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試合はおまけ、メインはオーディション…そんな格闘イベント『BreakingDown』が抱える本当の問題点

プレジデントオンライン / 2022年11月28日 15時15分

BreakingDownオフィシャルページより

格闘技イベント「BreakingDown」の注目度が高まっている。YouTubeの関連動画再生数は累計で1億回を超える。コラムニストの木村隆志さんは「参加者を決めるオーディション動画が人気を高めている。いわば試合は『おまけ』で、メインがオーディション。無名選手が成り上がる人間ドラマが視聴者を熱狂させている」という――。

■「格闘技ごっこ」「地下格闘技の劣化版」などの批判も

話題性では、「すでにネットコンテンツ屈指」と言ってもいいだろう格闘技イベント「BreakingDown」。

発起人であり、スペシャルアドバイザーを務める総合格闘家・朝倉未来のYouTubeチャンネルはYouTubeの全動画最高レベルの再生数を誇る。また、大会のPPV(ペイ・パー・ビュー)の視聴人数も右肩上がりという。

一方で、武尊や青木真也ら人気格闘家たちが賛否の声を上げているほか、お騒がせ人物が次々に参戦したり、試合前の流血負傷トラブルが起きたり、出場者への誹謗(ひぼう)中傷が加熱したりなど、連日さまざまな話題を提供し、「社会現象か」という声も聞こえてくる。

確かに「1分1ラウンドで最強を決める」というコンセプトは斬新であるとともに、「映画やドラマを倍速視聴し、楽曲のイントロすら避ける」ほどせっかちになった現代人にフィット。「格闘技ごっこ」「地下格闘技の劣化版」などの批判はあるが、「格闘技や格闘家のありきたりなイメージを壊し続ける」という狙いが当たっているからこそライト層を引きつけているのだろう。

では「BreakingDown」の何が人々をそこまで引きつけているのか。また、いまだ「一過性のものだろう」「いつまで持つのか」と突き放す声が多い理由は何なのか。

■格闘技の素人でも楽しめる設定

ここまで反響が大きくなっている以上、人々を引きつけている理由は1つではないのだろう。

まずベースの部分として挙げておかなければいけないのは、駆け引きなどがほぼ排除された1分間の戦いは、単刀直入であるとともに、ルールの理解や格闘技知識が不要であること。この間口の広さはネット上でライト層をつかむ上で大きく、「BreakingDown」が既存の格闘技イベントに話題性で勝っている理由の1つだ。

しかもコアな格闘技ファンなら「1分では物足りない」となるところだが、「BreakingDown」には試合以上の楽しみがある。それは、成り上がりを狙う野心むきだしの姿、わずか1分で結果が出る明暗……。そこにエンタメ性とリアリティーが漂っている。

特に若年層ほど、「テレビは構成・演出が予定調和で面白くない。どうせ編集して無難にまとめるのだろう」などと思っているだけに、「BreakingDown」に引きつけられるのではないか。

また、出場者たちの中には、「コンプライアンスを求められるテレビには出ないアウトローたちが次々に登場して、本気の殴り合いを見せる」という希少さもある。実際、出場者は必ずしも「強ければ人気がある」というわけではなく、キャラクターやプレゼンによるところが大きい。さらに「キャラ設定に失敗している人を見て楽しむ」という見方の人すらいるなど、一流の格闘家ではないからこそ楽しめるところがあるのだろう。

■子どもには見せられないオーディション動画

そして「BreakingDown」が急激に話題性をアップしたのは、オーディション動画の人気爆発によるところが大きかった。

無名のアウトローや貧困などの苦境にあえぐ人が、一発逆転成功を狙ってオーディションに参加し、決死のアピールでチャンスをつかみ取り、わずか1分の試合で勝ち、自分の居場所を作る。さらに勝ち続けることで、SNSやYouTubeでの人気者になっていく……。

「罵倒合戦や乱闘は当たり前」のオーディションが動画配信されるようになり、この人間ドラマをよりディープに描けるようになった。そのイメージはヤンキー漫画の実写版のようであり、かつてTBSが放送していた『ガチンコ!』のようにも見える。現在の番組で言えば、「無名の人々による人間ドラマ」という意味で同じTBSの「SASUKE」に似たニュアンスがあるかもしれない。

BreakingDown6のオーディションの様子(YouTubeより)
BreakingDown6のオーディションの様子(YouTubeより)

その人間ドラマは、人間の業や愚かさを露悪的に切り取るスタイルが主流であり、「子どもには見せられない」ものが大半を占めている。

■試合は「おまけ」、メインはオーディション

実際、オーディション募集要項の“注意事項”に「選手として決定した方には、大会出場前にアタックムービー(いわゆるあおり動画)の撮影のご協力をお願いする場合がございます」という記述や、“選手専用エントリーフォーム”に「経験・実績」だけでなく「前科歴」という項目があった。

