ついにEVとのガチンコ対決が始まった…トヨタ「新型プリウス」が燃費至上主義と決別したワケ
プレジデントオンライン / 2022年11月29日 9時15分
■4代目と5代目ではまったく違うクルマになった
みなさん、どう思われました? そう、11月16日に久々に国内で世界初公開された新型5代目プリウスです。
プリウスはご存じ日本のトヨタが世界に先駆けて生み出したエコカーのビッグネーム。ガソリンエンジンと電気モーターを共に備える量産初のハイブリッドカーとして生まれ、一世を風靡(ふうび)しました。
初代は今から25年前の1997年に登場。当初から10・15モード燃費は28.0km/Lとなかなかでしたが、室内が狭かったり、パワー感が薄かったりしてさほど売れませんでした。しかし2代目以降、パワーアップはもちろんセダンボディをハッチバック化。サイズも3ナンバー化して実用性アップ。特にホンダ・インサイトと競い合った3代目は国内でも爆発的にヒット。一時は年販30万台以上を記録しました。
そして2015年発売の現行4代目も独特デザインに賛否こそあれ、当初は順調に売れていたのですが今回の5代目は大変貌を遂げることになりました。
一体なぜか? それは一言でいうと時代が大きく変わったからです。
■マジメなプリウスがイケメン化
まず小沢的に予想外だったのは大きく次の2点。エクステリアが予想以上にスタイリッシュだったこと。
スポーツカーのような低いノーズにセクシーかつ流麗なリアスタイル。正直、マジメなプリウスがここまでイケメン化するとは思っていませんでした。
もちろんプリウスのテーマは省燃費であり、いかに化石燃料を使わず走れるか。それだけに今まで以上に無駄を削った空力デザインになることは予想していました。ある意味、新幹線や最高速チャレンジカーのような空気を切り裂くデザインです。
![新型プリウス](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/2/1200wm/img_b29d03669662042fe80c20fc4166e167405918.jpg)
ところが現実には空力に加えてカッコ良さまで配慮。スペックは明らかになっていませんがフロントウィンドウは極端に寝かせられ、乗ると頭上は狭そうですし、乗り降りも不便そう。ただしその分、空気抵抗が少なく、かなりの低燃費で走れるはず。
その上でリアの曲線をはじめ感情豊かなのです。合理的デザインなだけでなく、見た目にも美しいという。
■燃費至上主義からの転換
2つ目に小沢が驚いたことがあります。それは思った以上に燃費至上主義ではなかったこと。
今回特筆すべきはパワートレインの進化もあり、従来の改良版であろう5世代目THS II(トヨタハイブリッドシステムII型)の1.8リッターハイブリッドに加え、排気量を増やした2種類のハイブリッドが追加されました。
詳しいスペックは明らかになっていませんが新開発の2リッターハイブリッドと、それをベースにリチウムイオン電池量を増した半分バッテリーEVとしても使える2リッターPHEV(プラグインハイブリッド)です。
![(左)プラグインハイブリッドシステム(2.0Lプロトタイプ)、(右)エンジンルーム](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/2/1200wm/img_42c6aa6972e3762c1429ec5729d31a35402463.jpg)
こちらも予想外で速さとパワーアップを声高らかにうたっています。
2リッターPHEVのシステム出力は従来型1.8リッターハイブリッドのほぼ倍近い223ps。結果0-100km/h加速はなんと6.7秒。ライトウェイトスポーツカーであるトヨタのGR86の6.3秒に限りなく近いのです。
2リッターハイブリッドもシステム出力193psと従来型1.8リッターハイブリッドの122psより大幅にパワフル。さらに興味深いのは「燃費は従来型同等」と明記されていること。
新世代プリウスは明らかに燃費ではなく、速さであり、パフォーマンス重視なのです。
そのほかイマドキの車内のコネクティッド化を支える大型12.3インチタッチディスプレイや、バッテリーEVのbZ4Xでも採用済みのトップマウントメーター、2カ所の1500W外部充電、進化したソーラーパネルシステム、車載ドライブレコーダーなども備える予定です。
![スタイリッシュな車内](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/0/1200wm/img_20b1d2968a85f13f521c66678ab6de3f390377.jpg)
■ハイブリッドのパイオニアが迎えていた曲がり角
新型のスタイリッシュ化とパワーアップ化。この2つからうかがえるのは開発方針の明らかな転換です。
かつてのプリウスは燃費至上主義であり、量産車最良燃費を命題に開発されてきました。
