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たった5日間で40兆円分が喪失したが…「仮想通貨の大暴落」はさらに深刻化すると予想されるワケ

プレジデントオンライン / 2022年11月21日 9時15分

FTXのバンクマン・フリード最高経営責任者(CEO)(=2022年2月9日、米ワシントン) - 写真=AFP/時事通信フォト

■たった5日間で「40兆円」の大暴落

11月上旬、仮想通貨の市場に激震が走った。大手仮想通貨交換業者であるFTXトレーディング(FTX)が経営破綻した。破綻によって、世界の仮想通貨は大きく不安定化し、多額の時価総額が失われた。報道によると11月7日から11日までの5日間で、仮想通貨の時価総額は150兆円弱から110兆円強に急減した。

現在、FTXに関しては顧客資金の流用など、多くの問題点が指摘されている。投資家の仮想通貨離れは加速するだろう。事業運営が困難になる関連企業も増えそうだ。それに伴い、仮想通貨は大きな調整局面を迎えている。

今回のFTXの破綻は、単に仮想通貨市場だけに与える影響で済まないだろう。仮想通貨市場は大きな規模であり、失われる金額・信用はかなり大きい。世界の経済と金融市場に無視できない影響が及ぶことも考えられる。

米国では金融引き締めが長引き、潤沢な資金を基に盛り上がってきた仮想通貨の下落圧力は増すだろう。仮想通貨の投資家や関連企業に出資した、大手投資ファンドなどが損失に直面するリスクも高まる。世界の金融市場は、波乱含みの展開になりそうだ。

■ビットコインの価値は1年半で13倍以上に

FTXは、仮想通貨に対するやや過剰ともいえる成長期待を代表する企業だった。近年、潤沢な資金を背景に、多くの投資家はビットコインなど仮想通貨に関心を強め、資金を振り向けた。2020年に世界各国で新型コロナウイルスの感染症が拡大すると、3月中旬にかけて仮想通貨市場は一時調整したものの、その後、仮想通貨市場の熱気はさらに高まった。

連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和の強化は大きな追い風となった。世界の投資家は過度に先行きを楽観視し始めた。個人に加えて、機関投資家も仮想通貨取引を増やした。2020年3月中旬、5000ドル台だったビットコインの価値は、2021年11月上旬に6万7000ドル台に上昇した。まさに、バブルの様相を呈していたともいえる。

その中でFTXは急成長を遂げた。同社は、仮想通貨の交換ビジネスや、仮想通貨関連の企業に投融資を行った。それを支えたのが、同社が発行し、価値の増加期待が急速に高まったFTXトークン(FTT)だった。2020年3月下旬、2.5ドルだったFTTは2021年9月上旬に72ドル台に上昇した。世界全体で仮想通貨の価値が高まるとの“根拠なき熱狂”が高まった。それが、FTTの価値を大きく押し上げた。

■「買うから上がる、上がるから買う」を繰り返し…

それに支えられて、創業者のサム・バンクマンフリード氏はFTXから自身が所有するアラメダ・リサーチに融資を行った。こうしてバンクマンフリード氏は仮想通貨関連ビジネスを急拡大した。過度な期待によってFTTは上昇し、バンクマンフリード氏の富も増大した。

ブルームバーグによると一時、同氏の資産総額は260億ドル(1ドル=140円換算で3兆6000億円)に達した。世界的な大手投資ファンド、年金基金などがその成長の恩恵に浴しようとし、FTXに出資した。

世界経済のデジタル化が加速する中で仮想通貨やNFTなどの価値上昇期待はさらに高まり、FTXの成長期待も追加的に高まった。買うから上がる、上がるから買うという熱狂の高まりに支えられてバンクマンフリード氏は仮想通貨業界の寵児として多くの注目を集めた。神話とでもいうべき過剰な成長期待の高まりは、多くのバブルに共通する。

■利上げ、ガバナンス不備で事業が一気に悪化

しかし、高成長が永久に続くことは考えづらい。2021年11月末、仮想通貨市場は転機を迎えた。FRBは、物価上昇が一時的という見方が誤っていたことを認めた。それ以降、仮想通貨市場の調整圧力が高まった。さらに2022年5月にFRBは、インフレ鎮静化のため景気にブレーキをかけることを明言した。その結果、米国の金利上昇懸念が一段と高まった。5月には、“テラUSD”など価値が一定と考えられた仮想通貨(ステーブルコイン)が急落した。

