「うちの子は頭がいいからお昼寝は必要ないの」そんな教育熱心な親が勘違いしている"賢い子"が育つ条件
プレジデントオンライン / 2022年12月11日 15時15分
※本稿は、ポリー・ムーア『賢い子は1歳までの眠りで決まる』(日本文芸社)の一部を再編集したものです。
■「昼寝が必要なのは頭が悪いから」という誤解
わたしの知っているある母親は、朝、9カ月の赤ちゃんと公園で遊んで、昼寝をさせに帰ろうとしたら、同じグループの母親に「うちの子なんて、もう何カ月も前から午前中はお昼寝をしなくなったわよ。頭がよくて好奇心が強いから、真っ昼間から横になって寝たりしないの」と誇らしげにいわれたそうです。
昼寝をする赤ちゃんの母親は「昼寝が必要なのは頭が悪いからだといわれたような気分になりました」と話してくれました。
ここに秘められたメッセージは明らかでしょう。睡眠なんて気にしているのは、おもしろみがなくてつまらない、時代遅れの人だけだということなのです。眠りをなおざりにする文化は、こうした赤ちゃんの眠りに対する態度にもあらわれています。
自分では十分睡眠をとるようにいつも心がけている人でも、赤ちゃんを起こしておかなければならないという社会的なプレッシャーをたくさん感じているかもしれません。
しかし、賢い子どもの親は睡眠を大切にしている人ばかりです。
■昼寝で睡眠不足の穴埋めができるのは当たり前ではない
あなたは休み前や金曜日に好きなだけ夜ふかしをして、休みの日に昼まで寝ていたことや午後にたっぷり昼寝をしたことはありませんか。自分のことを振り返って思いだしてみてください。
このようなことができたのは、時間が自由に使えたからということもあるでしょう。しかし、一番にあげられる理由は、睡眠不足になってもすぐに回復できる体力があったからです。
大人の場合、十分休めなくても、あとからその分を補うように長時間眠れば穴埋めすることができます。これは回復睡眠といわれるもので、周波数の低い脳波がでて脳機能を回復する徐波睡眠(じょはすいみん)と呼ばれる段階にあたり、とくに深い眠りを期待できます。
ところが赤ちゃんは、こうした眠りにつくことができません。それは脳がまだ十分に発達していないからです。
生後1年目の赤ちゃんは、視覚系や言語、情動スキルが発達中で、睡眠をコントロールするシステムもまだできあがっていません。つまり、赤ちゃんの脳は、眠る方法を「学習」し、睡眠のシステムをつくらなくてはならないのです。
■入眠から目覚め方まで、赤ちゃんは知らないことばかり
赤ちゃんは、眠いとはどういう状態か、どうすれば眠れるのか、どうすれば途中で目を覚まさずに眠りつづけられるのか、いつどうやって目を覚ませばいいのか、これらをまったく知らずに生まれてきます。
だから親は、赤ちゃんがよく眠れる環境をつくり、必要なだけ寝ることができるようにしてあげる必要があるのです。そうしてはじめて、赤ちゃんはよく眠れたときの感覚を学ぶことができます。
また、よく眠ったときにはどんな感じなのか、赤ちゃんは生まれながらに知らず、学習して身につけるからこそ、ぐっすり眠ることを学べた赤ちゃんのほうが、幼児になっても、大人になっても引きつづきよく眠れるようになります。
わたしたち親は、よく眠るということをきちんと教えてあげる必要があるのです。
では、睡眠不足が長くつづくと、赤ちゃんはどうなるのでしょうか。
■「睡眠障害は自然に解決する」は間違い
赤ちゃんは起きていても半分眠っているような感じで、眠ってもあまり休んだ気がしなくなります。つまり、眠っているときと起きているときの区別があいまいになるのです。
それは、たとえるなら、介護施設の老人や集中治療室の患者に見られる状態と同じといってもよいでしょう。
こうした赤ちゃんは、質の悪い浅い睡眠しかとることができなくなり、眠ってもすぐに起きてしまいます。そして、これが習慣になってしまい、就寝時間が近づくと激しく嫌がり、よく泣くようになります。
この原因は眠いときに眠いということができないからだけではありません。そうです、ぐっすり眠った朝、目が覚めたときに感じる気持ちよさを体験していないため、眠ることが心地よいことだと学習していないからです。
これは将来の睡眠に関する重大な問題を引き起こす可能性があります。
赤ちゃんのころにぐっすり眠ることができないまま成長すると、少年期や思春期になっても睡眠不足に悩まされるようになるのです。
赤ちゃんにおける睡眠障害は、大きくなれば自然に解決すると耳にしたことがあるかもしれません。
しかし今では異なる見解が生まれています。
いくつかの研究から、赤ちゃんのうちに問題を解決しておかないと、幼少期や場合によってはそのあとまで問題を引きずるようになることがわかってきています。
赤ちゃんのうちに眠ることを学習することこそがとても重要なのです。
■よく眠っている子ほどテストで高得点をとる
子どもが睡眠障害をわずらうなんて、避けられるものなら避けられるようにしてあげたいものです。
