なぜジャニーズ事務所は「美少年」を集められたのか…「芸能界のモンスター」ジャニー喜多川の罪と罰
プレジデントオンライン / 2022年12月2日 10時15分
■その原点は「少年愛」にあったのか
週刊文春(12月1日号、以下文春)は、ジャニー喜多川氏の少年性虐待問題を再び持ち出してきた。
「逸材を見抜く感性は凄い。たとえば、オーディションにやってきた嵐の二宮和也くんは、リュックを背負った猫背の冴えない少年で、周囲は落選するだろうと思っていた。それがジャニーさんの目に留まるや、国民的アイドルになったのですから」(芸能プロ関係者)
彼の審美眼、スターになる素材を見抜く力はどこから来ているのだろう? フォーリーブス、たのきんトリオ、SMAPと手品のように国民的アイドルを生み出してきた“異能”の原点は、彼の「少年愛」にあったと文春は指摘する。
嵐がアイドルグループとして羽ばたいた、今から23年前の1999年秋から、文春は「芸能界のモンスター」連続追及を始めた。14週にわたってジャニー喜多川氏の“行為”を、元ジャニーズ事務所にいた多くの元アイドルたちから聞き出し、大きな話題になった。
初回のタイトルは、「TVも新聞も絶対報じない 青山孝(元フォーリーブス)衝撃の告発 芸能界のモンスター『ジャニーズ事務所』の非道」(10/28日号)
■なぜジャニーズタレントは事件を起こしてしまうのか
青山孝はジャニーズ事務所が世に出し、一世を風靡(ふうび)した人気グループの一人である。江木俊夫、北公次、おりも政夫が1968年『オリビアの調べ』でレコードデビューし、12年半の活動で、シングル盤累計266万6000枚を売り上げ、7年連続でNHKの紅白歌合戦にも出場している。
だが、ギャラの少なさ、歌唱印税をもらっていないこと、事務所を離れてからのジャニー喜多川氏、メリー喜多川氏の冷たさについて語っている。
だが、北は引退した翌年に覚醒剤取締法(所持)違反で逮捕され、江木も覚醒剤取締法違反で逮捕されてしまった。
そのほかにも、4人のジュニアたちが飲酒や喫煙、乱交パーティに参加していたことが写真週刊誌で報じられ、事務所はすぐに彼らを解雇してしまった。
青山はこう語っている。
「ジャニーズ出身のタレントたちはどうして、たびたび事件を起こしてしまうのでしょうか。若すぎる時に『虚像』だけを与えられ、大人からの『教育的』配慮は一切なしに育てられれば、勘違いもします。
今は、親がジャニーズに子供を積極的に入れたがる時代です。いわば『私塾』から『学校』になりつつある。そんな時代には、『学校』と同じような配慮こそ必要なんです」
■「マッサージは本当にうまい。でも、パジャマを脱がすと…」
「(中略)私のところにも、ジャニーズ事務所に入りたいという相談に来られる方はいますが、今の事務所が自分の一生を託するのに相応しいかどうか……。(中略)
芸能界は素晴らしい世界ですが、途中で挫折する怖さというのが、絶対にあるんです。事務所だけではなく、ジャニーズに過熱気味の親御さんにも、お子さんの将来を真剣に考えて判断して欲しいのです」
当時青山は48歳。今の元SMAPのメンバーとほぼ同じ年齢である。青山のほうが大人だったなと感じるのは、私だけではないはずだ。
文春は、
「学校に通えないスケジュールを課すなど子供たちを預かる教育的配慮に欠ける」「少年たちと契約を交わさないため、その結果、少年たちに給与面での待遇差など不利益が生じている」と指摘している。
中でも深刻なのが、ジャニー喜多川氏による少年への性的虐待だと追及したのである。
「誘い文句は『ユー、今日ウチへ来る?』。そして少年たちを寝泊まりさせていた自宅やコンサート時の滞在先ホテルで、性的な行為を繰り返していた。
当時、十名以上の元ジュニアたちが被害を打ち明けた。
