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なぜ今の野党勢力は内輪もめを繰り返すのか…立憲・枝野氏の「消費減税は間違い」発言をめぐる残念な反応

プレジデントオンライン / 2022年12月7日 9時15分

代表辞任が承認され、記者会見で質問に答える立憲民主党の枝野幸男氏=2021年11月12日、東京・永田町の衆院議員会館

立憲民主党の枝野幸男元代表が「消費減税は間違いだった」と述べたことが「他の野党への裏切りだ」と波紋を広げている。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「なぜ『消費税』という言葉に条件反射してしまうのか。枝野発言のポイントは消費税ではない」という――。(前編/全2回)

■批判が噴出した枝野氏の「消費減税は間違い」発言

立憲民主党の枝野幸男前代表による消費税をめぐる発言が、またぞろ「問題化」している。昨秋の衆院選で消費減税を訴えたことを「間違いだった」と述べたことに、外野の批判が噴出しているのだ。代表として掲げた公約を覆すのか。有権者への裏切りではないか――。しまいには「枝野新党結成の臆測」などという見出しの記事まで出る始末である。

ああ、またか。もうため息しか出ない。枝野氏ではなく、この手の発言に対する政界のこの反応に、である。与野党の政治家もそれぞれの支持者も、いったいいつまで「消費税反対」を旗印に選挙を戦う「平成の政治」を引きずり続けるのだろうか。

あまり元号でものを語りたくはないが、時代は令和である。置いていかなければならない「平成の政治」はたくさんあるが、消費税はその最たるものだと筆者は考えている。

もういい加減、こんな時代を終わらせよう。「消費税」で選挙を戦う平成の政治からの脱却を、今こそ真剣に考えるべき時ではないか。

本題に入る前に、枝野氏が最初にこの発言を行った場面を、冷静に振り返ってみたい。

発言が飛び出したのは10月28日だった。枝野氏は自らのYouTubeチャンネルで、ほぼ月1回のペースで「えだのんTALK」という番組を生配信している。ラジオのパーソナリティーよろしく、政治から趣味のアイドル話に至るまで一人語りするスタイル。事前に募集した視聴者の質問にも答えている。

寄せられた質問の一つに、枝野氏がかつて「財政規律は必要」と語ったことへの真意を問うものがあった。例の発言はこの回答の中で触れられた。

■「消費減税は間違い」発言前後の文脈

枝野氏は一定の財政規律の必要性を語りつつ「ただし、消費増税については反対です」「今、絶対やってはいけないと思っています」と主張した。理由として枝野氏は、政府による税金の取り方や使い方への不公平が広がっている現状で消費増税をすれば「政府や税に対する信頼がますます落ちる」ことを挙げた。

確かに、安倍政権以来の税金の「私物化」とも言える使い方を見ていれば、国民の納税意欲が落ちるのは当然だろう。だから「消費税など払いたくない」という心情は、筆者も深く理解はする。

財政規律は大事だが、消費増税はしない。ではどうするのか。枝野氏はこう続けた。

「所得税や法人税を下げすぎてしまった。税収を増やすなら、まずは富裕層に対する所得税と、儲かっている大企業に対する法人税、ここの増税で財源を確保することがまず第一です」
「次は金融所得課税です。働いて稼いだ給与所得や事業所得に対しては、累進課税でどんどん税率が上がっていくのに、株などの金融で儲けたお金は、どんなに稼ごうと20%で定率。これを最終的には総合課税にして、株で何十億も儲けた人には最高税率で税金を払ってもらう。これを全部やった上でなければ、消費税率を上げるなんて議論は、絶対にしてはいけない」

「えだのんTALK Vol.9」(枝野幸男公式YouTube)より
「えだのんTALK Vol.9」(枝野幸男公式YouTube)より

■「消費増税は反対」という主張の中で出た発言だった

「消費増税はやるべきではない」というメインの主張をする中で、枝野氏は自身が昨秋の衆院選で「時限的な消費減税」に触れたことについても「政治的に間違いだった」と述べた。配信で枝野氏が語ったことを整理すると、おおむねこういうことになる。

立憲民主党は自己責任を求める新自由主義的な社会ではなく、お互いさまに支え合う社会をつくることを求めてきた。それが自公政権との対立軸である。

支え合う社会をつくるためには公的サービスの充実が求められ、そのためには財源が必要だ。にもかかわらず「支え合いの社会」をうたう政党が安易に減税を言えば、「自己責任の社会」と「支え合いの社会」の「どっちに向かっているのか分からなくなる」(枝野氏)。

枝野氏は最後に「二度と減税『も』言わない」と表現した。消費税については「当面増税『も』減税『も』主張しない」という意味に受け取るのが普通だろう。

■なぜ「消費税」という言葉に条件反射するのか

枝野発言のポイントは「まず法人税と所得税、金融所得課税を行うべきだ」という点にある。消費税については、ありていに言えば放置、あえて税率に引き付けて言うなら、せいぜい「据え置き」というところだろう。

ところが、政界とは摩訶不思議なところで、消費税という言葉には、何であれ条件反射する。本来の発言のポイントからずれていようがいまいがお構いなく、そこに過剰なまでのスポットライトを当てる。一部の野党支持者は「消費減税を言わなかった!」「野党議員の風上にも置けない!」、しまいには「二度と応援しない!」などと噴き上がる。保守系メディアがそれに乗じて「野党分裂!」とあおりまくる。

