「失敗をしたときはスイーツ食べ放題へ行け」経営学者がそう強く勧める深い理由
プレジデントオンライン / 2022年12月5日 8時15分
※本稿は、さわぐちけいすけ、入山章栄『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■経営学的にみて副業は大きな価値がある
副業をする人が増えていますが、本業の合間を縫って他の仕事をするのは、大変なこともありますよね。
でも、経営学的には、副業をやることには大きな価値があります。それは2つの理由からです。
まず、副業をすると、働くことそのものへのモチベーションが高まる可能性があります。現実には、多くの会社勤めの方々は、必ずしもモチベーション高く働けるとは限りません。
これを説明するのに、経営学では「職務特性理論」(Job Characteristics Theory)というものがあります。要は「自分が仕事の全プロセスに関わっている」「仕事の成果が相手の役に立っていると実感できている」「自分のやった成果にフィードバックがある」などの状況だと、人はモチベーションが上がる、というものなんです。いわゆる「仕事の手応え」ですよね。
でも、それなりに大きな企業では仕事の分業化が進んでいるので、社員が「組織の歯車」となりがちで、この手応えがないんです。すると、人はモチベーションを落としていくんですよ。
そう考えると、副業は多くの場合、自分で仕事のプロセスの大半に関われるし、お客さんからの手応えも伝わりやすいですよね。だとしたらモチベーションは湧きやすいはずなんです。
■1人でできるダイバーシティ
第二に、僕が経営学者として副業の最大のメリットだと思うのが、「イントラパーソナル・ダイバーシティ(個人内多様性)」が高まることです。ダイバーシティというと「ひとつの組織に多様な人が集まっている」イメージですよね。でも、実はダイバーシティって、1人でもできるんです。いろいろな仕事を通じて知見、能力、経験の幅を広げていけば、自分のなかにそれらの多様性を取り込むことができるからです。
「1人ダイバーシティ」を実現するとは、言い換えると、遠くの新しい知に触れる「知の探索」をやり続けることです。認知心理学をベースにした経営学の基本前提は、「人はそもそも認知が狭い」ということです。人間だから、当たり前ですよね。私たち一人ひとりが認知できる世界は、誰でも大して大きくはないのです。だからこそ、遠くの幅広いことを経験すると、本業以外に視野・認知が広がり、やがてそれが成果につながり得るんです。そして、本業と異なることをやる副業は、その典型なんです。
■仕事がマンネリ化したら環境の異なる場で副業を
実際に、1人ダイバーシティの効果は経営学でも実証されています。例えば米ワシントン大学のスチュアート・バンダーソンらが2002年に発表した論文では、さまざまな職能を経験している経営メンバーがいる企業ほど、業績が高いことが分かっています(*1)。
そういえば、各界で目覚ましい活躍を遂げた女性を表彰する日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」も、実はほとんどの受賞者が多彩なキャリアの持ち主、すなわち1人ダイバーシティが高い方々なんですよね。
というわけで、「最近、なんか仕事がマンネリ気味だなあ〜」という人は、環境の異なる場で副業してみてはいかがでしょうか。お金のためではなく、それが自分のモチベーション向上につながり、自分のなかに多様性を高め、成長を促すからです。
*1 Bunderson, J & Sutcliffe, K. 2002. Comparing alternative conceptualizations of functional diversity in management teams: Process and performance effects. Academy of Management Journal.
■人の認知は非常に狭い
ミスをやらかした日は誰でも落ち込んでしまいがちですよね。でも、失敗することは、経営学的に見ても決して悪いことではありません。なぜなら人は、失敗するからこそ「サーチ」するからです。
サーチとは、ノーベル賞も取ったアメリカの偉大な認知心理学者、ハーバード・サイモンらが提唱した概念で、「従来の方法を見直し、新しい情報を得ようと動き回ること」です。と言っても難しいので、要は自分の認知の外に出て、知らないことを経験し、学ぶすべての行為だと思ってください。さきほどの「知の探索」と、意味はほぼ同じです。
![オフィスでヘッドセットを付けたまま、眉間に指をあてて呼吸を整える女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/d/1200wm/img_4d67d66dd730f3b8f8226013f820a29b331288.jpg)
前述のように人の認知は、そもそもすごく狭いんです。これは認知心理学や(それを土台にした)経営学の前提です。ですから、人は放っておくと、狭い自分の認知の幅だけで生きてしまいます。それだと成長もしないし、成果も生まれにくくなるんです。逆にサーチをすれば、認知の外の多様な情報を取り込め、広い世界における自分の立ち位置も見えてきます。
■若くして成功することの弊害
ところが、人というのは、早い段階で成功してしまうと満足感(サティスファクション)が高まり、「自分の見ている世界は十分に正しいんだ」と思い込んでしまう傾向があるんです。結果、現状に満足するのでサーチをしなくなり、認知は狭いままになる。
![さわぐちけいすけ、入山章栄『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』(日経BP)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/3/1200wm/img_c326638c55c2feea40d42ff686905fae221498.jpg)
若くして成功を収めたものの、その後は鳴かず飛ばずという経営者がたまにいますよね。これは、経営理論的には「慢心してサーチを怠ってしまった」せいと解釈できるんですよね。このように、特に若いうちに成功ばかりを経験することって、実は危険なんです。昔から「失敗は成功のもと」といいますが、若いうちはどんどん失敗して、「自分の見ている世界は狭い」と反省して、サーチを続けて認知を広げることも重要なんです(*2)。失敗体験の重要性は、経営学の実証研究でも示されているんですよ。
とはいえ、人の脳には認知系に加えて、感情系があります。失敗したら「情けない……」「なんて自分はダメなんだ」とめげてしまうのは自然な反応だし、落ち込みを引きずって反省できないこともあるでしょう。これは、脳の感情系のなせる技です。
■失敗したときはスイーツ食べ放題へ
そこで僕がオススメしたいのが、「失敗したらお祝いする」を意図的にルールにすることです。「スイーツ食べ放題に行く」「ちょっといいお店でディナーする」「ちょっといいアクセサリーを買う」などなんでもいいから、失敗したとき限定のご褒美を用意するのです。
![グラスカップに入ったストロベリーパフェ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/4/1200wm/img_44d60a00ea5d24dc3f64c6c3b4844cb5464091.jpg)
すると、ネガティブな感情がポジティブな感情に上書きされ、「失敗しちゃったけど、よかったかも!」と前向きな気持ちになる。感情面のネガティブがなくなるので、認知系のほうで、「よし、失敗を挽回するぞ」「今回のことはいい学びにして、次回に生かそう」と、失敗を学びに切り替えるスイッチが入りやすくなるはずです。
ちなみに、お酒好きの僕は、失敗したら思い切り良いお酒を飲むことにしています。実は先日もうっかり寝坊し、関わっている企業のとても大事な会議をすっぽかすという不始末をしでかしました……。ものすごくへこみましたけど、「こりゃ今晩は高いワインを飲むしかねえな」と思ったら、ちょっと元気になれました(笑)。ただし、「いつもやっていること」だと“ご褒美”にならないので注意してくださいね。僕も失敗した日に高いワインを飲むため、日ごろのお酒はなるべく安いものを飲んでいますよ。いや、ケチっているわけではないんです……。
*2 Madsen, P. M. & Deasai, V. 2010. Failing to learn? The effects of failure and success on organizational learning in the global orbital launch vehicle industry. Academy of Management Journal.
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早稲田大学大学院経営管理研究科教授
1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、同大学院修士課程修了。三菱総合研究所へ入所。2008年、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。その後、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。19年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)他
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(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 入山 章栄)
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