1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「駅前持ち家物件の売却益1800万円で積極投資」そんな年収1000万円世帯が"転落必至"と断言できる理由

プレジデントオンライン / 2022年11月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/simpson33

東京都多摩地域の駅徒歩5分以内の分譲マンションに住む、世帯年収1000万円の3人家族。40代夫婦は節約に努め、iDeCoやつみたてNISAでコツコツ資産を増やしているが、なぜか貯金は目減りする一方。そこで東京23区内に住み替えて、売却資金を元手にバリバリ投資して資金を倍増させようと計画するが、FPの横山光昭さんは「待った!」を出した――。

■「節約もポイ活もしている」が貯金が増えない

「自分なりには節約も資産形成もしているつもりなんですけど……」

会社員の夫(42歳)を持つ、パート勤務の岡本聡子さん(仮名・40歳)は浮かない顔です。

夫は手取り月収約59万円(年棒制でボーナスなし)の人気塾講師。聡子さんは来年、公立小学校に進学する一人息子が幼稚園に通う間の3時間、時給1110円のパート勤務をしていて、手取り月収は約6万7000円。合わせて手取り月収65万7000円、年収は額面にして約1000万円あります。

ご本人いわく、電気代を少しでも安くすべく電力会社を替えたり、スマホの料金プランを変更したり、ポイ活をしたりと、いろいろ工夫はしている。さらに、iDeCoやつみたてNISAを毎月8万円近く積み立てていて、節約も資産形成もがんばっていると、力説します。

にもかかわらず、なぜか預貯金が思うように増えず、現在300万円足らず。それも急な出費で毎月のように切り崩してしまうことが悩みなのだと、肩を落とします。どうやら、支出の中身に問題ありそうですが、聡子さんには一発逆転できる「切り札」があるとか――。

■「マンションを売却すれば軌道に乗る」という思い込み

その切り札とは、現在住んでいる駅前不動産を売却することだと、聡子さん。詳しく話を聞いてみました。

「できれば子供が小学校に入る前に、今住んでいる駅前の分譲マンションを売却しようと考えているんです。今のマンションは駅から徒歩5分以内の好立地なので、5000万円で売れると聞いたんです。すると、今のローン残高が3200万円だから、1800万円のプラスになるでしょ? その売却益を元手に、ドカンと投資すれば資産倍増ですよね!」

売って、どこにどう住むのか? と聞くと――。

「住む場所は23区内の中でも財政豊かな区にします。自治体独自の手当や補助が手厚い区に住めば、教育費や医療費でも“お得”ですよね。

10万円くらいの賃貸物件にしようかなと。今の住宅ローン月16万3000円より安い賃料にすれば黒字額を増やせますよね。将来的にも、2人目を授かり、家族が4人に増えたら、今の1LDKでは手狭だから3LDKに住み替えざるを得ないですよね。

それなら高く売れる今のうちに売却して、広めの賃貸物件に住み替えた方がいいと思うんです。固定資産税や修繕積立金や管理費、ローンの金利を払うことを考えても、賃貸と分譲、トントンだって聞きますしね」

将来をイメージして目を輝かせる聡子さん。でも、ちょっと待ってください。私に言わせれば、気持ちは前向きでいいのですが、いまひとつ現実味がないプランです。シンプルに言えば、甘い。甘すぎるんです。

ひとつずつ、問題点を整理しましょう。

■問題①マンションの売却益は意外と低い

まず、今住んでいるマンションの売却益を元手に投資したいという点。

「駅前不動産を5000万円で売ったら、ローン残高3200万円を差し引いておよそ1800万円のプラスになる」という主張ですが、マンションを売ったら売買手数料もかかりますし、利益はせいぜい1300万円程度出れば御の字では。さらに、そこから転居に伴う初期費用が、ざっと見積もって100万円程度かかることも忘れてはいけません。

「売ったお金でマンションを買うのではなく、賃貸物件に住みながら、売却益を元手に資産を増やしていきたい」という計画も、きわめて楽観的です。現在お住まいのマンションは築浅で駅前の優良物件。そこから3LDKの賃貸物件に引っ越したいと言いますが、23区内で3LDKだと、安くても15万円、地域によっては20万円かかる可能性もあります。

それも現在のグレードに近い築浅、駅近物件を探すと、20万円どころでは済まない場合も。仮に家賃20万円だとして、現在の住宅ローンより+4万円も多く払えるのでしょうか。あるいは、マンションのグレードや条件を落として10万円物件に住んだ場合、そのストレスで旅行や衝動買いが増えないか心配です。

アパートの管理員室
写真=iStock.com/NMPR
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NMPR

■問題②投資ビギナーが大金を元手に運用するのはハイリスク

次に、投資への考え方について。最近、聡子さん宅のように、売却益を元手に投資をしたい世帯が増えているのですが、大金を投資に充てるにしては、投資リテラシーがどこまであるかいささか疑問です。

相談当時のヒアリングでは、聡子さんご夫妻はiDeCoとつみたてNISAを1年ほど続けたばかりの投資ビギナー。「運用益が非課税になるというし、やっておこうと思った。内容も、国内株式インデックスがいいというから、それにしておいた」といった聞きかじりの知識で、何年後までにいくらためたいという具体的な資金計画もない様子。そのような状態でポンと転がり込んだ1000万円超の売却益を元手に投資するのは極めて危うい。

