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"激辛"は必ずクレームがつく…スーパーから取り扱い拒否された「カラムーチョ」の意外なヒット要因

プレジデントオンライン / 2022年12月1日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiwit

他社との差別化を図るにはどうすればよいのか。高千穂大学の永井竜之介准教授は「40年近く前、食品の世界でタブー視されていた“激辛”に挑戦した湖池屋のカラムーチョやネットフリックス、コロナ禍に大ヒットした口紅・KATE リップモンスターには、型破りなマーケティングのヒントが詰まっている」という――。

■成功を掴むには「型破り」な戦い方が必要

前回は「ファン」(今や売り上げの9割が世界……販売台数が10分の1に落ち込んだ「チェキ」がV字回復した納得の理由)をキーワードとして取り上げたが、今回は「型破り」からマーケティングの裏側を見ていこう。

多くの企業が、ライバルにはない「価値ある違い」を作れずに、同じような商品・サービスで、結局は価格競争に明け暮れてしまう現状に頭を悩ませている。「型」通りの作り方や広め方だけではなかなか成果をあげられず、成功を掴むには「型破り」な戦い方を求められる場面が増えてきている。ただし、それは、ただ考えもなしに突拍子もないことをやればいいわけではない。

「型破り」とは、「型」を知り尽くしたうえで、狙いを持って「あえて型を破る」ことで価値を生みだすものである。ここでの「型」には、前例や常識といった言葉を当てはめることができる。業界の前例・常識、自社にとっての前例・常識、マーケティングの前例・常識、あるいは消費者にとっての前例・常識。これらをいかに良い意味で裏切る「型破り」を実現できるか、が重要になる。

マーケティングでは、良い意味で驚きを提案する要素のことを「Wowファクター」と呼ぶ。「Wow!(ワォ!)」と相手を驚くほど喜ばせる「何か」を提供できれば、相手の期待を大きく上回り、高い満足度を獲得することができる。ここからは、型を熟知したうえであえて破る「型破りな挑戦」によって、顧客の心を掴むWowファクターを実現し、成功を掴んだ3つの事例について紹介していこう。

■「何でもできるメディア」ネットフリックス

ネットフリックスは、「世界中を楽しませる」を目的とした世界最大のコンテンツ・プラットフォームだ。190を超える国々で、30カ国語以上に対応したコンテンツを配信し、会員数は2億人を突破している。膨大な視聴データに基づき、コンテンツの最適な提案や製作を推進する強力なデジタルマーケティングの企業としても有名だが、コンテンツ作りの才能・ノウハウ・資金が集結する世界有数のスタジオでもある。ユーザーの期待を超え続ける「型破りなコンテンツ」を製作・配信する「何でもできるメディア」になることで、ライバルの追随を許さず独走を続けている。

1997年、DVDの郵送レンタルから始まったネットフリックスは、翌年に世界初となるDVDレンタル・販売サイト「Netflix.com」を開始。さらにその翌年には、定額制借り放題のサブスクリプション・サービスをいち早くスタートさせた。ドットコム・バブルの崩壊やレンタル最大手ブロックバスターとの消耗戦に苦しみながらも会員数を伸ばし、2007年にストリーミング配信サービスを導入すると、DVDから配信へビジネスを脱皮させていった。

■オリジナル作品の製作が成功のきっかけに

ネットフリックスのさらなる飛躍のきっかけとなったのが、2013年から始めたオリジナル作品の製作だ。なかでも、ハリウッドのトップクラスの監督や俳優を迎えて巨額の製作費をかけ、アメリカの政界における権力争いの人間ドラマを描いた「ハウス・オブ・カード」は大成功を収めた。これを機にネットフリックスは、作品を買い付けて配信するだけの立場から、意欲的な作品を自ら作るスタジオへ変身を遂げていった。

ちょうどこの頃、ハリウッドの映画業界は、ファミリー向け・シリーズもの・アクション大作などの大ヒットが見込める作品か、若手の監督や役者を抜擢して低予算でヒットを狙うコストパフォーマンスの高い作品に、映画作りが偏るようになっていた。その結果、行き場をなくした映画人のよりどころとなったのがネットフリックスで、潤沢な製作費をかけた大人向けの作品づくりを一手に引き受けた。

ハリウッドサイン
写真=iStock.com/Rudy Salgado
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rudy Salgado

巨匠マーティン・スコセッシが名優アル・パチーノとロバート・デ・ニーロを迎えたギャング映画「アイリッシュマン」は、その良い例だ。この作品は、ハリウッドの映画スタジオから断られた末に、ネットフリックスが製作費と内容に完全な自由を約束することで実現した。スコセッシ監督が「これほど自由に映画を作れたことはない、最高の経験」と口にするほど徹底した作品作りが行われ、「スコセッシ監督の集大成」と絶賛される名作となった。

