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従業員にも広告主にも見限られた…「ツイッターはもう倒産するしかない」と指摘されている理由

プレジデントオンライン / 2022年11月25日 18時15分

ノルウェーのスタヴァンゲルで開催されたOffshore Northern Seas(ONS)会議のディスカッションフォーラムに出席したイーロン・マスク氏=2022年8月29日 - 写真=EPA/時事通信フォト

■イーロン・マスクが公言したTwitter社の倒産リスク

イーロン・マスク氏が買収したTwitterは、どこへ向かおうとしているのか。皆に愛され自由なつぶやきが飛び交っていた一大プラットフォームは、急速にその優位性を失いつつある。

二転三転した買収劇を経て、マスク氏の新体制下で新たな飛翔(ひしょう)を試みている青い鳥。しかし、万年赤字という体質からの巣離れを試みる取り組みに対し、古くからのユーザーはもとより従業員や広告主らまでもが新体制に疑問の目を向けるようになった。

マスク氏は収益の確保を急ぐべく、買収の完了後、早々に従業員の締め付けに着手した。ほぼ予告のない大規模なレイオフ、週80時間労働の推奨、従順でないエンジニアの解雇、そしてリモートワークの廃止に福利厚生の一部撤廃など、10月末の買収完了からわずか1カ月ほどで社内に激震が走る。

従業員を奮起させたいマスク氏は、ついには倒産の可能性を匂わせるレターを従業員宛に送付した。これをきっかけに米メディアは、Twitter倒産のリスクについて活発に議論するようになっている。

こうしたなか、そもそも同社の財務状況の悪化は、むしろマスク氏自身の突飛な買収騒動によって引き起こされたのではないかとの議論が現地では噴出している。さらに興味深いことに、むしろ倒産はマスク氏にとって好都合だと指摘する専門家も現れた。

2006年のサービス開始以来、とりとめのないジョークから政治論までを交わせる自由なプラットフォームとして愛されてきたTwitter。唐突に登場した新オーナー・マスク氏の采配次第では、倒産も現実的なシナリオのひとつとなりかねない。

■従業員、広告主のツイッター離れが止まらない

マスク氏のねらいは、収益体質への急速な転換だ。氏はこれまでにもスペースXの打ち上げ失敗やテスラの生産問題などを通じ、倒産の瀬戸際を歩んできた。米ニュース専門局のCNBCは2021年11月、マスク氏がスペースXの従業員に送ったレターを入手している。

このなかで氏は、同社計画の中核を担うラプター・エンジンの製造ペースを向上しなければ、スペースXは「まぎれもない倒産のリスクに直面する」と明言している。これ以前にはテスラでも生産ペースが向上せず、野外に巨大なテントを張って生産ラインとした苦い過去がある。自身も机の下で寝泊まりしながら対応に当たったとの逸話はあまりにも有名だ。

こうした危機を経験しているマスク氏だけに、資金繰りへの警戒感は強い。Twitter買収と同時に繰り出した収益改善策も、ある意味では過去の反省に立った合理的な判断だと捉えることができる。

だが、有償サブスクリプション「Twitter Blue」の促進を中核に据えたこの戦略は、少なくとも現在のところ混乱と不信を招くに終始している。

偽アカウントに公式マークが付与されるなど、プラットフォームの信頼性を揺るがす失態が短期間に相次いだ。ブランドイメージの毀損(きそん)につながりかねないとして、広告主たちはこぞって広告の出稿を引き上げはじめている。

■売り上げ至上主義への転換

さらに、買収完了からわずか1週間後の時点ですでに、全従業員の約半数にあたる3700人のレイオフが実施された。将来的には全従業員数の4分の3に達するともいう予測に社内は震え、米サンフランシスコ・マーケットストリートに面した本社内には不安と怒りが渦巻く。

マスク氏は初出社時、「よく考えよう」という意味の「Let that sink in」を「シンクを部屋のなかに入れてあげよう」と誤解釈したネット上のジョークになぞらえ、洗面台をひっさげて本社のドアをくぐった。陽気なジョークを飛ばす氏に対し、従業員の視線は冷たい。

ユーザー側が離れる懸念も出てきた。有料ユーザーのツイートを優先表示する姿勢まで打ち出したマスク体制の売り上げ至上主義に、これまで自由な発言の場を愛してきた人々がどこまで追従するかは不透明だ。

■従業員向けレター「今後の経済的見通しは悲惨」

逆風が吹き荒れるなか、輪をかけてTwitterへの信頼を揺るがしたのが「倒産」発言だ。マスク氏は買収完了の2週間後、従業員に向けたレターを通じ、Twitterに倒産のおそれが迫っていることを認めた。

また、ニューヨーク・タイムズ紙は複数の匿名の従業員の証言として、マスク氏が11月10日の会議において「Twitterには生き残りに必要なだけのキャッシュがない」と従業員に警告したと報じている。氏はさらに、従業員に宛てたレターを通じ、「今後の経済的見通しは悲惨」であるとの認識を示したという。

ロイターがブルームバーグの報道を基に伝えたところによると、マスク氏は11月10日に送信したレターのなかで、広告収入の減少を補うためにはサブスクリプションによる収益を向上する必要があると説いている。

これが不可能な場合、Twitterは「来るべき景気悪化を乗り切る」ことはできないだろうとマスク氏は述べ、会社存続に危機感を示した。

米有力テックメディアのアーズ・テクニカは、「マスクはTwitter従業員に対し、来年Twitterは10億ドル単位の損失を生み出すおそれがあり、倒産は起こりえる事態だと語った」と報じている。

記事はこの発言を念頭に、「イーロン・マスクがオーナーとなってからわずか2週間で、Twitterへの信頼は過去最低となるかもしれない」との厳しい予測を示した。

サンフランシスコのTwitter本社
写真=iStock.com/Sundry Photography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sundry Photography

■「恐怖戦術」にすぎないとの見方もあるが…

Twitterが実際に倒産に至る可能性はあるのだろうか? 発言は危機感をあおるパフォーマンスにすぎないと切り捨てる見解がある一方、米メディアの一部には、現実的なシナリオだと解釈する向きもある。

ブルームバーグは、従業員を締め付けモチベーションを高めるための「恐怖戦術」にすぎないとの見方を示している。赤字を垂れ流しつつも安穏と過ごしてきた社内各部署に対し、発破をかけるねらいがあった公算は高い。

記事はマスク氏がすでに、リモートワークの廃止や無料の食事特典の打ち切りなど待遇面を変革しつつあると振り返る。さらに、「いずれにせよマスクは、従業員のモチベーション向上という表向きの理由の下、Bワード(『あの野郎』などと訳される罵り言葉)を多用することで知られていた」とも述べ、独特の生産性向上術を使う人物であるとも明かした。

倒産の危険性を匂わせる今回のレターも、こうした従業員管理術の一環という側面は否めないだろう。

■利益を生み出さない赤字体質

しかし一方で、現状を放置すれば倒産に至ることも十分に考えられる。

Twitterは世界で最も知名度の高いソーシャルメディアのひとつでありながら、これまでほとんど利益を生み出していない。ニューヨーク・タイムズ紙は、過去10年間のうち8年間で赤字を計上していると報じている。

こうした状況にもかかわらず、これまでであれば、Twitterの倒産危機といった話題を耳にすることはほとんどなかった。米公共ラジオ放送のNPRは、むしろマスク氏の新体制下で状況が悪化したとみる。

記事は従来のTwitterを経営的側面から評価しながら、「さほどガツガツした企業というわけではなかった」と表現している。収支は時折黒字を計上する程度であり、純粋な収益という意味では好調とは言いがたかった。それでありながら、「Twitterに倒産の運命が迫っていると真剣に議論する者など、これまで誰もいなかった」との指摘だ。

■新たに背負った130億ドルの巨額負債

しかしマスク氏による買収を経て、同社の帳簿は著しく悪化した。同社の買収に充てた440億ドルという巨額の資金を捻出するため、マスク氏は自身が所有するテスラ株の一部を売却している。それでも不足した130億ドルは、Twitter社に負債として背負わせた。

NPRはこの負債が、2022年に同社が予想している収益の7倍に相当する額だと指摘している。このことから、「これはTwitterのような規模の企業にとっては、巨額の負債である」と記事は強調している。

さらに「これは実質的に(金利負担付きの)巨大なクレジットカードだ」とも指摘し、年間の利払いが10億ドルに達するとの事実も明かした。

記事によると、昨年Twitter社が利払いに充てたキャッシュフローはわずか6億ドル少々であった。新たに背負い込んだ10億ドルは「Twitterにとって問題だ」とNPRは憂慮する。

ブルームバーグも、倒産は現実的なシナリオのひとつだと捉えたようだ。「今後すぐに倒産となる可能性は低いにせよ、(従業員宛のレターで倒産の可能性を指摘した)彼のコメントを完全に無視するべきではない」と指摘する。

スマホに表示されたTwitterアプリのアイコンをタップするところ
写真=iStock.com/Wachiwit
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiwit

■米経営学者は「倒産は最善の選択肢」と指摘

Twitterを買収したばかりのマスク氏にとって、倒産という最悪の選択肢は是が非でも避けたいシナリオのようにも思われる。だが、実際のところマスク氏にとって、倒産は魅力的な選択肢のひとつとなる可能性がある。

NPRは、状況によってはマスク氏にとって倒産が「最善の選択肢」になるとの見方を報じている。

ハーバード・ビジネス・スクールのアンディー・ウー准教授は記事に対し、マスク氏にはまだ余剰の資金源があると指摘している。前提として、Twitterの資金がショートしそうな局面では、マスク氏は手元のテスラ株をさらに売却し、あるいは共同で投資している幹部グループに援助を請うことが考えられるという。

しかしウー准教授はまた、仮にマスク氏らがTwitterにそれ以上の資金を投入する価値がないと判断した場合、巨額の債務の支払いを逃れるうえで、「同社にとって倒産が最善の道」であると指摘する。

ウー准教授は、仮にTwitterが倒産手続きを行った場合、投資家らが同社の経営権を取得することになると説明している。ただしその場合も、マスク氏に経営の才覚があるとみなされる限り、マスク氏がCEOに留任し続けることも制度上は可能だ。

このシナリオではマスク氏はTwitter社の債務を清算しつつ、引き続き社のCEOとして指揮を執ることが可能となる。「破産によってマスクは負債を整理でき、社にとっては財務の安定性につながるでしょう」とウー氏は述べ、マスク氏は必ずしも破産の選択肢を恐れていないとの認識を示した。

■「マスク氏は損失の穴埋めにしか興味がない」

Twitterは世界で3億人以上ともいわれるアクティブユーザー数を抱えながら、ビジネスとしての収益確保に苦労してきた。米政治専門紙のヒルは、「Twitterは常に質の低いビジネスであり続けてきた」とまで指摘している。

有償サブスクリプション「Twitter Blue」で早急な黒字化を目指し、広告依存体質からの脱却を目指すマスク氏は一見、企業経営者として至極真っ当な働きをしているかにもみえる。

だが、視点を変えれば、不用意な買収発言により背負い込んでしまった「お荷物」企業の扱いに悩み、少しでも経済的損失を軽減しているにすぎない。その過程においてユーザーは混乱し、従業員は生活不安に陥っている。

Twitter社の従業員はニューヨーク・タイムズ紙に対し、雇用継続のため厳しい条件を突きつけられる従業員側の不満を代弁する形で、次のように打ち明けた。

「イーロンはTwitter買収という拘束力のある義務から逃れることに失敗し、損失を被りました。その穴埋めにしか興味がないのだということが(従業員冷遇の措置に)如実に表れています」

米空軍士官学校の士官候補生と写真を撮るイーロン・マスク氏(写真=Justin Pacheco/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)
米空軍士官学校の士官候補生と写真を撮るイーロン・マスク氏(写真=Justin Pacheco/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

■「トライアル&エラー」に振り回される従業員とユーザー

これまでTwitterは直接的な利益こそほぼ生み出して来なかったものの、将来性ある企業として一定の評価と安定性を築いてきた。そこへ突如マスク氏が現れ、買収の意向を示したり撤回したりと不安定な行動を繰り広げている。

認証バッジへの課金、Twitter Blueの月8ドルへの値上げ、そして将来的には無料ユーザーによるツイートの表示優先度を下げる意向であるなど、ユーザーへの影響も大きい。

当面のあいだは「まぬけなこと」を次々とやらかすと公言し、トライアル&エラーを繰り返す覚悟のマスク氏。テック界の寵児ともいわれる彼らしい方針だが、無計画で突飛な変更のたびに振り回される従業員とユーザーがいることもまた事実だ。

数カ月後のTwitterは果たして、「より良い場所」となっているのか、はたまた「倒産した企業」となっているのだろうか。もはや公共サービスにも近い公益性をもった巨大な議論の場の命運を、一人の男が左右しようとしている。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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