ついに食品まで売り始めた…釧路発の巨大書店が「1日中いられる」と話題になっているワケ
プレジデントオンライン / 2022年11月28日 18時15分
※本稿は、白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■リアル店舗を増やし続ける釧路発の書店がある
札幌市内にあるメーカーの支店に務める女性(32)の談。
「休みの日は午後から出かけます。まず本や雑誌を眺めて買って、まあ、ハワイかディズニーランドのガイドが多いのだけど。そこから中のカフェで本を読んだりして、最後は雑貨や食品を買って帰るともう一日じゅうそこにいるという感じです」
アマゾンなどのネット通販が拡大する中でもリアルな店舗にこだわる書店がある。
この女性も通っているのが、釧路市に本社を置くリライアブルが展開する、書籍・文具販売を中核とする大型複合店「コーチャンフォー」だ。
5000平方メートルを超える広さの売り場を構えた圧倒的な品ぞろえが最大武器。さらに「プラスα」の機能提供で顧客をひき付ける。
高齢者や子供でも歩きやすいようにと配慮したワンフロアでの郊外出店が特徴で、コーチャンフォーを道内中心に8店舗展開する。札幌市北区にある同社最大の「コーチャンフォー新川通り店」の売り場は約1万平方メートル。書籍は約100万冊、文具は約20万品目超を店内で販売する。
全国的に地域の書店は廃業が相次いでいる。
「欲しい本を指名買いするネット通販に対し、店頭でおもしろそうな本に出会ってもらう。店で商品を買うわくわく感を味わえるようにしたい」と佐藤暁哉社長は話す。
ネットの攻勢を逆手に取り、店に来ないと味わえないリアルならではの魅力アップを急いできた。
■成城石井と組んで東京・稲城やつくばにも新店
話題の作家のサイン会など大型書店で開催することが多いイベントはもちろん、リラィアブルが独自に売り場の魅力を発信し続ける取り組みの一つが、販売実績のランキングに基づいた書籍の陳列だ。
大型書店ではよくあるが、そのランキングは優に100位を超えるきめ細かさ。文庫、新書、コミック、雑誌……店員が前週の販売をもとにランキングを集計し、各ジャンルで区分けした棚を毎週月曜に入れ替える。
店名のコーチャンフォーは4頭立ての馬車を指す。書籍、文具、音楽CD、飲食店の4業態を同じ店内で手がけることからそう名付けた。
書籍をはじめ主要4業態に次ぐ新ジャンルに位置付けているのが、2018年春に始めた食品販売だ。
「コーチャンフォーマルシェ」と銘打ち、売り場一角の70~130平方メートルのスペースに専門コーナーを設置。成城石井から仕入れたワインをはじめドレッシングやジャム、菓子類などのほか、佐藤暁哉社長を筆頭に各店舗の担当者ら約10人で組織した「マルシェ開発チーム」が道内企業とコラボしたオリジナル商品も並べている。
2022年3月期の売上高は141億3600万円。日経MJ専門店調査によると、書店業界14位に付ける。2022年10月には茨城県つくば市に「コーチャンフォーつくば店」を開業した。関東では若葉台店(東京都稲城市)に次ぐ2店舗目。本を売るだけという従来の枠にとらわれず、書店の可能性を追い続けている。
■ツルハ、アインに続くドラッグストアの台風の目
書店の可能性を追求するのがリラィアブル(コーチャンフォー)なのに対して、ドラッグストアの可能性、さらにはその枠組みを超えようとしているのがサツドラホールディングスだ。
![店舗外観](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/3/1200wm/img_83b020c4e17d6d52b0b2cb7ea9742ad6202265.jpg)
サツドラホールディングスが掲げるビジョンは「ドラッグストアビジネスから地域コネクティッドビジネスへ」だ。域外に流出しがちなヒト・モノ・カネ・データ・ブランドといった地域資源を有機的につなぎ、地域の暮らしを守っていく姿勢を打ち出している。だからドラッグストアの枠にとどまらず、地域共通ポイントカード「EZOCA(エゾカ)」や電力販売、教育事業なども手がける。
地域とつながる戦略の中核を担うのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進だ。サツドラのドラッグストア約140店には天井に人工知能(AI)搭載カメラが配置されている。個人を特定せずに、来店客がどの商品を見たり、手に取ったりしたかを把握。来店客の人数や商品を見ていた時間、性別、年齢などのデータと、「エゾカ」の購買情報を組み合わせて分析している。
AIカメラは商品情報を紹介するデジタルサイネージにも搭載している。分析結果を踏まえてサイネージに流す情報を工夫する。例えば、子連れ客が多く来店する時間帯にはベビー用品をサイネージに反映する。効果的なプロモーションで買上点数の増加や、取引先メーカーからの広告収入にもつなげている。
■利益を出しつつ社会的価値を高めるにはどうすれば…
サツドラの富山社長は次のように語る。
「2025年を境に、2000年以降に成人となったミレニアル世代が生産人口の過半数を超え、社会の価値観、体制が大きく変わっていく。消費の価値観が大きく変化し、社会的課題が大きく顕在化する中で、経済的利益と社会的価値をいかに両立させていくかということが重要になる」
![白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/4/1200wm/img_e4ee5c8c0aa18fa2ff21864547191457274023.jpg)
地域コネクティッドビジネスの確立やDXでは様々な企業や自治体と連携し、多様なプロジェクトに着手している。2019年まで連結子会社だった北海道大学発AIスタートアップのAWL(アウル、東京都千代田区)と業務提携を続ける。
