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日本の皇室よりはるかに安泰だが…ヘンリー王子の"暴露"に英王室が戦々恐々の背景

プレジデントオンライン / 2022年12月6日 8時15分

エリザベス女王が亡くなった2日後、英国・ロンドン近郊のウィンザー城で姿を見せた(左から)キャサリン妃、ウィリアム皇太子、ヘンリー王子、メーガン妃。2022年9月10日撮影 - 写真=PA Images/時事通信フォト

イギリスのチャールズ国王の次男、ヘンリー王子が来年1月に回顧録を出版する。ジャーナリストの大門小百合さんは「『Spare』という意味深なタイトルの本で、英国王室に批判的なことも書かれているのではないかと、注目が集まっている。王室が揺れているのは確かだが、日本の皇室よりは安泰であるように思えてならない」という――。

■王子の回顧録には何が書かれているのか

イギリス王室が揺れている。

震源地は、現在王族としての役割から距離を置き、子どもたちとアメリカで暮らしているヘンリー王子だ。12月8日には、王子とメーガン妃のドキュメンタリー番組がNetflixで正式に配信され、来年1月には、ヘンリー王子の回顧録『Spare』(「スペア、予備」の意)が発売される。この回顧録とドキュメンタリーで一体何が明かされるのか、イギリス王室は戦々恐々としているに違いない。今、英米のメディアではこの問題について、実にさまざまな報道がされているのだ。

しかし、ドキュメンタリーと回顧録の内容の詳細については、ほとんど明らかになっていない。イギリス王室に詳しい専門家のニック・ビュレン氏はアメリカのエンターテーメント系週刊誌のUs Weeklyの取材に答え 、Netflixがこのドキュメンタリーのため大金を支払っていることを考えれば、少なくともこの作品には視聴者を満足させる中身が必要だという。「だから、少なくともヘンリー王子とメーガン妃は『私たちは(カリフォルニア・サンタバーバラの高級住宅地)モンテシートですてきな生活を送っていて、お互い愛し合っている』などとだけ言ってごまかすことはできないだろう」と語る。

■人生を「生々しく、率直に」描く

回顧録『Spare』については、出版元のペンギン・ランダムハウスが、ヘンリー王子の人生を「生々しく、率直に」描いたものになると発表し、プレスリリースには以下のようにある。

「世界が悲しみと恐怖に包まれる中、母親のひつぎの後ろには2人の王子たちが歩いていた。ダイアナ妃が亡くなり、王子たちは何を考え、何を感じ、そしてこれからどのような人生を歩んでいくのだろうかと、多くの人が思いを巡らせた。この本はヘンリー自身が、ようやく自分の物語を語る機会となる」

王子自身も、この本は、幼少期から王族としての成長、兵役、結婚、そして父親としての経験など、自分の人生について「正確かつ完全な真実」を記したものだと語る。

当初は2022年秋に発売予定だった回顧録の発売は、エリザベス女王の死去を受け延期された。だが、結局出版見送りとはならず、2023年1月10日には出版される予定だ。

■「スペア」が持つ意味

それにしても、このタイトルはかなり挑発的ではないだろうか。公開された本の表紙には、ヘンリー王子の大きな顔写真の下に、まるで自分はスペアにすぎないと強調するかのように「Spare」という文字が並ぶ。

“The heir and the spare”、「継承者(heir(エア))とそのスペア/予備(spare(スペア))」という表現は、世継ぎと、その世継ぎに何かあった場合のための予備、といった意味の表現で、イギリス王室のメンバーに対してもよく使われてきた。例えば、妹のマーガレット王女は姉エリザベス女王の「スペア」、弟アンドルー王子は兄チャールズ現国王の「スペア」、そして、弟のヘンリー王子は兄ウィリアム王子の「スペア」というふうにだ。ただこれは、ロイヤルファミリー自らが公に使う類いの言葉ではない。

もし、天皇の弟であり、皇位継承順位第1位の秋篠宮皇嗣殿下がご自分のことを「予備」と呼んだらどうだろうか。生まれた時から第1子と第2子では、皇室における役割が異なる。しかし、たとえそうした役割が生きている間ずっと変わらないとしても、「予備」という言葉には、自虐的で、何かやるせないものを感じてしまう。

■「一線を越えたことを象徴するタイトル」

「この言葉は、君主制の中心には、生まれた順番によって『エア(継承者)』と『スペア(予備)』が決まるという、頑強な序列があることを思い出させます。世襲で特権や優位性が決まるという仕組みは、廃止されないかぎり近代化しません」とアメリカのライフスタイル誌タウン&カントリー(Town & Country)で書いているのは、英国王室ジャーナリストのビクトリア・マーフィー氏だ。「だから、ヘンリー王子がこれほど堂々とこの言葉を受け入れたということは、彼が一線を越えて、ほかの王室メンバーが決して踏み入れない場所に踏み込んだことを象徴しているように見えるのです」

ユニオンジャックが日ごろから掲げられている「ザ・マル」
写真=iStock.com/naumoid
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/naumoid