〈マッサージは筋肉がほぐれて本当にうまい。でも、パジャマを脱がすと、すぐに口です。いつも歯が当たって、痛いんですよ〉(九九年十一月十一日号)」(文春)
この行為は青少年健全育成条例や刑法の強制わいせつ罪に抵触する可能性もあったと文春は批判している。
■事務所は文藝春秋を訴えるも敗訴
だが、ジャニーズ事務所はすぐに動いた。1999年11月、文藝春秋に対して名誉毀損の損害賠償(計1億700万円)を求めて提訴したのである。
審理では、ジャニー喜多川氏本人や記事の中で証言した少年2人が出廷した。
姉のメリー喜多川氏を知る芸能関係者はこう語っている。
「メリーさんはジャニーさんを引責辞任させることも考えた。経営の舵取りをしているのはメリーさんだし、ジャニーさんは現場の演出家に専念すればいいと。でも、メリーさんは『やっぱり弟を見殺しにできない』と、翻意した」
法廷でジャニー喜多川氏は、こう証言している。
「彼たち(出廷して証言した少年たち=筆者注)はうその証言をしたということを、僕は明確にはいい難いです。はっきりいって」
そして、2003年7月に高裁判決が出た。判決文ではこう論じられている。
〈原告喜多川が(中略)セクハラ行為をしているとの記述については、いわゆる真実性の抗弁が認められ、かつ、公共の利害に関する事実に係るものである〉
その後、ジャニー喜多川氏側は最高裁に上告したが、2004年2月に棄却された。高裁判決が確定したのである。
文春は、今また過去のジャニー喜多川氏の件を持ち出した理由について、こういっている。
■「これはジャニーズの根幹に関わるテーマなのである」
「稀代のカリスマから性的嗜好の標的にされた少年たちが、それを拒絶できなかった理由にある。スターを夢見た幼い彼らは『コンサートでの立ち位置が中央から追いやられる』ことや『グループとしてデビューできなくなる』ことを恐れたのだ。
これは、男性アイドル産業によって会社を築き上げた、ジャニーズの根幹に関わるテーマなのである」
ジャニー喜多川氏の少年たちへの性的虐待を告発したのは文春だけではない。
「法廷でも論議されたし、元フォーリーブスの北公次氏は、著書『光GENJIへ』の中で、実名で告発した。豊川誕氏などもそれに続いたが、いまだに被害は繰り返されている」(文春)
私の手元にも、北の『光GENJIへ』(データハウス)が4冊、やはりジャニーズ事務所にいたという平本淳也氏が書いた『ジャニーズのすべて 少年愛の館』(鹿砦社)など何冊かある。
だが、この国のメディアはこれらの事実を無視し続けた。
■今こそ“罪”を検証すべき時ではないのか
2000年1月30日付の「ニューヨーク・タイムズ」は、「陰りゆく、日本のスターメイカー」と題し、ジャニー喜多川氏の性的虐待疑惑を報じ、「本誌との訴訟の事実すら報道しない日本のマスコミの姿勢を痛烈に批判している」〔『週刊文春が報じた ジャニー喜多川審美眼と「性的虐待」』(週刊文春編集部)より〕
ジャニー喜多川氏の性癖を知っていても、知らないふりをしてジャニーズのアイドルたちを視聴率稼ぎのために使ってきたテレビ業界や出版業界。
ジャニー喜多川氏に性的虐待を受けても、ステージに立ちたい、それも中央に立ちたいという願望から、親にも話さないアイドル候補生たち。
実態を薄々知りながら、そのことはおくびにも出さず、ジャニーズ詣(もう)でに精を出してきたエセ芸能ジャーナリストたち。
かくして、週刊文春の報道と名誉毀損裁判はあったものの、多くの人の目に触れることもなく、ジャニーズ帝国は続いてきたのである。
だが潮目は変わった。メリー喜多川・ジャニー喜多川姉弟がいなくなり、ジャニー喜多川氏の後継者と自他ともに認めていた滝沢秀明氏が事務所を去り、King&Princeの3人も脱退し、来春退所するという。
