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心筋梗塞、脳卒中、認知症…「痛くないから大丈夫」と歯医者に行かなかった人の老後に待ち受ける悲劇

プレジデントオンライン / 2022年11月29日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

「オーラルフレイル」(口腔機能の衰え)は、食べ物を噛んだり飲み込んだりする機能が低下するだけでなく、全身の健康状態に大きな影響を与えることがわかってきている。産業医の池井佑丞さんは「歯の健康が、糖尿病や心臓病、脳卒中、認知症の引き金になったり悪化させる要因になったりすることがわかっている。『歯医者は、歯が痛くなってから行くもの』という考えはあらためたほうがいい」という――。

■「オーラルフレイル」対策と健康寿命

日本が高齢化社会と言われるようになって久しいなか、ご自身やご家族の健康寿命をできるだけ延ばしたいとお考えの方が多いのではないでしょうか。

健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことで、2019年の統計によると、男性は72.68年、女性は75.38年となっています(第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料3-1健康寿命の令和元年値について「健康寿命の推移」 )。国も健康寿命を延ばすことを重要な課題と位置付けており、健康な状態と要介護状態の中間である「フレイル」への対策の必要性を指摘しています。

フレイルとは、fraily(虚弱)の訳語です。加齢により身体・認知機能などが徐々に低下するのは避けられません。ですがフレイルは、まだ自分の意志でコントロールができる自律性があり、この段階で適切な対策をとれば健康な状態に戻ることができます。

フレイルはさまざまな要素が関係して進行しますが、食べ物を噛む(咀嚼)機能や飲み込む(嚥下)機能の低下は、全身のフレイルの前兆として捉えられており、特に口腔機能に着目したフレイルは「オーラルフレイル」と呼ばれています。

■高齢者の社会的孤立にもつながる

オーラルフレイルを理解する際に大事なのは、オーラルフレイルという概念の範囲が単に口腔内の衰えだけを指すのではないことです。

口腔内の衰えといえば、直接的には噛めないことや飲み込めないことをイメージすると思いますが、食事の際にむせる、滑舌が悪くなることも口腔の衰えに該当します。これらが積み重なると、食べられるものが減ったり、食事を敬遠してしまったり、コミュニケーションをとることが億劫になったりしますが、こうした間接的な影響もオーラルフレイルに含まれます。

そして、十分に食事がとれないことで栄養が偏ったり、身体活動量が減りサルコペニア(筋肉量の減少)が進行したり、精神的な落ち込みが生じたりするなど、社会的に孤立する原因ともなります。咀嚼する力が衰えると、あごを動かさなくなるので刺激が減って、脳への血流が減少し、認知機能の衰えを加速させることも指摘されており、さらにフレイルが進行するという悪循環に陥ります。つまり、オーラルフレイルは高齢者の社会性低下の入り口にもなるのです。

高齢者2044人を45カ月間調査したところ、口腔内が健常な人と比べてオーラルフレイルの人は、要介護認定となった率が2.45倍、死亡については2.09倍となりました。また、身体的フレイルになった確率は2.41倍、サルコペニアは2.13 倍でした(東京大学 田中友規、飯島勝矢ら. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018)。

■「歯医者は悪くなってから行くもの」では危険

前述の通り、オーラルフレイルは噛めないなどの口腔環境が引き金となりますから、健康な歯を維持することが予防の第一歩だといえるでしょう。

厚生労働省の統計で日本の歯科検診受診状況を確認してみます。2016年度の調査では、20〜49歳までの歯科検診受診率は50%を下回っています。特に男性の受診率が低く、20代では37.8%、30代では36.6%、40代では44%となっています(厚生労働省 平成28年国民健康・栄養調査)。

最近では予防歯科という言葉も浸透してきていますが、依然として「歯医者は悪くなってから行くもの」と考えている方も多いようです。ですが、定期的に歯科検診を受けメンテナンスを続けた方と、症状のある時のみ受診した方とでは、将来の残存歯数に大きく差が出ることもわかっており、良好な口腔環境を保つためには定期的な受診が望まれます。

■歯を失う原因、虫歯と歯周病

日本人が歯を失う原因の多くは虫歯と歯周病です。虫歯、歯周病はどちらもプラーク(歯垢)のなかに含まれる細菌が原因となります。

虫歯は、プラークに含まれる虫歯菌の作り出す酸が歯の表面のエナメル質を溶かすことから始まる歯の病気です。周りの健康な歯に影響が出る、修復が困難であるなどと判断された場合には抜歯に至ることもあり得ます。ですが、日々の歯磨きでしっかりとプラークを除去すること、虫歯菌の栄養となる糖分の摂取を控えることなどで予防できる病気でもあります。

歯周病は、歯周ポケットにたまったプラークに含まれる歯周病菌が引き起こす歯茎の病気です。歯周ポケットの深さが4ミリ以上となると歯周病の疑いが出てくるとされています。軽度の場合は歯肉炎(歯茎の腫れや出血が見られます)、病気が進行すると口臭が強くなったり歯茎が下がって歯が長く見えたりするようになります。歯茎から膿が出る・歯がぐらつくなどの重度歯周病の症状が出るようになると歯槽膿漏(のうろう)とも呼ばれます。

重度歯周病にまで進行すると、影響は歯茎だけにとどまらず、歯を支える骨(歯槽骨)にまで及びます。歯周病の症状である歯のぐらつきは歯周病菌が歯槽骨を溶かすために生じ、最終的には歯が抜け落ちることとなるのです。

歯周病は、口腔内の疾患ではありますが、実は口の中だけの問題ではありません。多くの全身疾患や症状の原因となることもわかっています。そうした例をいくつかご紹介します。

・歯周病が糖尿病を悪化させる

以前から、糖尿病患者が歯周病を合併することが多いと言われていましたが、最近では糖尿病と歯周病は相互に関係していることもわかってきました。体内に入り込んだ歯周病菌が、インスリンの働きを阻害するため、血糖値のコントロールができなくなり、糖尿病を悪化させます。歯周病の治療が糖尿病の改善につながることも判明しています。

・歯周病が心疾患の引き金に

歯周病菌は動脈硬化を悪化させる要因ともなります。動脈硬化は血管が硬くなったり、コレステロールなどの塊がたまったりすることで血管が狭くなりますが、血管に入り込んだ歯周病菌がこれらを進行させます。血管が詰まると、狭心症や心筋梗塞など、命に関わる心疾患を引き起こします。

・脳卒中のリスクも高めてしまう

歯周病菌が血管に入り込み、脳内に移動することで、脳卒中のリスクを高めることもわかっています。脳卒中には、脳の血管が破れる脳出血、血管が詰まる脳梗塞がありますが、これらは心疾患同様、動脈硬化によって起こります。歯周病が、脳内の動脈硬化を悪化させてしまうのです。歯周病患者が脳卒中を発症するリスクは、歯周病がない人の1.48倍〜2.63倍との報告もあります(和泉雄一、青山典生「歯周病と脳卒中の関連」脳卒中36: 374–377, 2014)。

・歯周病は妊婦にもリスク

妊娠中の女性に歯周病がある場合、早産や低体重児出産のリスクが高まることがわかっており、そのリスクは歯周病がない妊婦の2.83倍に上るとのことです(Preterm low birth weight and maternal periodontal status: a meta-analysis. Am J Obstet Gynecol. 196(2):135. 2007 Feb.)。歯周病による早産リスクは、他の代表的な危険因子である飲酒や喫煙の約7倍とも言われています。妊娠中はホルモンの影響で歯周病になりやすい点にも注意が必要です。

・歯が少ないほど認知症になりやすい

最近ではアルツハイマー型認知症の発生に関与するアミロイドβ蛋白の蓄積・増加に歯周病菌が関係していることがわかってきました。マウス実験では、歯周病菌を投与したマウスのアミロイドβの受容体が増え、認知症の症状を示したそうです。アルツハイマー型認知症患者の脳内から歯周病菌が検出されたという報告もあり、人においても歯周病菌がアミロイドβの蓄積を増やすことが示唆されています。

歯の本数と認知症リスクの研究も行われています。歯が20本以上残存している人と比べて、10〜19本の人では1.11倍、1〜9本の場合は1.34倍認知症のリスクが高いことなどが示されています(「歯数とアルツハイマー型認知症との関連で日本歯科総合研究機構が論文を発表」日本歯科総合研究機構 2021年5月27日 )。別の研究では、アルツハイマー型に次いで発症の多い脳血管性型認知症についても、歯の残存数が少ないと発症リスクが高まることが報告されています。

■30代以上の3人に2人が歯周病に

歯の喪失は高齢になってからの問題と感じている方も多いでしょう。しかし、失った歯がある人の割合は30歳未満では10%を下回りますが、年齢とともに徐々に増え、40〜44歳では31.1%、45〜49歳では41.1%の人が歯の喪失を経験しています(厚生労働省 平成28年 歯科疾患実態調査結果の概要)。30代以上の3人に2人が歯周病に罹患(りかん)しているとも言われており、歯の喪失は思ったよりも身近なものと考えた方が良いでしょう。

歯科にて治療を受ける女性
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

■日々の歯磨きだけでは不十分

虫歯や歯周病は初期段階では自覚症状がない場合が多く、症状が出る頃にはかなり進行しています。予防には日々の歯磨きでプラークを落とすことが必須ですが、歯ブラシではなかなか全てを落としきれませんし、歯周ポケット深くに入り込んでしまったものには届きません。そして歯磨きで取り切れずに残ったプラークは、次第に歯ブラシではとれない歯石となってしまいます。

歯科定期検診では一般的に、歯周ポケットの深さを測ったり、歯石除去のクリーニングを行ったりします。そのため、定期的な検診は歯周病リスクの早期発見、早期治療につながるのです。年に2回は歯科検診を受け、ご自身の口腔環境をチェックすることをおすすめします。

若年層や中年層の方は、「オーラルフレイルは高齢になってからの問題であり、今はまだ関係がない」と感じるかもしれません。しかし、若い時の習慣の積み重ねが、将来のフレイルにつながります。ぜひ自分の問題として捉え、「口の中の健康」へのリテラシーを高めて健康な歯を維持していただきたいと思います。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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