あなたは「怒る」と「しかる」の違いを説明できるか…イマドキ社員にやってはいけない3つのNG行動
プレジデントオンライン / 2022年11月25日 14時15分
※本稿は、西出ひろ子『知らないと恥をかく 50歳からのマナー』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■現代の若者はしかられることに慣れていない
私たちの時代(筆者は50代半ば)はしかられたり怒られたりしながら、成長してきた記憶があります。社会人になってからも、上司にしかられることは日常茶飯事でした。
ところが、現代の若者たちは家庭でも学校でも、しかられることに慣れていない傾向が多くあります。少し厳しい言葉をかけるだけで、「怒られた」と受け取り、落ち込んだりパワハラだと受け取ってしまったりするのです。部下のために、会社のために、かつ自身を守るために、しかり方をマスターすることが求められています。
上司である以上は日常の業務において、部下に「伝えなければいけないこと」は多々あります。社内の連絡事項であったり、ミスや問題点を正すためのアドバイスだったり、状況や内容はさまざまです。
単なる連絡事項であれば、感情的にならずに伝えられるでしょう。しかし、仕事に関する忠告やアドバイスは、ときに声を荒らげたり、嫌みっぽくなってしまうこともあります。当然、部下はネガティブな受け入れ方をするでしょう。部下のためを思ってのアドバイスが、パワハラと受け取られたら本末転倒です。
■「怒る」は自分中心、「しかる」は相手中心
「怒る」と「しかる」の違いは、あなたもご存知ではないでしょうか。「怒る」は感情に任せて言いたいことをぶちまけること、「しかる」は相手の成長のために必要なアドバイスを伝えることです。
自分中心の行為である「怒る」に対して、相手中心の行為が「しかる」ともいえます。
それでも、注意される部下にしてみれば、「怒る」も「しかる」も大差ありません。両者の違いに気づくには、人としての経験が必要です。部下のためを思ってしかっていても、怒っていると受け取られる危険はあるわけです。
今の上司のスタンダードは、部下に忠告、注意はしても、「部下を怒らない」「部下をしからない」です。釈然としないかもしれませんが、自己防衛のためにも必要なことです。一方で、先に、忠告や注意はしても、とお伝えしましたが、これを怒られた、などと言われる可能性も否めない社会になりました。となれば、「部下を注意しない」「部下に忠告しない」も心がける必要があります。
こうしたがんじがらめの状況でも、部下を指導する立場にある以上、上司として伝えるべきことは伝えるという役割や業務の一環としての義務もあります。
ここで、大事なことは、悩みすぎて、うつ病になったりなど、あなた自身の心身における体調を崩さないことです。部下に対して「言うことをきいてくれない」「言うことをきかせなければ!」と落ち込んだり、躍起になっては、あなたの身がもちません。次にお伝えする内容を、楽しみながら実践してみてください。
■怒鳴りつけたところで問題は変わらない
現在、注意をしたりしかったりすることに対して、それらが歓迎されない状況のなかで、問題のある部下と向き合うには、あなたの意識を「伝えるモード」に切り替える作業が必要です。
社内の連絡事項を告げるとき、感情的になる必要はありません。このことは先ほども少し触れました。部下の考え方や姿勢が間違っているときも、同じようにすればいいのです。淡々と必要なことを伝達すればいいわけです。
出社やオンライン会議などで遅刻をくり返している部下を、「また遅刻して! 何を考えているんだ!」と怒鳴りつけたところで、それが改善されることはありません。「遅刻はよくないよね。これからは遅刻しないように」といったやさしい言い回しでも、状況はそこまで変わらないでしょう。
それに「遅刻はよくないね」という言い方は、部下の行動の善悪を断じています。感情が込もっているわけですから、双方の気持ちが高ぶる危険も秘めています。
■問題点をシンプルに伝えるだけでいい
部下の遅刻が社内ルールにそぐわないとか、周囲に迷惑をかけるなどの場合は、シンプルにそれを伝えるだけでいいのです。
「当社の始業時間は8時50分だから、これからは始業時間には即、業務開始できる体制をとってね。オンライン会議でもみんなを待たせないように」
これなら事実を伝えているだけですし、善悪のジャッジも下していません。感情的になる危険もないわけです。
伝えることで部下が問題点を自覚して、改善のために努力してくれれば、それで問題は解決します。しかる必要もなくなります。
ところが、すべての部下が変わってくれるとは限りません。上司である以上はどうしても、注意せざるを得ない場面もあるでしょう。こうした場面でトラブルを避け、部下に忠告を受け入れてもらうためにも、「注意・忠告・指導の注意点」を押さえておきましょう。
■部下の自尊心を傷つける3つのNG行動
部下を指導するときに心がけたいのは、「①表情や態度は柔らかく、優しく」「②相手の名前を呼びながら会話を進める」「③伝える言葉ははっきりと」の3つです。
しかるは部下のためを考えて、よい方向へ導こうという指導です。それを素直に受け入れてもらうためには、「言葉の花束」も一緒に贈る気持ちが欠かせません。
先ほどの3つのOK行動を押さえることで、部下は自然と耳を傾けようとします。
逆に部下指導におけるNG行動も3つあります。こちらは「①大声で怒鳴らない」「②睨みつけて威圧感を与えない」「③正当な理由があっても、人前で怒りの感情をぶつけない」です。
いずれも部下の自尊心を傷つけるだけで、指導の効果は得られません。このどれかに当てはまった時点で、「しかる」ではなく「怒る」なのです。
■「心の切り替えスイッチ」を持っておこう
このうち「①大声で怒鳴らない」「②睨みつけて威圧感を与えない」は、上司が感情的になったときに起こります。
誰にだって感情はあります。何度注意をしても改善されなければ、部下の前で感情をあらわにしたくなるでしょう。