平成の時代に何度も見てきた、もっと言えば「見飽きた」光景だ。

枝野氏の配信について、筆者は正直「ああ、持論を言っているな」という印象しかなかった。ついでに言えば「ようやく衆院選での自身の言動の『間違い』を認めたな」という思いを抱いた。

木製のブロックとコイン
写真=iStock.com/sefa ozel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sefa ozel

■「減税」発言は枝野氏の本心ではなかった

ここでも何度も書いてきたが、筆者は「戦後最小の野党第1党」だった立憲民主党を、わずか4年で「政権の選択肢」にまで押し上げた枝野氏の党代表としての力量を、高く評価している。だが、昨年のあの衆院選で、同党が最終盤で失速し、公示前議席を減らしてしまった原因の一つに「消費減税に触れてしまった」枝野氏自身の言動があったことは否定できない、とも考えている。

理由はまさに前述した通りだ。「支え合いの社会」をうたう政党が、有権者の歓心を買おうと減税を言うことの矛盾を、有権者は敏感に感じ取ったのだと思う。立憲民主党に「本気で政権を担う覚悟」があるのかどうかが、最後の最後に疑われてしまった。それが、立憲民主党が勝ちきれなかった理由の一つだったのではないか。

減税に触れたのが枝野氏の本心でないことも明らかだった。

枝野氏が衆院選の半年前に発表した著書『枝野ビジョン』(文春新書)では、時限的消費減税について「全て否定するものではない」としつつも、コロナ禍で経済活動が減っている時に消費減税の恩恵が届く業種は限られること、逆に減税待ちの買い控えが生じて「減税倒産を生む恐れ」に言及。コロナ禍で困窮する低所得者を集中的に支援するには「減税より給付の方が望ましい」と主張していた。

それが枝野氏の持論だったのだろう。それでも時限的消費減税に触れる理由について、著書では「そのメッセージ効果にある」などと書いていたが、おそらく枝野氏は、自分でも「無理がある」と思っていたのではないか。

■中小野党への配慮で「高い授業料」を払う羽目になった

しかし、枝野氏は野党第1党の党首だった。衆院選を「政権選択選挙」に持ち込むためには「野党ブロック」とも言える一つの「構え」を作ることが、強く求められていた。

他の中小野党が強く求める消費減税を、枝野氏は無視できなかった。「時限的」とは、自らの持論と外部からの要請のはざまでの、ギリギリの表現だったのではないか。

あの政治状況のなかで、枝野氏が持論を曲げてもそれを受け入れたことを、筆者は責めることはできない。だが、人間というもの、心から思っていないことを言葉に乗せれば、必ず相手に伝わるものだ。それは選挙期間中、枝野氏の武器でもある演説の力に、明らかに影を落としていた。

「1度の衆院選で一気に政権選択選挙に持ち込む」という無理をしなければ、枝野氏もあえて持論を曲げる必要はなかったのかもしれない。だが、常に与野党が政権をかけて争うことが求められる小選挙区制のもと、野党第1党の代表が初めから「政権を目指さない」と表明することが許されるのか、という考えもある。筆者も明確な回答を持てない。

いずれにしても、衆院選の敗北が、枝野氏にとって「高い授業料」となったのは間違いないだろう。高い授業料を払った結果、枝野氏は現在の主張に行き着いたのだ。

もちろん、有権者が支持する政策は人それぞれであり、それに基づいて枝野発言への評価は異なるはずだ。だが「消費減税を言ったのは間違っていた」という一言だけに条件反射し、前後の言葉や文脈のすべてに耳をふさいで論評するのはいかがなものかと思い、前後を含めた発言の解説を試みた。

■「消費税」を旗印に戦う選挙はもはや時代遅れ

その上で問いたい。繰り返すが枝野氏の主張の最大のポイントは「『支え合いの社会』をつくるため、まず法人税と所得税、金融所得課税で富裕層への増税を行う」ことである。現在の野党の主張の最大公約数ではないだろうか(維新は違うかもしれないが)。

その最大のポイントを無視し、重箱の隅(あえて言う)の消費税をほじくり出して「減税を言わなければ許さない、たとえ据え置きでもダメ」と言って「味方」の勢力を分断し、旧統一教会との関係やら「政治とカネ」の問題やらでもはや政権のていをなしていない岸田政権と戦う力を野党から削ぐことが、本当にこの国のためになるのだろうか。

現在の野党支持者に問われているのはそこである。

枝野氏自身の解説をしているだけで、相当長くなってしまった。全然言い足りない。

冒頭に述べたように、筆者が言いたいのは枝野発言そのものではなく「消費税を旗印に選挙を戦う平成の政治」からの脱却である。改めて「後編」で言及したい。

一つだけ付け加えるとしたら「枝野新党」論のばかばかしさである。立憲民主党は5年前、枝野氏が1人で多額の借金までして立ち上げた政党であることが、もう忘れられているのだろうか。面白おかしければ何を書いてもいい、というものでもないだろう。

(後編に続く)

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。

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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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