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「チケット以外は何をどんな値段で転売してもいい」日本の法律が"転売"の規制に踏み込めないワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月1日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ARMMY PICCA

日本でチケット以外の転売が原則規制されていないのはなぜなのか。弁護士の小林航太さんは「ライブ会場の席数は増やすことはできないが、商品は供給量を増やすことができる。また日本には『契約自由の原則』があり、チケット以外の転売そのものを規制するのは難しい」という――。(第1回)

※本稿は、小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

チケット不正転売禁止法 第1条(目的)

この法律は、特定興行入場券の不正転売を禁止するとともに、その防止等に関する措置等を定めることにより、興行入場券の適正な流通を確保し、もって興行の振興を通じた文化およびスポーツの振興ならびに国民の消費生活の安定に寄与するとともに、心豊かな国民生活の実現に資することを目的とする。

■チケット以外の転売は違法ではない

問題視されることの多い転売ですが、一部の例外を除き、違法ではありません。転売を禁じているチケット不正転売禁止法は、映画やライブ、スポーツなどのチケット(電子チケットを含む)で、興行主の事前の同意のない転売を禁止する旨が明記されているなど、一定の要件を満たすもののみを対象としています。

物の転売に関しての規制はなく、iPhoneやゲーム、グッズなど、チケット以外の物の転売については、いまのところ法律で禁じられていません。ただし、中古品の転売ビジネスをするには古物商許可を得る必要があります。

チケット不正転売禁止法が制定されるまで、チケットの転売行為は、各都道府県の迷惑防止条例上のダフ屋行為にあたる行為のみが禁止されていました。チケット不正転売禁止法による規制は、ダフ屋行為の規制とは内容が異なっています。

■チケット転売が「不正」とされる3つの要素

チケット不正転売禁止法において、不正転売とは、「①興行主の事前の同意を得ていない、②業として行う有償譲渡であって、③元の販売価格を超える価格にしているもの」と定義されています。不正転売として禁じられているのはこれらすべてを満たす転売のみですから、「どうしても行けなくなったので譲ります」というような転売や、元の価格以下の価格での転売、無償譲渡は問題なく可能です。

また、不正転売以外に禁止されているのは、「不正転売を目的として」チケットを譲り受けることのみです。自分が楽しむ目的であれば、高額で不正転売されているチケットを、不正転売されていることを知ったうえで購入しても、少なくともチケット転売禁止法違反にはならないことになります。

「業として」とは、「反復継続の意思をもって」転売を行うことを指します。これは転売を生業にしている事業者に限りません。個人であっても、たとえば、チケットの座席指定ができない公演で、希望する位置の座席を確保する目的でチケットを大量購入したうえで、自分が使うチケット以外のチケットを転売する場合は、商売を目的にしているわけではありませんが、同様の行為を繰り返し行っていて、転売による収益を得ていれば、転売を反復継続の意思をもって行っている、つまり「業として」行っているものと判断される可能性があります。

コンサートのチケットを転売しようとする人
写真=iStock.com/cmannphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cmannphoto

■チケットの転売だけが法律で規制される理由

不正転売をしたり、不正転売を目的にチケットを入手した場合、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその両方が科されます。2020年には6件が検挙されています。

検挙された例を見ると、2020年に横浜DeNAベイスターズのチケットを転売した事件では、フリマサイトを通じて計95枚が転売され、その売上は100万円以上にのぼりました。また、2019年の嵐のチケット転売事件では、10公演、17人分のチケットが元の価格の約8~15倍の値段で転売されています。

この法律は、高額な転売によってチケットの適正な流通が妨げられることを阻止し、文化やスポーツの振興、消費生活の安定に寄与するという目的で定められました。なぜチケットなのかというと、たとえばライブでは、会場ごとに決まった座席数しか用意できませんから、チケットを販売できるキャパシティーは限られています。他方、商品の場合、供給する側が供給量を増やすことも可能です。このような意味で、チケットについては転売を規制する必要性が大きいと言えます。

■100円のものを1000円で売るのも、そんな値段で買うのも自由

法律的には許されているといっても、やはり人気グッズや商品の転売は許しがたいと思う人が多いでしょう。

民法には、「契約自由の原則」があります。これは、人が結ぶ契約は、公の秩序や強行法規に反しない限り、当事者が自由に締結できるという民法上の基本原則です。当人たちが合意してさえいれば、100円で買ったものを1000円で売るのも自由ですし、中にはそんな価格でも購入したい人がいます。人気商品や品薄商品の転売を規制するということは、そうした私人間の、本来自由な取引を法律で規制するということになりますから、規制をするには規制の正当性を根拠づける十分な理由が必要になるはずです。

グッズなどの転売は大きな社会問題にもなっており、最近では販売者が購入希望者に対して商品に関する質問をして、答えられない場合は販売を拒否するなど、販売者側が転売を防止するための策を講じるケースも見られるようになりました。しかし、契約自由という大原則との関係で、このような個別の対応に委ねることを超えて、転売一般について一般的な規制をすることには消極的にならざるをえないのが現状ではないかと思います。

コロナ禍でマスク・アルコール消毒製品の転売が一時的に規制されたのは記憶に新しいですが、これが許されたのは、コロナ禍での国民生活を守るという重要な目的があったからでした。

古着や古本などの古物の売買は、それじたいが物の流通を促進しているものであり、チケットや人気商品の転売とは異なります。中古ゲームソフトの販売が著作権法違反にあたるか争われた事件があります。この事件では大手ゲームメーカー6社が、頒布権の侵害を理由に中古ゲームソフト販売店などを運営する企業に対し、中古ゲーム販売の差止めと廃棄を求めていました。

2002年に最高裁は、ゲームソフトじたいは映画の著作物と認めてゲームメーカーの頒布権を肯定しつつも、ゲームメーカーが最初に対価をもらってゲームソフトを譲渡した時点で頒布権が消えると判断しています(最判平成14年4月25日判例時報1785号9頁)。もし中古ゲームにもゲームメーカーの頒布権が残るとしたら、譲渡するたびにゲームメーカーにお金が入ってしまいますから、妥当な判断と言えるでしょう。

■転売チケットでよくあるトラブル

最後に、転売についてよくある質問を一つご紹介しましょう。

小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)
小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)

【Q】どうしても行きたかった推しのライブ。フリマサイトで転売されているチケットを購入しました。しかし当日会場に行ったものの、主催者に禁止されている転売チケットであることを指摘され、入場できませんでした。売主に返金を求めましたが返してくれません。

【A】お金を振り込んだがチケットが届かないなど、チケット転売のトラブルは後を絶ちません。特に規約に定めがない限りは、公演の主催者には基本的に返金を求めることは難しいでしょう。

そうなると売主に返金を求めることになりますが、個人と個人の取引でチケットが転売された場合、転売を理由に入場を拒否されたとしても、返金の義務はありません。この事例では「転売は禁止されていない」と売主が嘘をついていたなどの事情がない限りは、詐欺にはあたりません。

弁護士に相談してもよいですが、費用を取り返すのは簡単ではなく、費用倒れになる可能性もあります。慎重な取引を心がけ、自衛することがなによりも大切です。

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小林 航太(こばやし・こうた)
弁護士(神奈川県弁護士会所属)
2012年東京大学法学部卒業。2016年首都大学東京法科大学院修了(首席)。2016年司法試験合格。2017年弁護士登録(第70期)。2019年法律事務所ストレングス設立。趣味はコスプレとボディメイキング。

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(弁護士(神奈川県弁護士会所属) 小林 航太)

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