しかし、その感情は部下への苛立ちではなく、自身に対する苛立ちから生じたのかもしれません。ふがいない自分への怒りを、どこにどうやってぶつけていいのかわからずに、部下に向かってしまうわけですね。
部下もそのことを感じ取りますから、素直に受け入れることができないのです。これらは、子育てやペットなどの動物たちとの関係も同様のことがいえますね。
あなたが感情的になりやすいタイプなら、特に注意が必要です。自分では冷静に振る舞っているつもりでも、周囲からは感情的と受け取られていることも珍しくないのですから。そのためにも気の置けない同僚や後輩、あるいは友人や家族から、自分のイメージを訊いてみるのも一法です。
あなたが感情を表面に出しやすいタイプだったら、「心の切り替えスイッチ」を持っているといいですね。一度その場から離れて空を見るとか、トイレで手と顔を洗うとか、鏡を見てニッコリするといった具合です。
人間は怒りの感情がこみ上げても、6秒あれば静まるといわれています。怒りそうになったら深呼吸をするだけでも、冷静さを取り戻すことができるわけです。
洗練された大人であればあるほど、感情の起伏は表に出したくないもの。部下をしかったり注意したりするときも、感情的にならないように注意してください。
■人前でしかることは百害あって一利なし
部下指導のNG行動の最後は、「③正当な理由があっても、人前で怒りの感情をぶつけない」でした。
私はマナーコンサルタントとして、中国人スタッフを多く抱える企業から、管理職研修を依頼されるケースがよくあります。このようなときに決まって伝えるのが、「しかったり注意したりするとき、絶対に人前は避けてください」ということです。
しかられるだけの理由があったとしても、それを人前で指摘されたら、部下のプライドは大きく傷つきます。中国人スタッフはこの傾向が顕著ですが、日本人であっても本質は変わりません。誰だってしかられている姿を、周囲に見られたくないのです。
人前でしかったり、注意をした瞬間、部下は心を閉ざします。あなたの忠告を受け入れることを拒むのです。やり取りを見ているほかの社員も、職場の空気を悪くしたことに対して、あなたにネガティブなイメージを抱くでしょう。
人前でしかったり、注意をしたりすることは、百害あって一利なし。ほかの人がいない場所やタイミングで伝えることも、上司としての大切なマナーです。
■共感した上でしかる「ハンバーガー話法」
部下に忠告を受け入れてもらうためには、今の部下の境遇に共感した上で、しかったり注意・忠告をしたりすることです。そのためには「ハンバーガー話法」を駆使すると効果的です。
ハンバーガー話法とは、私が作った造語ですが、「①ほめる・共感」「②しかる・注意」「③励まし・信頼」の順に話すことです。
■最後はポジティブに相手の背中を押す
メイン部分の「②しかる・注意」を、「①ほめる・共感」「③励まし・信頼」で挟むことで、全体として受け入れやすくするわけです。有名なサンドウイッチ話法は、上下のパンの形が同じですが、ハンバーガーは上下の形が異なりますね。つまり、①と③に変化をつけることで、注意や忠告をされた相手の気持ちを最終的に前向きに変化させていくわけです。
この忠告も本当に伝えたいのは、「とはいっても、このところ連日、数字に間違いがあるから、今後は間違わないようにしてくれるかな」の部分です。それに耳を傾けてもらうために、部下の立場に共感することからスタートして、最後はポジティブに背中を押すわけです。
■失敗談だけは、上司の昔話が歓迎される
「僕の時代はね……」「前の会社ではね……」「今まで私は……」
あなたもこのようなセリフを、部下に口にしたことがあるかもしれませんね。実は、私の口癖でもありました。言っている本人は悪気はないのですが、これらは「部下に嫌われる上司のセリフ」の代表格です。事実、私も部下に嫌われていた時代もありました(笑)。
ただし、仕事のミスや失敗談は、この限りではありません。むしろ「私も過去にこんな失敗をしてね……」と、過去のエピソードを話すことで、部下は心を開いてくるのです。
部下にとって私たちは、親と大差ない年齢です。そんな年上の人とのコミュニケーションに、少なからずとも、彼らは緊張しているのです。「自分とはレベルが違う」「雲の上の人」と思っている部下もいるでしょう。
そんな年齢も立場も違うあなたが、若い頃の失敗談を話したら、彼らはどのように受け取るでしょうか?
きっと「失敗は誰にでもあるんだ」と感じて、安心感が芽生えることでしょう。さらには雲の上の存在と思っていたあなたにも、自分と同じような経験をしてきたことに、親近感を得て感動するはずです。
失敗談を伝えるときには、やさしい表情を浮かべつつ、少し遠くを見つめましょう。懐かしい過去を回顧するまなざしですね。話す速度は少しゆっくりめに。失敗が糧になることの、生き証人になってあげればいいのです。そうすれば、直接しかったり、注意をしたりする必要もなくなることでしょう。
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マナーコンサルタント
ヒロコマナーグループ代表。ウイズ株式会社代表取締役会長。HIROKO ROSE株式会社代表取締役社長。一般社団法人マナー&プロトコル・日本伝統文化普及協会代表理事。大妻女子大学卒業後、国会議員などの秘書職を経てマナー講師として独立。31歳でマナーの本場・英国に単身渡英し、現地にてオックスフォード大学大学院遺伝子学研究者(当時)と起業。帰国後、大企業300社以上のマナー・人財育成コンサルティング、延べ10万人以上の人材育成を行う。著書・監修書は『あなたを変える美しい振る舞い』(ワニブックス)、『ビジュアル版ビジネスの基本とマナー』(学研プラス)、『入社1年目ビジネス文書の教科書』(プレジデント社)など多数。
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(マナーコンサルタント 西出 ひろ子)
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