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妊娠中に予防接種を避ける必要はない…赤ちゃんまで守られる可能性がある3つのワクチン

プレジデントオンライン / 2022年12月6日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dragana991

今年、新型コロナウイルス感染症によって軽症で済むと考えられていた子供の命が失われ、根絶間際と思われていたポリオがイギリスやアメリカで検出された。小児科医の森戸やすみさんは「ワクチンで子供を守ることが大切。しかも妊婦さんが接種すると、おなかの子にも抗体移行するものもある」という――。

■子供が犠牲になった新型コロナ第6〜7波

コロナ禍はなかなか終わりませんね。新型コロナウイルス感染症の第6〜7波の際には、私のクリニックでも新規感染者が毎日たくさん出ました。第5波までと違って、第6〜7波は子供の感染者が多かったのです。

それまでは「子供は新型コロナにかかりにくい」「子供は新型コロナにかかっても重症化しないし、まして一人も亡くなっていない」という人の声が多く、2022年2〜3月に始まった子供用の新型コロナワクチンの接種率は2割程度と低いまま。そういったなかでの第6〜7波だったので、今年の1月1日から8月31日までの間に20歳未満の新型コロナによる死亡が41人も出てしまいました(※1)。詳しいことがわかったお子さん29人のうち、半数以上が基礎疾患がないこともわかっています。

そのほか、多くの子供たちが新型コロナによる高熱や熱性けいれん、喉の痛み、頭痛などに苦しみました。私の患者さんでも「喉が痛くて水を飲むのもつらい」「頭が痛くて眠れない」という子が多数いました。当然、どのワクチンも強制されるものでも、義務でもありません。むしろ、子供にはワクチンを受ける権利があるのです。ぜひ、正しい知識を得た上で判断していただけたらと思います。

【図表1】新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例の報告数
出典=国立感染症研究所「新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第一報)」

※1 国立感染症研究所「新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第一報)」

■未接種のお母さんと赤ちゃんが心配

私が診療していたなかで非常に心配に思ったのは、新型コロナワクチン未接種のお母さんと赤ちゃんが、他の家族から感染してしまう事例が相次いだことです。そうした事例でお母さんにお話を聞くと「妊娠中のワクチン接種が不安で、今も授乳中なので接種できないと思っていました」という返答がほとんど。

でも、妊娠後期に新型コロナに感染してしまうと、わずかながら早産の危険性が高くなったり、妊婦さん自身も重症化するリスクが高くなったりすることが報告されています。また、赤ちゃんが新型コロナに感染すると、哺乳できなくなったり、熱性けいれんや脳症になったりするリスクが高いのです。

一方、新型コロナワクチンは新しいものではありますが、すでに世界中で数多く接種されています。その結果、妊娠中でも授乳中でも、妊娠を計画中でも何も問題は起きていません(※2)。さらに日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会が連名で、妊娠中でも接種するメリットのほうが大きいこと、妊婦さんと一般の人で副反応には差がないことを説明しています(※3)

「新しいmRNAワクチンだから」「胎児に異常が起こる、不妊症になるというウワサがあるから」と妊娠中の新型コロナワクチンを避けるのはよくありません。どうしてもmRNAワクチンや外国製ワクチンに抵抗があるようなら、日本の会社である武田薬品工業の不活化ワクチン「ノババックス」を接種できる医療機関や接種会場を探してみましょう。

※2 厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A」
※3 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会「新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて」

■妊娠中のワクチン接種はメリット大

じつは妊娠中の新型コロナワクチンの接種は、怖いどころか、妊娠している女性にもおなかの赤ちゃんにとっても、むしろよいものなのです。妊娠後期に新型コロナワクチン(mRNA)を受けると、生まれた新生児に抗体が移行するため、赤ちゃんが感染から守られる可能性があります(※4)。乳幼児の新型コロナワクチンの接種が始まりましたが、生後6カ月までは受けられないので、ぜひ周囲の大人や妊婦さんが受けてお子さんを守ってあげてください。