しかし新型は明らかに快楽性であり、エモーショナル性向上がメイン。適度な燃費性能を確保した上で、よりカッコ良く、キモチ良く走れるように進化しています。
ここにはいくつかの時代変化があります。まずプリウスがハイブリッド専用車として一定の役割を終えたこと。既にトヨタ量産車のほとんどがハイブリッド化しています。小さい方からライズ、ヤリス、ヤリスクロス、C-HR、カローラ、カローラクロス、RAV4、ハリアー、ノア、ヴォクシー、アルファードなどなど。
2010年あたりまでトヨタのハイブリッドと言えばプリウスぐらいでしたが、今や珍しくありません。
同時に最近のプリウスは各マーケットで販売台数を落としています。例えば国内における2020年度の登録台数は約6万台で対前年比53.6%。2010年に3代目プリウスが国内で30万台以上も登録されたことを考えると時代を感じます。
北米マーケットにおいても21年のコンパクトカー販売ランキングは、1位のホンダシビック26万台に対し、プリウスは7位の6万台弱。他にハイブリッドモデルが増えた今では当然の話。
ハイブリッドのパイオニアとしての役割は確実に曲がり角を迎えているのです。
■タクシー専用車になるアイデアも
そんな中で迎えた5代目のモデルチェンジ。開発陣の中には「プリウス終焉(しゅうえん)」のイメージもよぎったといいます。しかしネームバリューは変わらず高いですし、バッテリーEV化が進んでいるとはいえ、世界的に乗用車販売の1割以上をEVが占める市場はまだまだ少ない。
そんな中、開発方針決定には紆余(うよ)曲折もあったようで、今回のエモーショナル化とは別に、燃費をより高めてコモディティ化する方向もあったようです。中にはプリウスをタクシー専用車にするアイデアまで!
しかしプレゼンを担当したトヨタ自動車クルマ開発センター、デザイン領域統括部長のサイモン・ハンフリーズ氏によれば、最終的には開発陣が提案したエモーショナル化戦略が通ったとのこと。
![ワールドプレミアの様子](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/3/1200wm/img_a3fc345ee107ede11bc8a273291202c2406344.jpg)
■これまでのハイブリッド戦略の反省
そこにはトヨタハイブリッド戦略の反省とバッテリーEVの攻勢があります。
既にヤリス・ハイブリッドやアクアをはじめ、プリウスより燃費の良いトヨタ車は沢山あります。そんな中、新型はよほどの低燃費じゃなければ存在感を発揮できませんし、その分不便になったら意味はありません。現在のハイブリッド客は舌が肥えているのです。
そうでなくとも実燃費でリッター20~30kmを超えてしまえば、日本ではさほど意味を持ちません。そもそも長距離を走る人は少なく、言うほど燃料代に差がでないからです。
それよりプリウスは初代から常にスタイルや走りで問題を抱えていました。初代は言うに及ばず、デザインに力を入れた先代も個性が強すぎて嫌う人がいました。日本ではさほど問題視されていませんでしたが、欧州を中心に独特のスピードとエンジン音が連動しない「ラバーバンドフィール」も指摘されていました。
加えていまバッテリーEVのほとんどは、加速力はもちろん静粛性や滑らかさに優れています。
■本気でEVに勝ちに行く仕様
つまりこれからのハイブリッドカーはエネルギー効率の高さはもちろん、総合力でEVに対抗できなければ勝ち残れないのです。
具体的には最近出始めたフォルクスワーゲンのバッテリーEV、IDシリーズやプジョー・e-208、今後出るであろうテスラの新型コンパクトEVなどです。
その他新型プリウスの2リッターPHEVモデルは予想ではありますがフル充電から100kmほどのEV走行ができそう。となると国内EV市場で最多販売が見込まれる日産サクラなどの軽EVもライバルになりえます。
かたやハイブリッドカーとしてはより燃費が良いヤリス・ハイブリッドや、より室内の広いカローラクロス・ハイブリッドがあるので今の中庸ポジションにはいられません。
新型はズバリ走りとスタイルに大きくふったので、今までにない「ハイブリッド・スペシャルティカー」としての位置を新たに築くでしょう。もしや4人乗りハイブリッドスポーツカー的存在になり、趣味的な輸入車ユーザーも多少食うかもしれません。
時代変化を踏まえてエモーショナル化を図り、大変身した新世代ハイブリッド。それが新型5代目プリウスの真の姿なのです。
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バラエティ自動車評論家
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。
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(バラエティ自動車評論家 小沢 コージ)
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