■問題③わずかな預貯金を切り崩してまで資産運用を行うべきか

そもそも、聡子さん世帯の家計内訳を見ると、iDeCoとつみたてNISAの掛け金自体、貯蓄を切り崩して捻出していることが分かりました。

世帯の支出合計は、月60万7000円。収入は月65万7000円なので黒字額は5万円です。ここまではいいのですが、夫婦二人分のiDeCo4万6000円とつみたてNISA3万3000円、合計7万9000円だと、毎月の黒字分から出すには2万9000円足りない。この不足分を、貯金300万円から切り崩しているのです。貯金が十分にある家庭なら、貯金を投資にシフトさせていくこともありですが、生活防衛資金が十分とは言えない現状では好ましくありません。

大前提として、夫は年棒制でボーナスがないため、毎年かかる固定資産税や車検代、年数回行っているという旅行代、壊れた家電の買い替えなどの費用、加えてiDeCoとつみたてNISAの掛け金の不足分年36万円近くを合わせて、ざっと年100万円超は、この貯金から切り崩しています。収入が上がらなければ3年経たずに貯金が底をつくのは明らかです。

そこで苦肉の策として不動産を売ろうと考えたのでしょうけれど、前述の通り、思うように売却益がない上に年間200万円以上家賃が出ていく生活になると、早晩、生活は行き詰まります。聡子さんのパート時間を増やせば収入は増えますが、もし2人目のお子さんに恵まれれば、そうもいかなくなるでしょう。

■打開策①やりたいこと=お金をかけたいことの優先順位を整理する

では、このご家庭は、どうすれば希望通りに資産を増やして行けるのか。私が提案したのは、まず、優先順位を整理することです。

投資がしたい、貯金も増やしたい、2人目も欲しい、子供の教育費もかけたい、23区内に転居したい、年数回は旅行に行きたい――、やりたいことが頭の中に乱立されているように見受けられたので、何を優先して進めたいか、順序立てて書いてもらいました。

【図表】メタボ家計BEFORE⇒AFTER

その結果、「今はとにかく預貯金を増やしたい」というのが一番でした。投資はその次で、引っ越しも今は見送ろうと、ご夫婦で結論を出したそうです。夫婦で優先順位を決め、目標を共有する。これだけで、その後の貯金スピードは大きく変わります。

■打開策②決めた予算は厳守する

さて、次は年間支出の大削減です。

まず着手したのが、各費目の削減。食費は予算をぼんやり決めていたものの、守れていなかった。そこで「できればこうしたい」ではなく、「いくらと決めたら厳守する」と、覚悟を決めてもらいました。

聡子さんが買い出しに行く店は、駅前の高級スーパーが多かった。そこで総菜やスイーツも買っていたため、3人家族で食費が外食込みで11万1000円でした。ママ友ともランチ会をしていたので、テイクアウトやスイーツの購入、そしてランチの頻度などを減らし、2万5000円の削減に成功。

次に、月6万5000円かかっている教育費。当時年長のお子さんに、リトミックやピアノ教室、くもん、絵画教室など多数の習い事に行かせていました。実はこれらの習い事は、聡子さんが、ママ友との交流機会を増やしたいという目的もあったそうです。1日数時間のパート勤務以外は母子二人きりなので、子供との時間を持て余ため、行かせていたとも話します。

とはいえ、習い事が多いことも疲れにつながっていたので、お子さんと話をして通うものを絞り、公園で遊んだり、友達と遊ぶ時間を増やしたりしました。これで習い事代が約9000円減額できました。

そして、月2万円の被服費。ランチ会など外出機会が多いと必然的に奥さまの被服費も増えますが、その頻度を減らしたため、服を買う量も減り、1万円の減額に成功しました。もともと節約意識があり、H&Mやワークマンなどでプチプラ商品を買っていたようですが、安いからと色違いでまとめ買いしてしまう癖もあったようなので、予算を決めて本当に着たい服に絞ってもらうことに。

H&Mのショッパーを持つ女性
写真=iStock.com/AnthonyRosenberg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AnthonyRosenberg

■打開策③投資の掛け金を減らして、現預金の配分をUP

かくして、合計7万円もの削減に成功しました。電力会社の見直しなど細かい節約に目が行っていた聡子さんですが、大きな固定費(教育費)や変動費(割高な食費やランチ会ほか)に手をつければ、いかようにも減らせるのです。

とはいえ、生活水準が高めの世帯がここまで思い切って削減するのは、相当ご苦労されたと思います。それでもまだまだ削れる余地はある。もう一押しです。

大きな変化としては、余剰分が7万円増えたことで、月の家計の黒字が12万円になったこと。その中から、臨時出費用の預貯金5万4000円をためながら、iDeCoの掛け金はそのまま、つみたてNISAを少し減らして、積み立ては6万6000円継続しています。

そして、相談当初から2年経過した今。貯金は300万円から130万円ほど増え、430万円程度に。何より、預貯金が目減りせず、増え続けていることが目覚ましい進歩です。順調にいけば、23区内への住み替えも現実的になるでしょう。ただ、転居したことで、一度下がった生活水準がまた上がらなければいいのですが……。

----------

横山 光昭(よこやま・みつあき)
家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表
お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万3000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は60万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は143冊、累計330万部となる。オンラインサロン「横山光昭のFPコンサル研究所」を主宰。

----------

(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください