1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

長生きしたければテレビは見るな…老年医学の専門医が「街ブラ番組は特に危険」と訴えるワケ

プレジデントオンライン / 2022年12月8日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/simonkr

健康長寿のためにはなにをすればいいか。老年医学の専門医である和田秀樹さんは「長生きしたければテレビは捨てたほうがいい。最大の問題点は『人を座らせたままにする』ことにある」という――。(第1回)

※本稿、和田秀樹『テレビを捨てて健康長寿 ボケずに80歳の壁を越える方法』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

■収入や学力などの格差よりも残酷な「健康格差」

長生きしたければテレビを観るな、というのは、本当です。今後、国民全体の3人に1人が65歳以上となる超高齢社会が訪れたとき、今まで通りにテレビにかじりついている人は、間違いなく「健康格差社会」の底辺に転落してしまうでしょう。「健康格差」は、ふんわりと語られることの多い格差社会という概念の一面です。

「格差社会」というと、まず頭に浮かぶのは「金銭的収入の格差」かもしれません。続いて、そこにつながる「学力(学歴)の格差」、その大元と目される「親ガチャ」こと「両親や生家の資産をめぐる格差」が論じられるというのが一般的だと思われます。けれども、金銭的収入の格差と並び立つほど「個人」を際立たせる本当の格差は、もっと別の角度からも見るべきではないでしょうか。私は、それこそが「健康格差」だと考えています。

健康の格差は、ある場合には、学力の格差以上に残酷な「結果の格差」をもたらしてしまうからです。たとえば学力について、かなり優秀な人とまったく勉強のできない人のIQのギャップは、どれだけ大きく開いてもせいぜい70から130ぐらいの幅に収まります。しかし、これが健康を尺度にすると、まったく変わってしまうのです。特に「健康格差」が色濃く出てくる65歳以上の世界でいえば、そのギャップは天地ほどの差が生まれてしまいます。

歩ける人、歩けない人。自分ひとりで生活できる人、そうでない人。好きなものが食べられる人、病院食しか食べられない人、点滴でしか栄養をとれない人。つまり、高齢者の世界では身体能力や脳機能といった点で、収入格差と同じぐらい、個々人の人生を左右するのが「健康格差」だということです。

■テレビの問題点は「人を座らせたままにする」こと

ただ一点、収入格差と健康格差には大きな性質の違いもあります。

社会経験をもつ読者の皆さんには自明のことと思いますが、収入のギャップは「個人の努力」だけでは埋められません。貨幣経済は偏差(不平等性)によって成り立っているので、どれだけ一所懸命に努力しても、皆がお金持ちになれるわけではないのです。

しかし、幸いなことに、健康格差のギャップは違います。健康格差は、個人の努力や生き方によって幅はありますが、基本的には、ほぼ全員の人がそのギャップを努力で埋めることができます。ところが世の中には、その努力、あるいはちょっとした生活の変化を、皆から遠ざけるよう、遠ざけるよう刷り込んでくる邪悪な洗脳装置があるのです。

テレビの第一の悪は、人を座らせたままにすることです。ビジネスマン向けの週刊誌やウェブサイトではしばしば、デスクワークの弊害が指摘されています。またシドニー大学が過去に行った調査によれば、日本人は世界でもっとも長い時間、椅子に座って過ごしている人々であるそうです(※1)

ソファに座っているシニアマンのクローズアップテレビリモコン
写真=iStock.com/monkeybusinessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monkeybusinessimages

そのような指摘を前提にして、雑誌やウェブ記事では、デスクワークの隙間に行うことのできる体操や、歩幅を大きくして歩くことなどを勧めるわけですが、動くことが求められるのは、ビジネスマンに限りません。むしろビジネスマンよりも高齢者のほうが、部屋に閉じこもらずに、外に出て身体を動かすべきなのですが、テレビはこう囁いてくるのです。

「あなたは動かずに、じっと画面を眺めて楽しんでください。これから、タレントが町に出て、綺麗な景色や田園地帯を案内して回りますよ。美味しい料理も観られますよ。楽しいでしょう」と。

しかし、観るだけでは意味がないのです。人が動いているところを眺めても、自分が動いたことにはなりません。それは、ただ座っているのと同じです。

(※1)BISINESSINSIDERJAPAN 2017年10月20日

■座り続けていると「エコノミークラス症候群」を発症する可能性も

人体を構成する筋肉の多くは、下半身についています。私たちがもつ、もっとも大きな筋肉は足の太腿(大腿四頭筋)ですし、ふくらはぎは「第2の心臓」と呼ばれるほど重要な部位です。テレビをダラダラと観るためにずっと座っていると、下半身の血行が悪くなります。それが極端に悪化すると、俗にいう「エコノミークラス症候群」を発症することになってしまいます。

長時間にわたって血流が停滞した結果、血栓を生じ、それが肺の静脈に詰まると重症化し、死に至るケースもあります。「エコノミークラス症候群」という俗名がついていますが、同様の症状は、飛行機ではなく自宅でも起こりうるのです。予防として、テレビを観る時間を区切り、軽い体操やストレッチ運動をしましょう。足の指を動かしたり、足首を回したり、ふくらはぎを軽くもんだりすることが効果的です。こまめに水分もとるようにしましょう。

■テレビによって聴覚は深刻なダメージを受けている

最近は、同居人への配慮や集合住宅という事情から、ヘッドフォンやワイヤレススピーカーで、テレビ番組の音を聴いている人も少なくないようです。確かに、ヘッドフォンで周囲の音を遮断したり、顔のすぐ近くに置いたワイヤレススピーカーで音を出せば、誰にはばかることなく、大音量でテレビ番組を楽しむことができるかもしれません。

しかし、こうしたやり方を続けていると、耳には次第にダメージが蓄積されていくことは忘れずにいてください。

「テレビの音」は、構造としては「空気の震え」です。その振動が耳に入って鼓膜を揺らします。そして、揺らされた鼓膜につながる蝸牛(内耳)が、届いた振動を電気信号に変換して脳に伝えます。そこで初めて、私たちは「空気の振動」を「音」として認識するのです。その一連のプロセスのなかでもっとも大切なのが、蝸牛の中にあって振動を電気信号に変換する「有毛細胞」です。

この有毛細胞は、加齢に伴って少しずつ破壊されていくため、高齢者は耳が悪くなってしまいます。ただし、有毛細胞を破壊する一番の敵は「加齢」ではありません。加齢よりも耳に悪いのは、「長時間にわたる強い刺激」です。突発的に大声を張り上げたり、のべつまくなしに背景で音楽が鳴るテレビ番組を聴き続けていると、皆さんの耳から加速度的に聴力が失われていく結果を招きかねません。

また、聴こえにくいからといってテレビの音量ばかりを上げていると、今度は日常生活における他人との会話の音量に対応できなくなってしまうでしょう。聴覚にとっては、テレビ番組のような「だらだらと永遠に続く刺激」は悪影響しかありません。

■「理想のウエスト」が手に入るかどうかは骨格で決まってしまう

テレビばかり観ていると、運動量が激減して下半身を中心とした「筋力の低下」を招き、その結果、「歩行の異常」が生じます。そのサイクルは、先の「テレビの前で座りっぱなし。動かなくなる下半身」の項目に記した通りです。

腰にテープを貼った若い女性。ダイエットとフィットネスの概念。また、好きかもしれません
写真=iStock.com/MarsBars
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarsBars

他方、読者の皆さんにあまり馴染みのないチェックポイントは「体重の減少」でしょうか。世間には、未だに「できるだけ痩せているほうが良い」という「誤った考え方」が根強く、若年層から高齢層までおなかが出ていることを恥じています。その謎の羞恥心を捏造(ねつぞう)しているのが、テレビです。

私は医師として、この「ウエスト58cm幻想」を絶対に許せません。まず最初に、ウエストのサイズは――各自の身体に備わった肋骨の形状に左右されるので――努力のみで減るものではありません。肋骨の形状が生得的に開いている人は、どれだけ苛酷なダイエットをしても、ウエスト58cmにはならないのです。もうこれだけでも、ウエスト幻想の悪辣さを理解していただけるでしょう。

■実際に長生きするのは「少しぽっちゃりした人」

次に、いわゆるモデル体形、腹部が前方に張り出していない体形が「健康に良い」というデータは、ほとんど存在しないということもお伝えしておきたいです。「ダイエット信仰」を煽(あお)るテレビ番組や、高値で運動器具を売りつけるテレビショッピングは、モデル体形を褒(ほ)め称え、おなかの出た「メタボ体形」を蔑(さげ)すみ、スタジオのタレントたちに悲鳴まで上げさせます。

脂肪男性の胃
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

ですが、実際のところ、長生きするのは「痩せすぎの人」よりも「少しぽっちゃりした人」なのです。

テレビのダイエット番組で「太りすぎ」を数値化するために、猫も杓子もBMI(体格指数)を使います。BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値で、WHO(世界保健機関)の区分では、18.5未満が「痩せ」。18.5以上25未満が「普通」。25以上が「肥満」で、その度合いによって1度から4度まで分類されています(1度:25以上30未満、2度:30以上35未満、3度:35以上40未満、4度:40以上)。

こうした区分の上で、たいてい「肥満」にカテゴライズされる芸能人をむりやりダイエットさせて、「普通」(18.5以上25未満)以下のモデル体形まで痩せさせる。それがテレビのやり口ですが、実際に世界各国の統計データを調べてみると、一番長生きしているのは、BMIの区分上では25以上30未満から少し上ぐらいの、おなかの出た小太り体形なのです。

この結果はアメリカ国民健康栄養調査でも、厚生労働省の補助金を受けた日本での研究でも変わりませんでした。アメリカの研究では、小太りに比べて、痩せの死亡危険率は2.5倍。日本の5万人を対象にした大規模な研究でも、もっとも長生きしていたのはBMI25以上30未満の「肥満1度」の人たちでした。つまり、モデル体形を目指すことは、健康に害なのです。

■体の衰えを評価する「5つのチェックポイント」

先に述べた筋肉や聴覚の衰え、つまり「健康格差」の底に落ちていってしまいかねない人々(予備軍)を表す言葉に「フレイル」があります。この数年、マスコミなどでも取り上げられることが多くなった言葉なので、聞き覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。

フレイルは日本老年医学会が提唱した概念で、Frailtyの邦訳です。Frailtyは「虚弱」という意味なので、一般的には「要介護の手前の状態」というイメージでしょう。もう少し詳しく説明すると、専門家はフレイルを5つのチェックポイント(順不同)で評価しています(※2)

①筋力の低下
②意欲(活動性)の低下
③疲労感の増加
④歩行の異常(速く歩くことができなくなる
⑤体重の減少

この5つのチェックポイントがいずれも当てはまらない人を「ロバスト」と呼びます。「健康に問題のない高齢者」という意味です。当てはまるチェックポイントが2つ以下の人は「プレフレイル」。このまま手をこまねいているとフレイルになってしまう可能性が高い「フレイルの前段階の高齢者」という意味です。

そして、3つ以上が当てはまる人は、フレイル。フレイルの先には「要介護状態」が待っているのです(図表1参照)。しかし、フレイルは心がけしだいで健康状態に戻れる状態でもあります。

「健康・フレイル・要介護」の関係性(出典=『テレビを捨てて健康長寿 ボケずに80歳の壁を越える方法』より)

(※2)国立長寿医療研究センター「フレイルの原因は?」

■家のなかで少しでもいいから運動する習慣をつけたほうがいい

フレイル予防の3本柱は、栄養、運動、社会参加です。まず栄養に関しては、年をとったらメタボ予防よりフレイル予防、栄養状態がいいことが一番大事です。バランスのよい食事をとり、筋肉量を増やし・骨を強くすることを心がけましょう。

栄養が足りないと認知機能が低下し、物忘れをしたり、感情のコントロールができなくなったりもします。口腔ケアをすることで噛む力も鍛えられます。次に運動ですが、運動不足だと心肺機能が低下し、運動時に息切れが起こりやすくなります。また、運動をしないとおなかがすかないので粗食になり、栄養状態に影響してきます。それ以上に高齢者では、簡単に筋力が衰えていきます。

新型コロナの蔓延で外出が怖いと感じている方も多いと思います。しかし、人のいない時間にソーシャルディスタンスをとって、20~30分は歩きましょうねというのが医師からの提案です。テレビでは自粛の悪影響について報道されませんが、外で歩けないなら室内歩行練習。家で軽い運動をしたり、日を浴びないとセロトニンの分泌が減り、うつになりやすいので人けの少ない明け方に歩いたり、という工夫はできるはずです。

そして最後に社会活動です。ボランティア、趣味などで外に出て歩くことは筋トレにもなります。テレビからの情報を一方的に受けるのではなく、誰かと話し、一緒に食事をすることが精神の健康を維持するのです。

■たんぱく質の摂取を意識しつつ、食べたいものを食べたほうがいい

こうした前提の上で、フレイルのチェックポイントである「体重の減少」という問題に向き合ってみましょう。

和田秀樹『テレビを捨てて健康長寿 ボケずに80歳の壁を越える方法』(ビジネス社)
和田秀樹『テレビを捨てて健康長寿 ボケずに80歳の壁を越える方法』(ビジネス社)

よくある誤解は「体重が減る」イコール「脂肪だけが減っている」と思い込んでしまうことかもしれません。高齢者が過剰にダイエットをしてしまうと、脂肪だけでなく、筋肉まで落ちてしまいます。日本人は欧米人に比べて、そもそもタンパク質の摂取量が少ないので、さらにダイエットで摂取量を減らしてしまうと、脂肪よりも重い筋肉が次々に痩せていってしまいます。

そして筋肉量が少なくなると基礎代謝(運動しなくても消費するエネルギー)も落ちるので、さらに体重を落とそうとするなら、もっと食事を減らさねばなりません。そうなると、待っているのは栄養失調です。

見た目だけはほっそりモデル体形になるかもしれませんが、その「体重の減少」の内実は「筋力の低下」、それに付随する「歩行の異常」もセットになって、プレフレイルどころか、3ポイントで要介護状態手前のフレイルになりかねません。フレイルから要介護状態になると、運動も制限され、元には戻るのは難しくなります。運動しても、なかなか健康な状態にまでは戻れません。高齢になると1カ月寝こんでいたら歩けなくなりますので、足を「使い続ける」ことが大事なのです。

以上の観点から、高齢者に「食の節制」は効果よりも、害を受ける可能性のほうが高いと思います。高齢者は痩せよう、おなかをへこまそうなどと考える前に、タンパク質の摂取を意識しつつ、好きなものを好きなだけ食べてください。

----------

和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

----------

(精神科医 和田 秀樹)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください