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「家事・育児は妻担当」では将来の年金が減ってしまう…新設の"産後パパ育休"を活用すべきワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月4日 10時15分

厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」より筆者作成

なぜ育児休業を取得する男性が少ないのか。ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓さんは「育休中に収入が減ることを懸念する声が多いが、経済的な支援制度があるので積極的に利用すべきだ。育休をどう取得するかは長期のマネープランに影響するので、夫婦でしっかりと話し合ってほしい」という――。

■男性の育休取得率は女性の6分の1

男性がもっと柔軟に育児休業を取得できるよう、2022年10月から「出生時育児休業制度(産後パパ育休)」と「育児休業の分割取得」がスタートしました。背景には、男性の育休取得率が女性と比べて低水準にとどまっている現状があります。

男性が育休を取りにくい原因には、お金や夫婦の役割分担、日本の働き方の問題があるようですが、実は子育て世代の家計をサポートする「育児休業給付金」や「社会保険料の免除」といった制度があります。要件がやや複雑ですので、今回はそのサポートの仕組みを中心に詳しく解説していきます。

まず、現状はどうなっているのかをデータで確認しましょう。

今年7月に公表された「令和3年度雇用均等基本調査」によると、女性の育児休業取得者(※1)の割合は85.1%、男性が13.97%でした。育児休業を取得する男性が増えているとはいえ、政府が掲げる「2025年までに男性の育休取得率30%」という目標には程遠いのが現状です(図表1)。

育児休業期間(※2)でみると、女性は「12カ月~18カ月未満」が34.0%と最も高く、次いで「10カ月~12カ月未満」が30.0%、男性は2週間未満が5割超を占めています(図表2)。

【図表2】男女別育児休業取得期間(2021年度)
厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」より筆者作成

※1 令和元年10月1日から令和2年9月30日までの1年間に在職中に出産した女性(男性の場合は配偶者が出産した男性)のうち、令和3年10月1日までに育児休業を開始した者(育児休業の申し出をしている者を含む)の割合
※2 令和2年4月1日から令和3年3月31日までの1年間に育児休業を終了後復職した者

■1歳以降も夫婦が交代で育休を取得できる

10月1日からスタートした産後パパ育休とは、妻が産休中の男性を念頭においたもので、子の出生後8週間以内に4週間(28日)を限度に取得でき、2回までの分割取得が可能となりました(※3)

通常、育児休業は1カ月前に申し出る必要がありますが、産後パパ育休は、原則として、休業の2週間前までとなっています。また、産後パパ育休とは別に、時期・事由を問わず、分割して2回まで取得することが可能になりました。

育児休業は子どもが1歳になるまでの間に取得できるものですが、1歳に達する日において保育所などに入所できない場合など、例外的な措置として1歳6カ月まで育児休業を延長することができます(再延長で2歳まで可)。

10月以前は、1歳以降に育児休業を取得するには、休業開始日が1歳または1歳6カ月到達日の翌日に限定されていたため、父母が各期間の途中で交代することができませんでした。その制限がなくなったことにより、交代での育児休業取得が可能になりました(図表3)。

【図表3】産後パパ育休制度を利用した育児休業の取得例
筆者作成

※3 産後パパ育休の創設に伴い、子の出生後8週間以内に育児休業を終えた場合に再度育児休業の取得を可能とする制度(パパ休暇)は廃止

■育児休業給付金をもらえる3つの条件

育児休業は取りたいけれど、「経済的に不安」という人も多いでしょう。そのための支援制度として、非課税で受け取れる「育児休業給付金」や「社会保険料の免除」などがあります。まず、育児休業給付金についてみていきます。

育児休業給付金の受給要件は、原則として以下のとおりです。なお、産後パパ育休を取得した場合に受給できるのは「出生時育児休業給付金」ですが、受給要件は育児休業給付金と同じです。

1.1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得した雇用保険の被保険者であること
2.育児休業を開始した日前2年間に、賃金支払日が11日以上ある月が12カ月以上あること
3.1支給単位期間中(※4)の就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下であること

育児休業中は就業をしないことが基本ですが、労使間の話し合いによる合意を条件に、「3」の範囲での就業が可能です。

■休業中の賃金の50~67%を給付

育児休業給付金の1カ月あたりの支給額は以下の計算式で算出します。

・ 育児休業開始後180日まで:休業開始時賃金日額×支給日数×67%
・ 育児休業開始後180日以降:休業開始時賃金日額×支給日数×50%

休業開始時賃金日額とは、育児休業開始前6カ月の賃金を180日で割った金額です。支給日数は原則30日として計算します。出生時育児休業給付金を受給した日数も通算されますので、67%の育児休業給付金が支給されるのは、180日から出生時育児休業給付金を受け取った日数を差し引いた日数分です。

※4 育児休業を開始した日から起算した1カ月ごとの期間(その1カ月の間に育児休業終了日を含む場合はその育児休業終了日までの期間)

■健康保険や厚生年金保険が免除される条件

次に社会保険料の免除についてみていきます。産休中や育児休業中に勤務先から給与が支給されない場合、雇用保険の保険料負担はありません。一方、健康保険料や厚生年金保険料は、事業主が申し出ることによって、被保険者本人と事業主の負担がともに免除されます。免除期間中も、健康保険の給付は通常どおり受けられますし、将来の年金額も減額されることはありません。

現行法では「育児休業開始日の属する月から終了した日の翌日の属する月の前月まで」と定められているため、月末時点で育児休業を取得しているかどうかが免除の分かれ目となります。月の途中で短期間の育児休業を取得した場合は、保険料免除の対象になりません。

この規定により、10月以前は、月末の1日だけ育児休業を取得すれば、その月の保険料は免除となり、それが賞与月であれば、月額分と賞与分の保険料を支払わなくて済んでいました。ところが、10月以降、このような不公平感は解消されました。改正後の免除要件は次のとおりで、図で説明したのが図表4です。

1.育児休業を開始した月から終了した日の翌日の属する月の前月まで(変更なし)
2.休業開始日と休業終了日が同じ月である場合、その休業期間が14日以上あるとき(暦日数)
3.賞与からの社会保険料の免除は、月末に育休中で休業期間が1カ月を超える場合(暦日数)
【図表4】育児休業中の保険料の免除
筆者作成

■手取り収入は8割程度を維持できる

たとえ育児休業給付金を受け取っても、ある程度の収入減は避けられません。しかし、給付金は非課税ですから所得税を引かれることはありませんし、社会保険料も払わなくて済みます。住民税は前年度の所得を基にしているため、育児休業中も支払わなくてはなりませんが、翌年度の住民税負担が減ります。

お給料や加入している健康保険、扶養家族の人数等によって異なりますが、手取り収入は概ね休業前の8割程度となります(育児休業開始180日以降は約6割)。67%とか50%と聞くと腰が引けてしまうかもしれませんが、手取りで8割程度が確保できるとなれば、あらかじめ夫婦で話し合ってマネープランを立てておけば乗り切れるのではないでしょうか。

■「家事・育児は妻担当」は家計を圧迫する

育児休業をどう取得するかは、短期のマネープランにとどまりません。子育て期はキャリア形成の基盤を作る大事な時期と重なります。夫と妻がお互いのキャリアの方向性をすりあわせながら、ライフプランとキャリアプランを不可分のものとして考えていく必要があります。たとえば、ライフは妻担当、キャリアは夫担当などと縦割りで分業するのは、リスク管理の面からも長期的なマネープランの面からもお勧めはできません。

ところが、ほとんどの家事・育児を妻が担うというケースはいまだに多いものです。そのため、仕事との両立が困難になり、妻が離職もしくはパートタイムに移行するとなれば、その影響は年金後の生活にも及びます。なぜなら、現役時代の収入が減るだけでなく、将来の厚生年金受給額も減ってしまうからです。

減少した収入分を家計の節約で賄うのは現実的ではありません。また、年金受給額が少なければ老後のための貯蓄を増やす必要があります。しかし、それ以前に立ちはだかるのが子どもの教育費問題です。減少した収入でこれらの問題を乗り越えるのは、なかなかハードルが高いと言わざるを得ません。

