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これでは死に体の岸田政権も倒せない…いまだに「消費減税」にこだわり続ける野党勢力の時代錯誤

プレジデントオンライン / 2022年12月9日 9時15分

会談に臨む(左から)社民党の福島瑞穂党首、共産党の志位和夫委員長、立憲民主党の枝野幸男代表(当時)、国民民主党の玉木雄一郎代表=2021年7月16日午前、国会内 - 写真=時事通信フォト

岸田政権の支持率は低迷しているが、野党の支持率も伸びてはいない。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「野党勢力が『消費増税』にこだわっているうちは政権選択選挙は起こらない。目指すべき社会像をクリアにしなければ、有権者の支持は集まらない」という――。(後編/全2回)

■平成の政治を振り回した「消費税」

(前編から続く)

立憲民主党の枝野幸男前代表による「昨秋の衆院選で消費税の減税を訴えたのは間違いだった」発言の波紋は、まだ収まっていないようだ。発言についての解説は本稿の「前編」をお読みいただきたいが、実は本題はここからだ。つまり「消費税を旗印に選挙を戦うのはもうやめよう」ということである。

野党が「消費減税」を「共闘」の軸に掲げて政権与党に勝てるなどということは、もはや幻想に過ぎない。もっと言えば「いつまでも消費減税を旗印に戦おうとするから、野党は負ける」と言ってもいい。それを端的に示したのが、昨秋の衆院選ではなかったのか。

消費税は、30年にわたった平成の時代において、日本の政治を振り回し続けてきた。これほどまでに日本の政界で、特定の政策がある種のシンボルになっているのは、ほかには憲法問題くらいだろう(もしかしたら憲法以上かもしれない)。

竹下政権によって消費税が導入されたのは、まさに平成が始まった年、1989年4月のことだった(当時の税率は3%)。竹下登首相はその月、消費税導入を見届けたかのように退陣を表明したが、後任の宇野宗佑首相は、夏の参院選で惨敗し、わずか2カ月で退陣に追い込まれた。

大勝した野党第1党・社会党が掲げたのが「消費税廃止」だった。選挙結果を受けて土井たか子・社会党委員長が語った「山が動いた」という言葉を覚えている人も多いだろう。

この参院選で自民党幹事長だった橋本龍太郎氏は、その後1997年、首相として消費税率を3%から5%に引き上げたが、翌98年の参院選で大敗し、やはり首相の座を追われた。

■「消費税」を争点にすれば選挙に勝てるという信仰

二つの選挙で自民党に逆風が吹いた要素は、消費税だけではなかった。89年は「消費税・リクルート事件・農産物自由化問題の『3点セット』」と言われていたし、宇野首相自身の女性スキャンダルもあった。98年も、金融不況やアジア通貨危機が選挙結果に与えた影響は大きかっただろう。

しかしどうやら、これらの選挙結果は当時の野党陣営に「消費税を争点にすれば選挙に勝てる」という、妙な「信仰」を生み出してしまった。

■民主党の党内対立には常に「消費税」があった

その「信仰」は必ずしも正しいとは言えない。例えば2004年の参院選。岡田克也氏率いる当時の民主党は「年金目的消費税」の導入を掲げて選挙を戦い、改選議席で自民党(当時は小泉純一郎首相)を上回り第1党になっている。

しかし、そうした事実は都合よく忘れ去られた。民主党の激しい党内対立が、消費税と直結してしまったからだ。

民主党内で消費増税、あるいは据え置きと親和性が高いのは、民主党政権時に内閣や党の要職を務めた政治家に多い。枝野氏や岡田氏のほか、菅直人、野田佳彦の両元首相らである。彼らは、当時党内の実力者だった小沢一郎氏に批判的で、俗に「反小沢」勢力と呼ばれていた。

