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「コロナはただのカゼ」は重大なウソである…「カゼ薬出しますね」という医師を信用してはいけない

プレジデントオンライン / 2022年11月30日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM

■新型コロナはカゼと同じになったのか?

オミクロン株の出現以降、「もはや新型コロナはカゼと同じ」という言説が多く出てきた。もういいかげん「新型コロナ」と呼ぶのもやめて、カゼと同じ扱いにしようよ、と言うのである。ネットでは「コロナに罹(かか)ったけど、診療所に行っても“カゼ薬”をもらっただけ。すぐに治ったし、もうカゼでいいじゃん」という実際に罹った方の体験談も見られる。

たしかに一理ある。私も7月に罹ったが、38度の熱がたった一日出ただけで、あとはノドの痛みも大したことなく、咳もひどくならなかった。“カゼ薬”はもちろん、解熱剤すら一錠も服用せず、まさに自然治癒。就業できない期間の大半は家でのんびりと過ごしていた。

そういう人がほとんどならば、たしかにもはや「カゼ」でいいかもしれない。しかし、本当にそうだろうか。私ごとで恐縮だが、その7月、けっきょくわが家では同居家族全員が感染した。可能なかぎり動線と空間を遮断し、換気も徹底していたにもかかわらず、である。そして私以外の家族、高校生の息子は強い咽頭痛のため数日経口摂取がままならず、私と同年代の妻は、発熱期間こそ3日程度だったが、自宅療養期間が終わる頃から咳がひどくなり始め、一時は喋るたびに咳が止まらず、最終的に咳が治ったのは感染から1カ月後のことだった。

■そもそも「カゼ」という病名は存在しない

もちろん、身近なそんなに少ない症例数では何も医学的に説得力のある議論になどならないことは重々理解しているが、日々、発熱外来で新型コロナ感染者の治療にあたっていると、まさにわが家の状況と同様、同じ家庭内感染であっても、症状の軽重、症状持続期間の長短が人それぞれに多様であることを実感する。これは、新型コロナ感染者の診療に直接従事している医療者同士であれば、共有できる事実であろう。

そこで「新型コロナはカゼと同じ」という言説について改めて考えてみたいのだが、その前に、まず「カゼとは何か?」というところから改めて認識を整理しておくべきであろう。何を今さら、などと言うなかれ。「カゼとは何か?」という問いには、実は医師でもなかなか明確に答えられないのだ。

そもそも「カゼ」は病名ではない。正確には「風邪症候群」といって、鼻汁や咳、喉の痛みといった症状の集まりに、扱いやすく名前をつけたようなものだ。病名をつけるならば「普通感冒」「急性上気道炎」とされることもある。

■「カゼ薬を出しておきましょう」と言う医師はかなり怪しい

原因の多くはウイルスである。そしてその原因ウイルスの種類も数多く存在する。熱は出ないか発熱しても3日以内に解熱することがほとんどで、38度を超える高熱が持続することは極めて稀(まれ)だ。食事がとれなくなったり、重症化して命を落とすことはまずなく、何か薬を飲まなくとも1週間程度で自然治癒する。

よく「カゼを拗(こじ)らせて肺炎になった」という話を聞くが、これはカゼの原因となったウイルスが肺炎を起こすのではなく、カゼを引いて体調が落ちたところに、二次的に感染した細菌等によって引き起こされるものがほとんど。むしろ重症化しないことこそが、「カゼ」の特徴であるといっても良いくらいだ。

昔なら、カゼを引いたと思って診療所に行くと、医師から「カゼの引き始めですね、カゼ薬と抗生物質を出しておきましょう」などとよく言われたものだが、現在の医療現場でこのような説明をする医師がもしもいるならば、その医師はかなり怪しい。カゼの原因であるウイルスに抗菌薬が効かないことは言うまでもないが、そもそも“カゼ薬”というものは存在しないからだ。

■市販の“カゼ薬”を早めに飲んでも治る効果はない

冬になると、テレビでは“カゼ薬”のCMがよく流れてくる。例えば「効いたよね、早めのパ◯ロン」といったようなもの。この薬を早めに飲めば効いて、大事に至ることなく済むと思い込まされてしまうキャッチコピーだが、このCMは、私に言わせれば医薬品等の誇大広告を禁ずる薬事法第66条に明確に違反している。

なぜなら、これら街で売られている「総合感冒薬」と言われるものに含まれている成分は、カゼの諸症状を若干緩和する可能性が期待されるものの、早めに飲むことでその後の経過、すなわち予後を変える効果など一切持たないからだ。このようなCMが野放しにされているのは、誠に由々しき状況だが、消費者もこのような商品に効果を期待して安易に飛びつくことなく十分に注意する必要がある。

さらにこれらの「総合感冒薬」には、解熱剤から鎮咳薬、アレルギー症状を抑える抗ヒスタミン薬まで多くの成分が含まれているため要注意だ。実際、コロナの発熱外来を受診した患者さんに内服していた市販薬を見せてもらったところ、咳など一切出ていない方だったにもかかわらず、その薬は強力な鎮咳薬を含有しているものであった。CMや効きそうな力強いパッケージに騙(だま)されてしまった被害者ともいえるだろう。

■なぜコロナ陽性者に無意味な“カゼ薬”を出すのか

では、コロナに罹った人が医療機関で出されたという“カゼ薬”とはいったい何であろうか。結論から言えば、いわゆる「カゼ」の症状で処方される薬というのは医師によってまちまちだから、それが何かは分からない。ただひとつ確実に言えることは、いかなる薬が処方された場合でも、そのどれも「カゼを早く治すものではない」ということだ。

葛根湯をはじめとした漢方薬を処方する医師もいるが、問題なのは患者さんの訴える症状に合わせて抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、解熱剤や去痰剤といった、それこそ市販の総合感冒薬顔負けのてんこ盛り処方をする医師だ。こういう医師に薬を出されると一回4~5錠は飲まされることになる。しかも、それを一生懸命に飲んだところで市販薬と同様、早く治す効果はまったくないのだ。

重症化リスクのない軽症のコロナ感染者が医療機関で処方された薬というのは、こういった薬であろうことは想像に難(かた)くない。市販薬より医療機関で出される薬のほうが強いとかよく効くと思う人も少なくないかもしれないが、それは大きな誤り。幸い大事に至らなかった方も、これらの処方薬のおかげで治ったわけではないのである。

棚から薬品を取り出す薬剤師の手元
写真=iStock.com/MJ_Prototype
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MJ_Prototype

ではなぜコロナが陽性であっても、これらの“カゼ薬”が処方されるのか。それは外来で使いやすい特効薬がいまだに無い現在、こういった薬を処方してお茶を濁すことしかできないのが現状だからだ。コロナがカゼと同じだから“カゼ薬”が処方されたのではなく、使いやすい薬がないから仕方がないというのが実情なのである。もちろん症状がごく軽微ならば、症状を緩和させる薬すら必要ない。

■「薬を飲んでも飲まなくても治る」コロナの落とし穴

さて、ここまでお読みになった方の多くは「効くはずもない薬を飲んでも治る。薬を飲まなくても治る。ならば、ますますカゼと同じじゃないか」とよりいっそう強く思われたかもしれない。しかし、そこに大きな落とし穴があるのが、この新型コロナの厄介なところなのだ。

症状が軽重多彩であることは先述した。オミクロン株主体となった昨今は、たしかに昨夏のような勢いで肺炎に移行する人は明らかに減っている。その意味では一歩「カゼ」に近づいたといえるかもしれない。

しかし今でも変わらずいちばん厄介なのは、その感染性の強さだ。もちろん、いわゆる「カゼ」もウイルス感染症だから人から人へと伝播してゆく。しかし新型コロナのそれは、「カゼ」の比ではないのだ。

空気感染だから直接飛沫を浴びなくても、互いにマスクをしていても移ってしまう。高齢者施設などではフロアが違っても一気に感染が広がってクラスターを形成してしまう。クラスターが生じれば、多くは軽症でもその中の数人は入院を要する容体となる。スタッフにまで広がれば人手不足も深刻になってしまうのだ。従来私たちが扱ってきた「普通のカゼ」ではここまでの事態は起こりえない。

■倦怠感、頭痛、不眠など「カゼ」にはない後遺症も

さらに新型コロナには、従来の「カゼ」では経験しない感染後の後遺症の存在という看過できないものがある。倦怠(けんたい)感、気分の落ち込み、思考力低下、頭痛、息切れ、不眠といった症状を呈し、ややもすると精神疾患と誤診されたり、「気のせい」「甘え」などという心ない言葉を職場だけでなく、医療者からも投げつけられたりするケースもあると言われる。

海外の文献では、成人の新型コロナ患者の8人に1人が、この“long COVID”を経験したと発表されているが、本邦ではまだその存在が医療者の間でさえ周知されているとは言いがたい状況だ。

「新型コロナはカゼ」ということにしてしまうと、これらの後遺症で悩む人たちは、まとめて切り捨てられることになる。オミクロンが主流になって以降、軽症で後遺症もなく完治する人が増えてきているとはいえ、感染者が増えれば、それに伴って重症者、死者、後遺症に悩まされる人も増えてくるのは自明だ。この感染性と後遺症の問題を考慮しただけでも、「新型コロナはカゼ」とするのはあまりにも乱暴といえるだろう。

もう1点、「新型コロナはカゼ」として扱うことで、より感染拡大を助長する重要な問題を指摘しておきたい。新型コロナ上陸以前の社会を思い出してみてほしい。

■「カゼくらいで休むな」という社会に逆戻りしていいのか

「カゼくらいで会社を休む」という人はいただろうか。インフルエンザならまだしも、高熱ではない、もしくは発熱しても1日で下がってしまうくらいの「カゼ」で1週間も休んでいた人、休めていた人など、ほぼ皆無であったのではなかろうか。

新型コロナ上陸以降、これら「カゼくらいで休むな」「カゼくらいで休んでいられない」という今までの“常識”が大きく変えられ、少しでも具合が悪い人は無理して出勤や登校せず、望むらくは医療機関を受診し検査してきてほしい、という組織が少しずつ増えてきたのではなかろうか。

これらの意識改革と行動変容は、感染症を社会に蔓延させないためには非常に優れており、一見、軽症者をも十分に休ませることから社会経済活動を停滞させるように思われがちだが、こと新型コロナのような非常に感染性の強い感染症では、このような「休ませる」施策によって感染者を増やさない社会こそが、結果として社会経済活動を滞らせることなく維持できる「感染症に強い社会」であるといえるのだ。

コロナ禍によって、せっかくこのような行動変容がもたらされつつあるにもかかわらず、「新型コロナはカゼ」だとして、コロナ禍以前のカゼと同様、症状が軽微な人を休ませることなく一日も早く社会復帰をなどと逆戻ししてしまえば、感染拡大に歯止めが利かなくなることは容易に想像できるであろう。

■むしろ早めに休むほうが経済活動を止めずにすむ

何も私は、無症状な元気な人まで社会経済活動を制限せよと言っているわけではない。元気な無症状の病原体保有者が動き回ってバンバン感染を広げているとの意見にも与(くみ)しない。むしろまったくの無症状の元気な人で、家族や職場にカゼ症状の人がいるといった人でなければ、マスクを適切に着用した上で旅行や飲食、娯楽をコロナ禍以前と同様に楽しんでも構わないと考えているくらいだ。

それより何より有症状者、いかに軽微であっても発熱していなくても、ただのカゼ気味という人であっても、これらの有症状者を検査の有無、陰性陽性かかわらず徹底的に休ませて、人に接触させないという意識と行動こそが、感染拡大抑止そして社会経済活動を停滞させないためには最も重要だと考えている。

「新型コロナはカゼと同じ」とすることなく、しっかりと休ませることは、後遺症の発生や長期化防止にも重要だ。long COVIDを数多く診療しているヒラハタクリニックの平畑光一医師によれば、後遺症による“準ねたきり”を防ぐためには、新型コロナ発症後の2カ月間が非常に重要であり、感染したら2カ月間は安静にするよう訴えている。

コロナウイルス
写真=iStock.com/BlackJack3D
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BlackJack3D

■「新型コロナはカゼと同じ」になるのはいつか?

当然のことながら、働き盛りの人が感染を契機に寝たきりになってしまえば、その人自身にとっては言うに及ばず、社会にとっても多大なる損失だ。後遺症に移行させないために、ゆっくり休ませる、これも社会経済活動を停滞させないために非常に意義のあることであろう。

実際に感染したことのない人はもちろん、感染してもごくごく軽症で完治し後遺症もなく、その後の社会活動にまったく支障が生じなかった人、そして医師であっても新型コロナ感染者の診療はもとより、従来の「カゼ」診療の経験が過少な人から見れば、「新型コロナはカゼ」に見えるかもしれないが、感染して重症化したり、「治った」とされた後も感染前までは一切なかったつらい症状に悩まされ、社会復帰が困難なばかりか、周囲からは仮病扱いされるという苦境に立たされていたりする人にとっては、「新型コロナはカゼ」では断じてないのだ。

では、「新型コロナはカゼと同じ」と言えるようになるのはいつだろうか。よく「インフルエンザに使うタミフルのような薬が出れば解決できる」という人がいるが、残念ながら私はそうは思わない。なぜならタミフルは、重症化リスクの低いインフルエンザ患者での発熱期間を1~2日程度短縮するものであって、特効薬とは言えないものだからだ。

新型コロナの特効薬とされるべきものは、タミフルのように外来で簡単に処方できるだけでは不十分で、早期に服用させることで感染性を急速に減弱させ、重症化と後遺症を阻止しうるものである必要がある。その意味で、このほど緊急承認されたゾコーバは、残念ながら現時点では特効薬とは言いがたい。

■もうコロナ禍の生活はウンザリだが…

「新型コロナはカゼと同じ」と言っている人の中には、もうコロナ禍の生活はウンザリだという人がほとんどだろうが、一部には「新型コロナをもうカゼと同じ扱いにして、罹患(りかん)した労働者を早く現場に戻して働かせたい」というブラックな経営者も紛れ込んでいることだろう。政府もそんな財界の要望を忖度(そんたく)し、感染者の自宅療養期間短縮に舵を切ったのかもしれない。

だがそれは、社会経済活動を停滞させないことを目的としたものであるならば、むしろ逆効果であって、かなり筋の悪いものといえるだろう。

私たちが新型コロナウイルスとの共存を始めて3年になるが、コロナ禍が私たちにくれた唯一の恩恵といえるものが「具合の悪い人は休ませよう」という意識の高まりだ。せっかくのこの貴重な意識を「新型コロナはカゼと同じ」との言説によって「カゼくらいでは休めない社会」に回帰させることなく、むしろ逆に従来の「普通のカゼ」を新型コロナと同様に、罹ったら十分に休むべきもの、休ませるべきものとして、これまでの意識を大転換させることこそが、今後も繰り返されるであろうこのような感染症禍に打ち勝てる社会を形成するために必要である。

■不寛容な時代だからこそ「お互いさま」の気持ちを

当然ながら、そのような社会を構築するためには、私たちの意識改革や行動変容だけでは不可能だ。症状の軽重、長短、職種、正規非正規にかかわらず誰もが収入を気にすることなく、いつでも休める制度が必要だ。そして当然ながら、その制度を作るためには、不祥事や不誠実にまみれた政治家を排したまっとうな政治が行える政権が必要であることは言うまでもない。

コロナ禍、不景気、物価高という私たちを取り巻く環境が日々厳しさを増している現在、私を含め、多くの人の気持ちに他者を慮(おもんぱか)る余裕などなくなってしまっていることは否定しないが、そんな不寛容な空気が充満している今だからこそ、「明日はわが身」「困ったときはお互いさま」といった寛容な気持ちを、いま一度思い出したい。

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木村 知(きむら・とも)
医師
医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。著書に『医者とラーメン屋「本当に満足できる病院」の新常識』(文芸社)、『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)がある。

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(医師 木村 知)

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