■いまの女性は「永久就職」なんてできない

今年6月に決定した「女性活躍・男女共同参画の重点方針2022(女性版骨太の方針2022)」でも政府の強い危機意識が表れています。

日本の女性の半分以上が90歳まで生きる時代となり、結婚すれば生涯、経済的安定が約束されるという「永久就職」はもはや過去のものとなったにもかかわらず、有業の既婚女性の6割が所得200万円未満、単身未婚女性の約半数が所得300万円未満であると指摘し、女性本人のためにも、また我が国の経済財政政策の観点からも、喫緊の課題であると述べています。

7月には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)の厚生労働省令が改正され、労働者301人以上の企業に対して、男女の賃金差異の公表が義務づけられました。

育児休業制度には、男女ともに仕事と育児を両立できるようにという意味合いがあります。子育てしながらの共働き生活をスムーズに回すためのインフラ作りと、子どもとの関係性を構築する期間と位置付けてください。育児休業明けの生活をシミュレーションし、仕事と家事、育児を回していくためには何が必要なのか、夫婦互いにどのような役割を担うのかといったことを具体的に話し合いましょう。

今回の改正では、育児休業制度の柔軟な活用が可能になりました。夫婦それぞれのキャリア展望や家族全体のライフプランについて、しっかりと話し合う時間を作ってみてはどうでしょうか。

■育休を取りやすい職場にする義務がある

ただし、制度があるだけでは利用は進みません。職場に育児休業の取得を阻むような雰囲気があると、実際に取得を申し出るにはハードルが高いかもしれません。そのようなハードルを取り除くため、事業主に対して、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備や、労働者への個別周知・意向確認の措置を義務化する法改正も行われています。

育児休業申請書とボールペン
写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

まず、雇用環境の整備については、育児休業・産後パパ育休に関する研修や、相談窓口の設置を行うなどの措置を講じるよう求められています。

次に、妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対して、以下の事項を個別に周知し、育児休業の取得意向を確認することとなりました。

【周知事項】
1.育児休業・産後パパ育休に関する制度
2.育児休業・産後パパ育休の申し出先
3.育児休業給付に関すること
4.労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い

【個別周知・意向確認の方法】
①面談(オンラインも可)
②書面交付
③FAX(労働者が希望した場合のみ)
④電子メール等(労働者が希望した場合のみ)

①~④のいずれかで行う

■大企業は社員の育休取得状況を公表へ

日本は離職率が低く、業務プロセスを標準化しようという意識が希薄なため、仕事が属人化し、業務の再配分がスムーズにいかないことが効率化の妨げになっていると言われています。また、短期的な成果よりも長期的な成長を重視する文化があり、会社の収益にどのぐらい貢献したかではなく、労働時間や仕事のプロセスを評価しがちであるとも指摘されています(※5)

このような日本の働き方の特徴が、男性の育児休業取得を阻む一因かもしれません。2023年4月1日以降、常時雇用する従業員が1000人を超える企業は、育児休業の取得状況を公表することが義務付けられる予定です。業務プロセスの標準化と業務の再配分は働き方改革と不可分であり、それらが実現することによって、性別に関わりなく仕事と子育ての両立ができる社会となっていくことが期待できます。

※5 大湾秀雄『日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用』(日本経済新聞出版社)

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内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)
ファイナンシャルプランナー
1956年生まれ。博士(社会デザイン学)。大手生命保険会社勤務後、ファイナンシャルプランナー(FP)として独立。金融機関に属さない独立系FP会社「生活設計塾クルー」の創立メンバーで、現在は取締役として、一人ひとりの暮らしに根差したマネープラン、保障設計などの相談業務に携わる。『医療保険は入ってはいけない![新版]』(ダイヤモンド社)、『お金・仕事・家事の不安がなくなる共働き夫婦最強の教科書』(東洋経済新報社)など著書多数。

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(ファイナンシャルプランナー 内藤 眞弓)

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