一方、党内で消費税に批判的だったのが、小沢氏や彼に近い議員たち。さらに、民主党政権当時に内閣や党の要職にいなかった中堅・若手議員たちだった。

菅直人政権だった2010年の参院選では、消費増税の検討に言及した菅氏を小沢氏が猛然と批判して党内対立が先鋭化し、結果として党そのものが大敗した。続く野田政権では2012年、民主党と当時野党だった自民、公明両党が、消費税率の段階的引き上げを含む「3党合意」を結んだが、これに反発した小沢氏らの勢力が集団離党し、民主党の衆院選での大敗と野党転落につながった。

「小沢vs反小沢」と呼ばれた民主党の党内対立の底流には、常に「消費税」があったと言っていい。そして、こうした対立は民主党の下野後も、野党の中に根強く残っている。

■消費税のせいで野党は一枚岩になれない

消費税は今や、政策課題というよりも、野党内の主導権争いの道具と化している。

消費税というたった一つの個別政策に過剰にこだわるために、野党は一つにまとまれない。むしろ「まとまらない」理由として、消費税が使われる。消費税の存在によって、野党は対立ばかりに焦点が当たり、結果として「自民一強」に貢献してしまう。

まさに「平成の政治」の残滓(ざんし)である。

こんな状況が終わる可能性に期待を抱かせたのが、2020年の東京都知事選だった。

■消費減税で立場が違っても「共闘」はできる

立憲民主、共産、社民の3党が支援する宇都宮健児氏の元に、多くの野党議員が応援に駆け付けた。「3党合意」の当事者の野田氏(当時は社会保障を立て直す国民会議代表)も、野田氏に反発して民主党を割った小沢氏(当時は国民民主党)も、共に宇都宮氏の応援演説に立った。今回の問題の発端となった枝野氏も、応援のマイクを握っている。

都知事選で野田氏が宇都宮氏の応援に駆け付けた場面は、11月1日公開の記事(なぜ野田元首相は「いまの立憲の顔」ではないのか…あれだけの演説の名人が干される残念すぎる力学)でも紹介したが、消費減税に慎重な構えの野田氏を応援演説に誘ったのは、消費減税を訴える共産党の志位和夫委員長だった。同党の小池晃書記局長はツイッターで「こちらの政策を押し付けて『一致しなかったら共闘はやらない』という態度はとらない」との姿勢を強調した。

消費減税積極派と慎重派の「共闘」が成立したのだ。

この選挙には、消費減税を強く主張するれいわ新選組の山本太郎代表も出馬したが、同じように減税を掲げる共産党や社民党が、山本氏に引き寄せられることはなかった。選挙結果は宇都宮氏が84万票余りを獲得。山本氏は65万票余りにとどまり、宇都宮氏の得票に及ばなかった。

あの都知事選が示したのは「野党は消費減税さえ唱えていれば選挙で有利になる」という俗説が、ただの幻想に過ぎなかった、ということだ。消費税は「共に自民党政権と戦うためには、一致できなくても脇に置いておける存在」になった。そのはずだった。

消費増税のイメージ
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■「消費減税を言わずんば野党にあらず」という刷り込み

にもかかわらず、政治は結局、その事実から目を背けようとした。メディアも、少なからぬ野党支持者も、都知事選の後も野党各党に、消費減税を強く求め続けた。

立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の4党は、衆院選を目前にした昨年9月、衆院選での共通政策に合意した。安全保障法制の廃止を唱える「市民連合」の政策提言に合意したのだ。提言は「憲法に基づく政治の回復」「科学的知見に基づく新型コロナウイルス対策の強化」など6項目からなり、消費減税は「格差と貧困を是正する」という項目の中に、地味に一言書かれているだけだったが、それでも結局、多くのメディアが「消費減税」を見出しにとった。

「消費減税を言わないのは野党ではない」。この刷り込みの強さを、筆者は改めて思い知らされた。

■同じ消費減税を唱える維新と立憲は親和性がない

こんなことを書いていると「消費減税に反対なのか」という声をいただきそうだが、そうではない。筆者の主張は「消費減税に反対」なのではない。「『消費減税』を旗印に野党がまとまって選挙を戦うことに反対」なのだ。

