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大量に添付された資料は「死霊」である…トヨタ幹部が「でもこれは全部読んだ」と唸ったメールの書き出し

プレジデントオンライン / 2022年12月5日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/golubovy

トヨタ自動車では、生産工場だけでなく、資料やメールのやりとりが多い事務職の現場でもムダをなくすルールが徹底されている。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんによる連載「トヨタがやる仕事、やらない仕事」。第5回は「メールと資料の『作りすぎのムダ』」――。

■定型資料を決まったタイミングで送るのはやめる

トヨタの生産現場では、ムダをはぶくために「マテハンをなくせ」という合言葉があります。

マテハンとはマテリアルハンドリング、部品の運搬のことです。つまり、単に運搬することは仕事ではないという考え方です。

ある幹部は「これは事技系の仕事にも通用する」と言っています。

「例えばメールですよ。何でもかんでもメールを送りつけるのではなく、何を送るかをまず考えること」

まあ、この考え方はトヨタに限らず、もはや常識かもしれません。ですが、ここでおしまいではありません。トヨタではメールで何かを知らせる場合、さらにくふうがあります。

【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら
【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら

前述の幹部はこう言っています。

「決まりきった定型の資料を、決まりきったタイミングでメールで連絡するのはよそうとなっています。

昔、社内便というものがありました。封筒の中に文書が入っていて、回覧していき、社員は開封して中の情報を確認する。社内便を今ではメールにしていますが、問題はメールを送っても相手がすぐに開くかどうかはわからないことです。大半は相手のパソコンの中で停滞しているのではないでしょうか。

停滞している理由はタイミングが悪いからだと思うんです。情報は相手が必要とするタイミングに送らなければ読んでもらえません」

■相手に届くメールとは、文章のうまさではない

「うちの部署では定型の資料は相手と共有できるサーバーにしまっておきます。そうして、自分が読みたいと思った時に見に行くことという約束だけ決めておきます。何時までに見てくださいということも最初に伝えておきます。そうすればみんな見に行きます。これだけでメールの量はがくんと減りました」

メールは送るのに手間がかかりません。手紙、電話よりも簡単に済ませることができます。ですから、送る時はなんでもかんでも送ってしまうのです。

一方で、読むのは大変です。特に、定型の気候挨拶から始まるメールが何通も受信トレイにたまっていたら、それだけで溜息が出てしまいます。

メールを送るタイミングですけれど、これは送った相手のルーティンを知るしかありません。

大半の人は朝、就業前にざっと目を通すのではないでしょうか。一方で、昼の食事前とか、終業間際に見る人もいるでしょう。在宅勤務の場合は朝起きてすぐにチェックするかもしれません。

「相手に届くメール」とは実は文章のうまさではなく、相手の読むタイミングを知っているかいないかなのです。

そこで、誰でもできる「相手に届くメールの送り方」を書いておきます。

■いくら合理的でも「お世話になります」は省略しない

それは相手と会った時、直接、訊(たず)ねておくのです。

「あなたは毎日、いつごろ、メールを読むのですか?」

たとえ、目上に当たる人でも、かまわないと思います。ただ、直接、会った時に聞いたほうがいいでしょう。それだけのために電話したり、メールを送りつけたりするのは感心しません。「お前はいつ、読むんだ?」みたいなニュアンスが伝わってしまうからです。すると、相手の心証を害する……。

トヨタの人たちに聞くと、メールの文章に特別の決まりはないということです。簡潔に書くようにしているとのことですが、冒頭のあいさつ文、例えば「いつもお世話になっております」といったものも書いている、とのこと。

「誰も読まないかもしれない文章ですけれど、省いたからといって、その代わりに得られる時間はわずか」だからだそうです。

メールのあいさつ文は何も考えずに自動的に書くものだと思ってください。手紙の冒頭に「謹啓」とか「拝啓」と書くのと一緒です。

■「とりあえずCCを入れる」は作りすぎのムダ

TPS本部長の尾上恭吾さんは「私はメールに資料を大量に添付することはしません」とはっきり言います。

「大量の資料を添付する人がいます。送るほうはよかれと思うのでしょうけれど、大量だと読むだけで時間を費やしてしまいます。なかには資料を添付したうえで、キーポイント(見出しのこと=筆者注)だけを何行か書いてくる人がいるのですが、こちらのほうが親切だと思います。

また、メールにCCをたくさん入れる人がいます。これはトヨタ生産方式でいう『作りすぎのムダ』です。ほんとうに読んでほしい内容をほんとうに必要な人だけに送る。それがメール連絡の鉄則だと思います」

尾上さんは海外の生産現場からの報告書も読む立場だ。海外駐在が長いから英文メールを苦にする人ではないけれど、それでも親切な人は資料のほかにキーポイントだけを付けると言っています。

そして、キーポイントだけを付けた人の資料は「全部読んでしまう」そうです。

きっとキーポイントの書き方が上手なのでしょう。内容のすべてを抜粋したものではなく、メインディッシュに誘導する前菜のように魅力的なキーポイントを付けたのではないでしょうか。そういうメールを見習うといいと思います。

■「死霊」を避けるために「魅力的な見出し」をつける

尾上さんが言っているのは、メールを送る場合、本文も重要ですが、魅力的なキーポイントを作成する能力が必要ということになります。

そういう場合、本文に名文は要りません。読みたくなるような見出しを書く技術が要ります。編集者が見出しを書く際に発揮する、文章の中身をまとめ、さらに魅力をつけ加えるのです。添付した資料についても見出しをつけておくといいでしょう。

3つのガジェットで表示しているメールボックス
写真=iStock.com/Rawf8
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawf8

尾上さんはこうも言っていました。

「トヨタでは大量の資料はつけないほうがいいとされています。一時期、増えたのですが、今はずいぶん減ってきています。

そして、これは昔、生産調査部で言われていた言葉があります。資料を多くつけてはいけないという意味の戒めの言葉です。

『最初は資料と呼ぶ。量が多くなったら紙量だ。もっと多くなって誰も読まなくなった資料は死霊(しりょう)なんだ』

送るほうは大切だからと大量の資料を送りますけれど、多いと先方のパソコンで死んでしまう。だからそれは死霊なんです」

添付資料はとにかく少なくすることです。そして資料を添付してメールを出す時はキーポイントを忘れずに書いておくこと。

キーポイントをまとめる際は記事の見出しだけを読んで「これはいい。わかりやすいな」と思ったものを真似する。

この3点さえ気をつけておけば確実に相手に届くメールを出すことができます。

■トヨタが「DX化の波」に乗らない理由

さて、今はやりのデジタルトランスフォーメーション(DX)についてです。

トヨタには「カイゼンにはできるだけお金をかけない」という鉄則があります。高額な複合工作機械を導入すると、故障した時、専門家でなくては直せません。複合機能の工作機械よりも単機能のそれを並んで設置したほうが費用は安くなりますし、また、生産性も向上するのです。

現在、各方面でDX化が叫ばれています。猫も杓子もDX化を進めることが第一目的と思っているようです。

ですが、トヨタではちょっと違う考え方をしているようです。

TPS本部長の尾上さんはこんな話をします。

「まず最初に動作のカイゼンです。われわれが現場で大切にしているのは『設備カイゼンより動作カイゼン。動作カイゼンした後に設備カイゼンをしましょう』となっています。

最初から設備カイゼンすると最新式の複合機械を入れようとします。そうすると、お金がかかるのです。それよりもまず知恵をつかって最後にお金をちょっとだけ使いましょう。そこがトヨタの考え方です」

■システムは手段であって目的ではない

「例えば伝票をスマホで撮影して数字を入力するアプリがあるとします。アプリ使用料はわずかなお金かもしれません。しかし、うちはすぐに導入はしません。

伝票を見て、入力しなければならない項目はどれだと分析する。そして、いらない項目は入力しなくていいわけですから、その伝票から項目をカットする。よくよく考えて伝票自体が要らなければなくすことも考える。その作業を最初にやってから、DX化に移ります。トヨタのDX化はどこでもやっているDX化とはちょっと違うのです。

システムはお金をかければかけただけメンテナンス費がかかってきます。メンテナンス費は投資金額に比例するんですよ。いかに最初の投資を抑えるか。するとメンテナンス費も抑えることができる」

トヨタの工場へ見学に行くと尾上さんの言っていることがよくわかります。なんでもかんでも高性能、高機能、最新式の機械を導入しているわけではありません。エレベーターを入れるのでも、簡単に導入するわけではないのです。

「エレベーターより階段にしておいて、階段を上り下りしたほうが健康にいい」
「電気代の節約、ひいては脱炭素につながる」
「何よりエレベーターよりも安いし、メンテナンス費がかからない」
「ただし、ハンディキャップのある人のために最小限のエレベーターは用意する」

エレベーターをつける時でも、考えてから設備を導入する会社なのです。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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