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高速道路を走り続ければ、警察には捕まらない…詐欺電話の「かけ子」がそれでも最後には逮捕されたワケ

プレジデントオンライン / 2022年11月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lzf

いわゆる「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺の実行犯とはどんな人物なのか。神奈川新聞の田崎基記者の著書『ルポ特殊詐欺』(ちくま新書)より紹介しよう――。(第1回)

■「約3カ月間、月から金までやって、約500万円」

青森、福島、群馬、新潟――。

「ずっと高速道路を走り続けるんです。そうすると、警察は電波を追えないから。たまにスマートフォンのSIMカードを川に捨てて、入れ替えて痕跡を消していきます」

木村航(仮名、逮捕当時22歳)は、2021年、特殊詐欺の指示役として窃盗と詐欺の罪で逮捕・起訴され、懲役3年執行猶予5年の判決を受けた。

逮捕、起訴されなかったが、実際には指示役だけでなく、詐欺の電話をかける実行部隊「かけ子」にも手を染めていた。淡々と具体的な手口を明かす。

「黙々と電話をかけ続けるのです。まるで普通の営業電話の仕事みたいですよ。3列シートのミニバンの中で、互いの声が聞こえないようにそれぞれ列に分かれて『作業』します。だいたい3人1組で、『班長』と呼ばれるまとめ役の指示に従います」

高速道路を走り続け、夕方になると地方都市のビジネスホテルに偽名で泊まる。月曜日から金曜日まで移動し続け、電話をかけ続ける。土日は自宅へ帰り、月曜日にまた集合し車に乗る。

「約3カ月間、毎週やり続けて報酬は総額500万円ほどでした」

捜査の網から逃れようとあの手この手を駆使し、証拠もことごとく隠滅していく。被害者宅を直接訪問する「受け子」やATMで現金を引き出す「出し子」といった実行犯の逮捕は捜査の端緒となることが多い。

■ホテルやコテージを短期間で転々とする

もう一つの大きな切り口となるのが、この被害者宅に嘘の電話をかける「かけ子」の拠点摘発だ。

嘘の電話は、詐欺グループにとって犯行の軸となる重要な中枢機能であり、かつ捜査機関にとっても最も叩きたい拠点と言っていい。だからこそ、捜査の網をかいくぐる方法が次々と編み出されていく。捜査関係者はこぼす。

「車のほかに、ホテルやウィークリーマンション、別荘地のコテージなどでも行われている。いずれも短期間で転々としていく。発信源を突き止めて、追い掛けてガサ(強制捜査)に入っても、既にいないというケースが大半です」

木村は、10代半ばから窃盗や詐欺を重ねてきた。バイク盗を繰り返し、15歳の時に初めて補導され、書類送検された。高校生になると間もなく、特殊詐欺の「受け子」を始めた。

ほかにも無銭飲食、詐欺、窃盗。鑑別所を出て1年足らずで再び逮捕され、少年院に送られた。しかし罪の意識は、限りなく薄かった。

「外に出れば、先輩や後輩がいるし」と笑う。

さらに犯罪を繰り返した。暴行、傷害、略取、監禁。再び逮捕・送検されたが不起訴になった。半年ほど前、特殊詐欺の指示役として有罪判決を受けたのは「脇が甘かった」と苦笑いを浮かべる。

■地元の後輩に仕事を紹介したことがきっかけ

逮捕のきっかけは、地元の後輩からの相談だった。

「金が必要なんです。『仕事』を紹介してもらえませんか?」

木村は、特殊詐欺の受け子と出し子を兼務する「仕事」を紹介した。通常、受け子や出し子の勧誘は、ツイッターなどのSNSを通じてリクルートし、指示役や詐欺グループのメンバーが直に接触することはない。末端は逮捕されやすく、捜査の手が及んでくるリスクが高いからだ。だが、木村のように地縁がきっかけのようなケースでは、逮捕された末端が取り調べに対し、紹介者を口にすれば、あっけなく身柄を押さえられる。

ソーシャルメディア用のアイコン
写真=iStock.com/DKart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DKart

木村は、心を許した後輩の依頼に応じたことを悔やむ。「しくじったって感じ。まぁ、起訴猶予になりましたし。次はパクられないようにしますよ」とまた苦笑いを浮かべた。「後輩に紹介したのがどの詐欺の案件だったか? そんなのもう忘れましたね。俺も、(組織の)上の人から『一番、二番を用意できるか?』と言われただけだし」

