「老舗校が明大系列化で偏差値急騰40台→60、志願者数はなんと40倍」これからの大学付属校はお買い得なのか
プレジデントオンライン / 2022年12月7日 11時15分
※本稿は、矢野耕平『令和の中学受験2 志望校選びの参考書』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
■生き残りを懸ける大学
「日本は衰退途上国である」と言われて気持ちの良い人はいないでしょう。でも、この見方に真っ向から反論するのは難しいことです。戦後約40年にわたって続いた経済発展は平成時代に入った頃から停滞し、いまだに回復の兆しは見えません。
経済協力開発機構(OECD)が2021年に公開した前年2020年度のOECD加盟国の平均賃金データに目を向けると、日本は25カ国中22位であり、先進7カ国中で6位というなかなか厳しい現実が突き付けられています。
ほかにも、円安の進行、工業製品の輸出力の低下……日本の課題は山積みですが、その中でも深刻なのは「少子高齢化」ならびに「人口減」でしょう。
日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに、これ以降は人口減少社会に突入しています。また、国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した人口の将来推計(中位シナリオ)では、2021年の時点での出生率は1.40で出生数は86万9000人とされていましたが、この想定を上回るスピードで少子化が進行しています。
子どもたちが大人になるときには、どんな日本になっているのでしょうか。高齢者を多く抱える日本社会で、いまの子どもたちはわれわれの世代とは比較にならないくらいの重荷を負うのかもしれません。
各種教育機関はこの少子化の進行に戦々恐々としています。とりわけ大学はすでに18歳人口減少の影響を受けていて、日本私立学校振興・共済事業団が2022年9月に公表した「私立大学・短期大学等入学志願動向」のデータによると、集計した598校のうち、定員割れの私立大学・短期大学は284校であり、その率は47.5%と実に半数近くを占めています。今後、さらにこの割合は高くなると予想されています。
そのため、いろいろな策を講じて大学は生き残りを懸けています。
その一つが「中高一貫校」を傘下に置き、付属校化することです。これを実現することで、大学サイドとしては安定的に学生を確保したいと望んでいるのでしょう。
■日本学園が明大世田谷に。偏差値急騰、志願者激増
たとえば、かつて横浜山手女子(神奈川県横浜市/女子校)という中高が横浜市中区山手町にありました。この学校は2009年に中央大学との合併協定書に調印し、翌年には中央大学の系属校として中央大学横浜山手に名称変更しています。
さらに、2012年を皮切りに中学一年生から段階的に共学化を進め(2016年に中高完全共学化を果たしています)、2013年にはキャンパスを横浜市都筑区に移転、学校の名を再び改称して「中央大学附属横浜」としました。
青山学院大学は2014年に横浜英和女学院(神奈川県横浜市/女子校)を系属校化し、2018年度より共学化しました。その名は「青山学院横浜英和」。そして、2018年には浦和ルーテル学院(埼玉県さいたま市/共学校)を系属校化する協定を締結し、2019年度より「青山学院大学系属浦和ルーテル学院」に校名変更しました。
東洋大学は2011年に京北(東京都文京区/男子校)を統合し、グループ校に組み入れました。2015年より校名を「東洋大学京北」とし、共学化を果たしています。
全国に数多くの付属校を抱える日本大学もその例外ではありません。2017年に日出(東京都目黒区/共学校)と準付属契約を結び、2019年より「目黒日本大学」と校名を変えています。
武蔵野大学は2016年に千代田女学園(東京都千代田区/女子校)と法人合併し、2018年度より共学化、中学校名を「千代田国際中学校」、高校名を「武蔵野大学附属千代田高等学院」としています。
そして、いま、ある学校が注目を浴びています。
![日本学園中学校「中学入試募集要項」より](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/7/1200wm/img_3732517d8708c0bf2bb6c746409427d5117165.jpg)
日本学園(東京都世田谷区/男子校)という学校です。1885年に創立された伝統ある男子校であり、この学び舎で過ごした著名人は枚挙に暇がありません。たとえば、元首相の吉田茂、作家の永井荷風、画家の横山大観、岩波書店創業者の岩波茂雄などが同学園のOBです。
その日本学園が2022年に入って、明治大学と系列校連携に関する協定を締結したのです。これによって、日本学園は2026年より明治大学の系列校となり、同時に学校名が「明治大学付属世田谷」に変わります。そして、この系列校化と同時に男子校から男女共学校へと踏み切ることが決まっています。
