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岸田政権は積年の課題を放置している…物価高が進んでいるのに賃金上昇が始まらない根本原因

プレジデントオンライン / 2022年12月5日 9時15分

参院予算委員会で答弁する岸田文雄首相=2022年11月30日午前、国会内 - 写真=時事通信フォト

■値上げした食料品は7000品近くにも

足元で、わが国の物価上昇になかなか歯止めがかからない。10月、消費者物価指数(CPI)の総合指数は前年同月比では3.7%上昇した。生鮮食品を除く総合指数は同3.6%、生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数は同2.5%の上昇だった。また、帝国データバンクの発表によると10月、主要飲食料品メーカー105社は6699品もの値上げを行った。

当面、値上げの勢いは止まりそうにない。わが国の企業は、川上の原材料価格などの上昇分を販売価格に転嫁する動きを続けるとみられ、消費者物価の上昇は続きそうだ。それに加えて、ウクライナ紛争やそれに関連するロシアの情勢を見ると、エネルギー資源や食料など供給不安の解消には時間がかかるだろう。それは、最終的に国内の消費者物価に追加的な押し上げ圧力がかかる。一方、わが国の賃金は伸び悩んでいる。これまで以上に家計の生活負担が高まることが想定される。

■生鮮以外の食料と光熱費の値上げが大きい

2021年9月以降、わが国の消費者物価指数の上昇ペースが速まっている。2022年11月中旬、東京都区部のCPI総合指数の上昇率は同3.8%に達した。生鮮食品を除く総合指数は3.6%上昇した(いずれも速報値)。総合指数でみると、1982年4月の4.2%以来の物価上昇である。

品目別にみると、生鮮食品を除く食料や光熱・水道費の値上がりが大きい。家賃や住居設備の修繕・維持費も上昇している。また、11月以降は鳥インフルエンザの発生によって卵の価格が急速に上昇している。

世界的にみても、中国を除く多くの国と地域で物価は上昇している。米国では物価上昇は今年年央あたりにピークをつけた兆しは出ているものの、物価の水準は依然として高い。天然ガスなど、エネルギー資源の確保に苦心するユーロ圏の物価上昇はより深刻だ。世界の物価環境は低位安定から、かなり不安定な状況に移行したと考えられる。

■85%が「1年後も物価は上がる」と予想

物価上昇の背景には複数の要因がある。異常気象による農作物の生育不良や再生可能エネルギー由来の発電量の減少、コロナ禍の発生、感染の再拡大の長期化、ウクライナ危機などによってエネルギー資源や食料の価格は上昇した。その結果、企業の原材料調達コストは上昇している。それに加えて、一部諸国では深刻な人手不足に直面しており、賃金上昇も物価押し上げの一因となっている。

10月の食品主要企業による“値上げラッシュ”は、コスト増加などに直面する企業の苦悩を浮き彫りにした。電気代やガス代の値上がりも加わり、2023年の値上げを予定する企業も多い。そうした展開に身構える消費者は増えている。日銀が公表した「生活意識に関するアンケート調査」(第91回)の結果によると、2022年9月時点で1年後の物価が“かなり上がる”との回答は28.9%、“少し上がる”は56.8%と過半数が物価上昇を予想している。

■コスト上昇に企業が耐えられなくなっている

当面、わが国の企業は一段のコスト上昇に直面することが懸念される。日銀が公表している最終需要・中間需要物価指数の推移をみると、企業の原材料の調達コストが上がっていることが分かる。中間需要とは、モノやサービスを他の製品を生産するための原材料として販売することをいう。日銀は中間需要を4つのステージに区分している。

具体的に、ステージ1は、生産フローの最上流に位置するもの(例として、原油などの原材料)。ステージ2は生産フローの中間に位置し、上流に近いもの(プラスチック製品など)。ステージ3は生産フローの中間だが相対的に最終需要に近いもの(集積回路など)。ステージ4は最終需要に最も近いもの(工作機械など)だ。

■円安要因は少しずつ解消されているが…

2021年3月以降、ステージ1の価格は上昇基調で推移した。時間の経過とともに、ステージ2以下の区分の価格も上昇した。原材料、中間財、最終消費財という順番に徐々にコストは転嫁されている。わが国の消費者需要が弱いため価格転嫁が難しいのではなく、企業は自助努力を重ねつつ徐々に価格を川下に転嫁した。さらにウクライナショックの発生後はステージ1(原材料)価格が跳ね上がった。それ以降、原材料や中間財レベルの企業物価と消費者物価の乖離(かいり)が、一段と大きくなっている。

総平均ベースの企業物価指数と消費者物価の推移を比較すると、一見、価格転嫁は進んでいるように見える。ただ、中間需要の階層ごとに物価の推移を確認すると、依然として価格転嫁は不十分である可能性は高い。今後、企業の価格転嫁が進むと、消費者物価の上昇をさらに勢いづかせる可能性もありそうだ。

10月下旬以降、外国為替相場ではドルの上値が抑えられ、円売りのモメンタム(勢い)はいくぶんか抑えられた。コスト上昇の中の円安部分は少しずつ剝落するとみられるものの、11月中旬の東京都区部の消費者物価の推移をみる限り、価格転嫁を急がなければならないと考える企業は、むしろ増えている可能性がある。

■賃金を上げるために労働市場の改革が急務だ

9月まで6カ月連続で実質賃金は減少した。来年の春闘ではベースアップ分を含め5%程度の賃上げが目指されているものの、食品などの値上がりはそれを上回る。世界的な景気後退リスク上昇によって、持続的にわが国の賃金が上昇する展開も予想しづらい。家計の生活負担増加が懸念される。

賃金上昇が進まない要因の一つに、労働市場など構造改革の先送りがある。1990年代以降、わが国はバブル崩壊による経済の長期停滞、不良債権問題の深刻化、またグローバル化の加速による国際分業体制の確立と中韓台など新興国企業のキャッチアップに直面した。

通勤する人々
写真=iStock.com/ferrantraite
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ferrantraite

その中で、企業はITなど成長期待の高い分野に経営資源を再配分するよりも、既存のビジネスモデルを守ることを優先した。それに対して従業員側は賃金増加よりも、雇用の安定を重視した。結果的に、企業の成長期待は高まりづらくなり、約30年間にわたって賃金は伸び悩み気味だ。

■物価高は来年春先にピークを迎えるか

アベノミクスは、積極的な金融緩和と機動的な財政支出によって先行きの期待を高めたが、労働市場などの改革に踏み込むことはできなかった。賃金上昇のためには、リカレント教育の強化、解雇規制の緩和などによる労働市場の流動性向上、企業支援など数多くの改革を政府が進めなければならない。ただ、岸田政権の政策運営を見ていると、そうした積年の課題となってきた改革が進む兆しが見えない。

また、わが国企業は新しい発想によって、高付加価値の商品を創出することが難しくなっている。わが国企業は世界のデジタル革命に遅れた。自動車産業は世界的なEVシフトに直面している。世界の消費者が欲しいと思う新商品を開発できない状況が続けば、経済の実力である潜在成長率は高まりづらい。それも賃金が伸び悩む要因の一つだ。さらに、年功序列、終身雇用制度の継続など、わが国経済全体でより効率的な付加価値の創出をはばむ要因は多い。

現在の価格転嫁の状況と原材料価格の高騰などを踏まえると、わが国の物価は来年春先あたりにピークをつけると予想される。その後も、過去に比べて物価は高水準で推移しそうだ。人々の実感として生活の苦しさが増す展開が懸念される。それぞれの家計は、身を守ることを優先に考える必要がありそうだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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