木村はあっけらかんと言ってはばからない。

「一番」とは、被害者宅を訪問しキャッシュカードや現金を受け取る「受け子」。「二番」がその被害品を一番から受け取り、キャッシュカードの場合はATMから現金を引き出して回収役に渡す「出し子」。その現金を回収したり運搬したりするのは「三番」、あるいは「ライダー」などと呼称されている。

特殊詐欺の指示役だった木村は、一~三番などを手配し、別の詐欺グループが被害者を騙した詐欺の案件と結び付ける手配役を担っていた。

逮捕された実行犯の後輩が木村との関係や居所を供述したのだろう。ある日、数人の警察官が自宅にやってきた。室内には「三番」から受け取ったばかりの札束が袋に入れられ、置いてあった。

■「健康食品の購入者リスト」で電話をかけていく

木村は2年ほど前、嘘の電話をかける「かけ子」をやった。その世界では「プレーヤー」と呼ばれる。

「上の人」から指示を受け、木村は関東地方の、あるターミナル駅に向かった。言われた通りの場所へ行くと、初対面の男が待ち受けていた。男はワンボックス車を指さし、「これに乗って」と言った。

「乗り込むと、スマホを渡されました。その画面には個人名、住所、電話番号が記載されたリストが表示されていました」

車の中でテキストメッセージを入力するビジネスウーマン、手をクローズアップ
写真=iStock.com/BitsAndSplits
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BitsAndSplits

リストのヘッダーには、誰もが知る健康食品の商品名があった。テレビCMなどで大々的に広告が打たれているあの商品だと木村はすぐに分かった。そしてそのリストが、その健康食品の購入者一覧表だと気付いた。ほかにも、ある雑誌の購読者リストや、通販商品の購入者リストなど、さまざまな「リスト」が手元に送られてきた。

木村を含め乗り込んだのは3人。車が走りだした。

「その日に電話する相手は既に絞り込まれていました。対象者の住所の近くに『一番』『二番』を配置しておくわけです。その調整を担当していたので、全体像は分かります。騙す電話の会話が始まるのと同時並行で、現場の一番、二番の人間を適宜、動かしていました。そうした細かい手配は車の中のまとめ役である『班長』が担当します」

■「俺はもう真面目に稼いでますから」と語るが…

「かけ子はきついからもうやらない」

数々の特殊詐欺の現場を踏んできた木村は、淡々とした口調で語る。

「かけ子をやることを『ハコヅメになる』って言うんですけど、短期間でも数週間は拘束されるし、やっぱり高齢者を騙すので、普通に心が痛みますよ」

田崎基『ルポ特殊詐欺』(ちくま新書)
田崎基『ルポ特殊詐欺』(ちくま新書)

かけ子をやった3カ月間で数千万円規模の被害を生み出し、約500万円の報酬を手にしたという木村。かけ子の罪では木村に捜査の手は及ばなかったが、その時に直接の実行犯として動いた「受け子」と「出し子」が逮捕された。

「知り合いでもない受け子だったので、別になんとも思いませんけど。ただ、最近は末端が次々と逮捕されてしまうので、一番、二番が決まりにくくなっています。人が確保できなくて、案件が刺さっている(騙された人はいる)のに、流れる(実行できない)ケースも少なくありません。売上(被害額)は確実に落ちてるので、別の稼ぎ(詐欺)が生まれるでしょうね」

どこか他人ごとのように話し、「俺はもう真面目に稼いでますから」と笑う木村。その手は、3台のスマホを器用に操っていた。合計7台を「いまは」使っているのだという。自分名義のスマホは1台で、ほかは全て他人名義の「飛ばし携帯」か、プリペイド式のSIMカードが入れられているスマホ。会話をしながらも指先は絶えず動き続け、「誰か」とのやりとりが途絶えることはなかった。

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田崎 基(たさき・もとい)
神奈川新聞記者
1978年生まれ。神奈川新聞デジタル編集部、報道部遊軍記者、経済部キャップ、報道部(司法担当)を経て、現在報道部デスク。憲法改正問題、日本会議、経済格差問題、少子高齢化問題、アベノミクス、平成の経済などを担当し、取材を続けている。参画した神奈川新聞『時代の正体』取材班が、2016年度JCJ賞受賞。著書に『令和日本の敗戦』(ちくま新書)、共著書に神奈川新聞取材班著『時代の正体(Vol.1~3)』(現代思潮新社)、塚田穂高編著『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房)ほか。

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(神奈川新聞記者 田崎 基)

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