2023年度入学の日本学園の生徒は2026年度より改称される明治大学付属世田谷の第1期生となり、同校HP上では「卒業生のおよそ7割(約200人)以上が、明治大学へ推薦入学試験によって進学できる教育体制の構築を目指します」と発表しています。そのため、日本学園の偏差値は昨年度の40台から12月時点で56・58・60(いずれも首都圏模試センター合格率80%基準偏差値/日程はそれぞれ2月1日午前・2月4日午前・2月5日午前)に上昇しているのです。
なお、4大模試(四谷大塚・日能研・SAPIX・首都圏模試それぞれの10月実施データ)の日本学園への入試3回分の志願者動向を見ると、昨年度は合計28人であったのに対し、今年度は何と1111人であり、昨年度比で約40倍の志願者を集めています。
![矢野耕平『令和の中学受験2 志望校選びの参考書』(講談社+α新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/d/1200wm/img_7d8454c81fe2b418509703a4a6f6fe5e286864.jpg)
この日本学園の注目度の高さからしても、今後もこのように大学と中高が合併するケースはいくつも出てくるに違いないでしょうし、系列校化まではいかなくとも、大学側が私立中高とつながりを持つケースがどんどん登場してくるのでしょう。
たとえば、2022年9月には三輪田学園(東京都千代田区/女子校)と法政大学が高大連携拡充についてのニュースリリースを発表しました。それによると、三輪田学園から法政大学進学への「協定校推薦枠」を約30人を設けるけとともに、三輪田学園の高校生が法政大学の授業の早期履修を可能にする制度を導入するそうです。
■大学付属校の教育姿勢
わが子が進むべきは、難関大学に合格者を多く出す進学校か、有名私立大の付属校か。保護者の意見はさまざまですが、「進学校派」の保護者は、その理由をよくこういうことばで説明します。
「大学受験という目標があるからこそ、中高6年間を学業に専心できる。また、将来やりたいことも定まっていないのに、どの大学に進むのかを中学入学時点で決めるのは早すぎる」
一方、「大学付属校派」からよく耳にするのは、次のようなことです。
「大学受験勉強に膨大な時間を割(さ)かれることなく、わが子には部活動や課外活動など、中高6年間を存分に謳歌してほしい。また、付属校は『学園色』の強いところが多く、卒業生などのネットワークを将来的に活用することだってできる」
わたしから言わせると、どちらのことばもそれなりの説得力があり、それぞれの内容に同意できます。
つまり、「進学校」「大学付属校」の選択はご家庭の価値観、意向次第ということです。
ただし、最初から「進学校」「大学付属校」と決めつけず、互いを見比べて判断されると良いでしょう。受験候補校の「良いところ」と「そうでないところ」を相対的に見ることにもなりますし、これまで考えていなかった学校に巡り合える可能性もあると思うからです。
では、「大学付属校」の良さとはどういうところにあるのでしょうか。
法政大学第二(神奈川県川崎市/共学校)で入試広報主任を務める望月則男先生は「大学受験を否定しているからこそできる学び」があると言います。
![法政大学第二中・高等学校の公式ウェブサイトより](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/4/1200wm/img_44c8f62dd6b62ed1da3ff9fab1ba533f335262.jpg)
「本校は『付属校らしい付属校』です。極端に言えば、大学受験のための勉強というものを否定する考えで、わたしたちの授業や学校は成り立っています。
わたしは数学を担当していますが、中学段階では図形の模型を作らせるようなことをしますし、事象の説明に終始することなく、具体性を持ったものを生徒たちに伝えていきたいと考えています。それ以外の教科でも体験重視のプログラムを組んでいます。中学から入学してきた子たちはこのような教育の影響を受けているからか、高校入学者よりも理系の割合が高いです」
望月先生はこうも言い添える。
「付属校ですから、生徒たちは勉強だけでなく部活動にも存分に打ち込めるという『両軸』を持つことができます」
■「しっかり勉強させる」大学付属校も増えている
大学付属校ならではの強みは、やはり系列大学との連携にあります。法政大学に入る前に時間をかけてアカデミックな内容に触れる場を設けていると言います。
「高校3年生のときには大学の先生にも協力してもらって、大学の学部でどんなことを学ぶのかを伝えてもらいます。生徒たちには授業内容をプレゼンさせたり、論文を書かせたりしています。大学に入る準備をじっくりおこない、スムーズに大学生活へと移行してほしいと考えています」
進学校ではなく付属校だからこそ実践できる教育姿勢を、望月先生は次のようにまとめてくれました。
「進学校だと『受験に必要な教科』にどうしても偏(かたよ)って学習してしまう面があると思います。その点、わたしたちのような付属校は総合的な学びを大切にできます。それこそ、家庭科とか情報の授業などは、かなり本格的です。幅広く学べるのも受験がないからこそではないでしょうか」