睡眠不足は子どもの深刻な問題とも大きくかかわりがあることがわかっています。
たとえば、ADHDや肥満になったり、ひんぱんにケガをしたり、体調を崩したり、さらには成長障害を引き起こすことがあるのです。
また学校の成績にも大きく影響します。
2005年にアメリカの『スリープ』誌に掲載された研究は、教師が睡眠不足の子どもを「忘れっぽい」「注意力が足りない」「新しい情報を理解するのに時間がかかる」と評価する傾向にあることを報告しています。
子どもが大きくなればなるほど問題も深刻になります。たとえば、睡眠障害のある思春期間近の子どもは、留年する確率がほかの子どもよりも高くなるのです。
逆によく眠っている子どもは得をしています。いろいろな研究が行われていますが、いずれにおいても、よく眠っている子どもほど成績がよく、認知能力テストでも高い点をとるという結果がでているのです。
実際、十分な休息がとれているかどうかによって、将来その子が学校で優秀な成績をおさめるかどうかを、ほかのどの要素よりも正確に予想できます。
親の学歴や家庭環境、収入、社会的立場にかかわらず、子どもがよい睡眠習慣を身につけられるようにしてあげれば、学業の面で有利になるのです。
![あやす母親の膝の上で泣いている赤ちゃん](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/0/1200wm/img_d0d9f5e9e7baad661125a406f3c30919450534.jpg)
■眠ることは怠けではない
これまでいろいろな面から、赤ちゃんの睡眠について見てきました。だんだんと睡眠の大切さを痛感してきたのではないでしょうか。
もう、眠ることが怠け者につながる悪いことだなんて、思いもよらなくなっていることでしょう。
ふと、昼寝を犠牲にしてでも、なにか教育によさそうな経験をさせてあげたほうがよいのではないか、そんな考えが頭をよぎって、迷うことがあったら、ぜひ次のことを思いだしてください。
赤ちゃんにとって、すべてがはじめてづくし、学びなのです。
赤ちゃんにとってみれば、世界全体が未知のものであふれています。特別なことをしなくても、たくさんのことを学ぶことができます。
自分の手足を眺めたり、家族の声を聞いたり、安全で単純なおもちゃや身のまわりの日用品で遊んだり、キッチンからただよう夕食の香りをかいだりするだけでも、そこには学びがあります。
そうです、赤ちゃんの脳に必要なのはいうまでもなく良質で十分な睡眠です。
できるだけたくさん寝かせてあげましょう。
■無理に知育レッスンをする必要はない
ぐっすり眠ることで、赤ちゃんの脳は新しく得た情報を処理し、記憶し、すでに得ているほかの情報と組みあわせることができるようになります。
睡眠は、赤ちゃんが自分にとって新しい経験がどんな意味を持つのかを理解して、知識として定着させるのを助けるのです。
赤ちゃんには凝った仕掛けのあるおもちゃや知育レッスンなど、過剰な刺激を与える必要はありません。
こうした経験をさせるために昼寝の時間を削るなんてありえないことです。
![ポリー・ムーア『賢い子は1歳までの眠りで決まる』(日本文芸社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/f/1200wm/img_1fa19943fc668421f3fd4c9ab837f41f204144.jpg)
これらはむしろマイナスの効果をもたらすかもしれないのです。これほど残念なことはないでしょう。わたしたち親が、子どもが眠たがっているサインに気づきにくくなったりするようなら、なおのことです。
そしてもうひとつ忘れてならないことがあります。
親にとっても睡眠が大切であるということです。常に念頭においておきましょう。
十分で良質な睡眠が、赤ちゃんと一緒に過ごすために必要不可欠なバイタリティーを養ってくれます。
これまでの生活や睡眠のとり方を振り返ってみましょう。子どもを賢く、本当に強い子にするために十分なものだったでしょうか。赤ちゃんと自分のあり方を今一度考えてみましょう。
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カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて神経科学博士の学位を取得。専門は睡眠研究。イントラセルラー・セラピーズ社で臨床開発ディレクターを務めるかたわら、カリフォルニア州南部の複数の育児サポート団体および民間のドゥーラ(出産時や産後に母親に対する支援を行う人)グループのベビー睡眠コンサルタントとしても活躍。
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(博士 ポリー・ムーア)
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