この他にも、日本ではあまり知られていませんが、妊娠中の女性が接種するとお子さんにも抗体が移行して感染を防ぐことができる可能性のあるワクチンはあります。それはインフルエンザワクチン、百日咳ワクチンです。それぞれについて詳しく説明しましょう。

まず、特に毎年10〜11月に接種するインフルエンザワクチンは最も身近ですね。わざわざチメロサールが入っていないインフルエンザワクチンを探す人がいますが、子供の自閉症との関連はすでに否定されています。受けやすい医療機関で接種しましょう。妊娠の初期でも後期でも、妊娠を計画中でも時期を問わず、安心して受けることができます(※5)

※4 厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」
※5 社団法人日本産科婦人科学会「妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対しての新型インフルエンザ(H1N1)感染に対する対応Q&A(一般の方対象)」

ベビーベッドの赤ちゃん
写真=iStock.com/ArtMarie
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ArtMarie

■他の先進国で妊娠後期に接種する「Tdap」

次に百日咳ワクチンは、単体ではなく3種混合(ジフテリア・破傷風・百日咳)で接種します。百日咳は月齢の小さい子がかかるととても悪くなりやすく、亡くなってしまうこともある恐ろしい病気です。見かけたことがないという人も多いと思いますが、文字通り100日間(3カ月)くらい続くこともある長引く咳が特徴です。

YouTubeで「baby pertussis」と検索すると、百日咳にかかってけいれん性の激しい咳をする赤ちゃんの動画が出てきます。「感染症はワクチンを受けるよりもかかったほうがいい」などと言う人もいますが、顔色が悪くなって激しい咳発作に苦しむ子供を見ながら、そんなことを言える人はいないでしょう。

こうした百日咳から子供を守るために、海外の一般的な先進国では妊娠後期に「Tdap」という成人用3種混合ワクチンを受けます。アメリカでは、妊婦さん(妊娠するたびに)だけでなく、乳児の世話をする成人や医療従事者もTdapを接種しています。

ところが、日本ではこのワクチンは未承認で、残念ながら通常の医療機関では接種できません。そして子供用として承認されている3種混合あるいは4種混合ワクチンは、妊婦への安全性が確認されていないのです。ですから、日本でTdapを受けるには渡航ワクチンやトラベルワクチンを扱っている医療機関に行く必要があります。ただ、この場合は自費扱いとなり、万が一にも有害事象が起こったときに予防接種法による補償がありません。

■根絶を目前に増えてしまったポリオ感染

一方、もちろん子供自身の生後2カ月からのワクチン接種も大事です。よく「もう日本では流行していない感染症もあるのに……」などと言う人もいますが、一度収まったと思われた感染症が再興することがあります。実際、今ポリオは根絶を宣言した国々でも再び流行の兆しを見せているのです。ポリオの感染者は、アフリカ、ウクライナ、アフガニスタン、パキスタンなどに多いのですが、不活化ポリオワクチンの接種率が高いイギリスやアメリカも発生国に入っています(※6)

ポリオは、感染者の一部ではありますが、高熱が数日間続いた後に筋肉が麻痺(まひ)し、その麻痺が生涯にわたって残る病気です。昔は「小児麻痺」と呼ばれていましたが、日本での正式な病名は「急性(きゅうせい)灰白髄炎(かいはくずいえん)」。小児麻痺と呼ばれるものの子供だけの病気でなく、大人になってもかかることがあります。麻痺が残るのは手足の筋肉のこともありますが、呼吸筋に残ることもあり、そうなるとずっと人工呼吸管理が必要です。

書籍『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子、講談社)に小児麻痺の子が登場するように、かつてはよくある病気でした。が、ポリオウイルスはヒトにしか感染しないこと、有効なワクチンがあることから、WHOは根絶を目指してきました。ところが根絶達成を目前にして、残念ながら感染者が増えてしまっています。

※6 外務省「ポリオの発生状況」

ポリオワクチンバイアル
写真=iStock.com/Manjurul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Manjurul

■イギリスやアメリカの素早いポリオ対策

今年6月、イギリスのロンドンの下水からポリオウイルスが検出されました。ポリオウイルスは、ヒトの腸で増えて排出されるのです。ポリオウイルスが下水から複数回にわたって検出され、ウイルスの遺伝子解析から伝播型だと判断したイギリスの対応は早く、発症者が出る前に、ロンドン在住の1〜9歳のすべての子供に不活化ポリオワクチンを追加接種することになりました。もともとイギリスのポリオワクチンの接種回数は日本よりも多く、0歳で3回、3歳で1回、14歳で1回と5回も受けるのに、さらに追加接種を決定したのです。

続いて7月には、アメリカにおいて宗教上の理由からワクチンを一切受けていなかった成人男性がポリオを発症し、麻痺が残りました。ニューヨーク州の下水を調べたところ複数箇所でポリオウイルスが検出されたことから、ニューヨーク州では緊急事態宣言が出され、未接種者への接種はもちろん、医療従事者にもポリオワクチンを追加接種することを決定しました。

これはポリオ感染者の90〜95%は症状がない不顕性感染であり、さらに麻痺が残るのは1%だからです。つまり、ポリオによる麻痺患者が1人出たということは、ポリオに感染したものの症状が出ていない人が多数いる恐れが高いからこその対応策でした。

■5〜6歳の不活化ワクチンでポリオを予防

じつはポリオウイルスは、日本の環境水からも検出されることがあります。繰り返し検出されるわけではなく、伝播型として分類されている型でもありません。でも、日本国内で検出されているので海外から持ち込まれている可能性があり、安心はできないのです。

日本のポリオワクチンの接種回数は少なく、1歳半までの4回が標準。先進国の中で、こんなに回数が少なく、こんなに早い年齢で終了してしまう国は他にありません。多くの国では不活化ポリオワクチンは5回接種し、最後に受ける年齢は4〜14歳です。そのため、日本でも5〜6歳で5回目の接種(自費)をすることが推奨されていますし、患者会であるポリオの会、小児科学会などの多数の学会からも、5回目の定期接種化の要望が出ています。

ポリオワクチンが、まれにワクチン由来のウイルスで発症者を出してしまう生ワクチンから、そのリスクのない不活化ワクチンになり、4種混合(ジフテリア・破傷風・百日咳・ポリオ)ワクチンとなったのは2012年。数年以内には、4種混合ワクチンはヒブワクチンを含めた5種混合ワクチンになり、生後2カ月から受けられるようになるといわれています。

肩にワクチンを打った後の女の子
写真=iStock.com/solidcolours
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/solidcolours

■免疫を高めるより健康を守ることが大事

「昔はどの感染症にもかかったものだ。そのほうが自然で免疫がしっかりつく」と言う人がいます。でも、それは正しくありません。感染症にかかると苦しいだけでなく、合併症が起こったり、後遺症が残ったり、亡くなったりすることがあるのを、今回の新型コロナウイルス感染症でも実感した人が多いのではないでしょうか。

たとえ免疫がついたとしても、後遺症が残ったり、亡くなったりしては本末転倒です。ワクチンの目的は免疫をつけることではなく、健康を守ること。つまり感染症によって苦しんだり、後遺症が残ったり、命を失ったりしないことです。

しかも、感染症というのは、一度かかったからといって二度とかからないわけではありません。新型コロナウイルスと同様に、何度もかかるものが多いのです。麻疹や風疹でさえ生涯に2回かかる人がいますし、今回のコロナ禍で帯状疱疹(たいじょうほうしん)が増えたことも話題になっています。

水ぼうそうに一度かかったことがある人は、急に帯状疱疹になることがあるのは知っている人も多いですね。「mRNAワクチンを受けると遺伝子が書き換わる」という根拠のない説を信じている人がいますが、mRNAは数時間で消えてしまいます。一方、水ぼうそうにかかったら、DNAウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルスが細胞内に加わってしまいます。そのほうがずっと怖くないでしょうか。

ですから、ワクチンで防ぐことのできる病気は、ぜひワクチンで予防しましょう。妊娠中のワクチン接種はリスクがあるどころか、妊婦さんご自身だけでなく赤ちゃんを守ることもあるということを知ってください。

もちろん、子供は生後2カ月から受けられるワクチンをしっかり受けることが大切です。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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