大学付属校というと、系列大学への進学が当然となっているため、内部の競争がほとんどなく、のんびりしているところばかりだ、というイメージを抱く人がいるかもしれません。実際、付属校の生徒たちが系列大学へと進学した途端、周囲の学力レベルに打ちのめされるという話は昔からよく噂に聞くことです。
しかし、最近は「しっかり勉強させる」大学付属校も増えています。
たとえば、明治大学明治(東京都調布市/共学校)などはその典型的な学校です。学習量はかなり多く、明治大学への進学を前提にした「先取り教育」も導入しています。実際、在校生たちに話を聞くと、みんな「かなり勉強している」と声を揃えます。
主要な大学付属校の内部進学率はどのようなものになっているのでしょうか。
図表1にまとめましたので、参考にしてください。
![【図表】主要な大学付属校・半付属校の内部進学率](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/a/1200wm/img_1a2e81c8edfd64a85d13ac5b10accd46510543.jpg)
ただし、この表だけでは分からないところがあります。系列の大学に「(成績不振で)上がれない」生徒が多いのか、あるいは、「(あえて)上がらない」生徒が多いのか。この点は気になります。
たとえば、学習院(東京都豊島区/男子校)はほぼ全員が系列大学(学習院大)の推薦権を得られるものの、半数近くの卒業生が学習院以外の大学をあえて受験しているのです。
付属校をわが子の志望校として検討されている保護者は、この「内実」について説明会などの場で探ってみることが必要です。
■落ち着きを取り戻した付属校人気
近年の中学入試における大学付属校人気は凄まじいものがありました。
「大学入試改革」「大学入試定員厳格化による首都圏私立大学の難化」への不安が主たる理由と考えられます。
ただ、わたしは前作『令和の中学受験 保護者のための参考書』でこんな警鐘を鳴らしました。
〈付属校人気には注意が必要です。
わたしが偏差値に対して、物価や株価に用いる「高騰」などという表現を用いたのには理由があります。偏差値は外的環境によって、いともたやすく変動するものだからです。
いまの小学生たちが大学入試を迎える頃は大学入試改革から何年も経過していて、入試制度も落ち着きを取り戻している可能性が高いのです。
言い方を変えれば、有名大学付属校の中学入試で合格できる力量があるならば、わざわざその系列大学に進学するのは(学力面で)「もったいない」と感じるような時代がやってきてもおかしくないのです。〉
そして、この「読み」は思ったよりも早くに当たりました。その原因は「コロナ禍」です。2022年度の中学入試状況を分析すると、その人気にブレーキがかかった大学付属校が目立ちました。
昨春(2021年)の大学入試では、首都圏の私立大学各校の受験者が大きく減少し、全体的に易化(いか)する傾向が見られたのです。少子化による高校卒業生数が約2.6%減少していることも一因として挙げられるでしょうが、コロナ禍による以下の2つの原因が大きいと見られています。
①従来であれば地方から首都圏大学を受験する層が激減した。緊急事態宣言の発出されている首都圏まで足を運ぶのをためらった結果と考えられる。
②それに関連して、この先も対面授業が果たして成立するか否かが見えない首都圏の私立大学を避ける傾向にあった。
このような大学入試動向を踏まえると、中学受験の段階で何も進学する大学を決めなくても良いのではないかという小学生保護者が多くなるのは想像に難くありません。
■「大学入試定員厳格化」の緩和は付属校人気への影響大
論より証拠です。首都圏の主要な大学付属校の2022年度の中学入試状況を一覧化してまとめてみました(図表2)。早慶レベルはそうでもありませんが、MARCHを中心とした大学付属校では、前年比で受験者数を減らしているところが目立ちます。
![【図表】2022年度・主要な大学付属校の受験者数推移](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/1/1200wm/img_b154df0218d9ed09b64c1f309bf00fd5506740.jpg)
そんな折、文部科学省が主導してきた「大学入試定員厳格化」の政策が緩和されるというニュースが入ってきました。早くも来春2023年度から管理基準が緩和されるというのです。
これが首都圏私立大学の易化につながると、それを受けて2023年度以降の中学入試状況がこれまた変化を見せると考えられます。保護者のみなさんはぜひこの点を注視してほしいと思います。
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中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。
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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)
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