トウガラシやショウガで体は温まらない…本当に体を温めたいのなら「水シャワー」で頭を冷やすべきだ
プレジデントオンライン / 2022年11月24日 15時15分
※本稿は、南雲吉則『体を冷やせば健康になる』(光文社)の一部を再編集したものです。
■外から体を温めても健康にはならない
免疫力を上げたいならば、体を冷やしなさい。
そして、若返りたいならば、体を冷やしなさい。
なぜ、こんなに当たり前のことを、今さら強調する必要があるのでしょう。最近、病気を治したいなら、免疫力を上げたいなら、若返りたいなら、「体を温めなさい」という健康情報が広がっています。それを信じきっている人も非常に多くなりました。今や、「体を温める」ことがごくごく当たり前の健康常識になっています。
しかし、体は外から温めれば温めるほど、体温を一定に保つために深部体温を下げようとするのです。深部体温が上がらなければ、免疫力を下げ、細胞の老化を招くことになります。
細胞が老化すれば、外見も老けて見えます。厚着をしている人ほど、寒がりで、老けて見えるのはそのためです。深部体温が上がるのは、寒冷刺激を与えられたときです。
ですから、私は毎晩、風呂上がりに「水シャワー」をします。これこそが、細胞から健康になり、若返るための一丁目一番地です。では、なぜ、体を冷やすと健康になり、細胞レベルから若返っていくのでしょうか。
寒冷刺激を与えられると、細胞内の「ミトコンドリア」が酸素とともに脂肪を燃焼します。これによって深部体温が上昇します。寒冷刺激が繰り返されるとミトコンドリアはどんどん細胞分裂して、その数を増やします。
ミトコンドリアは、エネルギーを産生する小器官です。そのミトコンドリアの活性化こそが、免疫力の良好化と健康増進、若返りを叶える鍵かぎになるのです。
■人間の活動のすべてを支えるミトコンドリア
ミトコンドリアについては、『体を冷やせば健康になる』第2章でも詳しくお話ししますが、酸素と一緒に脂肪を燃焼させることで、たくさんのエネルギーを産生する働きがあります。
その働きが活性化すれば、脂肪の燃料量が増えます。そのため、太っている人は自然と痩せていきます。エネルギーの産生力が上がれば、免疫細胞の働きがよくなって感染症やがんなどを防ぐ力が高まります。細胞の生まれ変わりもスムーズになるため、若々しい細胞が次から次へとつくられていきます。
大事なのは、ミトコンドリアは、1つの細胞に1つだけあるのではなく、数百から数千個もある、ということです。その数は、どの組織をつくる細胞かでも違うのですが、個人差も大きいのです。
■脂肪を燃焼する生活で健康になる
では、どうすればミトコンドリアの数を増やせるのでしょうか。ミトコンドリアは働きを活性化させる生活を送っていると、数も増えます。しかも、働きのよいミトコンドリアは、エネルギーの産生力も強いのです。
反対に、ミトコンドリアの不活性化を招くような生活を送っている人は、数を減らしていきます。そうなると、エネルギーの産生力も落ちていきます。
ミトコンドリアで産生されたエネルギーは、生命活動や運動だけでなく、思考や記憶や集中力、忍耐力など、人のあらゆる活動を支えます。
つまり、エネルギーの産生力とは、その人がよりよく生きていくためのパワーそのものです。実際、エネルギーの産生効率がよくなれば、体はきびきびと動きますし、何より思考がポジティブになって、毎日の当たり前の出来事を心から楽しめるようになります。記憶力もよくなります。
すると、50代から急激に増える「あれ、なんだったかな」という物忘れも減っていきます。
活力にあふれた毎日を送るために、ミトコンドリアを増やす生活を送りましょう。ミトコンドリアは酸素と一緒に脂肪を燃焼する小器官です。すなわち脂肪を燃焼する生活を送れば、ミトコンドリアが活性化され、数が増えてゆくのです。
■長湯をすればするほど湯冷めする
風呂上がりには、水シャワーをしましょう。こういうと、「体が冷えてしまいませんか」「冷え性の私には、とてもむり」という人がいます。
しかし、体に水をかけるだけで、深部体温が下がってしまうならば、トカゲなどの変温動物と同じになってしまいます。人を含む哺乳類は恒温動物ですから、体に水をかければ、深部体温を上げようとします。ですから、冷え性の改善には、水シャワーがおすすめです。
体温調節中枢は、外側から体を温めれば温めるほど毛穴を開き、体表面積を広げて放熱します。体を温めると汗をかくのも、熱を放出するためです。汗が乾くと、気化熱として体の表面から熱が奪われます。そのようにして、深部体温が上昇しすぎないようにコントロールしているのです。
しかし、その放熱の働きが過剰になると体内の熱が奪われ、深部体温が0.1度単位というわずかな温度ではありますが、下がっていきます。私たちは恒温動物ですが、身体活動によっておおむね1度程度の変化は起こしています。深部体温が37度から36度まで下がれば、体は寒いと感じます。
つまり、一生懸命に体を温めれば温めるほど、深部体温が下がる方向に体温調節中枢が働きます。長湯をすると湯冷めをしやすいのは、体を温めすぎたことで、開いた毛穴がなかなか戻らず、過度に熱が放出されるからです。
ところが、風呂上がりに水シャワーをするとどうでしょうか。開ききっていた毛穴がキュッと締まります。それによって、熱が出ていくのを防げます。すると、深部体温を高く保てるのです。しかも、体に寒さ刺激を与えれば、ミトコンドリアが活性化します。
脂肪と酸素が燃焼してエネルギーの産生量が増え、深部体温が上がるのです。体表温を温めれば温めるほど、深部体温は低下します。反対に、体に寒さ刺激を与えれば、体の内側はぽかぽかと温まっていくのです。
■トウガラシ、ショウガで体は温かくならない
「体を温める方法」として広く認識されてしまっている誤解をときたいと思います。「辛いものを食べると体温が上がる」という説です。
確かに、トウガラシなどの辛いものを食べると汗が出ます。舌が熱く感じます。ですから辛いことを英語では「hot」といいます。
人間の味覚には、「甘・酸・辛・苦・塩」の五味があるといいます。しかし、実際に味覚を感じる舌の味蕾(みらい)を調べてみると、「甘・酸・旨味・苦・塩」の受容体はあるのですが、辛味の受容体は見当たらないのです。
この謎を解明したのが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のデイヴィッド・ジュリアス教授です。「温度と触覚の受容体の発見」で2021年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
トウガラシの辛さを感じるのはTRP(トリップ)チャネルと呼ばれる痛覚受容体でした。痛覚受容体は皮膚・粘膜にくまなく存在します。トウガラシを食べたときに、舌が感じていたのは辛さではなく痛みだったのです。
それを脳は辛さや熱さと感じていたのでした。また、体を温めるにはショウガがいいとよくいいます。ショウガ湯を飲んで体が温まったと感じるのもTRPチャネルのせいです。
このように、「トウガラシやショウガで体が温まる」と私たちが感じていたのは錯覚で、痛みだったということになります。また、ラーメンを汁まで飲み干すと汗をかきます。これは熱い汁を飲んだから体温が上がったのではなく、栄養素を消化分解するとき、エネルギーを消費して熱を発しているのです。
これを「食事誘発性熱産生」といい、冷たいものを食べても体温は上がるのです。逆に温かくてもただのお湯の場合は、エネルギーを生まないので体温は上がりません。体を温めようと何か特別なものを飲食することに意味はない、と私は考えます。
■水シャワーでミトコンドリアモードになる
水シャワーで体表温を完全に冷やす必要はありません。ブルッと体が震えればOK。一瞬でも首筋に冷水がかかれば、体がぽかぽかしてきます。
これは脳の体温調整中枢が首筋にあるからです。寒いときに「頭寒足熱」をおすすめするのも、この首筋の体温調節中枢に寒冷刺激を与えて深部体温を上げるという意味です。
体温調節中枢が働けば、ミトコンドリアモードになり、酸素とともに内臓脂肪が燃えて深部体温が上がる仕組みです。
ただ、水シャワーをする勇気をなかなか持てない人もいると思います。冬はヒートショックの心配もあります。ヒートショックとは、気温の変化によって血圧が乱高下げし、心臓や血管の疾患を引き起こすこと。とくに10度以上の温度差のある場所に移動したときには注意が必要です。
冬は脱衣所や浴室をあらかじめ温めておきましょう。また、高齢の人、心臓や血管に病気のある人、糖尿病の人、そして冷たい水をかぶる勇気が出ない人は無理せず、次に紹介する簡易的な方法「プチ水シャワー」を行ってみてください。
まずは湯上がりに、ひじから先、ひざから下にシャワーで水をさっとかけます。次に、その水で手ぬぐいやタオルを絞って、全身を拭きます。この方法でも寒冷刺激を加えられます。そうして体をだんだんと水シャワーに慣れさせていくとよいと思います。
冬になると、手足が冷たくて眠れなくなる人は、ベッドに入る前に風呂場で足首と両手に水をかけてみてください。その後、乾いたタオルで乾布摩擦すると、足が冷えなくなるはずです。
または会社に出かける前に、風呂場で足首と両手に水をかけてみてください。足がぽかぽかするはずですよ。
■ブルッと体が震えればOK
ドクター南雲の水シャワー実践法
①シャワーで、ぬるま湯を背中からかける。
②温度を下げて、背中にシャワーをかける。
③ぐっと温度を下げて、頭からシャワーをかける。
ブルッと体が震えたら、体の内部で熱が産生され始めた合図。体を拭きながら、全身がぽかぽかする感覚を楽しもう。
プチ水シャワーの実践法
①ひじから先、ひざから先にシャワーで水をかけて手足を冷やす。
②冷水で絞った手ぬぐい(タオル)で全身を拭く。
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医学博士 乳腺専門医/ナグモクリニック総院長
1955年生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京女子医科大学病院、東京慈恵会医科大学附属病院を経て、ナグモクリニックを開業。著書に『「空腹」が人を健康にする』など。2019年、鎌倉・稲村ヶ崎に自らがプロデュースする「日本料理 吟」をオープン。
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(医学博士 乳腺専門医/ナグモクリニック総院長 南雲 吉則)
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