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環境省と消費者庁の調査結果は正反対…「結局、サステナブルファッションは売れない」という残酷な事実

プレジデントオンライン / 2022年12月8日 9時15分

環境省が立ち上げた「SUSTAINABLE FASHION」 - 環境省「SUSTAINABLE FASHION」HPより

環境問題などに配慮した衣服「サステナブルファッション」が注目を集めている。環境省は「59%の人は関心を持っている」という調査結果も発表している。経営コンサルタントの河合拓さんは「消費者庁の調査によると、アパレルの購買要因にサステナブル対応をあげた人はわずか2%。環境省の調査にはトリックがある」という――。(第1回)

※本稿は、河合拓『知らなきゃいけないアパレルの話』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

■サステナブルファッションというまやかし

アパレル業界の環境問題と人権問題は、映画『THE TRUE COST』を発端に、多くの人々に知られていった。

だが、アパレル業界は安易な解決策を提示しようとしている。

それが、「サステナブルファッション」と称するものだ。

環境省が立ち上げた「SUSTAINABLE FASHION」というホームページがある。

そこには、ファッション商品の原材料調達から店頭に届くまでのCO2排出量、水の消費、水質汚染など、環境負荷が具体的な数字で掲載されており、「より安くより多くって、いいこと?」と書かれている。

そこで示されている「国内アパレル供給量・市場規模の推移」によれば、国内のアパレル市場規模は、バブル期の1991年は14.7兆円あり、供給量(アパレル企業側の総投入量)は約20億点であった。

ところが、2019年には市場規模は10兆円程度にまで減少。一方、供給量は約35億点へと、ほぼ倍増している。

さらに、衣服一枚当たりの平均単価については、90年の6848円から19年の3202円へ、半額以下に落ち込んでいる(図表1参照)。

【図表1】衣服一枚あたりの価格推移
出所=『知らなきゃいけないアパレルの話』

サステナブルファッションを推進したい環境省は、統計の結果「消費者の59%はサステナブルファッションへ関心がある。だから企業は、サステナブルファッションを生産せよ。それによって、廃棄されれば再利用される、あるいは土に帰るという循環型経済に移行しよう」と主張している。

しかしこの「59%」にトリックがある。

■「具体的な行動を起こしている」はわずか4%

調査結果を見ると、「具体的な行動を起こしている」人はわずか4%で、「これから起こしたい」が4%、「関心はあるが具体的な行動は起こしていない」人が51%なのだ。

41%を占める「全く関心がない」層を合わせれば、実に92%もの人々において、「サステナブルファッション」の優先順位は極めて低いといって良い。

実際、消費者庁が21年に行った「令和3年度『サステナブルファッション』に関する消費者意識調査」が、環境省の主張とは正反対の結果となり、これを裏付けている。

要約すると、

①日本のマス市場を形成する消費者は、「価格が安いこと」と「デザインがよいこと」の2点が圧倒的で、それぞれ購買要因の70%以上となっている、
②「社会や環境に配慮したファッションか」に対しては2%未満であり、意識の高い10、20代でも3%であった。

これでは、企業がコストの高い環境配慮型アパレル製品を売るのは難しいだろう。

「サステナブルファッション」を重視し、価格度外視で購入する消費者は2%しかいないのだ。

サステナブルファッションは売れない
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
サステナブルファッションは売れない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

■アパレル産業は環境破壊の「悪の元凶」か

私は、アパレル産業による環境破壊について詳しく調べたいと思い、さまざまな海外のドキュメンタリーを見たのだが、不思議な事実に出くわした。

まず、どれもアパレル商品の生産が、環境破壊を繰り返し、また余剰在庫の焼却が地球の温度を上昇させているということでは一致している。

だが、「アパレルが2位」というなら、「環境破壊、悪の元凶の1位」はなんなのかということが、ドキュメンタリー作品によって異なるのだ。

あるドキュメンタリーでは畜産業による牛のげっぷや糞が、急激な気温上昇を引き起こし、別の作品では航空機、あるいは、自動車産業などが「1位」であるなど、「さらり」とかわしているのだ。

■自動車産業の環境対策は政府がバックアップ

もう一つ不思議なことがある。

自動車に関しては、世界中で排気ガス規制が制定されている。

世界中で排気ガス規制が制定されている
写真=iStock.com/Valery Ambartsumian
世界中で排気ガス規制が制定されている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Valery Ambartsumian

例えば、ドイツの主要都市では2030年以降、旧式の排気ガス規制レベルにしか対応していないディーゼル車は、市内走行を制限される。

イギリスでも30年にはディーゼル車の販売が禁止される。

日本は、25年まで年率5%程度の割合でCO2を削減する目標を掲げている。また、東京都の小池百合子知事は、30年までに都内の新車販売を全てハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などに切り替える目標を都議会本会議で発表した。

また、自動車の購買時にはエコカー減税がつき、政府と企業が一体となって消費者をエコカーへ誘導する施策を行っている。

このように自動車産業では、各国が環境破壊の深刻さを認識したうえで、政策によってたがをはめている。産業に対して禁止規制を目標値として掲げたうえで、産業側はその目標に向かって技術革新を進めている。

■全責任がアパレル企業に押し付けられている

一方、アパレル産業に関しては、あたかも企業に全責任があるかのごとく一方的に断じられている。

ひどい論考になると「アパレル企業は少なく作るとその分売上が下がるが、作りすぎても儲かるから作りすぎるのだ」など、間違った事実認識(作りすぎれば、棚卸資産が現金を減少させてキャッシュフローが悪化し倒産する)を流す有識者もいるほどだ。

さらには「消費者が安いものをタイムリーに求めすぎるから悪いのだ」(では消費者は、流行遅れの高いモノを買うべきなのだろうか?)など、消費者の責任にするものもある。

そして最後は「大量生産と作りすぎが問題だ」と結論づけている。

■「人権のためにはパーカー1着を1万7000円で売るべき」は正しいのか

こうした事実認識は、恐ろしいほど間違っている。

過剰仕入れをしたアパレルはキャッシュフローが悪化し、運転資本に回す金さえ工面できなくなる。

こうした企業を与信オーバーしてまで資金面で支えているのが金融機関である。

つまり、いずれ金融機能が正常化すれば、売れない在庫を抱えているような企業は淘汰(とうた)され、産業は新陳代謝していく。

また、「作りすぎても儲かる」などは、会計の基本的ルールを知らない人の意見だ。

他には、「パーカー1着を1万7000円で販売することが、工場に対して人権を維持できる価格だ」と断じる有識者もいた。

だが、そんな値段でパーカーを販売すれば、ほとんどの消費者はユニクロの1980円のパーカーを買うだろう。

経済というものをわかっていないのである。

ほとんどの消費者はユニクロの1980円のパーカーを買うだろう
写真=iStock.com/Fran Rodriguez
ほとんどの消費者はユニクロの1980円のパーカーを買うだろう(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Fran Rodriguez

■「アフリカの難民がハイブランドを着ている」という冗談話

一方で、社会的責任とビジネスを両立できる企業達もいる。

それが、ハイブランドと低価格アパレルだ。

ファッション誌をみれば、あちこちでSDGsへの取り組みが上げられているが、どれもスーパーブランドであることにお気づきだろうか。

「マズロー欲求5段階説」で説明されている通り、人は、まず自分が生きてゆくという基本的な欲求が満たされれば、社会に貢献したいと思い、さらに高次な欲求に昇華する。

ハイブランドは、消費者も自我確立・維持欲求など遙か昔に満たされ、むしろ「社会的意味がある自分でありたい」と思う層に訴求をしている。

例えば、あるトップメゾンは、15年前から余った服を赤十字に寄付し、当時、アフリカなどに送っていた。

日本でユニクロが猛威を振るっていた時期だったから、「日本人はユニクロしか買えないが、アフリカの難民はハイブランドを着ている」という冗談話をよく覚えている。

日本人はユニクロを着ているが……
写真=iStock.com/jacoblund
日本人はユニクロを着ているが……(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/jacoblund

■SDGs対応を求められるユニクロやZARA

これに対し、ユニクロやZARA、H&Mなど、世界規模で事業を展開する企業はどうか。

SDGsへの取り組みは積極的に見えるが、トップメゾンとはやや事情が異なっている。

彼らグローバルSPAの中心顧客は年収でいえば300万円程度。とても、社会活動にプレミアム料金を払う余裕などない。

彼ら、彼女達の言葉を借りていわせていただければ、「安くてかわいければいい」ということになる。

しかし、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長にウイグル問題について記者たちがしつこく回答をもとめ、「2兆円の売上を支える社会責任」を追求する様をみると、ハイブランドとは違った事情が見えてくる。

経営学でいう「コストリーダシップポジション」をとるファーストリテイリングやZARAなどのガリバー企業は、その巨大さゆえに社会的責任が重大となる。

そのため、ハイブランドによるSDGs対応とは別の意味で、まわりからSDGs対応を求められる。

ハイブランドがマーケティング的観点からの対応とするなら、グローバルSPAは、むしろ必要に迫られ、その社会的責任が巨大であるがゆえSDGs対応が必要となってくる。

両社は全く別なのだ。

もちろん、グローバルSPA企業は、環境問題、人権問題に対応するだけの経営資源を持っている。

■多くのアパレル企業はSDGs対応のすべを持たない

問題は、中間価格帯のアパレルだ。

河合拓『知らなきゃいけないアパレルの話』(ダイヤモンド社)
河合拓『知らなきゃいけないアパレルの話』(ダイヤモンド社)

このセグメントは、ある意味、社会活動に回せるほど潤沢なブランド維持費用があるわけでもなく、また、社会的責任のやり玉に名指しで挙げられることもない。

某セレクトショップ社長が、「我々は、同じトップスを1000円で売る企業と10万円で売る企業に囲まれ、1万円で売らねばならない」(これは相当難易度が高い)といっていたのが印象的だ。

つまり、ファーストリテイリングなどのごくわずかな高収益のグローバル企業や、メゾンと呼ばれる高級ブランドを除けば、こうした問題を根本的に解決するすべを持たないということになる。

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河合 拓(かわい・たく)
経営コンサルタント
Arthur D Little、カートサーモンUS inc、アクセンチュア戦略グループ、日本IBMのパートナーなど、世界的コンサルティング企業の経営幹部を歴任。現在は、プライベート・エクイティファンドThe Longreachgroupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。メディアへの出演多数。著書に『ブランドで競争する技術』『生き残るアパレル 死ぬアパレル』(いずれもダイヤモンド社)がある。

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(経営コンサルタント 河合 拓)

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