■ネットフリックス最大の強みとは

ネットフリックスの強みは、「映画」という枠や、「スタジオ」という役割に縛られることなく、あらゆる作品作りと、そこから派生するコンテンツ作りを、エンターテインメントの名のもとに何でもできるところにある。「アイリッシュマン」の配信時には、製作陣が舞台裏を語り合うドキュメンタリーもセットで公開された。

硬派な作品だけでなく、気軽に楽しめるポップコーンムービーも作れる。「タイラーレイク(原題:EXTRACTION)」や「グレイマン」のような巨額の製作費をかけたアクション大作を作り、その続編・スピンオフ作品も派生させていく。才能の発掘にも力を注ぎ、他のスタジオから企画を断られ続けた無名のクリエイターだったダファー兄弟に機会を与え、「ストレンジャー・シングス」の大ヒットを生み出した。非英語作品として初めてエミー賞を獲得した「イカゲーム(原題:Squid Game)」を世界中でヒットさせ、その続編はもちろん、456人の参加者が456万ドル(約6億円)の賞金をめぐって競い合う史上最大規模のリアリティ番組「Squid Game: The Challenge」も製作が予定されている。こうした、制約なく何でもできる「型破りなコンテンツ作り」はネットフリックス最大の強みとなっている。

■激辛への挑戦! 湖池屋「カラムーチョ」

日本で初めてポテトチップスを作った湖池屋が、1984年、当時の食品業界ではタブー視されていた「激辛」に挑戦し、小売店での取り扱い拒否を乗り越えてヒットを実現した「カラムーチョ」。この商品は、強力なライバルであるカルビーへの対抗の一手として生み出された「型破りのヒット商品」だった。

多すぎるチリペッパー
写真=iStock.com/sdominick
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sdominick

1958年、揚げ菓子などのおつまみ菓子メーカーとして創業された湖池屋は、創業者の小池和夫氏が酒場でおつまみとして出てきたポテトチップスを食べ、その美味しさに感動し、試行錯誤の末に「コイケヤ ポテトチップス」の量産・商品化に日本で初めて成功した。これが1962年に最初のポテトチップスとして世に出ると、人気の高まりと共に、多くの菓子メーカーがポテトチップス市場へ参入していった。

その中で一歩飛び出たのが、後発のカルビーだった。カルビーは1964年発売の「かっぱえびせん」を大ヒットさせると、その利益を後ろ盾に、ポテトチップスでは利益度外視の低価格戦略に踏み切る。当時、各社150円で横並びだったところ、カルビーは100円で販売する価格破壊を起こした。加えて、1978年に出た新味「コンソメパンチ」も大人気となり、カルビーはポテトチップス市場の王者に君臨した。

■カルビー対抗の一手として業界のタブーに挑戦

カルビー参入前にはトップシェアを握っていた湖池屋は、カルビーの躍進によってシェアを激減させ、窮地に立たされた。そこで、日本で初めてポテトチップスを作った、いわば「本家」の湖池屋が、対抗の一手として、カルビーの逆を行く「型破り」な商品開発に踏み切ることになる。それが、当時の日本の食品業界でタブー視されていた「激辛」への挑戦だった。

商品開発にあたり、アメリカへ視察し、その頃にアメリカで人気だったメキシコ料理の辛いチリ味に注目した。日本は唐辛子など辛さに馴染みのある食文化を持っている点と合わせて、業界のタブーだが勝算はあると考え、社内で激論の末、最後は社長判断で商品化を断行することになった。

■ポテトチップスとしては高くおつまみとしては安い「個性の尖った商品」

味の開発では、辛くて旨い、クセになる味が追求された。創業者の小池氏じきじきに「いや、もっと辛くした方がいい」と激辛にこだわり抜いたという。ポテトは、通常の形よりも濃い味付けにしやすい細長い棒状の形を採用した。カルビーは若い女性や子供を中心としたファミリー向けであるのに対して、湖池屋のカラムーチョは大人向けの商品として開発された。100円という安い価格に対しては、200円の高価格を設定。パッケージはド派手なデザインで、個性の尖った商品とした。売り場は、お菓子売り場よりおつまみ売り場を優先し、ポテトチップスとしては高いが、おつまみとしては安い商品に位置付けた。

ところが、メインの取引先であるスーパーマーケットから取り扱いを拒否されてしまう。辛い物は、食べたお客からクレームが来やすく、「なんでこんな商品を作ったんだ」と非常識扱いされることもあったという。「激辛=タブー」という常識の壁が立ちはだかった。そこで、当時ちょうど店舗数を増加していたコンビニをターゲットに変更すると、当時のコンビニは酒屋から転身する店が多く、おつまみとして理解して取り扱いをしてくれた。すると、コンビニで大学生を中心に「スゴイ!」「面白い!」とクチコミが広がり、瞬く間に爆発的ヒットとなった。

カラムーチョは、その後のポテトチップスの味の多様化や、今なお続く「激辛」人気の最初の一歩を開拓した「イノベーション」と言えるヒット商品である。食品業界の「型」、そして消費者の「型」を破ることによって、新たな価値を創りだすことに成功した。

■コロナ禍で異例のヒット 花王「KATE リップモンスター」

花王傘下、カネボウ化粧品の「KATE リップモンスター」は、自社で当たり前化していた商品開発や広め方などのマーケティングの「型」を破ることで、コロナ禍に異例のヒットを実現した。花王は、高い技術力に裏打ちされた機能性を強みとして、マーケティングでは分かりやすい商品開発、マスメディアでの広告発信など、前例や王道的な手法を選びやすい傾向にあった。しかしリップモンスターでは、その花王があえて踏み切ったSNS型の商品とプロモーションが成功を導いた。

キスプリントレッド
写真=iStock.com/marabird
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marabird

■「メイクを楽しみたい!」という思いを刺激する商品ネーミング

1997年に生まれたKATEは、既成概念に囚われずに自分らしさを表現する「NO MORE RULES.」がコンセプトのブランドで、ずっとアイメイクに強いブランドだった。アイシャドーやアイブローでヒット商品として不動の地位を築いていたが、口紅は弱い分野となっていた。口紅の強化を進めていた矢先にコロナ禍となり、コロナ禍のニーズに応えられる新商品の開発へ方向転換することになった。

外出自粛の長期化、リモートワークの常態化が進み、化粧品全体の売上は大打撃を受けた。その需要が下がったタイミングでの新商品開発を疑問視する声は社内で少なくなかったというが、そういうときにこそ挑戦するブランドとして開発が推し進められた。SNSを中心にユーザーの声を集めるなかで、トレンドに敏感な若年層の「こんなときでもメイクを楽しみたい!」というニーズを拾いあげ、それに応える口紅として開発がスタートした。

商品開発でこだわったのは「つけたての色」と「保湿力」の両立だ。マスクをしていると口紅を塗りなおしにくく、口呼吸になりがちで唇は乾燥しやすくなる。もともと開発していた「落ちにくい」技術に、唇から自然蒸発する水分を活用して密着ジェル膜へ変化させる新技術を組み合わせることで、色持ちと保湿を実現させた。機能的なニーズだけでなく、感情的なニーズにも応えるために、「メイクを楽しみたい!」という思いを刺激するワクワク感のある「リップモンスター」という商品名が採用された。何か凄そうな新しい期待感、そしてKATE史上最強の落ちにくさから付けられたネーミングである。

ソーシャル メディアのアイコン
写真=iStock.com/alexsl
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■SNSリサーチから若年層のニーズをキャッチ

SNSのリサーチから、最近の若年層は同系色の口紅を複数買い、気分やコーディネートに合わせて違いを楽しむ傾向が確認された。そこで、赤やピンクなどの広いカラー展開はせずに、トレンドのブラウン系にあえて特化して、微妙なニュアンスの違いを楽しめる11色展開で、ユーザーの収集欲をかきたてる効果を狙った。普通ならば数字や英文字でシンプルに表記される各色について、「ラスボス」「3:00の微酔」「憧れの日光浴」など、その色を使ったときの気分や連想するイメージで特徴的なネーミングを付けた。これは、ユーザーの好奇心や創造力をかきたて、キャッチーで、SNSでつぶやく面白さを提供することに有効に働いた。

■発売前からの緻密なSNS戦略が成功のカギに

高い商品力、ニーズに応えるカラー展開、SNSでのバズを想定したネーミング。さらに加えて、商品を気になった人がSNSで調べたとき、あらかじめ人気商品として評判が確立されているように、発売前から緻密なSNS戦略が設計された。店頭で手に取って試しにくい環境だからこそ、SNS上で体験できる場づくりに注力した。

発売の10日ほど前からYouTubeでの情報発信、クチコミサイトなどでのサンプリング、美容メディア向けの発表会、美容系インフルエンサーを活用した拡散を仕掛け、SNS上での認知度と体験機会を広げた。発売日の2021年5月1日からはTikTokでのプロモーションを展開し、インフルエンサーが黒いマスクを外すと、唇のリップモンスターの色が曲に合わせて変化するショート動画を拡散させた。これは、あえてシンプルな動画にすることで、一般ユーザーが真似した動画を投稿しやすいように仕掛けた。

これらの仕掛けが功を奏し、リップモンスターはSNSで大きくバズり、発売直後から爆発的な人気となった。メインターゲットの若年層だけでなく、親世代にまで広がり、幅広い顧客を獲得することに成功した。一時、生産が追い付かないほどの大ヒット商品となり、わずか半年で120万本、その後2022年9月までに累計出荷本数500万本を突破した。2021年のベストコスメ賞を総なめし、KATEとして口紅で初のシェア1位を達成するなど、コロナ禍に苦しんだ化粧品業界において異例の成功を収めた。

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。

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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)

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