その後、FRBによる“3倍速”の利上げによって、仮想通貨市場全体がより強い調整圧力にさらされた。FTTの価値も下落した。その結果、キャッシュの確保よりも、FTTの成長期待に依存してきたバンクマンフリード氏の資金繰りが行き詰まり始めた。ガバナンス、顧客資金の管理体制などへの懸念も一段と高まり、連鎖反応のように事業運営体制は悪化した。

ライバル企業であった“バイナンス”は救済合併を見送った。その根底にはFTXの事業内容悪化以上に、今後のバイナンス自身の存続に対する危機感の高まりがあったのではないか。こうして11月11日、FTXは“米連邦破産法11条(チャプター11、わが国の民事再生法に相当)”の適用を申請した。

■仮想通貨全体が持ち直す展開は期待できない

FTXの経営破綻は、仮想通貨に一段の調整圧力をかけると考えるべきだ。バハマや米国の当局は、顧客資産の管理についてFTXに対する捜査に着手した。

個人や機関投資家は、仮想通貨関連企業のビジネスモデルに懸念を強めるはずだ。仮想通貨を手放す投資家はさらに増えるだろう。当局の規制も強化されるだろう。特に、交換所の顧客資金の管理体制、自己資本比率の引き上げなどは喫緊の課題といえる。仮想通貨市場や関連の業界には、より強い下押し圧力が加わりやすい。

昨年11月ごろまでとは打って変わって、売るから下がる、下がるから売るという弱気心理の連鎖がより鮮明となる可能性が高い。FTXの経営破綻は、仮想通貨バブルの後始末が深刻化する予兆に見える。

スマホで仮想通貨のチャートをチェックする女性の手元
写真=iStock.com/oatawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oatawa

■米国を起点に景気後退が迫っている

今後の1つのシナリオとして、仮想通貨の下落や換業者の経営破綻などが増え、投資ファンドが想定外の損失を被る展開が想定される。物価の高騰を抑えるために、米国やユーロ圏などで、金融引き締めは想定された以上に長引く可能性が高い。政策金利であるFFレートの引き上げによって米国の労働市場は軟化するだろう。それに伴い、世界経済を下支えしてきた米国の個人消費にはブレーキがかかる。世界的な景気後退が現実のものになる恐れは一段と高まりやすい。

そうなると、人々はリスクテイクにより慎重になる。仮想通貨には、価値を一定に保つ仕組みがない。ビットコインなどを手放す投資家はさらに増えるだろう。FTXのように資金繰りが逼迫(ひっぱく)し、経営破綻に陥る仮想通貨関連の企業は増えるものと予想される。その結果として、投資ファンドなどの損失が膨らむ恐れが増す。多くの投資家は、より高い利得を手に入れるために自己資金に加えて金融機関から資金を借り入れてきた(レバレッジ)。

■“第2のアルケゴス・ショック”が起きるのか

世界全体で景気の先行き見通しが悪化し、資産価格の下落懸念が高まると、金融機関は資金を貸し付けた投資家に追加の担保差し入れを求める。それに対応できない場合、投資ファンドのビジネスは行き詰まる。

結果的に、投資ファンドは債務の返済のために保有していた株式などを投げ売りせざるを得なくなる。すでにそうしたケースが起きてきた。2021年3月、米国の投資ファンド、“アルケゴス・キャピタル・マネジメント”が巨額の損失を発生させた。それによってクレディ・スイスなど大手金融機関も損失に直面した。

アルケゴスはファミリーオフィスと呼ばれる形態をとった。ファミリーオフィスは主として個人の資金を運用する。そのため、主要先進国の規制の強化が遅れた。近年、仮想通貨に資金を振り向けるファミリーオフィスは増えた。相場のさらなる調整によって、ファミリーオフィスなどの投資ファンドが相応の損失に直面する展開は排除できない。それが現実のものとなれば、大手の金融機関も損失に直面し、世界経済と金融市場の不安定感は一段と高まるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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