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菅政権のほうが良かった…「焦点は辞任がどれだけ早まるか」岸田首相に失望する人が増え続ける根本原因

プレジデントオンライン / 2022年11月26日 9時15分

記者団の取材を終え、認証式のため皇居に向かう岸田文雄首相=2022年11月21日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

閣僚3人の辞任が続き、岸田政権の支持率低下が止まらない。ジャーナリストの鮫島浩さんは「このままでは内閣が持たない、という声が自民党から出始めた。岸田首相は来年5月の広島サミットを悲願としているが、それまでもたないのではないか」という――。

■長期政権になるはずだった岸田政権の誤算

政界の一寸先は闇だ。岸田政権は昨秋の衆院選、今夏の参院選に相次いで圧勝したばかりである。今世紀に入り、衆参選挙を勝ち抜いた首相は小泉純一郎、安倍晋三、そして岸田文雄の3氏しかいない。

小泉・安倍両政権は2度目の衆院選に圧勝して盤石の体制を築いた。岸田政権もどこかで衆院解散を断行して勝ち抜けば長期政権に突入するはずである。

ところが、現下の岸田政権にそのような気配はみじんもない。

旧統一教会問題と物価高が直撃して内閣支持率は続落し3割前後をさまよう。たった1カ月足らずのうちに山際大志郎経済再生相(麻生派)、葉梨康弘法相(岸田派)、寺田稔総務相(岸田派)が失言や政治資金問題で相次いで辞任に追い込まれ、いまや瀕死の状態だ。急坂を転がり落ちるとはこのような状況をたとえて言うのだろう。

寺田氏の後任に起用された松本剛明総務相(麻生派)にも政治資金問題がいきなり浮上。マスコミ各社は新閣僚のスキャンダルを物色するモードに入った。野党ばかりか与党からも「この内閣はもう持たない」と見限る声が噴き出す。

岸田首相は政権基盤を立て直すため、年末年始に内閣改造・自民党役員人事を行う検討を始めたと報じられているが、いつまで持つかわからない泥船内閣にいまさら好んで乗り込む間抜けな政治家はそう多くない。

ましてそこはスキャンダル探しが渦巻くレッドゾーンだ。ひとたび疑惑を追及されたら岸田首相は守ってくれない。さらし者にされて捨てられる。山際氏、葉梨氏、そして寺田氏のように。

■もはや自民党内から見放されている

寺田氏に代わって総務相に就任した松本氏は民主党政権で外相を務め、自民党に転身して初めての入閣である。

彼が新大臣として臨んだ参院本会議の閣僚席でいきなりウトウトと居眠りする姿をマスコミに激写されたのをみて、久々の大臣就任で意気軒昂としているどころか、自民党における身元引受人である派閥の親分・麻生太郎副総裁に命じられて渋々引き受けたのではないかと私は推察した。

岸田首相が年末年始に内閣改造・党役員人事を断行しても、そこに寄り集まるのは「ワケアリ政治家」ばかりであろう。岸田首相はもはや自民党内から見放されている。

落ち目の首相が無理やり行う内閣改造・党役員人事ほど与党内の離反を加速させ、死期を早めるものはない。いまさら泥船に乗り込んで岸田首相と心中する「他人思いの盟友」など魑魅魍魎が跋扈する永田町には存在しない。岸田政権最大の後見人である麻生氏でさえ、いつ逃げ出すのかわからない世界だ。

内閣改造に着手しても次々に入閣を拒まれてやり切れないかもしれない――岸田首相がそこまで急坂を転がり落ちたのはなぜか。7月の参院選以降の4カ月間を駆け足で振り返ってみよう。

国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■参院選で圧勝、そして暗転が始まった

2022年夏の参院選は岸田政権が圧勝したことよりも、日本政界に10年にわたって君臨した安倍晋三元首相が凶弾に倒れた選挙として日本政治史に刻まれるだろう。

安倍氏が率いた最大派閥・清和会(安倍派)は、萩生田光一政調会長、西村康稔経済産業相、松野博一官房長官、高木毅国会対策委員長、世耕弘成参院幹事長らによる熾烈な後継争いに突入。老舗派閥・宏池会(岸田派)にとって千載一遇の好機が訪れた。

岸田政権は宏池会を源流とする第3派閥・麻生派と第4派閥・岸田派に加え、麻生氏の後押しで派閥会長になった茂木敏充幹事長が率いる第2派閥・茂木派が主流派を形成している。

これに対して非主流派の中核を占めるのは、岸田首相や麻生氏らが首相の座から引きずり下ろした菅義偉氏(無派閥)と、その菅政権で幹事長を務めた二階俊博氏の二階派だ。8月の内閣改造では菅氏を副総理として閣内に引き込む案が浮上し、菅氏も前向きな姿勢をにじませていたものの、岸田首相と麻生氏はこの案を一蹴して菅氏を無役で干し上げた。