オーディションやアタックムービーは茶番にも見えるし、学びはほとんどないが、その悪さがあるからこそ「ついのぞき見したくなる」のではないか。

見る人が「自分もやってみたい」と思うか、「推し」を見つけて応援するか。熱狂や感情移入の仕方はそれぞれだが、試合を「おまけ」と言い切る人もいるほど、オーディションの重要度が増しているのは確かだ。

実際、オーディションをYouTubeで動画公開しはじめてからネット上が盛り上がり、「BreakingDown6のオーディションVol.4」は1100万回再生を突破している。それ以外でも、試合前後の対談動画などが軒並み200万回再生以上を超えていることも含め、「格闘技イベントでありながら試合の重要性がいい意味で低い」ことが最大の特徴と言えるのかもしれない。

■試合自体は極めてクリーン

もう1つ特筆すべきは、リスク管理を含めたバランス感覚の良さ。1分という設定は「現代人に合う単刀直入さがある」というだけでなく、「危険性を下げる」という意味でもバランスの良さを感じさせられる。

「応募資格 全人類」であり格闘技の素人でも参戦できるが、安全対策やルール設定などは万全。試合前のドクターチェックやルール講習が徹底されているほか、オープンフィンガーグローブ、ニーパッド、ファウルカップなどの規定は細部にわたる、さらに、頭突き、肘打ち、頭部膝打ち、後頭部打撃、グラウンドでの足打撃、ヒールホールドなどの反則行為にも厳格で、さらに「試合場内で口汚い言葉を吐く」ことも反則という。

つまり、オーディションの罵倒合戦や乱闘は目をそらしたくなるほどだが、クリーンな試合が期待できるということ。1分なら格闘技未経験者でもスタミナ切れせず、それなりに試合を成立させられるなど、そのコンセプトはやはりバランスがいい。

オクタゴンリングで戦う総合格闘技の選手二人
写真=iStock.com/janiecbros
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/janiecbros

■テレビ業界がうらやむワケ

そんな「BreakingDown」に対するテレビ業界の評価は想像以上に高かった。

テレビマンたちが「格闘技ごっこ」「地下格闘技の劣化版」などと一蹴できないのは、まずネット広告やスポンサーの獲得、PPV集客などの収益化に成功しているから。配信収入などのマネタイズがうまく進まず、視聴率の低下で落ちた放送収入をカバーできていないテレビ業界にとってはうらやましいところがあるのだろう。

また、「BreakingDown」のオーディションやあおり動画には、『ガチンコ』を彷彿させるような演出が見られる。これはテレビを踏襲した上で、ネットコンテンツ仕様にエスカレートさせた感があり、「アンチも巻き込んでムーブメントを生み出そう」という確信犯的プロデュース。「批判したくてたまらない人もけっきょく見ている」という状態は、テレビ業界から見たら「うまい」と言わざるを得ないものがあるのだ。

■深刻化する誹謗中傷

では、なぜ批判の声がやまないのか。ネット上のコメントを一つひとつ見ていくと、「くだらない」「茶番だ」などの感覚によるものではなく、正論のような声が目立つ。

「『不良の受け皿になっている』という意義はわかるが、格闘技や格闘家のイメージダウン」
「金儲けのために格闘技と暴力のボーダーをなくすのはよくない」
「対立をあおるのは良しとするにしても、もっと練習させないと重傷者が出るリスクがある」
「YouTubeで一般公開すると子どもの目にふれて、ごっこ遊びのケガやイジメにつながる」

どれもすぐに「BreakingDown」の勢いをそぐほどの説得力はないが、象徴的なのは、既存の格闘技イベントと比べて、技術レベルや見応え以外のところを批判していること。

そもそも「純粋な格闘技イベントとして見るのは無理があり、技術レベルや見応えが劣るのは当然」とみなす人が多いのだろう。ならば、既存の格闘技イベントを貶めるものではなく、収益性以外の部分では、むしろ相対的な好評価を得られるチャンスなのかもしれない。

■「BreakingDown」が抱える本当の問題点

本当の問題はここに挙げたイメージダウン、ケガ、イジメなどより、目先の利益を得るために、個人が消費される形の演出かもしれない。

現状、「BreakingDown」での活躍で世間的な成功を収めている人はいない反面、誹謗中傷問題が深刻化している。たとえば、「誹謗中傷が原因で命を落とす」など最悪の事態が起きても不思議ではない。

終始、「叩かれることもエンタメ」「すべて自己責任」というムードが漂い、個人が消費されるような現状に危うさを感じさせられる。

さらにその消費は出場者だけの問題だけでなく、見ている人々にも「もうこういうのは見なくていいかな」という気疲れを感じさせるかもしれない。

このあたりを放置せず改善していかなければ、「慣れた」から「飽きた」に変わるタイミングが早いのではないか。いずれにしても運営側の手腕が鍵を握っている。

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木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)

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