ジャニーズがひた隠してきたジャニー喜多川氏の功罪の罪の部分を、メディアは検証すべき時だと、私は考える。
■マイケルの暗部を告発したかつての子供たち
Netflixの『ネバーランドにさよならを』を観た人はいるだろうか。マイケル・ジャクソンの熱烈なファンは観ないほうがいい。なぜなら、マイケルから子供の時、性的虐待を受けた2人の男性が、当時を振り返って赤裸々に語るというドキュメンタリーなのである。
制作はイギリスの「Channel4」とアメリカの「HBO」で、2019年に放送された時は、大変な騒ぎになったという。
なぜなら、マイケルは生前に2度、児童虐待疑惑で告発され、示談と無罪判決が出ているからだ。マイケルに有利な証言をした子供がいたことで、決着はついたはずだった。
だがその子供が大人になり、「当時の発言は嘘で、自分も性的虐待をされていた」と、顔も名前も出して告白しているのだ。彼に触発されて、やはり性的虐待を受けていた別の男性も告白し、ほとんどそれだけで4時間の長尺ドキュメンタリーなのである。
当然ながら、マイケル・ジャクソンの遺産管理財団は賠償を求める訴訟を起こしたらしい。熱烈なファンたちは、このドキュメンタリーはでたらめだとネガティブキャンペーンを張ったという。
■ホテルやネバーランドの部屋で、キスから始まり…
ウェイド・ロブソンとジェームズ・セーフチャックの2人は、今見てもいい男だが、幼い頃はキュートで天使のような姿をしている。
ウェイドは、幼い時にマイケルのダンスパフォーマンスを真似て人気者になり、ステージでマイケルと一緒に踊るという幸運をつかむ。
ジェームズのほうは、ペプシのCMでマイケルと知り合い、夕食に招かれ、家族ぐるみで親しく付き合うようになる。
子供心にも、華やかなショー、豪華なホテル、一緒に過ごす部屋は、夢のようだっただろう。
だが、マイケルはただのやさしいオジサンではなかった。キスから始まり、自分の自慰行為を見せ、オーラルセックスへと子供を導いていく。
マイケルはそれを「愛の表現」と語る。誰にもこのことを話すなといい含め、ある種の共犯関係を構築していくのである。
彼ら2人にとって、マイケルは神そのものだったのだろう。マイケルに性的虐待容疑が出てきたとき、マイケルに有利な証言をしたが、それは圧力をかけられたとか脅されたということではない。
2人は、過去を語る時も、激することなく淡々としている。だが語られる内容は、目をそむけたくなる性的虐待そのものである。
■ジャニー氏の“夢”は後世でどう評価されるのか
見終わって思ったのは、「日本ではこのようなドキュメンタリーはできないだろうし、やる勇気のある人間もいないだろうな」ということだった。
この放映権をNetflixが買い取り、日本でも見られるようになったのだろう。
私は以前ここで、ジャニー喜多川氏も『ピーターパン』に出てくるネバーランドを作りたかったのではないかと書いた。
マイケル・ジャクソンも多くの子供たちをネバーランドに招き、彼らと遊んでいる時のマイケルは、外目には幸せそうだった。
ジャニー喜多川氏のネバーランドはもっとスケールが大きかったのではないか。自分が見出した少年たちに囲まれ、彼らを育て、一緒に暮らしていくという夢があったのかもしれない。
日本的な風土の中では、マイケルのケースのように、少年時代、ジャニー喜多川氏から受けた“行為”を、実名、顔出しで語る元アイドルがこれから出てくるとは考えにくい。
これから20年、30年後、ジャニー喜多川氏がつくろうとしたネバーランドは、どのような評価を受けるのだろうか。
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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