■公務を代行できる王族を増やす提案

さらに、国王とヘンリー王子の関係性を象徴する動きがあった。11月14日のチャールズ国王の誕生日に合わせて国王は、自身の外遊中などに公務代行の資格を持つ王族を増やすための手続きを開始し、妹アン王女と弟エドワード王子を加える案を提示したのだ。

現在、公務を代行できる「カウンセラー・オブ・ステート」(国務参事官)は、国王の妻カミラ王妃に加え、21歳以上の王位継承順位上位者の、4人の「主要な」王族、ウィリアム王子、ヘンリー王子、チャールズ国王の弟のアンドルー王子とその娘ベアトリス王女が務めている。

ところが、アンドルー王子は、性的人身取引で起訴され勾留されていたアメリカの富豪ジェフリー・エプスタイン被告と親交があったことをきっかけに、王室の職務から退いている。また、ヘンリー王子と妻のメーガン妃も2020年にアメリカに移住して以来、「現役」の王族としては公務に関わっていない。

今回の国王の提案は、ヘンリー王子とアンドル王子は役職から外さず、妹アン王女と弟エドワード王子の2人を国務参事官に加えることを求めたものだ。国王はこの理由について「私が海外で公務に就いている場合など、不在のときにも公務を効率的に続けられるから」と説明している。貴族院はこれを承認し、今後必要な法改正が行われるという。

これはチャールズ国王による苦肉の策なのかもしれない。現状、ヘンリー王子とアンドルー王子は王室の職務に関わっていないので、新たに妹アン王女と弟エドワード王子を加えなければ、自分に何かあったときに頼れる王子はウィリアム王子1人になってしまうからだ。

イギリスの王室コメンテーターのリチャード・フィッツジェラルド氏がデイリー・メールに語ったところによると、これは、エリザベス女王の夫のフィリップ殿下が亡くなった頃からの懸案事項で、重要かつ、やらなければならない改革だったという。

「問題が表面化したのは、女王が95歳の時のことだ。チャールズ皇太子(当時)がコロナにかかってしまったが、ウィリアム王子は(中東の)湾岸にいたのだ」と、フィッツジェラルド氏は言う。2022年2月、女王にもしものことがあったときに代理を務めるべきチャールズ皇太子は2度目のコロナに感染したのだが、ちょうどその頃、ウィリアム王子はUAEのドバイを訪問中だったのである。

■「何かあっても頼らない」国王の意思表示

今後、国王とカミラ王妃、ウィリアム王子とキャサリン妃が、海外で公務を行う時期が重ならないとも限らない。公務を代行できる王室のメンバーを増やしておきたい気持ちは理解できる。

しかしこの変更は、「ヘンリー王子とアンドルー王子にはもう頼らない」というチャールズ国王の意思表示にも受け取れる。2人を国務参事官として残しつつも、何かあったときには彼らに頼る必要がないという体制が出来上がるのだ。

■日本の皇室の静かな危機

私は、こんなふうにイギリス王室について語る時、つい日本の皇室と比較して見てしまう。

メディアの目から逃れ、ヘンリー王子とメーガン妃のように、皇室から遠いアメリカに移住した眞子さまだが、夫の小室圭さんがついに司法試験に合格した。さぞ、ほっとしているのではないかと思いきや、今度は早くも眞子さまの妊娠準備の話がメディアで語られ始めている。皇室を離脱したとはいえ、ヘンリー王子とメーガン妃同様、この2人もメディアからはなかなか逃れられそうにない。

しかし、今、本当に気に掛ければならないのは、眞子さんのプライベートではないはずだ。チャールズ国王が「自分に何かあった場合の公務をどうすべきか」と考えているのと同様に、天皇陛下も皇室の行く末を気にかけているに違いない。しかし、王室のメンバーが潤沢にいるイギリスと違い、日本は皇位継承権を持つ皇室のメンバーが現在たった3人なのだ。

天皇陛下と皇位継承権第1位の秋篠宮皇嗣殿下の年齢差は5歳。天皇陛下が上皇陛下のように85歳で退位されると仮定すると、秋篠宮殿下はその時80歳で、かなりのご高齢になる。それを考えると、皇位継承権第2位の悠仁さまが皇位を継承するのは意外と早いかもしれない。

問題はその先だ。現在皇位継承権第3位は上皇様の弟にあたる常陸宮正仁親王で、すでに87歳である。つまり、今の皇室では、悠仁さまよりも若く、皇位継承権を持つものがいないという深刻な状況なのに、政府は過去17年間、皇位継承の抜本策についての議論を先送りしてきた。

ヘンリー王子の回顧録発売で、英米メディアのイギリス王室に対する報道は一層加熱するだろう。場合によっては来年1月の回顧録発売で、さらに王室の評判や信頼が傷つくことにもなりかねない。それでも今のイギリス王室が、長い目でみれば日本の皇室よりも安泰に見えるのは、私だけではないだろう。

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大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員
上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。

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(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)

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