2021年7月には北海道銀行や石屋製菓などと「QUALITY HOKKAIDO」を設立した。2~3年以内に北海道全域で使える独自の地域通貨を創設するのが目標で、富山社長が代表理事に就いた。
富山社長は「サツドラの200店を含むエゾカの加盟店の会員205万人(2022年5月末)のデータをベースにデジタル化した中で、新たな地域通貨を実現し、地域プラットフォームをつくっていきたい」と話している。
2026年5月期までの中期経営計画では、①店舗の生活総合化戦略②地域プラットフォーム戦略③コラボレーション戦略――の3つの成長戦略を展開。連結売上高1200億円、連結営業利益36億円、営業利益率3%を目指す。生活サービスの実装は物販だけでなく、様々なサービスを紹介する窓口を設置することで「ライフコンシェルジュ」として地域の価値向上に寄与していく構えだ。
■北海道の小売りはなぜ強いのか
小売業は「地域産業」だ。出店エリアに根ざさないと商売はできない。
リアラィブルの佐藤社長もサツドラの富山浩樹社長もその発言や経営に「地域愛」があふれている。
![北海道の霧多布湿原](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/f/1200wm/img_3f278c10fe66d551dc7eca2b4c908703389323.jpg)
人口減と高齢化がいち早く進んだ北海道は、日本の消費市場を先取りしているといわれた。北海道拓殖銀行の破綻から四半世紀、北海道の小売「ノーザンリテーラー」は成長力を増している。しかも、北海道で起こった独り勝ちが、全国規模化している。この2つの企業もニトリやツルハ、セコマに続くノーザンリテーラー候補となっているのだ。
ノーザンリテーラーの経営者には「地域愛」があり、人口減少や過疎化、物価高といった社会課題に敢然と立ち向かった。その結果、広大で希薄な人口、長い冬が「標準」となり、北海道に比べれば環境は穏やかで人口も肥沃(ひよく)な本州は戦いやすい土俵になっていった。「課題先進地」の北海道から新たな変革者が出てくる可能性は大きい。
メリルリンチ証券のアナリストだった鈴木孝之氏が、道内の不況で弱小企業の淘汰(とうた)が進む一方、業績を拡大する「独り勝ちの企業」が業種・業態ごとに誕生する様相を指摘。「ここで勝ち抜いた道内の小売業は全国に出て行っても勝てる可能性が高い」と分析した。これを「北海道現象」と名付けた。それから四半世紀が過ぎたが、「地域愛」を持ち、厳しい局面に敢然と立ち向かう若い経営者が育っている。ノーザンリテーラーの予備軍に期待したい。
----------
日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ調査担当部長
明治学院大学国際学部卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。編集局記者として小売り、卸・物流、外食、食品メーカー、流通政策の取材を長く担当した。『日経MJ』デスクを経て、2014年調査部次長、2021年から現職。著書(いずれも共著)に『ようこそ小売業の世界へ』(商業界)、『2050年 超高齢社会のコミュニティ構想』(岩波書店)、『流通と小売経営』(創成社)、新刊『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)などがある。消費生活アドバイザー資格を持つほか、國學院大学経済学部非常勤講師(現代ビジネス、マーケティング)、日本フードサービス学会理事なども務める。
----------
(日本経済新聞社 編集 総合編集センター 調査グループ調査担当部長 白鳥 和生)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
人口減の北海道を深く広く開拓!コープさっぽろ異次元の成長戦略とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年7月24日 19時55分
-
カプセルトイ専門店『gashacoco(ガシャココ)』のフランチャイズ店舗15号店『gashacocoコーチャンフォー旭川』を7月31日(水)オープン!
PR TIMES / 2024年7月24日 15時15分
-
苦境の書店、無人店舗が救う? 店内で感じた新たな可能性
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月20日 7時35分
-
民間店舗では道内初 当別町 サツドラ店舗内に支所開設
テレビ北海道 / 2024年7月2日 17時20分
-
石川祐希 著『頂を目指して』、「本当に高い!」「大きさを実感できる!」と大好評!石川祐希選手の等身大パネル設置店が全国33店舗に拡大
PR TIMES / 2024年7月1日 13時15分
ランキング
-
1昨年度の郵便事業896億円の営業赤字、前年度の4倍超…封書やはがき減収・集配や運送委託費増
読売新聞 / 2024年7月25日 18時13分
-
2日経平均は7日続落し1200円超安、今年最大の下げ 米株安・円高進行で
ロイター / 2024年7月25日 15時38分
-
3RIZIN「手越祐也の国歌独唱を批判」は失礼なのか 手越が辞退し、選手に批判が集まっているが…
東洋経済オンライン / 2024年7月24日 19時30分
-
4自動車や鉄鋼、中国事業を縮小 日本企業、販売低迷で転換へ
共同通信 / 2024年7月25日 19時4分
-
5基礎的財政収支が25年度に黒字化、内閣府が試算提示へ…税収増で8000億円程度の黒字見込み
読売新聞 / 2024年7月25日 22時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)