消費減税を訴える政党があることは否定しない。それを求める国民がいるからだ。政党がこうした声をすくい取ることは、とても大切である。

しかし、2020年都知事選の例を見るまでもなく、消費減税を掲げる野党が「消費減税を言わない」野党と連携して戦うことは可能だ。消費税へのスタンスの違いを脇に置いてでも、まとまるべき大義名分は、いくらでもあるはずだ。

そして、それを真剣に模索しなければ、野党に勝ち目はない。

筆者が「野党が『消費減税』を旗印にまとまろうとする」(つまり、消費減税を言わない野党は許さない)ことに否定的な理由は二つある。

一つは、一口に「消費減税」と言っても、それを言う政治家や政党の政治理念が全く違うこともある、ということだ。例えば、日本維新の会は消費減税を掲げているが、自己責任を重視する新自由主義的な政党だ。低所得者対策の観点から消費税自体に否定的な共産、社民、れいわなどとは、目指す社会像が真逆と言ってもいい。

■「ワンフレーズ政治」は必ず瓦解する

そもそも減税とは、政府の役割を小さくするということであり、税金を減らす分、必要な公的サービスは自分のカネで買うべきだという「自己責任の社会」と親和性が高い。もっと言えば、消費減税は結果として、より多く消費する富裕層への減税効果がより高い。時の政権の対応次第では、むしろ格差を拡大する可能性さえある。

だから維新が消費減税を言うのは、彼らが目指す政治と照らし合わせれば、むしろ正しい。そんな社会を目指す維新と、低所得者の目線を重視する共産・社民・れいわが、単に「消費減税を目指すのは同じ」と言うだけで、将来連立を組むことを考えるだろうか。

もう一つは、そもそも「政権選択選挙は、単一の政策やスローガンを旗印に掲げて戦うべきではない」という、強い思いがあることだ。

政治改革(小選挙区制の導入)とか、郵政民営化とか、さらには「政権交代の実現」とか、そういった単純な争点で戦われた国政選挙は、これまでにも何度もあった。だが、こうした選挙で勝った政権が、その後目標を見失って瓦解(がかい)する姿も、私たちは多く見てきた。

消費減税のような、一見国民受けが良さそうな単一の政策をお題目のように唱えて選挙に勝とうとする「ワンフレーズ政治」はもう古い。小泉政権の郵政選挙(2005年)から17年、民主党政権が誕生した政権交代選挙(2009年)からも、13年がたっている。こんな政治はもう、平成の時代に置いていくべきだ。

■消費減税はあくまで「個別の政策」

与野党が政権選択選挙で戦うべき旗印は、スローガンや個々の政策ではない。「目指す社会像」である。現在なら「自公政権が進めてきた自己責任の新自由主義的社会か、立憲民主党などの野党勢力が実現を目指す支え合いの社会か」で戦う、ということだ。

「支え合いの社会」実現に向けた具体的な政策が各党によって異なることは、さほど大きな問題ではない。ある政党が消費減税を掲げ、ある政党が給付付き税額控除を掲げたとしても、最終的に目指す社会像が同じであれば、個々の政策は同じ土俵の上で十分に議論できるはずだ。

青空を背景にした国会議事堂
写真=iStock.com/Korekore
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Korekore

繰り返す。消費減税で野党の足並みがそろうか否かは、野党が心を合わせて自公政権と戦うという大目標の前には小さなことである。そんな課題のために右往左往するのは時間の無駄だ。むしろ、消費税を口にするたび「野党はバラバラ」とネガティブな印象を振りまくことになり、野党全体にとって何のプラスもない。

それ以上に野党が目指すべきなのは、各党が国会内でしっかり協力して、死に体の岸田政権を結束して倒すこと。そして、できるだけ早い機会に政権を勝ち取り、自らの手で「自己責任社会から支え合いの社会へ」を実現することだ。そのためには、個別の政策より「大きな理念」を共有することの方が、よほど大切なはずである。

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。

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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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