上使う生徒より成績がよくなっているのです。

携帯・スマホを長時間使う子どもの学力が低いと聞けば、多くの人は「家で勉強せずに携帯・スマホをいじっているのだから当然だ」と思います。

ところが、家で勉強する生徒もしない生徒も、携帯・スマホを長時間使用すると成績が低下しているのです。だから、直接の原因が家庭学習時間の減少である可能性は低い、と考えられます。

■最悪の仮説…スマホを使うだけで脳に悪影響が生じる

とくに深刻なのは、家でほとんど勉強をしない生徒たちのデータです。彼らは学校でしか勉強しませんから、学校の授業で得た知識や記憶によってテストに臨んでいます。

それで数学の試験を受けたら、携帯・スマホを使わない生徒が平均約62点でした(左端の黒い棒グラフ)。ところが、携帯・スマホを1時間以上使うと、使用時間が長いほど成績が低下し、4時間以上使う生徒では15点も低くなっています(右端の黒い棒グラフ)。

携帯・スマホを4時間以上使う生徒は、家で2時間以上とかなり勉強して知識も記憶も増えているはずなのに、家での勉強時間が30分~2時間の生徒と成績が変わらないのです(右端の白とグレーが同じ高さ)。

しかも「家でほとんど勉強せず(30分未満)、携帯・スマホの使用時間が2時間未満の生徒」より成績が低いのです。

ということは、自宅学習のぶんはおろか、学校で学んだことまでも相殺されてしまっているかもしれないということなのです。これは深刻な事態です。

この結果から想定される“最悪”の仮説は、携帯・スマホの長時間使用によって、学校での学習に悪影響を及ぼす何かが、生徒の「脳」に生じたのではないか、というものでした。

可能性①は、学校の授業で脳の中に入ったはずの学習の記憶が、消えてしまった。可能性②は、脳の学習機能に何らかの異常をきたし、学校での学習がうまく成立しなかった。当時は、あくまで仮説であり可能性でしたが、ただ事でないことは間違いありませんでした。

急いで家に帰る高校生たち
写真=iStock.com/Juergen Sack
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Juergen Sack

■7万人超の小中学生を追跡調査で分かったこと

ただし、急(せ)いては事をし損じます。結論を出すには、まだ早すぎました。じつは当時の調査には、いくつか問題点があったのです。お読みになって、この点はどうなっているのだろう、と疑問を感じた読者もおられるでしょう。以下に整理しておきます。

① 「携帯・スマホ」として調査やデータ解析をおこない、この2つを区別していません。当時は、スマホの子どもたちへの普及があまり進んでいませんでした。
② 携帯・スマホで「ゲームもしている」ことを、調査の前提とすべきでした。当時は、ゲームはもっぱらゲーム機で楽しむものと考えていたのです。
③ 単年度の調査だけでは、携帯・スマホを使ったから学力が低下したのか、学力の低い生徒が携帯・スマホを長時間使う傾向があるのか、区別できません。相関関係は明らかでも、因果関係がはっきりしないわけです。
④ 睡眠の影響をとらえきれていませんでした。教育の世界では、睡眠時間の短い子どもたちの学力が低いことは“常識”になっていました。

ですから「携帯・スマホの使用時間が長いから、学力が低下する」かもしれませんが、「携帯・スマホの使用時間が長いから、睡眠時間が短くなり、そのために学力が低下する」のかもしれません。後者であれば、学力低下の直接の原因は睡眠時間で、携帯・スマホの長時間使用は間接的な原因となるわけです。

こうした問題点を解消しようと、仙台市と私たちのさらなる調査・研究が始まりました。最初にやったのが、仙台市教育委員会と相談のうえで、7万人を超える児童・生徒(小中学生)1人ひとりにID番号を振り、平成26年度調査から追跡できる環境を整えたことです。

子どもたちの成績や、さまざまな生活状況のアンケート結果を含むデータを集めるわけですから、個人情報の厳重な保護が必要です。

そこで「連結可能匿名化」という手法を使いました。私たち大学側の研究者は、ある番号の児童・生徒のデータを1年目、2年目、3年目と追い続けることができますが、その児童・生徒がどこの誰であるかは、一切知ることができない仕組みです。

■睡眠時間、学習時間は関係ない…スマホが脳をダメにする

携帯・スマホによる学力の低下に私が気づいた平成25年(2013年)の調査から、「10年ひと昔」に近い年月がたとうとしています。

スマホの使用と子どもたちの学力低下について、現時点でわかっているのは、次のような事実です。以下の「スマホ」には携帯電話を含みますが、ご承知のように、すでに携帯の多くがスマホに置き換わっていますので、「スマホ」で統一します。

まず1つ目は、スマホ使用による子どもたちの成績の低下は、自宅での「学習時間」の長さとは直接に関連していませんでした。スマホを長時間使ったから、家での勉強時間が削られ、その結果、学力が低いわけではないのです。

川島隆太『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(アスコム)
川島隆太『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(アスコム)

2つ目は、成績低下は、「睡眠時間」とも直接に関連していませんでした。スマホを長く使ったから睡眠時間が削られ、その結果、学力が低いわけでもないのです。

学力低下が先か、スマホが先か(どちらが原因で、どちらが結果か)には、決着がつきました。全員を何年も追跡できたことで、どの時点でスマホを持った、あるいは持つのをやめたとわかり、その後に成績のレベルがどう変わったか観察できたからです。

そして、3つ目は、明らかにスマホが原因で、結果的に学力が低下していました。

これは、学力の低い子どもに長時間使う傾向があったのではありません。スマホの使用時間が長ければ長いほど学力の低下の程度が大きくなったのです。さらには、スマホを始めると成績が下がり、スマホを手放すと成績が上がることもわかっています。

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川島 隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学加齢医学研究所 所長/脳科学者
1959年生まれ。千葉県千葉市出身。東北大学加齢医学研究所所長。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長。1985年東北大学医学部卒業、1989年東北大学大学院医学研究科修了、スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手、同講師、東北大学未来科学技術共同研究センター教授を経て2006年より東北大学加齢医学研究所教授。2014年より東北大学加齢医学研究所所長。2017年より東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター長兼務。著書は『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)『さらば脳ブーム』(新潮新書)『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(アスコム)など、300冊以上。

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(東北大学加齢医学研究所 所長/脳科学者 川島 隆太)

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