この時点で岸田政権にはまだ余裕があったのだ。

■岸田政権と立憲の急接近

菅氏はここから「主人」を失った清和会への急接近を始める。菅氏は安倍最側近だった萩生田氏と親密な関係を築いてきた。安倍氏の国葬では友人代表として追悼の辞を述べて称賛された。

葬儀委員長を務めた岸田首相の追悼がまったく関心を呼ばなかったのに対し、菅氏は大きく株を上げ、SNSでは「岸田政権より菅政権のほうが良かった」という声まで上がり始めた。

菅-二階ラインは、岸田-麻生ラインが疎遠な公明党とも強いパイプがある。菅氏が主導して清和会・二階派・公明党による岸田包囲網が築かれるとまずい。そこで岸田首相が選んだ道は、同じく支持率低迷にあえぐ野党第一党・立憲民主党への接近だった。

臨時国会最大の焦点である旧統一教会の被害者救済について、この問題が直撃した清和会と創価学会への波及を恐れる公明党は及び腰だ。岸田首相は立憲と維新を引き込み、自公立維4党の実務者協議の場を設置して清和会と公明党に圧力をかけた。

宏池会と立憲の連携を強化し、清和会と公明党を抑え込むという対立構図が生まれたのだ。立憲最高顧問の野田佳彦元首相が安倍国葬に参列し、安倍追悼の国会演説を担ったのは、岸田政権と立憲の急接近を象徴する出来事だった。

■高まる安倍派と公明党の警戒感

これに便乗したのが、消費税増税を目論む財務省である。

民主党政権末期の2012年、財務省は当時の野田首相と自民党宏池会の流れを汲む谷垣禎一総裁と橋渡しし、消費税率を引き上げる自公民3党合意を実現させた。消費税増税は与野党合意で進めないと難しい。岸田首相と立憲の急接近によって、3党合意を再現する好機が巡ってきたのである。

財務省は安倍・菅政権で冷遇された。副総理兼財務相を9年近く務めた麻生氏の踏ん張りで3党合意で決まっていた二度の消費税増税を右往左往しつつ何とか実現させたものの、政権内部では安倍氏が重用した警察庁や経産省に常に押され気味だった。

池田勇人、大平正芳、宮澤喜一ら大蔵省(現財務省)OBの首相を輩出してきた宏池会の岸田政権が誕生し、財務省は久々に復権したのである。この好機を逃す手はない。清和会を壊滅させることを狙って宏池会や財務省の一部からは立憲との大連立構想まで浮上し、野田元首相を首班に担ぐ案までささやかれ始めた。

清和会や公明党はますます警戒感を募らせたのである。

■自民党幹部すら岸田首相に反旗を翻す

岸田首相が清和会や公明党に対抗するためには立憲の協力が欠かせない。降って湧いた政治状況に、立憲は勢いづいた。被害者救済法案への協力の条件として問題閣僚の辞任を次々に要求し始めたのである。「提案型野党」が不評で参院選に惨敗した立憲にとって、「大臣の首」を取ることは格好の支持回復策だった。

自民党
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

岸田首相は立憲の要求を呑むしかなかった。立憲と決別すれば、与党内限定の権力闘争では清和会や公明党に太刀打ちできない。立憲は岸田首相の足元をみて、ますます辞任要求を強めていった。

この政治状況をみて、清和会や公明党も岸田首相に追い打ちをかけた。山際氏は麻生派、葉梨氏と寺田氏は岸田派、政治資金問題で次の標的になりつつある秋葉賢也復興相は茂木派。いずれも主流派だ。

しかも麻生派の松本総務相ばかりか、岸田首相本人まで政治資金問題の疑惑が報道され始めた。旧統一教会問題から目を逸らすためにも、政治資金問題がクローズアップされるのは悪くはない。かくして自民党内からも閣僚更迭論が噴出し始めたのである。

最初に反旗を翻したのは萩生田政調会長だった。物価高対策として臨時国会に提出する大型補正予算について、岸田官邸と財務省が想定していた25兆円規模では物足りないとして29兆円規模に増額させた。

財政規律を重視する「岸田官邸-財務省-立憲」の緊縮財政派に対し、国債発行を厭わない積極財政派がひしめく清和会の声をすくい上げたのである。

■辞任ドミノで四面楚歌に

高木国対委員長は立憲の安住淳国対委員長の会談要請を拒否するばかりか、閣僚辞任ごとに本会議場での謝罪と説明を求める立憲の要求をすんなり受け入れ、岸田首相をさらし者にした。露骨なサボタージュだ。内閣の要として危機管理を担う立場にある松野官房長官も岸田首相を守るそぶりを見せず、いまや半身である。

離反者は清和会にとどまらない。茂木幹事長も岸田首相から距離を置き始めた。茂木氏は麻生氏を後ろ盾に岸田政権を受け継ぐ後継首相の座を狙っている。ところが宏池会-立憲の連携が進んで大連立構想まで浮上すると、茂木氏が担がれる芽はしぼんでいく。

茂木氏は被害者救済法案をめぐり自公立維4党協議をわきにやり、立憲と犬猿の仲である国民民主党を新たに誘い込んで自公国3党協議の場を新設。さらには共産党にも声をかけ、自公立維国共6党の幹事長・書記局長会談まで開催した。立憲の発言力を薄めて自公が主導権を取り戻す狙いは明白だ。

岸田首相は急接近した立憲から攻め立てられ、清和会や公明党ばかりか自民党執行部まで離反し、挟み撃ちにあっている。衆参で圧倒的多数を握りながら3閣僚が立て続けに辞任に追い込まれたのは、岸田首相が四面楚歌になっているからだ。

演説を行う岸田総理(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議で演説する岸田文雄首相(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■首脳外交で挽回するはずが…

岸田首相は外交舞台が大好きだ。経済政策は財務省に丸投げし、本人は首脳外交にしか興味がないと言われる。葉梨法相をドタバタで更迭して妻同伴で東南アジアへ飛び立った時は、ここまで岸田包囲網が広がっているとは思いもしなかったのではないか。

今年10月の就任1年を機に長男を首相秘書官に起用しSNS発信を担当させたことは「縁故人事」として批判を浴びた。その長男が仕切るツイッターやインスタグラムには岸田首相が外遊を満喫している様子が次々に紹介されている。

その岸田首相が何よりもこだわるのは来年5月の地元・広島で開催するG7サミットだ。地元での晴れ舞台で支持率を回復させ、その勢いで衆院解散を断行し長期政権につなげる――当初の目論見は今や絵空事になってしまった。

せめて広島サミットまでは首相の座に踏みとどまりたい。そのためには立憲との連携を断念し、自民党や公明党と融和して挙党体制を構築するしかない。非主流派のドンである菅氏を閣内に取り込めれば政権を立て直せる――そこで再び浮上したのが菅氏を副総理に起用する案だった。

岸田首相は自民重鎮から寺田総務相の後任に菅氏を副総理兼任で起用するように助言されて検討したものの、菅氏は入閣を拒否するという情報を得て断念。さらには菅内閣で官房副長官を務めた最側近の坂井学氏の総務相起用も検討したが、これも見送った――という神奈川新聞の記事は真実に近いと私はみている。

■岸田政権に残された余命

岸田首相が寺田氏更迭を発表する際、官邸記者団への取材と、衆院本会議の壇上で相次いで「テラダ」を「タケダ」と言い間違えたことが波紋を呼んだ。後任人事として実は武田良太元総務相の起用を検討したのではないかという憶測を招いたのである。

武田氏は非主流派の二階派幹部で、麻生氏とは地元・福岡で犬猿の仲として知られる。その武田氏を取り込んでまで挙党体制を回復しようとしたが、踏み切れなかったという観測だ。

毎日新聞は岸田首相が年末年始に内閣改造を検討していると報じた。この狙いは秋葉氏ら疑惑閣僚を差し替えることに加え、離反しつつある党執行部も入れ替えて体制を引き締めることにある。さらには菅氏の副総理起用もあきらめていないのかもしれない。

しかし冒頭に述べたように、落ち目の首相が行う内閣改造・党役員人事はかえって内閣の余命を短くする。人事に着手しながら有力政治家に相次いで入閣を拒否されれば、政権は立ち往生し、そのまま内閣総辞職に追い込まれかねない。

■ささやかれる「サミット花道論」と「ヤケクソ解散」

自民党閣僚経験者は「岸田首相が来年5月の広島サミットにこだわるほど足元をみられ『サミット花道論』が出てくる。そうなると政局は加速し『新年度予算が成立する3月まで』という声が出てくる。このピンチを切り抜けるにはもはや衆院解散しかないのだが……」と漏らす。ちまたでささやかれる「ヤケクソ解散」だ。

バイデン大統領と岸田総理(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
岸田文雄首相とバイデン米大統領(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

内閣改造は首相の求心力を弱め、衆院解散は求心力を高めると言われる。しかしそれは衆院選に勝ってこそだ。いくら野党が弱いとはいえ、内閣支持率が続落して旧統一教会問題への世論の怒りが収まらない今のタイミングで衆院解散に踏み切ることができるだろうか。

閣僚3人を更迭するのも優柔不断で右往左往した姿をみると、自民党議員が猛反対するなかで一瞬にして衆院議員全員の首を切る「ヤケクソ解散」に踏み切る胆力と狂気を岸田首相が持ち合わせていると私には思えない。この首相はどこまでも凡庸なのだ。

そうなると岸田首相がこれからたどるのは、立憲とも決別し切れず、自民党内の顔色をうかがいながら恐る恐る内閣改造の時期を探り、結局は双方から挟み撃ちにあい続け、ますます衰弱していくという道ではないか。

悲願の広島サミットにたどり着けず、それを目前に新年度予算を成立させた来春の節目に息絶えるという惨めな末路を私は予想している。それを裏切り「ヤケクソ解散」を断行する勇姿を見てみたいものだ。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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