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時速198キロのモデルYが高校生らをひき殺す…テスラの「暴走事故」が世界中で批判を集める根本原因

プレジデントオンライン / 2022年11月26日 15時15分

2022年4月14日にカナダのバンクーバーで開催されたTED2022にて、A New Eraカンファレンスで、TEDの代表クリス・アンダーソンとのインタビューの中で話すテスラのイーロン・マスク氏。 - 写真=TED CONFERENCES/Ryan LASH/AFP PHOTO/時事通信フォト

■暴走事故、2日連続のリコールで高まる「テスラ不信」

テスラの不調が目立つ。EV市場の先端を快走してきた同社だが、リコール騒動に需要減退を受けた値下げ、そして車両の暴走とされる事故など、不祥事が相次いでいる。

リコールの発表は2日連続となっており、テスラの迷走を象徴するかのようだ。11月18日には助手席エアバッグが正常に展開しないおそれがあるとして、約3万台のモデルXのリコールを発表している。ロイターによると株価は3%の下落を記録し、2年来の安値となった。

翌11月19日には、同社は10倍規模のリコールを発表する。テールランプが点灯しない不具合を理由として、全米で32万台をリコールする展開となった。起動処理中にまれに故障を誤検知することで、ランプが断続的に点灯しない不具合が発生することがあるという。

同社はソフトウエア・アップデートで対応可能だとしているが、アメリカだけで32万台に影響する大きな不具合となった。同事象は海外でも報告されており、影響数はさらに膨らむとみられる。

安全性を担保するだけの技術力が不確かなまま、見切り発車で販売に踏み切ったともいえる。

■高校生が死亡、映像はツイッターで世界中に拡散

自動車開発に不具合はつきものとも言えるが、テスラの状況はより深刻だ。中国でテスラ車が暴走し、5人が死傷する事態が発生。中核となる自動運転技術に関し、信頼性に疑念が生じている。

11月5日の広東省で、停車を試みようとしたドライバーの意思に反し、モデルYが突如として高速走行を開始。およそ2キロにわたり高速での危険な運転が続いた。暴走車両に巻き込まれた一般市民2人が死亡し、3人が負傷している。

香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙は、街角の監視カメラが捉えた複数の映像を伝えている。ゆっくりと蛇行しながら路肩を出た車両は、たちまち加速。複数のカメラの画角を瞬時に横切っており、高速道のような速度で一般道を暴走している。

高校生の歩行者および三輪バイクの運転手に衝突し、2人は死亡した。車両は最終的に対向車を避けようとして姿勢を崩し、ドリフトしながら街角のゴミ溜めと店舗に突っ込むことで停止した。この様子を収めた監視カメラの映像は激しく揺れており、相当の衝撃があったことがうかがえる。

■最高時速は200キロ近くに

英サンデー・タイムズ紙は、問題の車両が最高時速198キロに達していたと報じている。55歳のドライバーは、ブレーキが利かなかったと証言しているという。また、警察の調査により、ドライバーは飲酒およびドラッグの影響を受けていなかったことが確認されている。

英メトロ紙によると、ドライバーは相当な恐怖を味わった模様だ。地元メディアによるインタビューの内容を基に、「ブレーキを何度も試しました」を訴えるドライバーの証言を報じている。

「元トラック運転手でしたので、坂道でブレーキが利かない場合の対処法は知っていました。ですので、車が暴走を始めると、直ちに衝突できるような障害物を探し始めたのです」
「そうしながらも繰り返しブレーキを踏み、機能が復帰して車を停車できるかやってみました」
「衝突場所のことを考えていましたが、ついにはスピードに追いつけなくなったのです」

一方のテスラ側は、ドライバーがブレーキを踏んだ形跡はないと主張し、車の不具合にまつわる「うわさ」を信じないようにと呼びかけている。同社の説明によると、監視カメラの映像ではブレーキランプが点灯しておらず、さらに同社の取得した内部データでもブレーキの使用は確認できなかったという。

インディアナポリスにあるテスラサービスセンター(2017年)
写真=iStock.com/jetcityimage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

■これだけではなかった自動運転技術の不具合報告

これだけならドライバーの操作ミスも疑われるが、テスラの自動運転に関する不具合の報告は続々と発生している。

メトロ紙は「テスラのハードウエア不良が原因で事故に至ったとして同社が非難されるのは、これが初めてのことではない」と指摘する。同紙はテスラのオートパイロットなど高度運転支援システムに関し、2016年以降、37件以上の衝突事故と計17人を巻き込む死亡事故を引き起こしてきた疑いがあると報じている。

こと中国では以前から、安定して走行することのできないテスラ車を「自殺用のおもちゃ」と揶揄(やゆ)する向きがあった。テスラ関連のニュースサイト「テスラ・ラティ」は、モデルXのブレーキが誤作動し時速100キロから突如60キロにまで減速したというオーナーがこのように呼び始めたと報じている。

テスラ中国の法務グループは、同オーナーを名誉毀損(きそん)で訴訟した。結果として勝訴しており、1万元(約20万円)の支払いと地元紙への公開謝罪文の掲載を勝ち取っている。

昨年の上海モーターショーでも一悶着(もんちゃく)があった。会場を訪れた女性が展示中のテスラ車のルーフトップに登り、ブレーキの不具合のせいで父が事故に遭ったと訴えかけた。

タイムズ紙によるとこの一件を経て、女性とテスラ側が双方を名誉毀損で訴えた模様だ。テスラは女性が「プロの」企てに加担していると主張したが、テスラと女性の双方が公開謝罪に追い込まれている。

■信頼性調査でトヨタが首位、テスラは…

自動運転技術への疑念が相次ぐテスラだが、経営上の懸念はほかにもある。

EVを主力とする同社だが、一方で少なくともアメリカ市場においては、ガソリンエンジンと電気モーターを併用するハイブリッド方式に対して高い信頼が寄せられているようだ。

米非営利団体が発行するコンシューマー・リポート誌による自動車信頼度ランキングにおいて、ハイブリッド車のラインナップを拡充している日系自動車企業が信頼性調査で上位を席巻した。一方のテスラは24ブランド中19位に沈んでいる。

同ランキングは実績ある番付であり、大規模な調査を基に毎年改訂されている。ここでの信頼性とは、予想される故障率の低さを示す。

今年は同誌会員から寄せられた30万台以上の自動車のデータを基に、17の分野におけるトラブルの発生率からブランドごとの主なモデルの安全性指標を算定した。過去のモデルの故障率を基に現行モデルの信頼性を推定し、予測信頼性スコアとして公開している。

ブランド別の信頼性順位は、首位から順にトヨタ、トヨタの高級ブランドであるレクサス、BMW、マツダ、ホンダとなっており、上位5位中4ブランドを日系が占めている。全ブランドの平均スコアが59ポイントという状況で、トヨタおよびレクサスは72ポイントという高い値をマークした。

高速道路を自動運転中の車内
写真=iStock.com/Aranga87
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aranga87

■EVの信頼性は「最も低い部類」

こうした上位ブランドは、実績あるハイブリッド・モデルに注力したことで高い信頼スコアを得たようだ。同誌は次のように分析している。

「今年の電動モデルにおける信頼性については、興味深い発見があった。(ブランドごとではなく)カテゴリごとに大別すると、ハイブリッドおよびプラグインカーが最も信頼の置ける部類となっており、その予測信頼性スコアは78ポイントに達する。なかでも、トヨタ カローラ ハイブリッド、プリウス、そしてプリウス プライム(日本名:プリウス PHV) プラグインハイブリッドなどが突出している」

一方、テスラが得意とするEVへの評価は低い。コンシューマー・リポート誌は、「より多くのEVが市場に出回るようになり、自動車企業らは生産ペースを拡大している。だが、バッテリーパック、充電システム、そして駆動系のモーターなどに問題を抱えている例がいくつか見受けられる」と指摘する。

テスラを名指ししているわけではないものの、EVという駆動方式上、信頼性において一般的にハイブリッドに劣る傾向にあるようだ。

米CNBCは本リポートを取り上げ、「EVは新技術であるため信頼性が低い」「従来型のフルサイズのピックアップトラックを除けば、バッテリー駆動のEVは(信頼性において)最悪のスコアを記録するセグメントとなった」と報じている。

■強気姿勢が一変、中国で1割近く値下げする事態に

需要の伸び悩みもテスラを苦しめる。強気の値上げを繰り返してきた同社だが、ついに需要の後退を受け、価格を見直さざるを得ない局面を迎えたようだ。

ニューヨーク・タイムズ紙は10月下旬、テスラが中国での販売価格を最大で1割近く引き下げたと報じた。モデルYの新価格は28万8900元となり、従来価格よりも9%値引きされている。モデル3は26万5900元となり、こちらは5%の値下げだ。

中国では多数の自動車メーカーがしのぎを削っており、テスラの存在感が必ずしも突出しているわけではない。また、こうしたメーカーは価格競争力を武器にEVモデルでヨーロッパ市場に殴り込みをかけるなど、海外進出を積極的に進めている。

テスラ値下げの報は、並み居る中国メーカーを前に同社が弱気の姿勢を示したとも受け止められたようだ。こうした動きは、時期をみては値上げ攻勢を繰り出していた過去のテスラと正反対の動向となる。

ニューヨーク・タイムズ紙は、「この値下げにより投資家たちのあいだでは、鈍化する経済成長と激化する競争を背景に、EV市場における同社の収益性および優位が脅かされたのではないか――との懸念が再燃している」と述べる。

米CNNは、今回の値下げに関する報道を受け、テスラ株が米株式市場の時間外取引で4%近く下落したと報じている。

■「走り出してから考える」というイーロン・マスクの非常識

失敗繰り返しながら前進する手法は、テスラを率いるイーロン・マスク氏の持ち味でもある。

氏が経営する宇宙開発企業のスペースXに関しては一時期、同社のロケットが自動着陸に失敗する映像が繰り返し報道されていた。一方、そのたびに同社は修正を加え、着々と技術力を高めた。失敗と批判を恐れない姿勢を強みとし、いまでは民間宇宙企業として一定の評価を築き上げている。

しかし問題は、失敗が即座に人命に関わるクルマ市場という戦場で、同じ手法が通用するかどうかだ。5人死傷した中国での事故がもしも車両不具合によるものであれば、「次はきっと成功する」といった弁明は通用しないだろう。

こうした安全性の問題を筆頭として、24ブランド中19位に甘んじている信頼度スコアや需要減退への対処など、課題は山積している。

幾度となく危うさが指摘されてきたテスラの経営は、ここへ来て大きな曲がり角に差し掛かったといえよう。マスク氏お得意の「まずは走らせてから問題に対応する」という見切り発車の手法が、大きなしわ寄せを生んでいる形だ。「走り出してから考える」で突進してきたテスラだが、ブレーキの利かなくなった暴走車両は、テスラの未来に警告を与えているかのようだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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