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GAFAMのうちメタバース時代をリードするのはどこか…米投資家が「グーグルやメタではない」という理由

プレジデントオンライン / 2022年12月6日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/COM & O

拡大するメタバース世界を今後リードしていくのはGAFAMのどこか。メタバースについて詳しい米ベンチャー投資家のマシュー・ボール氏は「マイクロソフトは現時点で最も優れた仮想現実を構築している」という。彼の著書『ザ・メタバース 世界を創り変えしもの』(飛鳥新社)より紹介する――。(第1回)

*本稿では「メタバース」と区別するため、「メタ社」を「フェイスブック」と表記しています。

■メタバース時代に最ものめりこんでいる企業

GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)のうちメタバース時代をリードするのはどこなのだろうか。

フェイスブックはモバイルへの移行にうまく対応した。2012年にマーク・ザッカーバーグがインスタグラムを10億ドルで買ったのは、わりとすぐに、デジタル時代有数の賢い買い物だったと言われるようになった。

買収当時、インスタグラムは社員も10人ほどなら月間アクティブユーザーもようやく2500万人というレベルで、売上はまったく上がっていなかった。それがわずか10年で5000億ドル以上もの評価価値を持つようになったのだ。

インスタグラムの2年後にはユーザー数7億人のワッツアップも買っていて、200億ドルなら同じように格安の買い物だと言われた。いまは両方とも、賢すぎる買い物だった、独占禁止法上、国が却下すべき買収だったとまで言われているほどだ。

では、もう一度、変革に成功できるのだろうか。メタバース計画の基礎もオキュラスVRやCTRLラボの買収で形にしたわけだが、今後はそうした買収に規制当局が厳しい目を向けそうだ。サービスの大半が依存するハードウェアベースのプラットフォームという戦略的障害もあるし、社会的な評価がかつてないほどネガティブになってもいる。

それでも、フェイスブックはあなどれない。なにせ月間ユーザー数が30億人、1日あたり20億人と世界一よく使われているオンラインアイデンティティのシステムを持つのだから。メタバース関連に年120億ドルも支出しているし(ちなみに売上は1000億ドル近く、キャッシュフローも年500億ドル以上に達している)、VRハードウェアについては何年も先行できている。そして、経営している創業者は企業経営者のなかでもこれほどメタバースに入れ込んでいる人はいないというほど入れ込んでいるのだ。

■全く展開できていないグーグル

次にグーグルを見てみよう。

グーグルは「世界の情報を整理し、そこに誰でもアクセスできるようにする」をミッションに掲げているが、仮想世界の情報にはほとんどアクセスできないし、それを活用するなど夢のまた夢である。

自社では仮想世界も展開できていないし、仮想世界のプラットフォームもエンジンも持っていない。

2016年にはゲームストリーミングのクラウドサービス、『ステイディア』を提供しようと準備を始め、2019年末にはリリースにこぎ着けたし、同年、ステイディアゲームとエンターテイメント部門を「クラウドネイティブ」なコンテンツスタジオにすると発表してもいる。だがそれも2021年には閉鎖となり、ステイディア関係の人々は、トップ以下、グーグル内の他グループに異動するか退職するかしてしまっている。メタバースへの取り組みはあまり進んでいないと考えていいだろう。

■クラウドサービスで安泰なアマゾン

メタバースに一番入れ込んでいるのはフェイスブック、一番後れを取っているのはグーグルで、その中間にいるのがアマゾンだろう。

メタバースは、コンピューティングパワー、データストレージ、ライブサービスに大きな負荷をかけることになる。つまり、クラウドインフラ市場の3分の1近くを占めているアマゾンウェブサービス(AWS)は、今後の成長を他社にかなり持っていかれたとしても、相当の利益を得ることができるわけだ。

■コンテンツ作りには消極的

ちなみにアマゾンもメタバース向けのコンテンツやサービスを作ろうとしてはいるが成功しているとは言いがたいし、音楽やポッドキャスト、動画、ファストファッション、デジタルアシスタントといった従来型市場に比べて優先順位が低いようだ。

各種報道によると、アマゾンは、創業者ジェフ・ベゾスが言う「コンピューター的にとほうもないゲーム」を作るため、毎年何億ドルもの予算をアマゾンゲームスタジオに投じているという。だがゲームのほとんどはリリースできず打ち切りになっている(基本的に、ヒット作のライフタイム予算以上に開発費がかかると打ち切りになる)。

もちろん、この先、いろいろとヒット作が出てきたりもするのだろうが、アマゾンミュージックやプライム・ビデオに合計で年間何十億ドルも支出していることを見れば(ハリウッドのMGMスタジオも85億ドルで買収している)、ゲームに力を入れていないのはあきらかだ。テレビドラマ『ロード・オブ・ザ・リング』の1年分だけで、ゲームスタジオの年間予算を超えるという報道もある。

ゲームエンジンの開発はどうだろう。ゲーム『ファークライ』を開発したクライテックからそれなりのゲームエンジンであるクライエンジンのライセンスを取得。その後数年、数億ドルを投じて改良を施し、完成したのがランバーヤードだ。

AWSに最適化されたゲームエンジンで、アンリアルやユニティのライバルになることが期待された。だが利用は広がらず、2021年、開発がリナックスファウンデーションに引き継がれ、無償のオープンソース、「オープン3Dエンジン」として提供されることになった。ARやVRのハードウェアはそれなりに成功しているが、リアルタイムレンダリング、ゲーム制作、ゲーム配信については、いまのところ失敗続きと言っていいだろう。

■ソフトでなくハードウェアで勝負のアップル

アップルも、メタバースの恩恵を確実に受ける1社である。

規制でサービスのバンドルが禁じられる事態になっても、アップルのハードウェアやオペレーティングシステム、アプリプラットフォームが仮想世界の入口として重要な役割を果たすであろうことは変わらないし、それが利益率の高い事業になることもまちがいなければ、技術規格やビジネスモデルに大きな影響を与えるであろうこともまちがいない。

アップルはまた、軽量・高性能で使いやすいARヘッドセットやVRヘッドセットといったウエアラブル機器の開発には一番有利な立場にある。iPhoneを活用するなどの方法もあるだろう。

『ロブロックス』のような統合仮想世界プラットフォーム(IVWP)があれば仮想世界のユーザーやディベロッパーともつながれるはずだが、IVWPを開発しているという話は聞かない。アップルという会社はゲーム関連のノウハウを持たないし、そもそも、ソフトウェアやネットワークよりハードウェアが中心であることを考えると、人気IVWPの開発は難しいとも思われる。

■マイクロソフトに注目すべき理由

メタバース時代に注目すべきGAFAMは、モバイルへの移行に乗り損ねたマイクロソフトかもしれない。

マイクロソフト本社
写真=iStock.com/lcva2
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lcva2

Xboxを世に送り出した2001年、投資家はもちろん社内からも、ゲーム部門は必要なのか、むしろないほうがいいのではないかと疑問の声が上がった。

対して創業者であるビル・ゲイツ会長は、CEOがスティーブ・バルマーからサティア・ナデラに代替わりした3カ月後、「ナデラがXboxをスピンオフすると言うなら自分はそれを心から支持する。ただし今後はゲーム戦略が不可欠になるので、どうすべきかは意外に難しい」と表明している。

そして、ナデラはマインクラフトの買収を決断。数十億ドル規模の大型買収だ。しかも、提供プラットフォームをXboxとウィンドウズに限定しなかった(Xboxやウィンドウズなら一段よくなるようにもしなかった)。いまなら当たり前に思えるが当時はあり得ないと言われていた考え方である。

この方針が功を奏し、『マインクラフト』はユーザー数が買収当時の月間2500万人から1億5000万人へと6倍にも増え、世界で2番目に人気の高いリアルタイムレンダリング3D仮想世界となった。

■現時点で最強の仮想現実

いま、ゲーム体験はマイクロソフトに限らず業界の最前線となっている。特に『マイクロソフトフライトシミュレーター』は、技術面でもコラボレーション面でもすごい製品である。

『マイクロソフトフライトシミュレーター』Webサイトより
『マイクロソフトフライトシミュレーター』Webサイトより

目標は、バーチャルな飛行機を飛ばすこと。しかも、リアルなフライトそっくりに手間暇をかけて、だ。

2020年版のマップは5億平方キロメートル以上とリアルな地球に匹敵するし、個別レンダリングの木が2兆本もあるし(1本を2兆回コピーペーストしたのでもなければ、数十本をコピーしたのでもない)、建物も億棟、さらには、実際地上にある道、山、都市、空港もほぼすべてあるのだ。すべてがリアルにそっくり。MSFSの仮想世界はリアルを高精度スキャンしたイメージがもとになっているからだ。

開発はXboxゲームスタジオだが、ビングマップの協力を仰いでいるし、無償で使えるオンライン地図の共同作業プロジェクト、オープンストリートマップスのデータも活用している。さらに、データをまとめて3D化したり気象データをリアルタイムに反映させたり、クラウドからストリーミングしたりしているのはアジュールの人工知能である。

マシュー・ボール『ザ・メタバース 世界を創り変えしもの』(飛鳥新社)
マシュー・ボール『ザ・メタバース 世界を創り変えしもの』(飛鳥新社)

またXbox部門にはハードウェアスイートもあれば、世界一の人気を誇るゲームストリーミングのクラウドサービスも、ゲームスタジオもあるし、独自エンジン各種もある。

さらに、マイクロソフトは、2022年1月、中国を除く世界で一番大きな独立系ゲームパブリッシャー、アクティビジョン・ブリザードを750億ドルで買うと発表し(GAFAM史上最大の買収劇である)、その際、「この買収により、モバイル、PC、コンソール、クラウドにまたがるマイクロソフトのゲーム事業は今後一層発展するでしょう。また、アクティビジョン・ブリザードはメタバースの構築に必要な各種材料を提供してくれるものと期待しています」と語っている。

■自社のOSやハードに特化しない戦略

『マインクラフト』の扱いを見れば、マイクロソフトをどう変えていこうとナデラが考えているのかがわかる。

今後の製品は、自社のオペレーティングシステムやハードウェア、技術、サービスに特化したものとしない(その組み合わせが一番という最適化さえしない)だ。

逆に、プラットフォームを気にせず使えるように、なるべく多くのプラットフォームをサポートする。オペレーティングシステムの覇権を失っていく中、それでも成長できたのは、こういう方針に転換したからだ。

マイクロソフトのシェアが縮む以上にデジタル世界が大きくなったからと言ってもいい。これはまた、メタバース時代にも対応可能な方針でもある。

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マシュー・ボール 投資家
元アマゾンスタジオ戦略部門のグローバル統括責任者で、現在はエピリオン社CEO。ニューヨークタイムズ紙、『エコノミスト』誌、『ブルームバーグ』誌に寄稿もしている。メタバースをテーマに書いたウェブ記事が大きな評判となり、エピックゲームズのティム・スウィーニーやフェイスブック(メタ)のマーク・ザッカーバーグ、さらにはテンセント、コインベースなどテック界のトップも繰り返し引用。メタバースの概念を広めた第一人者として知られる。

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(投資家 マシュー・ボール)

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