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非科学的な「ゼロコロナ」にはもう耐えられない…中国人富裕層がついに日本移住を決めたワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月2日 17時15分

政府の厳しいゼロコロナ対策に抗議するデモ隊=11月28日、北京 - 写真=AFP/時事通信フォト

■検閲をかいくぐり、同時多発的にデモが発生

中国で11月26~27日の週末、大学生など若者を中心に、ゼロコロナを継続する習近平政権への抗議デモが繰り広げられ、大量の警官が配備されるなど緊張感が走った。中国で真正面から政権批判が行われることは異例のことだからだ。

きっかけとなったのは11月24日にウルムチ市で発生した火災。ロックダウン中で救出活動が遅れ、何の罪もない幼い子どもなど10人が死亡した一件が報道され、3年に及ぶ厳しい行動規制やPCR検査の連続に堪忍袋の緒が切れ、ついに怒りが爆発したのだ。

とくに大学生はこの3年間、大学のキャンパス内に閉じ込められることが多く、外出の機会を極端に制限されていた。11月下旬にはキャンパスのグラウンドで突然、集団で「四つんばい」を行うなど、精神的に追い詰められている様子も報道された。しかし、彼らは離れている友人ともSNSで常につながっており、その情報量は日本人が想像するよりもずっと多く、スピードも速い。

検閲に引っかかりにくい独自のワードや、検閲しにくい連続画像などを使って情報を拡散する。ロックダウンされた地域が増えた時期が重なったこともあり、北京や上海だけでなく、西安、武漢、広州など遠距離の友人と同時多発的にデモを行うことができた。

■W杯の「ノーマスク観戦」の様子は映らない

さらに、最近の若者の特徴は、海外に住む中国人の友人や親戚などともSNSでつながっており、世界的なネットワークを持っていることだ。都市部の進学校ならば、クラスメートの3分の1は海外の大学に進学することもザラにあり、海外に同級生がいることは、エリート層の若者ならば普通。そのネットワークを駆使することで、海外で発生している事柄やニュースも瞬時にキャッチしている。

現在開催中のサッカーワールドカップ・カタール大会で、観客がノーマスクで大騒ぎしている様子は、中国国内では画面が差し替えられており、通常放送では見られないが、少なくとも若者は、それが情報統制によるものだと知っており、直接、海外のサーバー経由でネットに接続できるVPN(仮想プライベートネットワーク)を使用し、海外の情報にアクセスしている。

むろん、新型コロナについても、海外ではすでに病気の扱いが変化していることも理解している。このように、中国の情報統制をかいくぐり、海外の情報にアクセスできるのは、人口14億人の中国で1億~2億人程度といわれているが、その多くが10代後半~30代までの若者世代だ。

彼らは、海外の報道と比べて、自分たちの国のトップがいかに非科学的な論理で政策を決定しており、それを全国民に押し付けているかということも十分承知していた。しかし、それでも、これまで我慢を重ねてきた。

■「潤」の検索ワードが中国各地で急上昇

デモが行われた都市のひとつ、北京市では、デモを行う若者の近くを走る自動車が多数のクラクションを鳴らして「無言の応援」をしたという出来事があった。一般市民の多くは職を失ったり、逮捕されたりする可能性がある抗議デモを行う勇気はないが、彼らも、若者と同じように、すでに我慢の限界を迎えているということが感じとれた。

実はこの春ごろから、ゼロコロナに嫌気がさした富裕層の間で、中国から脱出する動きが急速に活発化している。具体的には3月28日から4月3日までの1週間、ちょうど上海市東部が最初にロックダウンされた期間に、「潤(ルン)=移民する」という言葉を検索する人が急上昇した。

中国では単語だけでなくセンテンスでも検索する人がいるが、最も多かったのは「カナダに移民する条件」で、検索数はその前の週と比べて2846%と大幅増。ほかに、「出国するならどこがいいか」「シンガポール投資移民の条件は何か」などのセンテンスでも大量に検索された。

検索者が住む都市の第1位は上海市で、2位が天津市、3位が広東省だった。ちなみに、「潤」がなぜ「移民する」という意味かというと、「潤」(ルン)の意味は本来「湿っている」「光沢がある」などだが、中国語の発音はrun(ルン)で、これが英語のrun(ラン=走る)と同じであるため、中国で「潤」は「移民する、逃げる、ずらかる」などの意味として使われている。

■ロックダウン中の上海から日本に移住

さらに、爆発的に検索が増えたのが上海市東部のロックダウン終了日の予定だった4月3日だった。東部に続いて西部では4日間のロックダウンが予定されていたが、4月3日はそれが無期限に延長される可能性があるという絶望的な報道があった日であり、この1日だけの「潤」の検索数は5000万回を超えた。

これほどまでに移民に対する関心が高まったことはかつてなかったが、それでも、実際に出国を実現できた人は決して多くない。仕事、言語、家族の問題、そして何より資金の問題が大きく、中国から出たくても条件が整わないからだ。だが、私の知人の中で1人だけ、上海のロックダウンが実施されている最中の5月、中国を脱出し、日本に引っ越すことに成功した人がいる。

その人の経歴など詳細を書くことはできないが、20代の富裕層だ。以前も日本に何度か遊びに来た経験があり、2020年の初頭、東京都内の新築のタワーマンションを約7000万円で購入していた。

■「これ以上、政府のゼロコロナには付き合いきれない」

購入後、コロナが拡大し、なかなか来日することができなかったが、「上海のロックダウンの厳しさを目の当たりにして、背筋が凍った。もうこれ以上、政府のゼロコロナには付き合いきれないと思って、衝動的に出国を決めた」と話す。その人の場合、ビジネスビザを持っていたためそれで出国し、来日後、3年間の労働ビザを取得できた。

マンション購入代金も含め、資金の持ち出し規制が強い中国から、どうやって資金を出したのか、その点について取材すると言葉を濁した。しかし、中国人が顧客の8割を占めるという在日中国人の不動産仲介業者に話を聞いてみると、いくつかの方法があるという。

その一つは香港経由で送金する方法だ。以前、富裕層は香港に口座を持っている人が多く、香港―日本間の送金は問題なかった。最近は難しくなっているが、まだ可能だ。ほかに地下銀行や仮想通貨で持ち込む方法もあるが、中国の銀行から5万元(約100万円)以上引き出す場合、その使途を申告する必要があるため、最近では高額の引き出しはかなり難しくなっているという。

■空港の出国審査では搭乗者に“尋問”が

フィリピンやシンガポール、あるいは別の国にも複数の口座がある中国人であれば、そこから日本の銀行に送金したりするケースもあるそうだが、増えているのは、在日中国人の友人に何らかの方法で送金し、その人がキャッシュで日本の不動産会社に支払うという方法だ。その20代の富裕層はまだ日本の銀行口座は開設していないといい、日本での生活費はすべてクレジットカード払いとのことだった。

この富裕層によると、ここ数カ月、中国のゼロコロナ政策に耐えきれず、別の国へ引っ越したり、一時的に海外に出国したりしている中国人は非常に多いという。ただ、自分と同じように日本に出国できた知り合いは1人だけ、とのことだった。

今年6月、上海から来日した別の中国人の友人も「人口2500万人の上海で、ある程度お金を持っている200万人くらいの中国人の中には、ロックダウンが解除されたとたん、一斉に外国へと飛び出した人たちがいました。私の場合、行き先は日本だったけれど、ヨーロッパに行った友人も多い。出国できる人は全員、いったん羽根を伸ばしに出国したといってもいいくらい。移民ではなく、一時的な旅行ですけれどね」と話していた。

そうした人が増えているからか、その知人によると、中国から出国する場合、空港のイミグレーション(出入国審査)の担当者から多数の質問を受けるケースが増えているという。具体的にどのような質問を受けたか詳細は不明だが、「ビジネストリップではなく、本当は移民のための準備で出かけるんじゃないの?」など、ネチネチと質問、というか尋問されるという。

窓口で書類の不備を指摘される人
写真=iStock.com/LukaTDB
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LukaTDB

■「おかしい、でも逃げるお金はない」不満が爆発か

中国語に「層層加码」(下に行けば行くほど厳しくなる)という言葉があるが、たとえイミグレの担当者であっても、強い権限を持っている。ゼロコロナでも、省よりも市、市よりもマンションの居民委員会の下っぱの係員のほうが市民に強い態度に出て、強制する権限を持っていることが指摘された。前述の富裕層も「空港のイミグレという“関所”を通過する際、胸がドキドキ、心臓がバクバクした。出発ゲートまでたどり着いても、本当に無事に自分は出国できるか不安で仕方がなかった」と話していた。

上海浦東国際空港
筆者撮影
上海浦東国際空港 - 筆者撮影

このように、ごく一部の富裕層は運よく中国から出国し、ゼロコロナから解放されることができるが、大多数の中国人にとってそれは不可能だ。ただ黙って政府の言う通りにするしかないのだが、とくに若い大学生たちは海外との接点も多く、国内の情報統制を「おかしい」と思っているだけに、精神的に追い詰められている。ただひたすら我慢することにもう耐えられないと思っており、今後も、何かの事件や出来事を引き金に、抗議デモが再燃する可能性はまだ残っている。

■ゼロコロナ政策の転換点となるのか

11月30日には江沢民元国家主席死去というビッグニュースも飛び込んできており、若者が「追悼」と称してデモをする可能性もある。政府の出方が注目されているが、同日、ロックダウンが続いていた広東省広州市の複数の地区で、突然規制が緩和され、封鎖が解除されるというニュースがあった。

前日の29日には、浙江省政府が「人民が第一であり、コロナ対策が第一ではない」と題する文書を発表、政府のゼロコロナを暗に批判して、市民の不満を和らげようとするような動きもあり、12月1日には孫春蘭副首相が「中国の防疫対策は新たな局面、新な任務を迎えた」と発言。ゼロコロナの転換を示唆しているのでは、と注目された。

今回の異例の抗議デモにより、今後、政府がどのような方向に舵を切るのかはまだ予測できないが、若者たちの抗議デモが、のちに振り返ったとき、ゼロコロナの大きな転換点となる可能性も出てきている。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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